点火プラグは絶妙な落雷装置 ~仕組みと雑学~

点火プラグ

第十回目はこれがないと始まらない点火プラグについて。

なんだかメカニズムの話ばかりになっていってる気がしますが、構わずに進めます。

プラグについてはDENSO(https://www.denso.co.jp)NGK(https://www.denso.co.jp)でも詳しく説明されています。

NGK

ちなみにこれはNGKによる説明資料なんですが、仕組みを知っている人やこれを見て

「なるほどね」

と理解出来る人にはこれから先は特に何も書いていません。

反対に電気が苦手で

「線がいっぱいあるのは分かる」

という人は一緒に勉強がてらお付き合いを。

社内に大きなツーリングクラブを持っているデンソーの公式によると

「点火装置で作られた高電圧がプラグの中心電極と接地電極…(以下略」

と呪文のような話ばかりなので、参照にしつつ怒られそうなくらい簡略化して説明していきます。

NGKスパークプラグ

火花を散らす事で混合気を着火している点火装置なのがプラグというのは知っていると思いますが、その火花を散らすためには約30000Vの高電圧が必要。

電圧というのは文字通り電気を押し流す圧力のこと。よく水の高低差(水圧)で例えられていますね。

電圧

ここで疑問点。

「13V前後しかないバッテリーからどうやって30000Vもの高電圧を発生させているのか」

という事から。

13Vを30000Vまで跳ね上げる役目を担っているのはプラグコードの手前にある100ml缶くらいのイグニッションコイルと呼ばれる部分。

ダイレクトイグニッションコイル

ただ最近は上のようにプラグホールに直接差し込むプラグケーブル一体型のダイレクトイグニッションの方がメジャーですね。

基本的にはどちらも一緒で、中身は鉄の棒とグルグル巻きにされたコイルが入っています。

バッテリーとイグニッションコイル

これで30000Vになっている・・・わけはないですね。これじゃただ通っているだけ。

ただし電気を通しているので電磁石となり、グルグル回る磁束という渦の流れが発生します。

イグナイター

ここで出てくるのがイグナイターと呼ばれるもの。大層な名前ですが要するにON/OFFのスイッチ。

プラグ点火に必要な30000Vの電圧を発生させようとした時、まずECUがイグナイターを制御し遮断してしまいます。

イグナイター制御

すると当然ながら電気の流れが止まってしまうんですが、磁束は現在の状態を保とうとする性質があるので流れ維持しようとする。

その性質(起電力)を利用することで300Vもの高電圧が発生するというわけ・・・って、まだ30000Vには程遠いですね。

この300Vを更に100倍の30000Vにするのがイグニッションコイルに巻かれているもう一つコイルである二次コイル。

二次コイル

一次コイルが300Vの電圧を発生させると、繋がっている二次コイルもつられて(相互誘導作用で)昇圧するようになっています。

ここでミソとなるのが一次コイルよりも多くコイルが巻かれている事。この巻数が多ければ多いほど一次コイルの電圧が倍々で増える。

つまり一次コイルの100倍の電圧になるよう二次コイルを大量にコイルを巻いているから300Vを100倍の30000Vまで昇圧出来るというわけ。

NGKイグニッションコイル

そして出来上がった凄まじい電圧をプラグに掛けるとわけですが、何故30000Vもの高電圧が必要かというと、雷が落ちるのと一緒で電気を通さない大気の壁を打ち破って放電しないといけないから。

放電

雷が落ちるのと同じ仕組みで、この放電によって生まれた火花を火種として点火に結びつけている。

ちなみに受け取ったマイナス側はそのままエンジンヘッドと繋ぐ事でアースとしています。

ただし本来ならば電気を通さない大気を強い圧力(電圧)をかけて破り通すので、フラッシュオーバーといってターミナルナットからマイナスである六角部へショートカットするように逃げてしまう(放電してしまう)恐れがある。

フラッシュオーバー

当然これでは点火が出来ないので電気を通さないセラミックで上部を覆ってショートカット出来ないようにしている。

点火プラグの電気の流れ

しかしただ覆うだけではなく、一工夫されています。

セラミックの上部分が段付きになっているのは皆さんご存知と思いますが、何故こうなっているのかというと

コルゲーション

「プラグキャップを噛ませるため」

と思っている人が多いと思いますが違います。

このデコボコはコルゲーションといって、プラスであるターミナルナットとマイナスの六角部の絶縁距離を長くするため。

絶縁体の距離稼ぎ

電気を通さない大気という絶縁体を破るために高電圧が必要という話ですが、それは反対に言うと絶縁体の長さが長いほど必要な電圧が高くなるとも言えるわけなので、こうやって波を打たせる事で30000Vでは絶対に破れないような距離を稼いでいるというわけです。

ところでプラグにもノーマルプラグとイリジウムプラグというのがありますね。

中心の電極がイリジウム(イリジウム+ロジウム合金)で出来ているのがイリジウムプラグで、ニッケル合金で出来ているのがノーマルプラグ。

ノーマルプラグとイリジウムプラグ

知っていると思いますがイリジウムプラグの方が点火性能も寿命も優れる上位互換的な立ち位置で少しお高い。

その事から

「イリジウム=高性能」

という認識が広まっていますが、少し語弊があるかと思います。イリジウムプラグがノーマルプラグに比べ

”何が違って何が優れているのか”

というと見た目通り尖っている事にあります。

一つは尖っている事で放電しやすいこと。

放電のしやすさ

先端が尖っているほど一点集中となり多少電圧が低くても簡単に放電してくれる。落雷のブレも少なくなります。

もう一つは火種の成長の邪魔をしないこと。

小さな火種が広がっていく中で、構造上どうしてもプラグとぶつかってしまい熱を奪ってしまう。

火種の邪魔をしない

これがイリジウムの場合、芯が細くまた落雷のブレも少ないことから受け皿も小さく出来るのでプラグが火種の邪魔(冷却損失)をする範囲を小さく出来るというわけ。

これらが可能になったのはイリジウム合金がとっても頑丈で耐摩耗性が高く、融点もニッケル合金の1.7倍となる2466℃と優秀だから。

エンジンプラグ

プラグというのは燃焼の熱で900℃近くまで熱くなったと思ったら、今度は冷却水や混合気で500℃近くまで冷まされるという寒暖差が非常に大きい過酷な環境に晒されている。

ノーマルプラグは角が落ちるのを見てもらうと分かる通り、ニッケル合金を細くするとその過酷な環境に耐えられないというわけ。

つまりイリジウムプラグの恩恵が一番受けられる状況というのは、パワーバンド時などではなくアイドル~低回転時など不安定な燃焼をしている時。

だからイリジウムプラグというのはエンジンの性能を上げる高性能プラグというよりも、常にストライクゾーンを外さない高安定なプラグと言ったほうが正しいかと思います。

その為

「イリジウムに変えたら目に見えてパワーが上がった」

とかは無いです。

その代わり燃費や低域における粘りやトルクの向上は体感出来る・・・かもしれない。

中身

言い忘れていましたが点火プラグには

「熱価(ねっか)」

とよばれるものがあります。

熱価表

これは簡単に言うとプラグの冷却性と思ってください。デンソーもNGKも必ず品番に記載しています。

いま言ったようにプラグというのは常に燃焼の炎に晒されているので、エンジンの中でも最も局地的に熱くなる部分です。

一番熱くなる場所

もしもプラグ温度が950℃以上になった場合、プレイグニッション(略してプレイグ)といって火花を飛ばす前に自動着火装置となり混合気の燃焼を誘発してしまう。

酷い場合になるとプレイグによって更にプラグと燃焼室の温度が局地的に跳ね上がり、更なるプレイグを起こす暴走型プレイグを招きます。こうなるとピストンが溶解したり穴が空いたりする。

でもそれでは熱価の説明になっていませんよね。

それなら全部冷えるプラグにすればいいだけの話。でもそうじゃないからわざわざ熱価なんて項目がある。

プラグというのは熱すぎても駄目だけど、冷えすぎても駄目なんです。

プラグ温度領域

プラグの温度が950℃を超えるとプレイグを起こすわけですが、反対に約450℃を下回ると”かぶり”や”くすぶり”という症状が出ます。これは要するに火花をちゃんと飛ばせない状態のこと。

プラグは燃焼室に顔を出している事からカーボンを被ってしまうんですが、通常(450℃以上)なら焼き切ってしまう。

カーボン

しかし熱価が高すぎてプラグの温度が上がらないと焼ききれず覆われてしまい、正しい点火が出来なくなるんです。

悪化しても最悪エンジンストールなので限界突破するプレイグほど深刻なダメージを覆う事はありませんが、質の悪い燃焼によるトルク低下を招きます。

だいぶ長くなってしまったので最後に注意点だけ言うと・・・

メーカーが定めているプラグの品番(熱価)というのは、バイクメーカーとプラグメーカー双方が相談と計算の限りを尽くした上で選択されている

”いつ如何なる時でも最適な温度にあるよう絶妙な熱価の物”

が付いているんです。

最適な熱価

だから例えばプラグの焼け具合だけを見て、安易に違う熱価やタイプの物に変更するのは止めておきましょう。まあ居ないとは思いますが。

【最後の最後に余談】

プラグというとイリジウムやプラチナといったパッケージングや点火性能の進捗ばかりが話題になりますが、実はもっと目に見えるほど進捗している事があります。

それはプラグのネジ径です。

プラグサイズ

昔は点火プラグといえばM14(14mm)でした。それがM12になり、今ではM10が当たり前になった。

これが何故かと言うとプラグを小さくすればそれだけ吸排気バルブを大きく取れるし、ヘッド周りのウォータージャケット(冷却路)を広げられて冷却性能を向上できるから。

プラグスペース

要するにエンジンレイアウトの自由度が増すわけです。

デンソーの人いわくM10で一応は一段落らしいのですが、小さければ小さいほどエンジンは助かるので小型化は更に進むでしょう。

10mmが8mmになり、もしかしたら6mmまで細くなるかもしれない。

プラグサイズの変移

でも14mmから10mmまで4mmも細くなった事に誰も気付いていないのを見ると、たとえ更に4mm細くなって6mmになったとしても誰も気付かないかもね。

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