電子制御のFI 正確過ぎるが故にアイドリングが苦手

インジェクター

今となっては原付ですらフューエルインジェクション(以下FI)が当たり前の時代。

それは年々厳しくなる排気ガス規制に対応するためで、常に最適な燃料で最適な燃焼をすることがメリット。

そんなFIですが、実はキャブに比べてアイドリングが大の苦手なんです。

なるべく噛み砕いて説明しますが下手なので文章が多くなります・・・

フューエルインジェクションが何か分からない人の為に説明

フューエルインジェクション

FIというのは「フューエルインジェクション(電子制御燃料噴射装置)」というガソリンを霧状にしてエンジンに送る装置で上の写真の緑の輪っかが付いてる棒状の物がそう。
一昔前まではキャブレターというものが使われていました。

噴射口

さて、何故FIがアイドリングが苦手なのかいうと結論から言うとブローバイガスが原因なんです。

整備に詳しい人や現在もそれと格闘してる人は知ってると思います。

ブローバイガスというのは簡単に言うと「未燃焼ガス」の事で、(車もそうですが)エンジンというのはピストンが上下してガソリンを燃やしてその爆発力で走りますよね。

しかしその爆発も完璧ではなく爆発力し損なった未燃焼のガスが発生します。

そのガスが何処に向かうかというとピストンの上下運動でヘッドや下にあるクランクケースへ押し流される訳です。

でもそのままだとガスで加圧されエンジンが壊れちゃうのでガス抜きの穴を作ってソコから逃しています。

ただし、その逃したガスはガソリンやオイルや煤などが混じったとても有害な物で1973年に大気放出を禁止する規制が行われる事となります。

事の発端は1970年に運動場で体育をしていた学生の多数が目に対する刺激・のどの痛みなどを訴えた事。 厳密に言うと排気ガスが紫外線を受けることで有害な物質(光化学スモッグ)に変化。

特にホンダはこの事件を知った時に「これは恥ずべき事だ」と思い、子供たちの未来を守るためにもと研究を進めCVCCエンジンという70年代を代表するエンジンを作ったわけですね。

光化学スモッグの日

それ以来7月18日は「光化学スモッグの日」と定められました。こんな所でまで・・・

さてまたまた話が逸れましたが、「じゃあブローバイガスは今どうしてるの?」というともう一度燃やすために吸気側に戻しています。

流れを簡単に書いてみました。本当はもっと複雑です。
(イラストに対する批判はご遠慮ください)

排気の流れ

未燃焼なんだからもう一度燃やしてしまえという簡単な話ですが実はこれが問題なんです。

クランクケースから専用の通路を通って戻ってきたガスはそのままエアクリーナー手前のスロットルまで戻ってきます。先にも言いましたが、完全なガスではなくオイル等の不純物が混ざったものです。

それが戻ってくるということは吸気の通路やアクセルに連動して開閉するスロットルバルブやその隙間を汚してしまう事になります。

そうするとどうなるかと言うと、空気の流入量が変わってしまうんですね。

キャブの場合

エンジン君「ガソリンと空気吸うよ」

キャブ君「この穴から好きなだけ吸って良いよ」
となる。

キャブ車の流れ

キャブは燃料の量が結構ファジーで負圧だった為にそれほど顕著に現れる事はなかった。(写真は2stですがまあ4stも似たような感じかと)

それに対しFIの場合

エンジン君「ガソリンと空気ちょうだい」

スロットル君「(アクセル開度に応じて)このくらい開けるからこの隙間から吸ってね」

F I 君「(アクセル開度に応じて)じゃあ燃料はこの位だな」

となる。

フューエルインジェクションシステム

しかしブローバイガスによりスロットルバルブの隙間に狂いが生じると

エンジン君「ガソリンと空気ちょうだい」

スロットル君「この隙間から吸っていいよ」

ブローバイガス君「なんか風が当たる」

F I 君「(アクセル開度に応じて)じゃあ燃料はこの位だな」

エンジン君「ちょっと空気足りないよ!燃料濃いよ!息苦しいよ!」

F I 君「いや俺ちゃんと噴射してるし!」

ということになる・・・分かりにくいですね、すいません。

正確過ぎるが故に起こる問題ですが、この問題が起こるのはアイドリング。
スロットルバルブはアイドリング中も完全に閉まっているわけではなく(完全に閉まったらエンジン止まる)アイドリングするための空気分だけホンの少し開いています。
しかしその隙間や通路に粘着し塞いでしまう為に空気が入りにくくなり、エンジンが息苦しくてアイドリングが安定しないんですね。

FI車でアイドリングが安定しないのは十中八九これが原因。専門用語で「ハンチング」と言います。(稀にアクセルワイヤーの伸びが原因だったりしますけど)

よくGSRやHAYABUSAで出る話ですが、大体2000年代に出たFI車はメーカー問わずほぼ全て当てはまります。

ただし、この問題はアイドリングが安定しないだけで、スロットルバルブがしっかり開く走行ではほぼ支障がないのでエンジンが掛からなくなる程でも無い限り放っておいても大丈夫です。

というか根本的に解決は無理です。

スロットルバルブ洗浄

インジェクションクリーナーによる洗浄である程度は改善するのでやってる人も多いですが、非常に厄介なのが肝心の裏側が洗えないということ。

上から洗っても裏側の汚れは落とせない。本当に綺麗に洗うなら外さないと行けないという面倒臭さ。

スロットルバルブ表面

しかも昨今のバイクはデュアルスロットルバルブといってスロットルバルブが二枚組だったりするので尚のこと難しい。

※表面にはコーティングやパッキンがあるのでくれぐれもゴシゴシ洗わないように

「FI車ダメじゃん」

と思うところですが、もちろんメーカーもそのまま未解決で終わらせるワケはなく、2010年前後からのFI車はこの問題を解決しています。

だから今どきのバイクに乗ってる人や購入を検討している人は安心してください。

どうやって解決したのか?

それはISC(アイドリング・スピード・コントロール)の搭載。

仕組みはこう

ISCの仕組み

スロットルバルブとFIがアクセル開度に応じた動作をしエンジンが燃焼、排気ガスをクリーンにする触媒の前にO2センサーがあって数値を計測。
そこでブローバイガスにより酸素が正常燃焼時より少ないとECUが判断すると自動でISCが数値に応じて開き空気の流入量を調整するという仕組み。(アイドリング中のみ)

でもこれでも根本的な解決になってませんよね。

そう、最近のバイクでもアイドリングが下がらないだけでブローバイガスは溜まる一方。今だ未解決な問題なんです。

ちなみにこのブローバイガス、オイルを定期的に交換をしないといけない大きな理由の一つでもあるんですよ。オイルは酸化と熱が最大の敵なんですが、ブローバイガスというのは物凄い酸性なんです。

これでもブローバイガスの処理技術が向上したからオイル交換サイクルが5000kmや10000kmに伸びたんですけどね。

スロットル

あと、この記事を読んでスロットルバルブを洗おうと思って知らない人が居ると困るので書きますが

最近のバイクのスロットルバルブはブローバイガスや煤を付着しくくするコーティングや気密性を高める特殊なシールが付いてたりします。

だから洗う時はあまりゴシゴシ洗わないように気をつけましょう。

※最後にちょっと注意

本音を言うとコレが書きたかった。

2010年前後からブローバイガスが流れるホースに「ワンウェイバルブ」つまり逆流させないようにするバルブを噛ませる商品が各社から出てます。
車用のPCVバルブを流用するのも流行っていますね。

ワンウェイバルブ

色々と付けない理由が見当たらない謳い文句が言われますが、個人的には付けないほうがいいと思います。

その理由の一つとして、しつこいですがブローバイガスというのはオイルやガソリンが混じった粘着性のあるもの(エマルジョン)でマヨネーズの様な乳化をします。
そんなものが逆流防止バルブ(減圧バルブ)といった細い通路を塞ぐなんて非常に容易い事。特に昔のブローバイガスを多く吹く様なバイクなら尚の事。

本来ならブローバイガスを逃がす為のホースが詰まってブローバイガスを閉じ込める事になってしまったらエンジンの気圧が上がりオイルトラブルやシール抜けを起こし最悪廃車コースです。

走行毎に整備するクローズド車両や競技車両なら話は別ですが、普段使いする場合はメリットよりデメリットが大きいので愛車を大事にしたいなら辞めておきましょう。

※追記

最近痛ましいことにあろうことかコレを反対に付けてしまった人がいて、オイルをコースに撒いてしまい後続車の方が亡くなる事故がありました。

付ける時はちゃんと本当に気をつけて付けましょう。

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