騒音規制の歴史と今後

騒音測定

年を追うごとに強まってくる規制。そこで少し規制について勉強をしてみましょう。

規制というのは凄く大まかに分けて

・排出ガス規制

・騒音規制

この二つがありますが、今回は騒音規制のお話。

これから説明する事の補足として最初に説明しておきたいのですが、規制というのは導入されて1~3年程度の猶予があります。

ざっくり説明すると

規制の流れ

・新型車はその年から

・現行車は1年後から

・輸入車は2年後から

といった感じになってます。さすがに国もメーカーの事を考え規制と同時に販売禁止なんて事はしません。我ながら分かりにくいイラストですねスイマセン(二度目)

そして騒音規制の本題なんですが・・・実は騒音規制と一言で言っても非常にややこしいのが現実です。

騒音規制においてチェックされる項目は3項目あります。

【定常走行騒音】

最高出力の60%の回転数で走行した速度(この速度が50km/hを超える場合は二速または三速50km/h)で発生する騒音を7.5m離れた場所で測定。

【加速走行騒音】

定常走行状態からフル加速して10m走行した時点で発生する騒音を7.5m離れた場所から測定。

【近接排気騒音】

停車状態で、最高出力回転数の75%(最高出力回転数が5000回転以上の場合は50%)の回転数で発生する騒音を排気方向から45度、排気管から0.5m離れた場所で測定。

以上の三種類なんですが何がややこしいってこれら3つの規制が綺麗に揃っておらずズレてたりするんです。

ですので纏めて(三段階に分けて)説明する際に年号が少しズレる場合がありますがご了承下さい。

さて本題。

騒音規制の第一段階、一番最初に騒音規制が入ったのは排出ガス規制とは対照的に意外にも古く1952年からですが、データが無いので1971年から紹介。

1971年騒音規制値

 定常騒音|加速騒音
軽二輪(126~250cc)  74db|84db
小型二輪(251cc~)  74db|86db

この頃はまだ近接騒音という規制は無く、規定値も緩かったのでメーカーもそれほど問題にしていませんでした。

メーカーが騒音規制に頭を悩ませるようになったのは二段階目にあたる1986年の規制から。

1986年騒音規制(1971年規制値)

 定常騒音|加速騒音|近接騒音
軽二輪(126~250cc)74(74)db|75(84)db|99db
小型二輪(251cc~)74(74)db|75(86)db|99db

定常、加速に加え”近接騒音規制”が初めて導入される事となりました。問題となったのが加速騒音が一段と強化され75dbになった事です。業界では75db規制と呼ばれて恐れられました。

ここからメーカーの消音と戦いが始まります。

そして一層厳しくなった第三段階の2002年。

2001年騒音規制(1986年規制値)

 定常騒音|加速騒音|近接騒音
軽二輪(126~250cc)71(74)db|73(75)db|94(99)db
小型二輪(251cc~)72(74)db|73(75)db|94(99)db

近接騒音に非常に厳しい規制となりました。もうメーカーは阿鼻叫喚です。

今さらですがツラツラ書いててもしかしたら

「あんまり変わんないじゃん」

って思ってる人が居るかもしれません。デシベルという単位は非常に分かりにくいですもんね。

分かりやすく言うと3デシベル違えば明らかに音の大きさの違いが分かり、6デシベル違うと倍違います。20デシベル違うと10倍の音の差があります。

そして2001年の騒音規制の時点で1971年に生まれた最初の加速騒音規制値の1/20にまでになりました。

騒音規制

73dbといえば電話の呼び鈴レベルです。

分かりやすく新旧バイクで簡単に比較すると

騒音規制比較

こういうレベルです。

更にこの規制値の厳しさで非常にアンフェアだと思うのが

加速騒音規制値

二輪:73db以下

四輪:76db以下

だということ。なんでバイクの方が厳しいんだよって話ですよね。

「日本は世界一バイク規制が厳しい」

と言われる所以はここにあります。環境省はその事を自慢気に書いてたりしましたがメーカーは死に物狂いです。

例えばSR400っていうずっと昔から空冷で大して形も変わらない長寿バイクがありますよね。

初代SR400

これが1978年に発売された初代のSR400です。

そしてこれが

現行のSR400です。ほとんど変わってない様に見えますよね?

でも実は変わってるんです。

エンジンの方にズズッと近づいてみると・・・

エンジン消音材

黒いゴムみたいな物がフィンの間に挟まってるのが見えますか?

これはアブソーバーゴムといって、空冷の場合どうしてもフィンが振動して余計な騒音を起こしてしまうという問題があるんですが、それを防ぐ為に挟んでるわけですね。

他にもチェーンカバーの裏やスプロケカバーの裏などにも消音材を詰め込んだりしています。これらの事をしても減らせる音はせいぜい1db前後なのですが、こうでもしないと日本の騒音規制に引っかかるんです。

ちなみに日本と同じバイク先進国である欧米と比較すると

 定常騒音加速騒音近接騒音
日本
(251cc~)
  72db73db94db

アメリカ
(全排気量)

  なし80dbなし
欧州
(176cc以上)
  なし80dbなし

となってます。日本の厳しさが際立ちますね・・・国は鬼なのか。

ここで唐突ですがバイクの場合、逆輸入車ってありますよね?

ハイパワーな大型バイクの多くは逆輸入車だったりするわけですが、そもそも何で逆輸入車なんてものが存在したかというと。

日本でバイクを売ろうとなった場合、国から認可をもらわないと売れないわけですが、認可をもらう方法が「型式指定制度」と「並行輸入自動車審査制度」と二種類あるわけです。

【型式指定制度】

いわゆる国内モデルがやっている方で、一台テストして合格したら同じ車両は検査なしで売っていいよって制度。

【並行輸入自動車審査制度】

外車を始めとした数が出ない車両向けの認可方式。

上の型式指定制度と違い”近接騒音規制が規定値ならOK”という検査の甘さ。縦割り行政ゆえの隙間なのか昔みたいに外国からの圧力なのかは分かりません。

だからメーカーは「外車として扱って輸入してるから並行輸入車審査で」という手を使ってるわけです。

それでも例えば

パニガーレ本国仕様

パニガーレといったハイセンスな外国のバイクが

パニガーレ日本仕様

こういう悲惨な状態で入ってくるのは、その近接騒音試験をクリアする為にマフラーエンドを遠くして測定時にエンジンノイズを拾わない様にするため。規制が甘いと言っても近接騒音は厳しいんです。

上でも言いましたが近接騒音というのは排気方向から45度、排気管から0.5m離れた場所で測定。さらに測定方法は最大出力回転数の半分の回転数なので、マフラー伸ばしただけではクリアできない場合は最大出力回転数も下げる事で規制をクリアしているんです。パワーダウンしてる理由はこれ。

ちなみに外国メーカーのバイクと違い国内4メーカーの逆輸入車はだいたい日本で作ってます。

が、輸出車として日本で作ったにも関わらず海を渡っていない車両は当然ながら逆輸入車とは認められずこの制度は利用できません。

だからメーカーも一度海外へちゃんと輸出してるんです。だから国内モデルより割高なんですね。(一説では書類だけ送・・・いやなんでもないです。)

更に違う話をすると社外マフラーも既に規制が入っています。最初に入ったのは1998年。それから2001年、2010年と三回入っています。

1998年10月規制

1998年10月1日以降に生産されたバイク(継続車99/9~、輸入車00/9~)向けのマフラーは近接99db(~250ccは94db)まで。

2001年10月規制

2001年10月1日以降に生産されたバイク(継・輸ともに03/9以降)向けのマフラーは近接94dbまで。

2010年4月規制

2010年4月1日以降に生産されたバイク(新・継・輸全て)近接94db・加速82dbまで。

上記に加え後付消音器(着脱式バッフル)の禁止。

となってます。排ガスや騒音の規制と同じく遡って適用されることはありません。

1998年の規制以降、これらの規制値をクリアした社外マフラーには公認の証であるJMCAプレートが付きます。

JMCA

もし付いてないマフラーを付けてた場合は普及してきた今となっては有無をいわさず切符を切られる可能性があります。年式が新しいバイクは特に。

さらに罰則も強化され、本人はもちろん装着したバイク屋までもが罰を受けることになりました。

さて話を戻して・・・規制強化で絶望しかなかった日本の騒音規制ですが

ここで朗報があります

「排出ガス規制の歴史と今後」でもお話した通り、日本は規制に対する国際協調(WP29)する事となりました。つまり騒音規制も国際基準化「騒音防止装置協定規則(ECE R41-04)」に準拠する形になります。

この事で今まで軽二輪・小型二輪という排気量によるクラス分けから”PMR(Power to Mass Ratio)”でのクラス分けに変わりました。

PMR=最大出力(kW)/(車両重量<kg>+75kg)×1000

とまあ仰々しい計算式ですが実際のところは

Class1:PMR≦25(実質50cc)

Class2:25<PMR≦50(実質125cc)

Class3:50<PMR(実質126cc以上)

という感じで非常にシンプル。

そして肝心の規制値がどうなったのかというと

2014年騒音規制(2001年規制値)

 定常騒音加速騒音近接騒音
Class1  廃止73db廃止
Class2  廃止74db廃止
Class3  廃止77(73)db廃止

といった感じです。

定常と近接が廃止(厳密に言うと試算方法が変更)され、加速騒音のみになります。ユーロよりはまだ厳しい規制値ですが緩和されました。

いつからこの規制になるのかって話ですが、既に始まってます。

新型車:2014年1月~

継続車:2015年1月~

輸入車:2016年1月~

となってます。

HAYABUSA1300国内仕様

HAYABUSAの国内仕様が登場したのはこの規制緩和があったからなんですね。一応国内販売はしていなかったので新型車という扱いです。YZF-R25が意外に良い音出してるのも関係あるのかな。

とにかくこの緩和規制に完全移行する2016年になればもう日本だけ変なスペシャル仕様といった悲劇を味わう可能性が限りなくゼロに近づくと思われます。

「これで遂に逆輸入車が無くなるのか!」

といえば逆輸入車は無くならないでしょうね。

何故なら日本には排ガス規制と騒音規制に加え180km/h規制が残っていますから。ここも欧州に準拠して欲しいところですが・・・・残念ながら今の所そういった動きは。。。

説教臭い余談

緩和の方向へと向かうこととなった騒音規制ですが

「どうして日本は二輪だけこんなに騒音規制が厳しいんだ!」

と思っていたライダーは多いことと思います。

その理由には環境省の役割が関係しています。

環境省

排出ガス規制が国土交通省主導なのに対し、騒音規制は環境省主導です。

そして環境省の役割は「国民の生活環境の保全」

国民の声を聞き、より良い生活を送るために全力を尽くす省庁です。

そんな環境省が何故これほどまでに騒音規制を厳しくしていったのかというと

“国民からバイクの騒音に対する苦情”

が数多く寄せられたからに他なりません。環境省の資料でもアフターパーツメーカーのSP武川の方の話でもそう書かれていました。

近隣騒音防止ポスター

もちろんだからといって新車の騒音規制を厳しくすることが正しかったのかと言えば疑問が残るのは事実ですが、排出ガス規制が国の都合によるものが大きかったのに対し、騒音規制が厳しくなっていったのは一種のペナルティみたいなもので自業自得でもあるわけです。

JMCAを設立し公認社外マフラーという新たな制度が生まれたのも、メーカーが違法改造の締め出しに厳しくなったのもこういった背景があったから。

しかしこれらJMCAやメーカーの積極的な社会貢献や責任を果たしてきた功績が認められ、また、それに習うグッドライダーが増えた事で騒音規制の国際基準化(実質緩和)というメーカーの要望が通ったわけです。

規制の実質緩和はメーカーにとってもライダーにとっても喜ばしいことですが、緩和されるからこそ今以上にバイク乗り一人一人がルールとモラルを守っていくことが大事になってくると思います。

つまり今後の日本の騒音規制がどうなるかは皆さん次第というわけです。

排ガス規制についてはコチラ

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