「Taste of the world」
今もなお一部のライダーから絶大な支持を得ているSRX。
このバイクは販売台数が低迷してきたSR400の後継機として開発がスタートした経緯があります。
エンジンはSRの物ではなくXT600/400のもの。
SR400の元がXT600/400のご先祖であるXT500だったことを考えると、SRXは従兄弟というか腹違いの兄弟の様なバイクですね。
いきなりですがSRXは特にこれと言って目立ったメカニズムがありません。
エンジンも振動を打ち消す一軸バランサーを装着している事くらい。
フレームも至ってシンプルなダブルクレードルフレームです・・・が、そう単純な話ではない。
当時はレーサーレプリカ全盛期で、次々と新装備や高いスペック、そして
“カウル付きにあらずんばバイクにあらず”
という時代だった。
SRXプロジェクト(SRの後継プロジェクト)はそんな風潮に納得がいかないエンジニアが自主的に集まったのが始まり。
決まりごとは一つ。
「必要なものにはコストを惜しまず、不必要なものは絶対につけない」
ということ。
「DOHCなんて飾り」
「カウルなんて整備しにくいだけ」
「セルなんて軟派な奴が使うモノ」
「同じ考えを持った決して多くない人たちに向けた本物のバイクを」
という事を至上命題に。売れる売れないは最初から頭になかった。
SRXは基本に忠実に磨き上げたような車体構造だから
「ここが凄いんだぜ」
と言えるようなメカニズムが無い。
その代わり乗れば如何にギミックを捨てて、基礎を磨き上げたバイクか分かります。
そしてそんなこだわりも持っていたのはエンジニアだけでなくデザイナーも同じ。
SRXは一条さんというGKデザインでVmaxなどを手がけられた方がデザイン。
この方もそれらのバイクを生み出しただけの事はあり、絶対にデザイン面で譲らなかった。
例えばこのエンジンを舐めるように囲っているフレーム。
本当はもう少しエンジンとフレームに余裕を持たせないと組む事が出来ない。でもそれではデザインが崩れるとして譲らず、アンダー部をボルトマウント(サブフレーム)に変更。
他にも正面から見た時にフロントフォークからタンクがハミ出てるのが気に食わないとして、正月休みの間にクレイモデルを勝手に持って帰り、シレっと削るという暴挙に出てエンジニアと口論。
更には当時としては非常に珍しかったショートマフラーも肝心要だとして絶対に譲らなかった。
だからこのマフラーは性能から導き出される本来のマフラーの作り方ではなく、この形を前提とした開発。
その努力の跡は素人目で見ても分かります。
ちなみにSRXとVmaxは同じ1985年に発売されたバイクでデザインは同時進行。
「洋(アメリカ)のVmax」
「和のSRX」
という表裏なテーマを持たせたそう。
他にも軽量化や質感の為にアルミを奢ったりしているわけですが、ここで少し話しておかないといけない事があります。
「ロードボンバー」
というバイクについてです。
「大事なのはパワーではなく操縦性」
という考えを持っていた島英彦さんという方がXT500のエンジンをベースに作り上げたシングルレーサー。
1978年の第一回鈴鹿8時間耐久ロードレースにこのバイクで出場したわけですが、四気筒1000ccが当たり前だった状況で単気筒500cc。
当然ながら誰もが無謀と思っていましたが、単気筒の武器である軽さや低燃費性など
「少ないリソースを最大限活かす」
という考えで見事8位入賞という快挙を成し遂げ一躍注目の的に。
既に開発中だったSR500/400はBSA系のデザインで行く予定だったのですが、このロードボンバーへの大反響が後押しする形でこうなった経緯があります。
しかしどちらかというとSRXの方がスポーツ志向でロードボンバーに近いことから
「SRXこそロードボンバーでは」
という声が広まりました・・・が、どうもSRXの開発に対しては島さんは初期に少し関わったのみで市販されたSRXとはほぼ無関係との事。
もちろんSRやSRXが生まれる事が出来たのはロードボンバーの追い風があったからなのは間違いないでしょうけどね。
話をSRXに戻します。
「俺達と同じように分かるやつだけ乗ってくれればいい」
という気兼ねで作られたSRXのモデルチェンジについてザックリ説明。
1987年
SRX-6(2NX)/SRX-4(2NY)
・キャブやエンジン周りの見直し
・タンデムステップの移設
・18インチから17インチへ
・シングルディスク化
・4ポットキャリパー
・-2kgの軽量化
1988年
SRX-6(3GV)/SRX-4(3HU)
・ラジアルタイヤ装備
・給排気系の見直し
チェーンを520から428にコンバート
1990年
SRX600(3SX)/
SRX400(3NV)
フルモデルチェンジされた後期型モデル。
多くの人に日常の足としても親しまれる様になったことからセルを装備し、モノサス化とアルミスイングアームなどフレームの大幅な見直し。
デザインも上村国三郎さんに変更されガラッと雰囲気が変わって車名もSRX400とSRX600に改名(※海外では最初からコッチ)。
1991年
SRX600(3SX後期)
SRX400(3NV後期)
最後のモデルチェンジになる91年モデルではサスペンションの見直し・・・等など。
ちなみに言い忘れていましたが400と600の違いはオイルクーラーが付いておらずシングルディスクなのが400。
※YSP限定は400もダブルディスク
ただ後期400にはオイルクーラーが装着されています。
何故こんな細かなモデルチェンジを繰り返したのかというと、幸運なことにそんなエンジニアの想定を大きく超えるヒットとなったから。
ヤマハによるとSRX-6が世界累計で19,000台、SRX-4も国内だけで30,000台も生産されています。
そして売れたことで
「必要なものに更にお金をかけることが可能となった」
との事。
結局、数を売ろうという考えは最後までありませんでした。
しかし残念ながら91年モデルを最後にフェードアウトするように生産終了に。
その道のプロをも唸らせる作りと人気だったにも関わらず生産終了となってしまった理由・・・それは
「SRがいたから」
です。
もはやヤマハ史の生き証人となっていたSRを途絶えさてはいけないという判断が、よりもよって後継となるはずだったSRXの開発の終わり際に決定。
つまりSRXは世に出る前から消える事を運命づけられていた。
なんとも悲しい話なんですが、SRを責めないでやってください。SRがいたからこそSRXのプロジェクトが始動したわけですから。
そもそもこれが市販化出来たのは、開発チームが自分が欲しかった事と
“同じ考えを持った決して多くない人たちに届けたい”
という強い思いがあったから。
絶対にプレゼンを通すために、等身大のデザインスケッチや、塗装ではなく質感を出すために本物のアルミを奢ったスペシャルモデルなどまで用意。
「そこまで言うなら・・・」
と上を物怖じさせるほど熱弁し訴えることで市販化に漕ぎ着けたわけです。
そして消える運命なのになかなか消えず、発売後も改良が続けられたのは
“同じ考えを持った決して多くない人たち”
が買い支えてくれたから。
SRの存在によって生み出され、SRの存在によって消えていった、SRとは似て非なる格調高きポテンシャルシングル。
それがSRXというバイクです。
主要諸元
全長/幅/高 | 2085/705/1055mm 2090/720/1045mm※3SX/3VN |
シート高 | 760mm |
車軸距離 | 1385mm 1425mm※3SX/3VN |
車体重量 | 170kg(装)※1JK/3SX/3VN 166kg(装)※2NX/3GV (168kg(装)※1JL) (165kg(装)※2NY/3HU) |
燃料消費率 | 40(51.0)km/L ※定地走行テスト値 |
燃料容量 | 15.0L |
エンジン | 空冷4サイクルOHC単気筒 |
総排気量 | 608cc (399cc) |
最高出力 | 42ps/6500rpm (33ps/7000rpm) |
最高トルク | 4.9kg-m/5500rpm (3.4kg-m/6000rpm) |
変速機 | 常時噛合式5速リターン |
タイヤサイズ |
前100/80-18(53S)|後120/80-18(62S)※1JK/1JL |
バッテリー | YB5L-B YTX9-BS※3SX/3VN |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
DP7EA-9 DPR8EA-9※3SX/3VN |
推奨オイル | オートルーブ |
オイル容量 ※ゲージ確認を忘れずに |
全容量2.4L|交換時2.0L|フィルター交換時2.1L 全容量2.8L|交換時2.4L|フィルター交換時2.5L※3SX/3VN |
スプロケ | 前15|後37※1JK 前19|後47※2NX/3GV/3SX (前14|後41※1JL/2NY) (前17|後50※3HU/3VN) |
チェーン | サイズ520|リンク104※1JK サイズ520|リンク104※2NX サイズ428|リンク132※3GV/3HU サイズ428|リンク138※3SX/3VN (サイズ520|リンク106※1JL/2NY) |
車体価格 | 548,000円(税別)/SRX600(1JK) 498,000円(税別)/SRX400(1JL) |
このエンジンは私の設計です。XT400/550のペア開発でした。勿論オフロードモデルです。その後、パリダカでテネレとして再デビューしました。オフロードモデルとしても言及してもらえれば幸いです。
エンジンを開発なさったとのコメント読みました。私はXT600E(91年)、SRX6(87年)を愛好している者です。
ZAPPERさん始め当時開発に関わった方のお陰で日々充実したバイク生活を送っております。本当にありがとうございます。
どうしても、この場をかりてお礼を言いたくなりました。
ZAPPERさんはもしかしてSEROWのエンジンにも関わられたのでしょうか?
ヤマハのオフロードモデルはこの辺り軽量コンパクトで扱いやすく良いですね。
トレールというオートバイの意味がよくわかります。
それにしても、ヤマハでZAPPERとは。