「Like a Fire Engine」
750turboは簡単に言うとザッパーことZ650系譜のZ750FX(KZ750E)のエンジンをターボ化してGPz1100に積んだようなバイク。
でも何故かGPzとは付かない。上の写真のカバーを見れば分かるようにGPzの文字が入ってるのにね。
750turboは
・最高性能かつ扱い易いこと
・レースに耐えうる特性をもつこと
・ターボシステムは極力簡素化すること
・整備性と信頼性を確保すること
という嘘じゃないのかと思えるコンセプトで作られました。
ご存知の方も多いと思いますが一番最初にターボバイクを出したのはホンダで1981年のCX500/650TURBO。
IHIが作った世界最小のターボを積んでいます。
そんなCX500の翌年にヤマハが追いかけるように出したのが三菱重工のターボを採用したXJ650turbo。
ホンダと喧嘩(HY戦争)中だったヤマハとしては”目には目を歯には歯を”だったんでしょうが、同じ所のを使うのはプライドが許さなかったんでしょうね。いやまあコレはこれで世界初のキャブターボなんですが。
一方でホンダと同じくIHIのターボを積んだスズキのXN85TURBOも同年発売。
85という名前から850ccと思いきや673cc。85というのは85馬力から来ています。紛らわしいですね。
そしてこのページの主役であるカワサキの750turboはというと、まだ誠心誠意製作中でプロトタイプを1981~82年のモーターショーで発表するまでに留まっていました。
プロトタイプの顔はすごく野暮ったいですね。
出遅れていたカワサキですが、実は1978年と何処よりも早い段階から(非公式ながら)アメリカでターボ車を売っていたのをご存知でしょうか。
それはZ1Rベースでその名もZ1R-TCというバイク。
これはアメリカのサードパーティ製のターボチャージャーを積んだチューニングバイクなんですが、手掛けたのは元カワサキ社員でカリフォルニアのカワサキディーラーで発売されていたようです。
しかし州が危険と判断し、後付過給を付けたバイクの販売を禁止したため78~79年の二年間しか発売されませんでした。250台/年で計500台ほど売れたようです。
話を750turboに戻すと・・・CX/XJ/XN/750と僅か数年でターボモデルが相次いで出たのは、自動車メーカーが上位モデルにターボを積むようになった事で
「ターボ=高性能の証」
という認識が広まり、世界中でターボブームが起きていた。そこでバイクもターボブームの波に乗れとなったわけですね。
でもバイクの場合もう一つ理由があります。
CX500/650(498cc/673cc)
XJ650(653cc)
XN85(673cc)
皆さんコレ見て
「中途半端な排気量だな」
って思いませんか。実はこれアメリカが関係しています。
この頃アメリカでは海外メーカーのバイク(特に日本車)が90%近いシェアを誇っており、唯一の自国メーカーだったハーレーのシェアが10%を切るまでに落ちていた。そこで当時のアメリカ大統領だったレーガンが1982年に
「5年間700cc以上の輸入バイクの関税を4%から45%に上げる」
という完全な輸入車潰し政策を打ち出してきたわけです。
これをキッカケにハーレーは大復活を遂げましたが、代償として多くの海外バイクメーカーが消えました。
あのBMWですら会社が傾き、トライアンフに至っては耐えきれずに倒れました。幸い実業家に拾われ九死に一生、これが現在のトライアンフです。
つまり実質的に700cc以上のバイクは売れないに等しい状況の中で700cc以上のパワーを出すためにターボを積んだ・・・という面もあるんです。
トランプさんが同じような事を再びしようとしている事から向こうではレーガンの再来とか言われています。
となるとおかしいですよね。750turboは738ccと完全に排気量をオーバーしてる。
どうしたのかなと思って調べてみると、どうも750turboの一部はアメリカのネブラスカ州にある工場で組み立てられていたようです。部品を送って向こうで作ることで関税を回避したんですね。
ライバルメーカーより車体価格が高かったのはこういう理由もあったからなんでしょう。
さてそんな750turboですが、タブーに近い事をやっています。
それはいわゆる”ドッカンターボ”な特性にしたこと。
いきなりドカンとターボ(トルク)が効くと危ないのは説明しなくても分かると思います。コーナリングの途中とかだったら絶対コケますよね。
同じ時代、同じターボ車ということで一纏めにして語られる事が多いですが、この750turboだけはちょっと別格というか斜め上なターボです。
バイクはターボが無いに等しいので知らない人の為にもターボの簡単な説明。
汚く分かり難い絵で申し訳ないですが、要するに排気ガス(茶色)の力でタービンというプロペラを回し、反対側に付いてる吸気(コンプレッサー側)のプロペラを共回りさせ空気(青色)を圧縮しているわけです。
そうすることで本来なら1000ccしか吸えないハズのエンジンが(1000ccにまで圧縮された)1500cc分の空気を吸える。1500cc分の空気が吸えるという事は、1500cc分の燃料を吹いて燃焼させる事が出来る。だからターボは自然吸気のエンジンよりパワーが出る。
ただ流れを見てもらうと分かる通り、排気ガスが動力だから最初からターボが効くわけじゃない。
アクセルを開けて排気ガスを出す
↓
ある程度の排気(流速)が出ると排気側のタービンが回り始める
↓
対になった吸気側のタービン(コンプレッサー)も回り空気を圧縮する
↓
圧縮された空気がエンジンに入る
↓
過給で一クラス上のトルクを生む
と結構なステップがある。排気という最後のステップで吸気という最初のステップをアシストするわけだからターボの反応はエンジン回転数に少し遅れて反応する。
これがターボラグといわれているターボのネガな部分。他にノッキングなどの問題もあります。
ちなみにこれが750turboに付いている日立製のHT10-Bというターボチャージャー。右下の長い棒はアクチュエーターといって丸い壁のような敷居(ウェイストゲートバルブ)の開閉をし、排気ガスをタービンに当てるか当てないかを負圧で切り替えるユニット。
タービンが許容回転数以上にならないように(壊れないように)コントロールするストッパー的な物です。
じゃあ「ドッカンターボ」と「ドッカンじゃないターボ」はどうやって決まるのかというと、タービンサイズで大方決まる。
タービンが大きいほど1回転辺りの仕事量が上がるので、回り始めるとガンガン圧縮して馬力がグングン伸びる。その代わり簡単には回らないので低回転時の弱い排気ではターボが全く効かないからドッカンターボになる。
逆に小さければ小さいほど弱い排気ガスでも簡単に回るのでターボが効くからスムーズ。そのかわり仕事量はそれなりだし、回転数が上がっていくと排気を邪魔する足枷になるので馬力を出せない。
CX500Turbo:82ps/8000rpm
XJ650Turbo:90ps/5~8000rpm
XN85Turbo:85ps/7500rpm
750turbo:112ps/9000rpm
こうやって並べてみると明らかに750turboだけが頭一つ抜きん出た馬力を持っているのが分かると思います。
ライバルが皆ターボのメリットよりもデメリットを考慮しバイクに合った小さいターボを採用したのに対し、カワサキはターボのメリットを伸ばすために大きいターボを採用したということ。 聞こえは良いですが普通はありえないです。
750Turboに対する評価は基本的にどの国もほぼ変わらない。
“最もターボを味わえ、最もターボの危うさ味わえるバイク”
正直このバイクはお世辞にも褒められたバイクでは無い・・・なのに今でも世界中で根強い知名度と人気を誇ってる。
それは結局750Turboが皆がイメージする”TURBO”を理屈抜きで実現させたバイクだからでしょう。
※ターボについては「バイク豆知識:夢のダウンサイジングターボ」もどうぞ。
主要諸元
全長/幅/高 | 2220/740/1260mm |
シート高 | 780mm |
車軸距離 | 1490mm |
車体重量 | 233kg(乾) |
燃料消費率 | – |
燃料容量 | 17.0L |
エンジン | 水冷4サイクルDOHC4気筒 |
総排気量 | 738cc |
最高出力 | 112ps/9000rpm |
最高トルク | 10.1kg-m/6500rpm |
変速機 | 常時噛合式5速リターン |
タイヤサイズ | 前110/90V18 後130/80V18 |
バッテリー | SYB14L-A2 |
プラグ | BR9EV |
推奨オイル | カワサキ純正オイル または MA適合品SAE10W-40から20W-50 |
オイル容量 | 全容量3.5L |
スプロケ | 前15|後46 |
チェーン | サイズ630|リンク98 |
車体価格 | – |
こんにちは
いつもものすごくわかりやすく楽しい解説
ありがとうございます!
感動ものです。
kawasakiバンザイ!!
Kawasaki 750TURBOはキャブではなく、インジェクションで、配線1本着ればレースモード(というかコンバットモード)になって、とんでもないパワーを出す…という…。