決して多くない人たちへ SRX-6(1JK~) SRX-4(1JL~) -since 1985-

初代SRX-6

「Taste of the world」

今もなお一部のライダーから絶大な支持を得ているSRX。

このバイクは販売台数が低迷してきたSR400の後継機として開発がスタートした経緯があります。

1982XT400

エンジンはSRの物ではなくXT600/400のもの。

SR400の元がXT600/400のご先祖であるXT500だったことを考えると、SRXは従兄弟というか腹違いの兄弟の様なバイクですね。

SRXエンジン

いきなりですがSRXは特にこれと言って目立ったメカニズムがありません。

エンジンも振動を打ち消す一軸バランサーを装着している事くらい。

フレームも至ってシンプルなダブルクレードルフレームです・・・が、そう単純な話ではない。

SRXフレーム

当時はレーサーレプリカ全盛期で、次々と新装備や高いスペック、そして

“カウル付きにあらずんばバイクにあらず”

という時代だった。

SRXプロジェクト(SRの後継プロジェクト)はそんな風潮に納得がいかないエンジニアが自主的に集まったのが始まり。

決まりごとは一つ。

1988SRX-6

「必要なものにはコストを惜しまず、不必要なものは絶対につけない」

ということ。

「DOHCなんて飾り」

「カウルなんて整備しにくいだけ」

「セルなんて軟派な奴が使うモノ」

SRX-6カタログ写真

「同じ考えを持った決して多くない人たちに向けた本物のバイクを」

という事を至上命題に。売れる売れないは最初から頭になかった。

SRXは基本に忠実に磨き上げたような車体構造だから

「ここが凄いんだぜ」

と言えるようなメカニズムが無い。

SRXカタログ

その代わり乗れば如何にギミックを捨てて、基礎を磨き上げたバイクか分かります。

そしてそんなこだわりも持っていたのはエンジニアだけでなくデザイナーも同じ。

SRXラフデザイン

SRXは一条さんというGKデザインでVmaxなどを手がけられた方がデザイン。

この方もそれらのバイクを生み出しただけの事はあり、絶対にデザイン面で譲らなかった。

2NX

例えばこのエンジンを舐めるように囲っているフレーム。

本当はもう少しエンジンとフレームに余裕を持たせないと組む事が出来ない。でもそれではデザインが崩れるとして譲らず、アンダー部をボルトマウント(サブフレーム)に変更。

SRX-6ジャケット写真

他にも正面から見た時にフロントフォークからタンクがハミ出てるのが気に食わないとして、正月休みの間にクレイモデルを勝手に持って帰り、シレっと削るという暴挙に出てエンジニアと口論。

更には当時としては非常に珍しかったショートマフラーも肝心要だとして絶対に譲らなかった。

POTENTIAL SINGLE

だからこのマフラーは性能から導き出される本来のマフラーの作り方ではなく、この形を前提とした開発。

その努力の跡は素人目で見ても分かります。

SRXマフラー

ちなみにSRXとVmaxは同じ1985年に発売されたバイクでデザインは同時進行。

「洋(アメリカ)のVmax」

「和のSRX」

という表裏なテーマを持たせたそう。

他にも軽量化や質感の為にアルミを奢ったりしているわけですが、ここで少し話しておかないといけない事があります。

「ロードボンバー」

というバイクについてです。

ロードボンバー

「大事なのはパワーではなく操縦性」

という考えを持っていた島英彦さんという方がXT500のエンジンをベースに作り上げたシングルレーサー。

1978年の第一回鈴鹿8時間耐久ロードレースにこのバイクで出場したわけですが、四気筒1000ccが当たり前だった状況で単気筒500cc。

当然ながら誰もが無謀と思っていましたが、単気筒の武器である軽さや低燃費性など

「少ないリソースを最大限活かす」

という考えで見事8位入賞という快挙を成し遂げ一躍注目の的に。

BSA

既に開発中だったSR500/400はBSA系のデザインで行く予定だったのですが、このロードボンバーへの大反響が後押しする形でこうなった経緯があります。

初代SR400

しかしどちらかというとSRXの方がスポーツ志向でロードボンバーに近いことから

「SRXこそロードボンバーでは」

という声が広まりました・・・が、どうもSRXの開発に対しては島さんは初期に少し関わったのみで市販されたSRXとはほぼ無関係との事。

SRX-6銀

もちろんSRやSRXが生まれる事が出来たのはロードボンバーの追い風があったからなのは間違いないでしょうけどね。

話をSRXに戻します。

初代SRX-6

「俺達と同じように分かるやつだけ乗ってくれればいい」

という気兼ねで作られたSRXのモデルチェンジについてザックリ説明。

1987年
SRX-6(2NX)/SRX-4(2NY)

二代目SRX-6

・キャブやエンジン周りの見直し
・タンデムステップの移設
・18インチから17インチへ
・シングルディスク化
・4ポットキャリパー
・-2kgの軽量化

1988年
SRX-6(3GV)/SRX-4(3HU)

三代目SRX-6

・ラジアルタイヤ装備
・給排気系の見直し
チェーンを520から428にコンバート

1990年
SRX600(3SX)/
SRX400(3NV)

四代目SRX

フルモデルチェンジされた後期型モデル。

多くの人に日常の足としても親しまれる様になったことからセルを装備し、モノサス化とアルミスイングアームなどフレームの大幅な見直し。

デザインも上村国三郎さんに変更されガラッと雰囲気が変わって車名もSRX400とSRX600に改名(※海外では最初からコッチ)。

1991年
SRX600(3SX後期)
SRX400(3NV後期)

五代目SRX

最後のモデルチェンジになる91年モデルではサスペンションの見直し・・・等など。

ちなみに言い忘れていましたが400と600の違いはオイルクーラーが付いておらずシングルディスクなのが400。

※YSP限定は400もダブルディスク

SRX400

ただ後期400にはオイルクーラーが装着されています。

何故こんな細かなモデルチェンジを繰り返したのかというと、幸運なことにそんなエンジニアの想定を大きく超えるヒットとなったから。

ヤマハによるとSRX-6が世界累計で19,000台、SRX-4も国内だけで30,000台も生産されています。

そして売れたことで

SRX-6アメリカ

「必要なものに更にお金をかけることが可能となった」

との事。

結局、数を売ろうという考えは最後までありませんでした。

SRX400カタログ写真

しかし残念ながら91年モデルを最後にフェードアウトするように生産終了に。

その道のプロをも唸らせる作りと人気だったにも関わらず生産終了となってしまった理由・・・それは

「SRがいたから」

です。

SR400UK

もはやヤマハ史の生き証人となっていたSRを途絶えさてはいけないという判断が、よりもよって後継となるはずだったSRXの開発の終わり際に決定。

つまりSRXは世に出る前から消える事を運命づけられていた。

SRX400

なんとも悲しい話なんですが、SRを責めないでやってください。SRがいたからこそSRXのプロジェクトが始動したわけですから。

そもそもこれが市販化出来たのは、開発チームが自分が欲しかった事と

“同じ考えを持った決して多くない人たちに届けたい”

という強い思いがあったから。

絶対にプレゼンを通すために、等身大のデザインスケッチや、塗装ではなく質感を出すために本物のアルミを奢ったスペシャルモデルなどまで用意。

SRX1/1スケッチ

「そこまで言うなら・・・」

と上を物怖じさせるほど熱弁し訴えることで市販化に漕ぎ着けたわけです。

そして消える運命なのになかなか消えず、発売後も改良が続けられたのは

“同じ考えを持った決して多くない人たち”

が買い支えてくれたから。

SRX-6カタログ写真

SRの存在によって生み出され、SRの存在によって消えていった、SRとは似て非なる格調高きポテンシャルシングル。

それがSRXというバイクです。

主要諸元
全長/幅/高 2085/705/1055mm
2090/720/1045mm※3SX/3VN
シート高 760mm
車軸距離 1385mm
1425mm※3SX/3VN
車体重量 170kg(装)※1JK/3SX/3VN
166kg(装)※2NX/3GV
(168kg(装)※1JL)
(165kg(装)※2NY/3HU)
燃料消費率 40(51.0)km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 15.0L
エンジン 空冷4サイクルOHC単気筒
総排気量 608cc
(399cc)
最高出力 42ps/6500rpm
(33ps/7000rpm)
最高トルク 4.9kg-m/5500rpm
(3.4kg-m/6000rpm)
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ

前100/80-18(53S)|後120/80-18(62S)※1JK/1JL
前100/90-17(55S)|後120/80-18(62S)※2NX/2NY
前110/80-17(57H)|後120/80-18(62H)※3GV/3HU
前110/70-17(54H)|後140/70-17(66H)※3SX/3VN

バッテリー YB5L-B
YTX9-BS※3SX/3VN
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DP7EA-9
DPR8EA-9※3SX/3VN
推奨オイル オートルーブ
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.4L|交換時2.0L|フィルター交換時2.1L
全容量2.8L|交換時2.4L|フィルター交換時2.5L※3SX/3VN
スプロケ 前15|後37※1JK
前19|後47※2NX/3GV/3SX
(前14|後41※1JL/2NY)
(前17|後50※3HU/3VN)
チェーン サイズ520|リンク104※1JK
サイズ520|リンク104※2NX
サイズ428|リンク132※3GV/3HU
サイズ428|リンク138※3SX/3VN
(サイズ520|リンク106※1JL/2NY)
車体価格 548,000円(税別)/SRX600(1JK)
498,000円(税別)/SRX400(1JL)
系譜の外側
DN-01

拒絶された渾身のATスポーツクルーザー
DN-01
(RC55)

gts1000

悪いのは人か技術か
GTS1000/A
(4BH/4FE)

750カタナ

カタナと名乗れなかったカタナ
GSX750S
(GS75X)

ザンザス

Zの亡霊と戦ったZ
XANTHUS
(ZR400D)

CBX400カスタム

30年経ってCBXと認められたアメリカン
CBX400CUSTOM
(NC11)

BT1100

イタリア魂が生んだもう一つのMT
BT1100 BULLDOG
(5JN)

GSX1300BK

本当の怪物は誰も求めていなかった
GSX1300BK B-KING
(GX71A)

ZR750F/H

死せるザッパー生ける仲間を走らす
ZR-7/S
(ZR750F/H)

ホンダCBX1000

大きすぎた赤い夢
CBX1000
(CB1/SC03/06)

GX750/XS750

ブランドは1台にしてならず
GX750
(1J7)

スズキGAG

SUZUKIのZUZUKI
GAG
(LA41A)

Z1300

独走のレジェンダリー6
Z1300/KZ1300
(KZ1300A/B/ZG1300A)

NM-4

アキラバイクという非常識
NM4-01/02
(RC82)

FZX750

大きな親切 大きなお世話
FZX750
(2AK/3XF)

GSX1400

踏みにじられたプライド
GSX1400
(GY71A)

750Turbo

タブーを犯したターボ
750Turbo
(ZX750E)

NR750

無冠のレーシングスピリット
NR
(RC40)

TRX850

現代パラツインスポーツのパイオニア
TRX850
(4NX)

GS1200SS

嘲笑される伝説
GS1200SS
(GV78A)

ゼファー1100

ZEPHYRがZEPHYRに
ZEPHYR1100/RS
(ZR1100A/B)

NS400R

狂った時代が生んだ不幸
NS400R
(NC19)

RZV500R

手負いの獅子の恐ろしさ
RZV500R
(51X/1GG)

RG500Γ

チャンピオンの重み
RG500/400Γ
(HM31A~B/HK31A)

AV50

なぜなにカワサキ
AV50
(AV050A)

ドリーム50

五十路の夢
DREAM50
(AC15)

フォーゲル

楽し危なし
POCKE/VOGEL
(4U1/7)

ストリートマジック

シンデレラスクーター
TR-50/TR-110
(CA1L/CF12)

Z750ツイン

鼓動と振動
Z750TWIN
(KZ750B)

フォルツァ125

市民権の象徴
FORZA125
(JF60)

SRX4/6

決して多くない人たちへ
SRX-6/SRX-4
(1JK/1JL~)

DR-Z400SM

最初で最後のフルスペック
DR-Z400S/SM
(SK43A/SK44A)

ZX-7R/RR

問題児レーサー
ZX-7R/RR
(ZX750P/N)

RC213V-S

2190万円の妥協と志向
RC213V-S
(SC75)

YZF-R7

7と1でWE/R1
YZF-R7
(5FL)

バーグマンFCS

エコの裏で蠢くエゴ
BURGMAN FCS
(DR11A)

エリミネーター750/900

名は体を現す
ELIMINATOR750/900
(ZL750A/ZL900A)

モトコンポ

こう見えて宗一郎のお墨付き
MOTOCOMPO
(AB12)

TDR250

聖地突貫ダブルレプリカ
TDR250
(2YK)

グース

決めつけられたシングルの正解
Goose250/350
(NJ46A/NK42A)

Z650

小さく見えるか大きく見えるか
Z650
(KZ650B)

X4

単気筒
X4
(SC38)

SDR200

軽く見られた軽いやつ
SDR
(2TV)

チョイノリ

59,800円に込められた思い
choinori
(CZ41A)

ゼファー750

復刻ではなく集大成
ZEPHYR750/RS
(ZR750C/D)

PS250

モトラリピート
PS250
(MF09)

DT-1

冒険という感動創造
トレール250DT1
(214/233)

Vストローム250

二度ある事は三度ある
V-STROM250
(DS11A)

エリミネーター250

周期再び
ELIMINATOR250/SE/LX
(EL250B/A/C)

CX500ターボ

打倒2ストのブースト
CX500/650TURBO
(PC03/RC16)

YA-1

原点進行形
YAMAHA125
(YA-1)

rf400r

RでもFでもない
RF400R/RV
(GK78A)

250-A1

半世紀を迎えた吉凶のライムグリーン
250-A1/SAMURAI

Vツインマグナ

氷河期 of Liberty
V-TWIN MAGNA(MC29)

TDR50

RALLYってしまった原付
TDR50/80(3FY/3GA)

SW-1

オシャレは我慢
SW-1(NJ45A)

ボイジャー1200

可愛い娘は旅をせよ
Voyger XII
(ZG1200A/B)

WING

Twist and Shaft
WING
(GL400/GL500)

ビーノ

その愛嬌は天然か計算か
VINO
(SA10J/SA26J/SA37J/SA54J/AY02)

DRビッグ

爪痕を残し飛び去った怪鳥
DR750S/DR800S
(SK43A/SR43A)

テンガイ

愛おぼえていますか
Tengai
(KL650B)

CB92

雪辱のSSその名はシービー
CB92

XT400E

本当の名前は
ARTESIA
(4DW)

ジェベル250

ツールドジェベル
DJEBEL250/XC/GPS
(SJ44A/SJ45A)

KV75

混ぜるなキケン
75MT/KV75
(KV075A)

ダックス

泥遊びなら任せろ
DAX
(ST50/ST70/AB26)

ランツァ

単槍匹馬のラストDT
LANZA
(4TP)

GT750

水牛であり闘牛である
GT750
(GT750J~N)

「決して多くない人たちへ SRX-6(1JK~) SRX-4(1JL~) -since 1985-」への2件のフィードバック

  1. このエンジンは私の設計です。XT400/550のペア開発でした。勿論オフロードモデルです。その後、パリダカでテネレとして再デビューしました。オフロードモデルとしても言及してもらえれば幸いです。

  2. ZAPPERさんはもしかしてSEROWのエンジンにも関わられたのでしょうか?
    ヤマハのオフロードモデルはこの辺り軽量コンパクトで扱いやすく良いですね。
    トレールというオートバイの意味がよくわかります。

    それにしても、ヤマハでZAPPERとは。

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