ライダーが致命傷を負ってしまう原因はバイクと自分ではなく相手や路面構造物との”打撃”によるもので、自身の運動エネルギーがそのまま跳ね返ってくる形になるから致命傷を負ってしまう。
つまりその運動エネルギーを吸収させるものがライダーと物の間にあれば被害を低減出来る。そこで有効なのがエアバッグなんです・・・が、バイクは構造上なかなか難しくGOLDWINGなど一部の大型クルーザーなどだけに留まっているのが実情。
その代わりに発展してきているのがウェアに内蔵するタイプの着るエアバッグで、バイクとピンで繋いでライダーがバイクから離れ外れると作動する仕組みのものや、最近ではジャイロや加速度センサーを内蔵したワイヤレスのものまで登場しています。
どうしてここにきて急にエアバッグの話をするのかというとレース界でも当たり前になりつつあるから。
MotoGPなど世界最高峰レースで既に採用されているのはご存知の方も多いかと思いますが、2020年からMFJ(国内正規レース全て)でも18歳未満のレーサーにはエアバッグが義務付けられるようになりました。
理由はもちろん安全性を更に上げることが出来るからですね。
「でも実際エアバッグってどれくらいの効果があるの」
と疑問に思ってる人も多いかと・・・そこで参考になるであろうデータが
という書誌のエアバックに関する項目。それによるとエアバックの有無による違いはこう。
エアバッグを装着し作動した人は『頭部、顔面、頸部、頚椎』を負傷する確率が7%下がっている。
顕著なのが頭部で、これは恐らく首を守るエアバッグによって構造物に直接頭をぶつける機会が減ったからではないかと思います。
7%というとそれほど大きくない印象をうけるかもしれませんが大事なのは部位で、胸部を含めた
『頭部、顔面、頸部、頚椎』
というエアバッグが軽減している箇所は致命傷となる原因の約9割を占める非常に大事な部位なんです。
つまりたった7%だけど
「エアバッグを装着すると致命傷を負う可能性が高い部位の負傷を半減させる」
とも言えるわけ。そう考えると決して低い数値ではないかと。
ちなみにこれはサーキット走行での話なので、ライダーは簡単に破れないプロテクター入りレザー素材に全身を包んだうえ胸部プロテクターと脊椎パッドの装着をしている。
だからもっと言うとエアバッグは
「フル装備の人すら致命傷を負う確率を半減させる」
とも言える。
ストリートでの検証は残念ながら無いのですが、それを考慮したとしても効果的な安全装備ではないかと思います。
【長い余談】
もはや付けない理由は無いエアバッグですが、付けたくても厳しいのが現実かと。
「コストが高い」
っていう背に腹は考えられない問題があるからですね。
2020年時点で国内に流通しているメジャーなエアバッグウェアとしては
・DAINESE/D-Air
・Alpinestars/tech-Air
があります・・・が、エアバッグ付きジャケットなどは安くても20万円以上、レーシングスーツともなると30万円以上もする。
お金を持っている人はそれを買えば済む話ですが、そんな額をポンと出せるわけないのが正直な所かと。ただウェアメーカーもそこらへんを考えて最近では使い勝手やコスパを考慮した物を出し始めている。
そこで使い勝手が良さそうな物を幾つか紹介したいと思います。
【DAINESE SMART JACKET】
こちらはダイネーゼのスマートジャケットというメッシュタイプのウェアで
・加速度センサー×3
・ジャイロセンサー×3
・GPS
を内蔵した無線型。
4時間のUSB充電により26時間の連続使用が可能。重量は1.8kgで保証は一年。
保護部位は『胸・背中・首』でプロテクション効果はバックプロテクターの7個分に相当するそう。
このモデルの最大のメリットはインナーとしてはもちろんアウターとしても使えること。それこそスーツの上からでもイケるので普段遣いにはもってこい。
ただ別にステマと言うかセールスで書いてるわけではないので難点をあげると
・修理に工賃25,000円とエアバッグ代が必要
・海外製で在庫とアフターが不明瞭
などの問題点というか懸念点もある。
【Alpinestars Tech-Air5(日本国内は年内販売予定)】
アルパインスターズは20万円ほどするエアバッグインナーと10万円ほどするそれに対応したアウターを購入する必要があったのですが、2020年に組み合わせ自由のインナーメッシュ型エアバッグとして出したのがこのテックエアー5。
・加速度センサー×3
・ジャイロセンサー×3
を内蔵している脊椎パッド付き無線型で、4時間のUSB充電により30時間の仕様が可能。
保護部位は『背中・胸・肩・上腕部・わき腹』と非常に広範囲でプロテクション効果はバックプロテクター18個分に相当。
損傷がない場合2回まで連続使用が可能。重量については非公開なので不明なものの軽量化されているとの事。
難点としては
・タイトなジャケットはNG(胸部に5cmの隙間が必要)
・修理費が不明(旧モデルの修理費は500ユーロ)
・海外製で在庫とアフターが不明瞭
など。
ガッチリガードしたいって人向けですね。人気があるのか海外でも品切れ状態が続いている模様。
※注意点
ダイネーゼもアルパインスターズもこれらは公道用でサーキットなどの走行には非推奨。そっち方面で使うならRモデルを買ってくれという感じ。
もう一つは個人輸入や中古を選ぶと少し安く購入する事が可能ですが、原則として修理は受け付けてもらえませんので国内正規店で買いましょう。
さて、2つほど使い勝手が良さそうなエアバッグウェアを紹介したんですが
「インナー/アウターで10万円か・・・」
と思ってしまうのが正直な感想かと。
コミネさん何とかしてくれと叫びたくなるんですが、そんな庶民派にオススメなのが無限電光が出しているhit-airというエアバッグ。
【無限電光 ヒットエアー】
これは従来のウェアやスーツの上から着るというより付けるハーネスタイプ。
動作は車体と繋いだ線が抜けると作動する充電が要らないけど少し面倒に感じるかもしれない旧来のワイヤー式。
なんでこれが庶民派にオススメかというとズバリ安いから。
商品単体でも5万円前後(タイプによる)で、加えて嬉しいのが
「自分で修理する事が可能」
という点。
損傷が無い場合に限りますがエアバッグを畳んで1500円程度のガスボンベを再装着すればまた使えるというランニングコストのやすさ。
コードは電話の受話器に付いてるような伸縮型で乗り降りで引っ張ってしまう程度では抜けないようになっているんですが、これなら万が一誤動作させても財布も痛くない。
MFJ(レース)に登録されているモデルもあるうえに白バイ隊員も付けてたりします。
難点としては
・ワイヤーの煩わしさ
・付け忘れがある
・見た目がゴツくなる
など。
最後に個人的な事を言わせてもらうと現時点(2020年時点)ではヒットエアーがベストとは言わないまでもベターじゃないかと思います。ツーリングやサーキットなど、長時間走行がメインでそれほど頻度が高くないライダーが”プラスαの”安全装備として使う分には許容範囲だと思うので検討されてみるのも良いかと。