「DYNAMITE BABY」
このモデルを知ってる人は相当な通じゃないかと思う75MTとKV-75というモデル。
車名が二車種ありますが先に出たのは1970年の75MTというモデルの方で
・2st/73cc/4.3ps
・三速ミッション
・バックボーンフレーム
・テレスコフォーク&スイングアーム
・8インチホイール
・最高時速40km
・折りたたみ式ハンドル
という70年にしては非常に高性能なミニバイクでした。ただこれはアメリカ向けに開発されたモデルで日本国内では売っていません。
「big is biggerのアメリカで何故こんなミニマムバイクを」
と意外に思うかも知れませんが当時アメリカでこういったミニバイクが流行っていたんです。
もともと向こうでは60年代から上の写真のような鉄パイプフレームに汎用エンジンを積んだだけの『ミニバイク(ミニサイクル)』という
・子供のオモチャ
・ゴルフカートの代わり
・AGI(農作業)バイク
などの用途に適した乗物が存在しており、カワサキも(米カワサキ主導で)1969年にコヨーテという正にそれ向けのモデルを出していました。
ちなみにこっちは汎用エンジンな事もあり4st/132cc/3.4psというスペック。
あくまでも下駄中の下駄なのでライトも何も付いておらずスペックもこれくらいがメジャーでした。
しかし75MTが取り入れている折りたたみ式ハンドルというギミックからも察せる通り、ホンダが『MINI TRAIL(モンキー)という汎用ではなくちゃんとバイクになってるミニバイクを1967年から本格的に販売を始めるとミニバイク人気が急上昇。
その需要に向けてカワサキが造ったのが1970年からの75MTという話。
この頃のカワサキはバイク事業を軌道に乗せるため何が何でもアメリカで成功を収める必要があった事もののZ1すらまだの時代だった事もあり、ミニバイクとは思えないほど宣伝に力を入れていました。
『75MT Parnelli “Kawasaki” Jones』
なんだかよく分からない名が入っていると感じるかも知れませんが、このパーネリ・ジョーンズというのはトランザムレース(アメ車のストックレース)や佐藤琢磨さんで有名な世界三大レースのインディ500などで優勝されたアメリカレース界におけるレジェンドの名前。
ミニバイクを売るため、そしてカワサキというメーカーを広く認知してもらうために名前まで抱き合わせるように起用したんですね。サイドデカールも単純なフライングKではなくPJを織り交ぜたオリジナルの物でした。
実際これアメリカでどうだったかというと、クラスの中でも元気ハツラツだったことや知名度が結構あること、そして10年近く販売が続いた点から見ても結構人気だったみたいです。
さて、そんな75MTの登場から約6年後となる1976年に国内仕様が登場します。
それが
『KV-75/KV075A』
という日本向けのモデル。
75MTとの違いとしては
・スプリング内蔵フォーク(75MTも72年に同変更)
・キャブレターを変更
・キャリアの装着
・オイルタンクガードを兼ねたゼッケンプレート
・ロングフェンダー
などなど変更が加えられています。
遅れるというかだいぶ経って国内に投入したのはアメリカに続くように日本でもレジャーバイクのブームが起こったから。
これは社会史の話になってしまうんですが簡単に説明すると、1970年代に入ると高度経済成長の影響も相まって多産多死の戦後家族モデルが終わりを告げ、現在の形に近い集団よりも個を尊重する少産少死な家族モデルの社会へ変化。
その影響で若者感でファッションを中心に多様化や個性化が起こりました。
これは1970年の国鉄CMなんですがオシャレな格好をした若者が蒸気機関車に乗るっていう。それほど当時の若者はファッションに対する価値観が尖ってたんですね。
そんな個を大事にする若者たちにとってはバイク(原付)も例外じゃなかった。
『原付もファッションの延長線上にある個性を主張するもの』
と考える若者が増えたから見た目がオシャレだったり遊び心に溢れていたりするレジャーバイクが人気になったという話であり、カワサキもアメリカ向けだった75MTをわざわざKV-75として国内に投入したという話。
・・・だったんですが、KV-75という車名からも分かる通りアメリカと同じ73ccのままだった。
当時は既に今でいう一種と二種で別れている時代。車の免許さえあれば誰でも気軽に乗れるというレジャーバイク最大の武器ともいえる要素を持ってない致命傷ともいえる欠点があった。
ミニバイクが好きな人は
「小さくて元気な二種のレジャーバイクとか最高じゃん」
と思うかも知れない。確かにそうなんですがKV-75はそんなミニバイク好きすら躊躇させる特徴があった。
少しわかりにくいんですがKV-75には左ハンドルにレバーが付いています。
「クラッチがどうかしたのか」
と思われるでしょう・・・でも違うんです。これリアブレーキなんです。
KV-75はKSRと同じ自動遠心クラッチ。そこまでで止めておけばいいのに何故か空いた左手にリアブレーキを持ってきてる。だから後から手動クラッチ化とかも出来ない。
一方でギアチェンジはシーソー式やロータリー式ではなく一般的なMTバイクと同じリターン式という本格的仕様。
だから知らない人が乗ったら間違いなくギアチェンジで左手にあるリアブレーキレバーを思い切り握って大惨事を招くを起こす。
たとえその構造を理解してもいざ運転すると違和感が凄い。ギアチェンジの度に左手がソワソワする、気分はまるでクイックシフター。
「あれクラッチじゃなくてリアブレーキなんだぜ」
「えーっ」
っていうやり取りが間違いなく全国各地で繰り広げられたであろう、スクーターのハンドブレーキとMTバイクのギアチェンジが混じってるレジャーバイクでした。
主要諸元
全長/幅/高 | 1390/610/890mm [1348/600/873mm] |
シート高 | – |
車軸距離 | 950mm |
車体重量 | 59kg(乾) [55kg(乾)] |
燃料消費率 | 76.0km/L ※定地走行テスト値 |
燃料容量 | 3.0L |
エンジン | 空冷2サイクル単気筒 |
総排気量 | 73cc |
最高出力 | 4.3ps/5750rpm [4.2ps/6200rpm] |
最高トルク | 0.59kg-m/2000rpm |
変速機 | 常時噛合式3速リターン |
タイヤサイズ | 前3.50-8(2PR) 後3.50-8(2PR) |
バッテリー | – |
プラグ | B7HS |
推奨オイル | – |
オイル容量 | 全容量1.1L |
スプロケ | 前13|後33 |
チェーン | サイズ420|リンク88 |
車体価格 | 104,000円(税別) ※スペックはKV-75 ※[]内は75MT-1 |