バイクトリビア

エンジンカーボンを"溜める走り"と"除去する走り"

エンジン内のカーボン

「エンジンは(たまには)回さないと走らなくなるぞ」

皆さん漠然とこういう声を聞いたことがあると思います。

しかし

なぜ回さないといけないのか?何が原因なのか?

と思う人も多いと思います。

そこでザックリ割愛し変な例えも交えながら説明させてもらいます。

 

 

回るエンジン、回らないエンジンにはピストンリングも関係しているのですが、今回は空燃比の方にフォーカスを当てようと思います。

 

空燃比とは

”空気の混合気の空気質量を燃料質量で割った無次元数である(Wikipedia参照)”

 

まあ単純な話ガソリンと空気の理想的な比率です。

 

”ガソリン1gに対し空気14.7g”

 

これが最も理想の比率(理論空燃比)であり最もカーボンやブローバイガスと言った有害な燃え損ないを発生させない比率です。

この空燃比で走るとカーボンやブローバイガスを蓄積しないため、エンジン内に溜まったカーボンを一方的に排気ガス(CO2)と一緒に吹き飛ばしてくれるという夢の様な比率。

 

じゃあ実際のところ空燃比はどうなってるのか状況別に見て行きましょう。

 

暖気・アイドリング時

アイドリング

この時の空燃比はガソリン1gに対し空気は10g前後とガソリンが濃いです。

そうすると空気の量がガソリンよりも少ないので必然的にガソリンに含まれる炭素が余ります。これがエンジン内に溜まっていくわけですね。

なんでそんなに濃くしてるのかというと、エンジンが冷えている状態ではガソリンが上手く気化できず壁に張り付いたりして空気と結合し爆発することができなかったりするからです。

つまり暖機やエンスト回避を最優先。質より量、下手な鉄砲作戦ということでガソリンを多めに吹いてるわけです。

今はもう自動ですが昔チョークってありましたね。あれも要するに燃料を濃くする為の手動装置。

あと短距離走行が多いとエンジンに悪いと言われる要因の一つもこういった"質の悪い燃焼"をするからだったりします。

当然ながらカーボンをモリモリ精製中です。

ちなみに高回転エンジンのバイクの場合はエンジンが暖まった後のアイドリングもこのくらいの空燃比。理由は後述します。

 

発進時・低回転時域からの加速時

高回転時

この時の空燃比がどうなってるのかというと1:12前後です。まだまだガソリンが多いですね。これまたカーボンをモリモリ精製中です。

これはまあ想像つくと思うんですが、発進するということは人間で言えば重い腰を上げる事なわけで車も結構な力が要るから。

 

低回転時も同様です。

低回転域からというのは発進時ほどでは無いにしろパワーを求められるわけです。

 

わけです・・・が。

実はここにバイクならではの落とし穴ならぬ罠ならぬ問題があります。

 

バイクというのは比較的高回転型のエンジンが多いですよね。典型的なのは写真で登場しているスーパースポーツですが、四気筒のバイクは軽いぶん車ほどトルクが必要ないのでスポーツカーも真っ青な高回転型です。

 

高回転型のエンジンといえば低回転が弱い・・・何故ならショートストロークだから、ピークが高い所にあるから。

これは誰でも知ってますね。

 

ここで空燃比問題として少しだけ深く例えも交えて説明。

 

ショートストロークの高回転エンジンというのは低回転域での吸気が凄く苦手なんです。

なんでって言われてもそうなので困りますが・・・例えるならストロー。

 

目の前に径や長さの違うストローの入ったコップを想像して下さい。

(イラストに対する批判はご遠慮ください)

ストロー

少しだけ喉が渇いたと思って左の径の細いストローの方を軽く吸って下さい。まあ普通ですよね。

次は径のとても大きなストローの方を同じ力で軽く吸って下さい。なかなか吸えないハズです。

 

今度は逆に喉がカラカラでがぶ飲みしたい気分。

細いストローで思いっきり吸って下さい。がぶ飲みは出来ません。

逆に大きいストローで吸うと?ゴクゴクいけますね。

吸排気というのはこういう事なわけです。

四気筒などの高回転型のバイクはストロークが短く、ボアが大きいのでバルブ穴も大きい(大きく取れる)。つまり大きいストロー。

単気筒などの低回転型はストロークが長く、ボアが小さいのでバルブも細い。つまり細いストロー。

ロングストロークとショートストローク

ストローを大きくすれば大きくするほど思い切り吸った時(高回転時)に取り込める空気の量は多くなるけど、そうすると今度はちょっとだけ吸いたい時に上手く吸えない。

逆に小さくすれば小さくするほど軽く吸っても(低回転)ソコソコ吸えるけど、思い切り吸ってもあまり吸えない。

 

皆さんご存知のバルブを2→4と切り替えるVTEC等の可変バルブ機構、吸気ファンネルの長さを変えるYCC-I、デバイスで排気の抜け(圧)をコントロールするEXUP等のデバイスなどが生み出されたのはこういった大きいストロー小さいストロー問題を何とかするためでもあるんです。

エグザップ

こういう細いストロー効果を専門用語でベンチュリ効果っていいます。

しかしこれらが付いたからといって問題を完全に解消できたわけではありません。

高回転型エンジンというのは低回転時はガソリンを多く出して何とかしている状態なんです。

これもいわゆる質より量、下手な鉄砲作戦ですね。

 

「抜けの良い社外マフラーを付けたらorエアクリーナーを社外に変えたら低速が弱くなった」

っていうのはこういう事があるから。

ストローでいうなら入り口や出口だけを大きくする行為。当然小さいストロー効果が弱まる。

そのかわり大きいストロー時には更に少しだけ大きくなるので効果があります。

「○馬力アップ!」ってピークパワーアップを謳ってるのはそういう事。

 

単気筒が低回転でも

【吸気】⇒【圧縮】⇒【爆発】⇒【排気】

とサクサクっとやるのに対し

四気筒などの高回転型エンジンになると

【吸気】(上手く吸気充填出来ない)

 ↓

【圧縮】

 ↓

【爆発】(質が悪くカーボンとブローバイガス大量発生)

 ↓

【排気】(弱い排気で上手く吐けずに残る)

 

という喜ばしくない状況になってしまうわけです。

暖まった後のアイドリング時でも濃いのは燃焼が足りずエンストしないように再び濃く出すから。

これまた質より量、下手な鉄砲作戦ですね。加えて走行風も無いからエンジン辛いのなんのって。

高回転エンジンは回せと言われる所以はこういった事から。

 

そうすると未燃焼ガスやブローバイガスは環境規制の問題もあり再循環させられ、スロットルバルブやピストンやシリンダーやバルブ、エキゾーストパイプ等に固着し積っていってしまう。

その結果、吸気や燃焼や排気の効率が落ち僅かながらパワーダウンしていきます。

バルブカーボン

酷いケースになると

ピストンが固着したカーボンによって真っ直ぐ上下できないピストンスラップを起こし壁を打つスラップ音を出す。(エンジンが冷えている時のみタペット音がするのはこれ)

バルブがカーボンを噛んで隙間が生まれた事で圧縮漏れを起こしたり(目に見えるパワーダウン)

ピストンとゴッツンコしてバルブが折れたり(最悪廃車コース)

エキゾーストパイプが詰まって排気が出来ず吹け上がらなくなったり(エンジンストール)

といった症状がでます。

カーボンによるトラブル

排気量問わず高回転型エンジンというかマルチシリンダーのバイクに乗られてる方は"特に"気をつけて下さい。

シフトチェンジをサボったズボラな加速や、極低回転&ハイギヤードでの極端な低燃費走行と言った行為はモリモリとカーボンやブローバイガスを発生させているわけです。

気をつけましょう。

 

ちなみにシングルやツインエンジンの人も例外ではないですよ。

マルチシリンダー車に比べれば溜まりにくいだけであって、暖気しなかったり極端な走り方をしているとモリモリ溜まります。

 

これが"カーボンを溜める走り"です。

 

 

では除去する走り。

除去する走りと言うのはつまり、吸排気が上手く働く回転数で、尚且つ理論空燃比という事。

 

 

パワーバンド~レッドゾーン(高回転時)

加速時

パワーバンドといえば最大トルクや最大馬力を発生させる一番美味しい回転域。

そう、この領域こそ理想の空燃比である1:14.7・・・といえばそうでもないんですねコレが。

 

最もパワーが出ている時の空燃比は1:13前後です。

 

何故か?それはこの比率が一番パワーが出るから。これを理論空燃比とは違い、出力空燃比といいます。

 

かの有名なHRC(ホンダ・レーシング・コーポレーション)も空燃比に関しては

「1:12.5!」

と言ってます。

 

本当は市販車でも12.5くらいまで基準を下げるのが理想なんですが、そうすると排ガス規制に引っかかるので出来ないのが現実。

 

ですので

「レッドまでぶん回せ」

とか言われてたりしますが、空燃比で見るとむしろ良くないので気をつけましょう。というかエンジンにもよろしくないです。

 

 

 

じゃあ1:14.7って何処なの?

クエスチョンニンジャ

って話ですよね。

長いことしつこくスイマセン。

 

 

 

カーボンを生まない理論空燃比1:14.7になる回転数

最適な回転数

ぶっちゃげると・・・ありません。本当に引っ張ってごめんなさい。

ここまで引っ張っておいて本当に心苦しいのですが1:14.7になる回転数はありません。

いわゆる机上の空論ってやつで、環境や乗り手によって状況が刻一刻と変わる中で14.7に張り付くのは不可能です。

 

更に言うとメーカーは理論空燃比(1:14.7)を越えてしまう様なセッティングを絶対にしません。

上で1:8、1:12.5などガソリンが濃くなる話は散々しましたよね。じゃあ逆にガソリン1gに対し空気が理論空燃比である14.7gを越える16gや20gになったらどうなるのか?

 

いまさらですが燃料が濃い状態をリッチバーン、薄い状態をリーンバーン、理論空燃比をストイキオメトリーと言います。

 

もし仮に1:20といった燃料が薄いリーンバーン状態になると大変です。空気は圧縮されると熱を持ち、関係のない所で勝手に発火(ノッキング)するので乗れたもんじゃないですしエンジンが壊れちゃいます。(ディーゼルはこれを利用)

さらに問題なのはリーンバーンになるとNox(窒素酸化物)を大量に発生させることにもなり、規制に通らなくなってしまう。

そしてもう一つ。

理論空燃比=理想配分というのは分かってもらえたと思うのですが、理想配分つまり綺麗に燃焼できるということは言い換えるならそれだけ発熱量(冷却損失)が増す。

つまり「理論空燃比=発熱が大きい」ということ。

もしも高回転を理論空燃比で回すと環境面もありますが排熱が間に合わず吸気温度の上昇によるパワーダウンや、オーバーヒートでエンジン自体がやられてしまう恐れがある。

それを防止するにはどうするかと言えばこれまたガソリンを余分に吹くんです。熱々のエンジンにガソリンを多く吹き入れピストンやバルブの熱で気化させることで冷やす。これを気化潜熱(液体が気体に変わる時に周りの熱を奪う働き)といいます。

メーカーが空燃比を濃い目にしているのはこういう事があるわけです。

 

 

「じゃあカーボンが溜まるのを黙ってみているしかないのか!」

 

いやいや違います。

 

 

理論空燃比1:14.7に近くなる回転数はある

理論空燃比に近づく回転数

理論空燃比になる回転数はありませんが、理論空燃比に限りなく近づく回転数は存在します。

それは高くも低くもない出力空燃比になる手前の回転数。(これは車種によって上下しますがパワーバンドが始まる前くらいです。)

つまりその回転数で走れば良いわけですが、ただ走ればいいわけではありません。

 

空燃比とは常に同じではなく状況によってECUがO2センサーや吸気温度など様々な要素を考慮し、光の速さ(1/1000秒以下)で常時補正を掛けるのが今のバイクです。

つまり上で言ったとおりエンジンが熱くなり過ぎる様な走り方ではダメ。

さらにエンジン負荷要素も補正に関係してきます。エンジン負荷というのはスロットル開度と思って下さい。いっぱい捻ったら(負荷をかけたら)その分だけECUが燃料を濃く吹かせるんです。最初のほうで「~くらい」と言ってるのはこの補正があるため。

 

つまりこれらの事を考慮した結果、カーボンを吹き飛ばしたいなら

 

 

「アクセル開度5%前後(限りなくゼロ)で3500rpm~4000rpm付近をキープしながらの平地長時間走行(出来れば空気密度の上がる冬に)」

 

 

って事です。これは車種にも寄りますので一概には言えないのですが、要するに高すぎず低すぎず。出力空燃比に切り替わってトルクがモリモリ出だす前。

場所は高速がうってつけかな。

 

ちなみにより効果を高めたいならPEA成分を含んだガソリン添加剤を入れるのも良いと言われてます。

フューエルワン&PEAカーボンクリーナー

代表的なのは「ワコーズ F-1 フューエルワン」や「ヤマルーブ ガソリン添加剤 PEAカーボンクリーナー」ですかね。

ワコーズはホンダだしヤマルーブはヤマハだし実際エンジンのOHでカーボンにこれの原液を掛けてをカーボンを落としたりする人も居ます。ってこれらの商品は有名か。ちなみに自動車にも使えます。

他にもこういったガソリン添加剤の類は腐るほどあるのですが、PEA(ポリエーテルアミン)はその中でも効果がある上にゴムへの攻撃性も少ない事が特徴。だからワコーズもヤマルーブも看板付けて売ってるわけですね。

ちなみに副効用としてガソリンタンクの水抜き効果もあります。だからといって間違っても用量を無視した濃さにしたり両方突っ込むなんて暴挙を起こしてはいけませんよ。

このPEAというのはエンジンオイルに溶けやすい性質を持っています。要するにオイルに溶け込んで粘度を変わってしまうデメリットがある。

ただまあこのPEAはハイオクにも入っていたりしますし、アマゾンレビュー「ワコーズ F-1 フューエルワン(Amazonリンク)「ヤマハ ヤマルーブ ガソリン添加剤 PEAカーボンクリーナー(Amazonリンク)」を読んでもベストセラーで悪い評判は無いみたいですので神経質になるほどではないとは思いますが。

 

 

もしどうしても正確な回転数と空燃比を知りたいと思ったら

・自分で空燃比計を付ける

・お店のシャシダイナモ(測定器)

で計るのが確実です。ただお店のダイナモで計る場合は高負荷一発測定が基本なのであんまアテにならないかも。

 

 

最後に

非常に長くなり最後はセールスみたいになってすいません。

色々と不安を掻き立てるような書き込みをしてきましたが、最近のバイクはECUの演算能力やFIの噴射技術の向上で昔ほど問題になってなかったりします。

つまりそこまでナーバスに考える必要はないです。高速を走る機会に試してみる程度の考えで良いです。それに当たり前ですが、これをしたからといってエンジンがピカピカにはなりません。

 

どちらかと言えば"カーボンを溜める走り方"の方を気をつけましょう。

最も良い運転

程よい回転数でアクセルは少しだけ、急加速や極低回転での低燃費走行など極端な運転はしない。

これがエンジンにも、環境にも、お財布にも優しいWin-Win-Winな走り方という事です。

 

【関連ページ】

エンジンオイルが黒く汚れる理由

ECUは暗中飛躍

エンジンブレーキの仕組みとデメリット|バイクのはてな

 

お知らせ|更新履歴