モデルチェンジをする理由

モデルチェンジ

これは豆知識というよりコラムに近いんですが、面白い(自動車に関する)論文を「CiNii収録論文」で見かけバイクにも当てはまると考えたので、個人解釈も交えて噛み砕きながら話したいと思います。

※技術面を排他し、マーケティングに限って見た場合の話です

車やバイクというのは数年でモデルチェンジをします。せっかく買ったバイクが型落ちになるとガッカリですよね。

ただそう思わせるためなのがモデルチェンジをする理由の一つなんです。

【計画的陳腐化】

有名なマーケティング戦略なので聞いたことがある人も多いと思います。

人間不思議なもので、少し見た目と機能が変わっただけの新しいモデルを見ると

「新しい=優れている」

という印象を持ち、ついこの前まで現行だった型落ちモデルには

「古い=劣っている」

という印象を強く持ってしまう。

その結果、買い替えへの購買意欲が掻き立てられセールスに繋がるというわけ。

ゼネラル・モーターズ

自動車業界でのモデルチェンジがそれに該当するのですが、この手法を確立したのはアメリカの自動車メーカーBIG3の1つであるゼネラル・モーターズです。

ただしこの計画的陳腐化は既存の旧型オーナーだけに向けたものではありません。

物というのは年月が経つと価値が下がっていきます。10年前からある物を10年前の価格のまま買う人なんていないでしょう。

だから価値を再び押し上げる為に(価格を下げないでいいように)モデルチェンジするんです。

モデルサイクル

しかしこれは長い目で見た場合の話。

この計画的陳腐化の一番の目的、最も効果的に働くのはライバル社の消費者です。

モデルチェンジというのは言い方を変えれば抜け駆けの様な行為。

「うちの商品のほうが新しいですよ、価値がありますよ」

と言ってるわけですから。

自動車やバイク業界においてモデルチェンジの最も大きなウェイトを占める部分はデザイン・・・ただし簡単には行きません。

何故なら開発費や広告費、生産設備の再編などで莫大なお金が掛かるから。

コンセプトデザイン

莫大なお金をかけたにも関わらず変わり映えしないと判断されると陳腐化(抜け駆け)にならず費用対効果が得られない。

かといって変わり映えし過ぎて受け入れられないと大赤字で存続すら危うくなる。

モデルチェンジというのは正にDEAD OR ALIVEなんです。

そんなリスキーさ故にこんな現象が生まれる様になりました。

【強制流行現象】

計画的陳腐化というのは”最新”正しくは”最新感”が大事。

しかしここで問題となるのが消費者が好む”最新感”が必ずしもデザイナーが思い描く画の通りでは無いということ。センスは十人十色なんだから当たり前な話ですが。

でも売るためにはより多くの人が

「これは最新だ。」

と感じるデザイン、先代を陳腐で時代遅れだと感じさせるデザインにする必要がある。

最近それを止めたマツダの人が上手いこと言っていたんですが

「変えるためにデザインを変える」

という難しく嫌らしい事をしないといけないわけです。

そうした時にメーカーは限りなくALIVE率を高め、DEADを回避するために、新しいと好評な既存デザインに”追随”という手段を取ります。

こうすればユーザーが求める新しさを外してしまう事もない。起死回生の一打にはならないけど致命傷の一撃にもならない。

車

こうして同系のデザインが各社からまるで口裏を合わせているかのように出る事で、消費者に対しデザインが”流行している”という印象を与える事が出来る。

そうすると消費者は

「流行っているから良い物だ」

と思う。

これが強制流行現象ですが、恐ろしいのはその先。

流行というのは日々変わり長続きしない・・・つまり次の計画的陳腐化が容易になるんです。

他社と競争するためのモデルチェンジなのに、時と場合によっては協調するなんて面白い話ですが、それだけモデルチェンジというのはメーカーにとって大きな負担なんです。

「じゃあ止めればいい、年次改良をコツコツ続ければいい」

と思うかもしれませんが、それは無理です。

モデルチェンジによる計画的陳腐化を確立したのはゼネラル・モーターズと言いましたが、当時アメリカの大手自動車メーカーといえばフォードとクライスラーでGMはいつ潰れてもおかしくない会社でした。

フォード

「一生乗れる車を作る」

これは20世紀初頭まで米国において半分近いシェアを持っていたフォードの考え。

フォードは少ない車種にリソースを割き、長期的に生産することで安く確実な車を作ることを心がけていました。

しかしそんな考えを持っていたフォードですらモデルチェンジ商法をするGMの破竹の勢いの前には無力で、最終的には同じ手に打って出るしかなかった。

リスクが大きすぎると否定的だったクライスラーも同様です。

クライスラー

「GMやフォードが毎年新型を出しているのにウチだけ毎年同じものを売っていたらすぐに破産してしまう。」

と当時のクライスラー役員に言わせるほどモデルチェンジによる計画的陳腐化という手法は効果的だったんです。GMがフォード・クライスラーと並んでBIG3と言われる様になったのもこのおかげ。

モデルチェンジというのは抜け駆けなんです。

抜け駆けを許すと負けてしまう。じゃあどうするかと言えば抜け駆け仕返すしか手段はない。

モデルチェンジされたからモデルチェンジして、モデルチェンジしたからモデルチェンジされる。

止めるに止められない囚人のジレンマ。

ここで初めてバイクを例に挙げますが、スズキにハヤブサというバイクがあります。

このバイクはモデルライフが非常に長く1999年から2017年時点でフルモデルチェンジと呼べる変更は2008年の一回のみ。

ハヤブサの歴史

ただし何もしていないかというとそんな事はなく、年次改良や小変更を重ねています。ただ今では爆発的に売れた最初の頃が嘘のような販売台数。

それは何故かといえば

「新しくないから」

です。

モデルチェンジが行われる理由は企業が利益を得るため。

でも企業をそうさせているのは

“目新しい物に飛び付き、型落ちになってガッカリする我々消費者”

が望んでいるからです。

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