「PURE SPORT」
レーサーレプリカ熱が高まっていた中で登場したSDR/2TV型。
125かと思うほど非常にシンプルで細く小さいのが特徴ですが、これは車名にもなっている
『Slim×Dry×Rich』
がコンセプトだったから。
細く軽くするためにステムから迷いなくストレートに伸びているトラスフレームとスイングアーム。更にエアクリーナーボックスは剛性メンバーとして活用するためアルミ製にして車体の中心に配置。
そしてトドメは一人乗り専用設計でメーターもスピードメーターだけという潔さ。
ちなみにこのシングルメーター国土交通省からダメ出しされたものの、何とか懇願して認可してもらった拘りのメーターだったりします。
この様にSDRは本当にスパルタンというかストイックというか・・・言うなれば断捨離バイク。
もちろんただ省いただけではなく
「シンプルでありながらも存在感のある質感」
という狙いもあったので
・ハンドル
・ハンドルクラウン
・フートレスト
・チェーンケース
・タンクキャップ
数々のパーツを贅沢にもアルミ化。
そして特徴的なフレームとスイングアームは質感と耐蝕性を兼ね備えたTCメッキ(ニッケル・スズ・コバルトの三元素メッキ)加工。
「本当に必要な物にお金を掛けて、不要なものは一切付けない」
という信念の元に造られているわけです・・・が、鋭い人は
「SRXと同じ信念だな」
と思われたかと。
それもそのはず、実はこのSDRの開発責任者だった間渕さんはSRXの開発責任者も務められた方。
同じコンセプト、同じ匂いがするのは偶然ではないんです。
しかしじゃあ『SRXの2st版』と片付けて良いのかというとそうでもない。
確かにSRXとSDRはコンセプトもパッケージングも通ずるエンスー臭プンプンなバイクなんですが、SDRの場合は走りに強烈なウェイトが置かれています。
『34ps/9000rpm/105kg(乾)』
という中々の物を持っているんですが、走りというのはこのカタログ値の事ではありません。
SDRが目指した走りというのは
『常用域での速さと楽しさ』
です。
2stになったのは開け始めからグイグイとトルクが出るのが2stだったから。
そしてこれがSDRの凄い所。SDRはデザインばかりが評価されがちなんですがコッチが素晴らしい。
何が素晴らしいって決してピークを上げる事をしなかった事。
本当はもっと高回転にして馬力を上げる事はできた。というか高回転型にすればパワーバンド手前を排ガス測定域にすることができるからむしろ楽。
でもそうするとトルクが薄まってしまい”常用域での速さと楽しさ”を損なってしまう。
だから社内で疑問視する声が聞こえようと、上から何を言われようと決して屈しなかった。レーサーレプリカ真っ只中でカタログスペックが大正義だった時代にも関わらずです。
そうして出来上がったのがこのバイク。
見栄も張れない小さく軽い車体に、時流に粗ぐわぬカウルレスで馬力が飛び抜けているわけでもない。
でもそのかわり常用域での速さと楽しさを何よりも持っている2stシングルスポーツなのがSDRというわけ。
これは
「モーターサイクルの楽しさの原点を、もう一度呼び起こすモデルをつくろう」
という考えを開発チーム全員で共通していたから可能だった事で、プレスリリース時に開発責任者の間渕さんは
「SDRを通じてモーターサイクルの造詣や思いの強い真のライダーが一人でも多く育って欲しい」
とSDRに込めた思いを語っておられました。
実際これが出た時は間渕さんのいうマニアなライダー・・・じゃなくて真のライダーには非常に好評でした。
レースキットも発売されワンメイクレースレースまで開催。
しかし多くのライダーを育てたかというと、やはりレプリカブームという大波には勝てず三年余りでカタログ落ちとなってしまいました。
これについて間渕さんは
「250で出せていれば・・・」
と悔やまれていました。
というのも実はSDRはモトクロッサーYZ250のエンジンを積んで出すつもりだったんです。
しかしその意見が通らずに開発中だったDT200のエンジンを使う事になった。
この事を悔やまれていたんです。
ちなみにそのYZ250はなんと今でも現役で好評販売中。
なんでもYZの開発責任者である櫻井さん曰く数年前から軽くてシンプルという2stの武器が再評価されているそう。
まあこれはモトクロッサーの話なんですが
「FIやYPVSや触媒で排ガス規制を何とかしてSDR250を」
とも思うわけですが・・・それは無理な話か。
最後に小ネタを一つ。
これブラックじゃないですよ、深緑(メルティンググリーン)です。
主要諸元
全長/幅/高 | 1945/680/1005mm |
シート高 | 770mm |
車軸距離 | 1335mm |
車体重量 | 105kg(乾) |
燃料消費率 | 58.0km/L ※定地走行テスト値 |
燃料容量 | 9.5L |
エンジン | 水冷2サイクル単気筒 |
総排気量 | 195cc |
最高出力 | 34ps/9000rpm |
最高トルク | 2.8kg-m/8000rpm |
変速機 | 常時噛合式6速リターン |
タイヤサイズ | 前90/80-17(46S) 後110/80-17(57S) |
バッテリー | GM3-3B |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
BR8ES/BR9ES または W24ESR-U/W27ESR-U |
推奨オイル | オートルーブ |
オイル容量 ※ゲージ確認を忘れずに |
全容量0.9L |
スプロケ | 前16|後43 |
チェーン | サイズ428|リンク132 |
車体価格 | 379,000円(税別) |
いまでも保有しています。
欠品部品が増えていますがフォークシールなど汎用部品は普通に出ますし,SDR200.comで部品が入手できたりYSPから離脱した馴染みのバイク店で普通に整備できるのでビンテージモデルとしては比較的動態保存しやすいバイクだったりします。
ところで,タコメータなしのシングルメータが国交省(当時は運輸省でしたね)からダメ出しを受けたというのは初耳でした。というのもSDRの前に発売された初代SRXー4/6,400には確かタコメータが非装備だった覚えが。
SRX初期型は輸出用も国内モデルもタコ付きです。
やたら後付けっぽいスタイルで実際ユーザーレベルでスッキリと取れてしまうのは、やはり当初から付けたくなかったんだと思います(笑)
私は当時バイク業界関係者で、SDRは登場前にすごく期待していたのですが……。発表会での情報収集で、「本来剛性パーツにしたかったエアクリーナーボックスはホンダの特許に引っかかるためにそうできず、単にアルミ製になっただけ(剛性は普通にフレームが確保)」「ダイヤモンドフレームと思いきや、単なるダブルクレードル。しかもダイヤモンドと見せたいばかりにダウンチューブをわざわざ別体にして黒塗りの上、ボルト止め(一体型より重くなる悪手)」「コストダウンのためタイヤが安物で、試乗会でプロライダーがみんな苦情」という実情を見て、どえらくがっかりしました。「いい品だから中間排気量でも高価格」が許される時代ではなく「200ccなら250より安いのが当たり前」という営業の意見に開発が潰されたパターンです。
本来250という話は初耳ですが、それで出せていたら多分もっと売れたのではないかと思います。同時期のtrx850がとてつもなくいい出来だっただけに、惜しまれる1台です。