メーカーの二つ名はマーケティング戦略の片鱗

メーカーのイメージ

メーカーの二つ名を見たり言ったりした人は多いかと思います。

優等生なホンダ、ハンドリングのヤマハ、漢カワサキ、安っぽい・・・じゃなくて安いスズキなどですが、実はこれマーケティング戦略が大きく関わっている。

フィリップ・コトラーという現代マーケティングの父と呼ばれる方がいます。

この方が1980年頃に提唱した

「競争地位戦略」

という理論に見事に合致するんです。

競争地位戦略というのは簡単に言うと

「業界企業は四種のポジションに分類することが可能」

という話。

【リーダー】

圧倒的な力を有しているトップシェア企業の事。

【チャレンジャー】

リーダーの座を狙う業界二番手の企業の事。

【ニッチャー】

シェアは低いものの独自の地位を築いている企業の事。

【フォロワー】

市場動向に追従する低価格路線の企業の事。

の四種類。

競争地位戦略

こう聞いただけでも恐らく多くの人が

リーダー=ホンダ

チャレンジャー=ヤマハ

ニッチャー=カワサキ

フォロワー=スズキ

と思われたのではないでしょうか。

ただ当て嵌まるのはポジションだけではなく、競争地位で提言されている

「そのポジションにいる企業が生き残る為にとるべき戦略定石」

です。

【リーダーが取るべき戦略定石】

リーダー

リーダーが取るべき戦略は市場の拡大とシェアをフルラインナップで維持する事と言われています。

これは市場が拡大する事で最も恩恵を受けるのがリーダーだから。

例えば新製品を出した時に、目新しさがあるうちに買う人のことを

「前期大衆」

と言います。

このタイプはブランドや周囲の評判をあまり気にせず購入する。

反対に目新しさが無くなってきた頃に購入する人のことを

「後期大衆」

と言います。

このタイプは自分だけで判断せず、周囲の評判やブランドなど多角的に判断し購入する。

ここで重要となるのが市場拡大によって生まれた顧客というのは「後期大衆タイプ」が多いということ。

そして後期大衆にとってトップシェアメーカーというのは非常にプラスな判断材料。

つまり底上げされた新規顧客だけに絞って見るとリーダーは既に持っているシェア以上の顧客を獲得出来る。

だから市場拡大が戦略であり、後期大衆を逃さない為の圧倒的なラインナップというわけ。

ホンダがリーダーでありリーダー戦略を取っているのはラインナップを見ても疑いようが無いと思います。

ホンダのラインナップ

そしてホンダが優等生と言われるのは正に

「トップシェア=安牌」

という消費者心理と、底上げを狙った業界貢献のマーケティングが与える印象の現れかと。

ちなみにリーダーが豊富なフルラインナップを有する理由はもう一つあります・・・それは他社に対する参入障壁、牽制です。

包囲網

多くのジャンルで多くのタイプを出すことにより死角をなくし、他のメーカーに付け入る隙を与えないようにしている。

しかしそれでも完全に隙を無くすのはバイク史を見ても分かる通り不可能。

どれにも当てはまらないバイクがホンダ以外のメーカーから出てはヒットしていますよね。

新しい方向性

そうなってしまった場合は同質化戦略を取るのがベターだと言われています。

同質化戦略とは、圧倒的な資源・技術・販売力を屈指した同クラスの物をぶつけて目新しさを無くし持久戦に持ち込む事です。

同質化戦略

最初に話した通り、どれも変わらないなら安牌、優等生であるホンダを選ぶ人が一番多いですからね。

分かりやすいのがスポーツドリンクのポカリに対するアクエリとか。

アクポカ

どうして下を叩き潰すような事をしないといけないのかというと、シェアやブランド力を失ってしまうと豊富な資産がドンデン返しのように負債へと変わってしまうから。

ホンダ

とにかく市場拡大とシェア&ブランドの維持に努める事、間違えのない安心感を持った優等生のホンダと言われ続ける事がホンダに当て嵌まる戦略定石。

【チャレンジャーが取るべき戦略】

チャレンジャー

チャレンジャーが取るべき戦略は差別化によるシェア拡大で、真っ向勝負によるリーダーの奪取と言われています。

チャレンジャーはシェアが拡大するほどリーダーほど得られていないスケールメリットを得る事で利益が上振れする事が分かっているから。

そしてリーダーになるにはリーダーからシェアをもぎ取るのが最も効果的。もしもリーダーから奪うことが出来れば自分が+1になるだけでなくリーダーを-1に出来るので差が実質+2になるからです。

シェアの奪い合い

ではリーダーから取るにはどうしたらいいかというと

「リーダーとは違う」

ということを鮮明に打ち出して差別化すること。

じゃあバイクメーカーのチャレンジャーポジションにいるヤマハはどうでしょう。

4XVカタログ写真

「”ハンドリングのヤマハ”or”デザインのヤマハ”」

というイメージを皆が持っていますね。

これこそがチャレンジャー(ヤマハ)に大事な

「リーダー(ホンダ)とは違う」

という差別化の現れ。

人機官能

そしてもう一つ大事なのは

「リーダーの弱点を突く」

という事。

ヤマハはSTARシリーズやBOLTなどのクルーザー、XSRなどのヘリテイジなど”味や風情を求められる製品”が得意な傾向にありますよね。

ヤマハのラインナップ

SR400なんか正にその典型なわけですが、これはリーダーであるホンダが”簡単には同質化出来ない”苦手分野だからというのが大きい。

参考事例としてよく挙げられるのが一眼カメラのキャノンとミノルタ。

α-7000

チャレンジャーだったミノルタがオートフォーカス技術を採用したカメラα-7000を真っ先に出して人気を博したのに対し、リーダーだったキャノンはなかなか採用しませんでした。

それはオートフォーカス技術を採用する場合、それまでのレンズの互換性を切り捨てないといけなかったから。つまり既に多くのレンズを抱えていた顧客やラインナップという圧倒的な資産を切り捨てる事になる同質化が簡単には出来なかった。

ミノルタはそんなリーダーの強みを弱みに変える大どんでん返し戦略でリーダーのシェアを大きく奪い飛躍したわけ。

トリシティ

ヤマハで言えばトリシティなどの三輪車がそれに該当するかと思います。

ただこれは反対に言うとチャレンジャーはリーダーと変わらない事をしていてはリーダーに全てを持っていかれてしまう事でもある。

ヤマハ

だからハンドリングが違うハンドリングのヤマハ、デザインが違うデザインのヤマハ、と言われ続ける事がチャレンジャーであるヤマハに当て嵌まる戦略定石。

【ニッチャーが取るべき戦略】

ニッチャー

ニッチャーが取るべき戦略はリーダーやチャレンジャーには追随せず、他所が手を出さないものを出し、特定の部分に特化させる事と言われています。

これは限られているリソースをリーダーやチャレンジャーが注力していない部分に集中的に割くことで、その分野のミニリーダーとなり独自の地位を築けるから。

古くはGPZからZEPHYR、最近ではNinja250と新ジャンルでヒットしてきた製品を見ればカワサキは紛れもないニッチャーである事が分かります。

もう一つ分かりやすいのがスポーツバイク偏重でスクーターを作らない事。

カワサキのラインナップ

せいぜいOEMで売るくらいでメインはスポーツというかNinjaとZ。

その集中特化の結果

「スクーターを作らない=硬派=漢カワサキ」

という独自地位を確立し特定層からの支持を獲得した。最近出しているスーパーチャージャーなどもその地位を強固なものにする狙いがあるかと。

ちなみにニッチャーは同質化戦略をされる事があっても、する事は出来ません。

ニッチャーが同質化戦略をしてしまうと、せっかく築いてきた独自色の地位が揺らいでしまうから。

カワサキ

常に他所に無い、有りそうでなかったものを作り、決して追従しない硬派な漢カワサキと言われ続ける事がカワサキに当て嵌まる戦略定石。

【フォロワーが取るべき戦略】

フォロワー

フォロワーが取るべき戦略はリーダーやチャレンジャーに低価格路線で追随し、ラインナップの選択と集中を行いつつニッチャーな面も出す事と言われています。

これは一番弱い立場なので基本的にはリーダーやチャレンジャーの売れ筋への追随で開発コストのリスクを避け、価格優位性で対抗するのがベターだから。

ただそれは価格優位性を取り続けるわけではなく、現状を打破するニッチャー製品を出すための力の温存。

スズキのラインナップ

スズキがハヤブサの様な独自色の塊の様なバイクを造って一部の人に

「鈴菌or変態」

と言われたりするニッチャー的な独自地位を築きつつある一方で

「安っぽい(実際安い)スズキ」

と言われるのは競合車が居るクラスでは基本的に価格優位性を取っているモデルが多いフォロワー戦略を採用しているから。

数年前に行われた

”売れ筋だけを残す事で採算性を確保する”

というラインナップの整理も、フォロワーの戦略定石そのまま。

スズキ

独自地位も体力も不十分なうちは追随で凌ぎつつ、ポジションを上げる一手となるものを打ち出し、鈴菌や変態と言う人を一人でも多く増やす事がスズキに当て嵌まる戦略定石。

以上が豆知識というか独自分析のような話です。

競争地位を掻い摘んだだけでマーケティングはこんな単純な話ではないでしょうが、少なくともマーケティングを意識していない皆が漠然と抱いているメーカーに対するイメージというのは、結構大事なマーケティングの片鱗であると言えるかと。

最後に

メーカーのイメージ

これはメーカーも百も承知な事だと思います。

それはホンダもヤマハもスズキもカワサキも、マーケティングのマの字も無く200社以上のバイクメーカーが存在し一寸先は闇だった1950年代を生き抜いた歴史が証明しています。

生き抜いてこられたのは、自分のポジション、そしてライバルのポジションを見誤らなかったから。

「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」

というやつですね。

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