道理と無理が入り交じるディスクブレーキ事情

ディスクブレーキ

これは元々、初心者向けのページである

「知ってるようで知らないディスクブレーキの仕組みと大事なこと」

で書こうかと思ったのですが、ちょっと小難しく長い話になってしまったのでコチラに。

ちなみにこの話はブレーキに携わる方から見たり聞いたり、某メーカーの人がポロッと漏らしていた話を元に掘り下げて書いている内容なので、豆知識というより持論みたいなものと思っていただけると助かります。

さて本題・・・今やディスクブレーキといえばスポーツバイクの必需品ですね。

そして喜ばしい事に昨今ではもう

「ブレーキが効かないバイク」

というのはほぼ存在しなくなりました。

これはマスターからキャリパー、受け止めるサスやフレームやタイヤ、そして何よりブレーキパッドの性能が向上したから。

ブレーキパッド

昔のブレーキパッドは金属繊維を樹脂で焼き固めた

”オーガニック(レジン系)”

というのが基本で、柔らかく効き(摩擦係数)があまり良くなかった。

それが今では金属を高温高圧で成形した

”シンタード(メタル系)”

という摩擦係数がとても高いパッドや、レジン系ながら金属の割合が高いセミメタルが登場した事で大きく改善したから。

恐らく一番知名度があり人気であろうデイトナさんで見てみましょう。

デイトナブレーキパッド表

黒パッドがレジン、赤パッドがセミメタル、金パッドがシンタードです。分かりやすいですね。

ちなみにAMECAというグローバル品質認証を取り仕切っているアメリカの団体があります。

アメカ

そしてこの団体の品質認証を受けたブレーキパッドは裏面に性能(摩擦係数)が載っています。

D(0.25以下)~H(0.55以上)とランクがあり、低温時と高温時の二文字が刻印されている。

ブレーキパッドコード

上のものは住友の純正品(セミメタル)なんですが、FFとかなり優秀。ちなみにゴールデンパッドは公式では0.7と言ってるので相当高い。

この様な事から

”効くor効かない”

という次元の問題はほぼ無くなり、今は車種に合ったフィーリングや軽量化などの改良が開発のメインになっている。

ところがそんな流れにおいて矛盾とも取れる部分があります。

ディスクローター

それはディスクローターです。

今やディスクローターはタイヤバルブにアクセスするのも困難なほど大きな物が車種問わず当たり前になりました。

ディスクローター大径化の主なメリットは、強力なブレーキングになる事と熱キャパが上がって熱ダレ(フェード)し難くなること。

「良いことじゃないか」

と思うかもしれません・・・が、一概にはそうとも言えないんです。

CB1300とXJR1300のブレーキ

ディスクローターを大きくした場合まず問題となるのは重量増です。

”バネ下重量”

って聞いたことがある人も多いでしょう。

サスペンションのバネ(スプリング)より下にある物の重量の事。

フロントを例に上げると

・ホイール

・キャリパー

・ディスクローター

・フェンダー

・アクスルシャフト

・タイヤ

などがあります。

バネ下

「バネ下の軽量化は効果的」

と言われるのはバネ下、つまり上下に往復運動する部分が軽ければ軽いほど慣性モーメントが減るから減衰を小さく出来る。

要するに収束させようとするサスペンションの負担が減るので乗り心地を良く出来るというわけ。

反対にローター大径化などでバネ下を重くするとサスペンションに大きな負担を強いるので、乗り心地の悪化やサスの熱ダレを招きます。

でも問題はそれだけじゃない。

バイクが真っ直ぐ走る事が出来るのは、回転軸を維持しようするジャイロ効果が主にホイールで起こるから。

ホイールジャイロ

ジャイロ効果は回転が速ければ速いほど、そして重ければ重いほど強力に働く。

つまりホイールと一緒に回るディスクローターが大きい(重い)とジャイロ効果を増す事となり、寝にくさ(起きやすさ)が強くなってしまうんです。

まだまだ問題はある。

ローターが大きくなると必然的にキャリパーも外側(リム側)へ追いやられるわけですが、そこで問題となるのが左右に切る構造となっているステアリング。

レコード

キャリパーという重量物が左右に動く操舵軸から離れてしまうため、操舵慣性モーメントが増える。

要するにハンドリングが鈍重になってしまい、コントロール性が損なわれてしまうというわけ。

「バネ下を軽くするとハンドリングが軽快になる」

と言われている理由もこれです。

なんとまだまだ問題はあります。

SV650とZ650のブレーキ

最初にローターを大径化するとブレーキが強烈になると言いましたが、これは言い換えると

『強烈になりすぎる』

とも言えるわけです。

ディスクジョッキー

いきなりですがちょっとDJ気分になって目の前にレコードが回っていると思って下さい。

「このレコードの回転速度を指でコントロールしろ」

と言われた時に、A点とB点どっちを抑えたほうが精密にコントロール出来るでしょう。

レコード

もしB点を抑えて調整しようとしたら軽い力なのに必要以上に速度を抑えてしまう難しさが生まれる。

対してA点なら微妙なコントロールが出来るので限りなく狙った速度へ調整できる。これがバイクのディスクブレーキにも言えるんです。要するにローターが大きくなるほどブレーキコントロールが難しくなるということ。

もう効く効かないの時代ではなくコントローラブルの時代なのに、それらを無視どころか不意にする様なディスクローター大径化の流れ。これが何故かと言うと『見た目』や『経年劣化を考慮したマージン』でもあるんですが一番大きな理由は

「我々がブレーキを停止装置と思ってるから」

です。

停車

性能が向上したブレーキパッドと大径ローターが当たり前となった現代では、多くの一般的なライダーはアンコントローラブルなブレーキを起こし易い状況にある。

ところがアンコントローラブルなブレーキを起こしても誰一人としてブレーキに文句や不満を言わない。なぜなら想像以上に効かせてしまうアンコントローラブルなブレーキを起こしても

グロムのジャックナイフ

「しっかり効く良いブレーキだな」

としか思わないから。

本来ブレーキというのは必要な時に必要なだけ減速させる

『最適な減速をするための装置』

しかし多くの人はそうではなく

『最短で停止するための装置』

と考えてるから想像以上に効いてしまう事をプラスと捉えてしまう。だからもし反対にローターを小径にしてコントロール性を取ったら

「効きが甘い」

という不平や不満が間違いなく出てくる。

the wait is over

で、話を少し巻き戻しますが最初に

「ブレーキが効くようになったのはパッドの性能が上がったおかげ」

と言いましたが、これも厳密に言うとちょっと違うんです。

結局のところブレーキ(減速)が何処で行われてるのはディスクとパッドではなく、それによって起こる路面とタイヤの摩擦。どれだけ高性能なブレーキを持っていようがタイヤや地面がツルツルだったら止まれないのは分かりますよね。

ニンジャ1000のブレーキ

つまり効く効かないのレベルではなくなったのは厳密に言うと制動力が上がったからじゃないんです。

「あまり握らなくてもブレーキが効くようになった」

というのが正しいんです。

ちなみにこれを理解している人と理解していない人ではカスタムにも顕著な違いが現れます。

カスタマイズ

ブレーキを減速装置だと分かっている人はメンテナンスやサスセッティングも同時に考え、タッチやフィーリングを良くする為の

『探るようなカスタム』

をする。

対してブレーキを停止装置だと考えている人は、サーキットを走るわけでもないのに

『強くするカスタム』

をする・・・そしてどんどんアンコントローラブルにしてドツボにはまる。まあ趣味なんだからそれも一興ですけどね。

もちろんいま売っているバイクは大径ローターだからアンコントローラブルになっていると言いたいわけではないです。

日進ブレーキ

最初に言ったようにメーカーはコントロール性向上の開発に注力し、車種ごとに何回も何回も開発実験を繰り返した上で採用してある非常にコントローラブルなもの。

ただしアンコントローラブルを招きやすい大径化という無理は許容できても、コントローラブルな小径化という道理を許容することは難しいのが実情という話。

ところが・・・この道理と無理の問題が当てはまらないバイクがあります。

それはシングルディスクのバイク。

400スポーツ

「シングルディスクは安いっぽい」

という声はよく聞きます。

確かにシングルディスクの狙いはコストカットが大きいし、Wディスクほどの制動力(摩擦力)を発揮できないもないから見た目のインパクトも弱い。

でもそのかわりシングルディスク車はいま紹介してきた

・バネ下の軽量化

・操舵慣性モーメントの軽減

・最適なストッピングパワー

というWディスクブレーキ車が半分諦めている恩恵を大きく享受しているんです。

ジムカーナやミニサーキットでわざわざWディスクの片方を外している人を見たことが無いでしょうか。アレをしている人はこの恩恵の大きさを分かっているからやっているんです。

250スポーツ

要するに効く効かないという次元ではなくなった現代ブレーキにおいて、シングルディスクブレーキというのは

『道理的なディスクブレーキ』

という事なんです・・・結局これが言いたかっただけ。

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