打倒2ストのブースト CX500TURBO(PC03) CX650TURBO(RC16) -since 1981-

CX500ターボ

「THE AWAKENING」

ホンダのターボバイクとして有名なCX500TURBO/PC03型。

ホンダのターボバイク

ホンダ初であり量販車初でもあるターボなんですが、そもそも何故にターボなのかというと日米貿易摩擦により700cc以上のバイクが輸入出来なくなることやターボブームが巻き起こった事が背景にあります・・・が、一番大きかったのはご存知『HY戦争』だったから。

HY戦争についてはこちらで説明しているので省きますが、エンジン設計の松田さん曰く

「一発かましてやろう」

と考え、それに相応しいと選ばれたのが自然吸気に取って代わる革新的技術と言われていたターボでした。

ベースとなっているのは元祖シルバーウィングことCX500(和名GL500)というバイクなんですが、これも色々と凄いのでちょっと紹介。

CX500カタログ

何が凄いって見て分かるようにエンジン。

OHVであることや縦に積んでる事が凄いわけじゃありませんよ・・・シリンダーを22°も捻っている事が凄いんです。

CX500エンジン

シリンダーヘッドをもってグニッっと捻った様な形をしている。

なんでこんな事をしているのかというと、Vツインを縦置きにするとシリンダーが飛び出るから。シリンダーが飛び出るという事は吸気系から見ると入り口(吸気ポート)が外に逃げる形になるわけですね。

縦置きの吸気

そうなると吸気ラインも合わせて外側に大きく曲げる必要があるから非常に邪魔だし何より効率が良くない。

「だったらエンジン(ポート)をキャブの方に向けてやればいい」

22°ツイスト

というのがこの22°ツイストの狙い。

これによって吸気系がストレート構造になりパワーを稼ぐ事が出来たというわけ。

CX500エンジンヘッド

GLという名前からユッタリツアラーというイメージを持ってしまいがちなんですが、このGL500はかなりショートストロークのスポーツバイクなんです。

そんなバイクとエンジンがターボ計画のベースに選ばれたという話・・・でやっと本題。

PC03

「ずいぶんと色物エンジンを選んだな」

と思うわけですが、これは当時ミドルクラスの水冷エンジンがこれしかなかった事とエンジン担当の松田さんが

「普通に直四で造っても面白くない」

と考えたから。(別モNo415)

一発かますために敢えて色物エンジンを選んだ意味合いも強いんですね。

CX500TURBOディティール

ただ実はこの縦置きVツインはターボとの相性が悪いエンジンというわけでもない。

というのもターボというのはザックリいうと排気をいち早く集めて(集合させて)タービンにぶつける必要があるからです。

そうなった時に縦置きVツインというのは排気ポートが両方とも同じ方向、前を向いているので並列二気筒並に集合させやすく、直列四気筒の様に排気が詰まる心配もない。

エンジン

更にはVバンクでセンターが空くのでそこにレゾナンスチャンバー(吸気を旋律してタービンを保護する調整箱)を置くことが出来る。

つまり実は結構相性が良いエンジンだったりするわけです。

CX500TC

ただ何度も言いますがターボも、そしてそれをVツインに積むというのも前例のない事だったので何もかもが未知の世界で案の定開発は非常に難航。

ターボ本体はターボの老舗であるIHIにお願いしたものの

「こんな小さなターボ簡単には造れない」

と愚痴られ、燃料制御もターボを完全にコントロールするためキャブではなくEFI(FIの前身)を新たに開発することに。

CFI図

エンジン回転数に応じてブースト圧による制御とスロットル開度による制御の二つのマップ制御という現代的なデジタル制御。

80年代でここまでの制御をするのは車でも早々ないオーパーツ状態。

そのため制御コンピューターも幕の内弁当かと思うほどのサイズにまで大型化し、やむなくリアシート下(写真左端)に。

CFIシステム

そしていざ実験なんですが同じくエンジン担当だった加藤さん曰く

「とにかく過給すればするだけ良いと思ってた」

と言うだけあって初期段階ではON/OFFが落差が激しいロケットの様なドッカン加速で乗れたものではなく、更にはターボによる熱とパワーでミッション壊れるわ、クランクカバーが割れるわ、ピストンに穴が空くわと散々な状態。

CX500TURBOサイドビュー

洗礼とも言える課題の数々。

エキパイの熱膨張に負けてVバンク角が広がったりもしたんだとか。

そこから一つ一つ潰し何もよりも

『リニアリティーにすること』

を最重要項目に据えて開発。

CX500TURBO性能曲線

そうして完成したCX500TURBOは4000rpmで最大ブースト圧になり、低回転域において上のクラスに勝る馬力を誇る現代のダウンサイジングターボの先駆けの様な特性に。

更に1983年に早くもCX650TURBOへモデルチェンジ。

CX650TC

排気量こそ上がっているもののモデルチェンジの狙いはターボによる速さの追求ではなくリニアリティーを更に追求した形で、レゾナンスチャンバーの撤去やカウルのABS樹脂化など軽量化も行われました。

ここら辺にターボの難しさというか苦労が現れていますね。

CX650TCカタログ写真

夢じゃないダウンサイジングターボバイクでも話したと思うんですが、排気が動力源である以上ターボラグは勿論なんですが

『ターボ化によるワンクラス上の性能』

というのは同時に

『ワンクラス上の熱と負荷が掛かる』

というわけで、それに耐えうる車体にするために各部の補強が必須となる。

そうなると結果としてタービンの重さも相まってクラスとしては非常に重いバイクに、更には車体価格が高いバイクになってしまう。

それはこのCX500TURBOも例外ではなくGL500に対して車重は+20kgの239kg、そして車体価格に至っては約二倍となる$4,898にもなった。

CX650TURBOディティール

言い忘れていましたが結局このバイク(というかターボバイク)は国からお許しがもらえず正規販売出来ませんでした。

「車が許されたからバイクも許されるだろう」

と思ってたんですが、その思惑が外れてしまったんですね。

それらの要因があったことでCX500TURBOとCX650TURBOは合わせても世界で7,000台程度しか売れず。

CX500TURBOパンフレット

メカニズム面では非常に面白かったものの、セールス面では成功とは言い難いものでした。

これにてホンダのターボバイクは終りを迎えたんですが、ホンダとしてはもっとターボを展開していくつもりだった節があります。

それを示すのがCX500TURBOに少し遅れる形で、CX500TURBOチームが市販認可を目指していた中で開発されていた打倒2stで有名なVT250Fのターボコンセプト。

VT250Fターボ

VTチームが開発していたモデルで見て分かる様にもうほぼ完成の域。

軽自動車と同じ様に250ccという排気量制約においてターボは非常に有用ですし何より

「4stで2stに勝つ」

というホンダの信念を成し遂げるのに『ターボ』という新しいシステムは非常に魅力的かつ強力な武器だったという事でしょう。

ちなみに

「4stで2stに勝つ」

を体現したバイクとして有名なバイクはもう一つありますよね。

NRシリーズ

2stしか居ない世界レースに飛び込んだ楕円ピストンでお馴染みレーサーのNRですね。

この信念は市販車だけの話ではなくレースでも同じ。

という事は・・・そうなんです。レーサーでもターボモデルが開発されていたんです。

NRターボ

『V型二気筒ツインターボ楕円ピストンエンジン』

NRチームが開発していたレース用の250ccターボエンジン。

NRがそうだったように小排気量で試し、やがて500や750に・・・という算段だったのかは定かではありませんが、これもレースのレギュレーションで過給が禁止された事でお蔵入り。ここでホンダのターボ構想は完全に止まりました。

CX650TURBOカタログ写真

VTチーム、NRチーム、そして唯一市販化にこぎつけたCXチーム。

全く別々のチームがみな揃ってターボモデルを開発していたのは一重にターボが

「4stで2stに勝つ」

という打倒2stの信念が実現させる強い武器になると考えたから、厳しすぎて折れそうになる信念を支えてくれる存在に思えたからでしょう。

CX500TURBOカタログ写真

もしもこのバイクが成功していたら、もしもターボが許されていたら打倒2stの象徴はターボになっていたかもしれない。

主要諸元
全長/幅/高 2260/720/1345mm
[2240/740/1368]
シート高 790mm
車軸距離 1496mm
[1495mm]
車体重量 239kg(乾)
235kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 20L
エンジン 水冷4ストロークOHV二気筒
総排気量 496cc
[674cc]
最高出力 82ps/8000rpm
[100ps/8000rpm]
最高トルク 7.8kg-m/4500-7500rpm
[9.5kg-m/4500-6500rpm]
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前3.50-V18
後120/90-V17
[前100/90-V18
後120/90-V17]
バッテリー 12V-14Ah
プラグ DPR7EV-9/DPR8EV-9(標準)/DPR9EV-9
または
X22EPR-GU9/X24EPR-GU9(標準)/X27EPR-GU9/
推奨オイル
オイル容量 全容量3.5L
スプロケ
チェーン
車体価格
※国内正規販売なしのため
※[]内はCX650T
系譜の外側
DN-01

拒絶された渾身のATスポーツクルーザー
DN-01
(RC55)

gts1000

悪いのは人か技術か
GTS1000/A
(4BH/4FE)

750カタナ

カタナと名乗れなかったカタナ
GSX750S
(GS75X)

ザンザス

Zの亡霊と戦ったZ
XANTHUS
(ZR400D)

CBX400カスタム

30年経ってCBXと認められたアメリカン
CBX400CUSTOM
(NC11)

BT1100

イタリア魂が生んだもう一つのMT
BT1100 BULLDOG
(5JN)

GSX1300BK

本当の怪物は誰も求めていなかった
GSX1300BK B-KING
(GX71A)

ZR750F/H

死せるザッパー生ける仲間を走らす
ZR-7/S
(ZR750F/H)

ホンダCBX1000

大きすぎた赤い夢
CBX1000
(CB1/SC03/06)

GX750/XS750

ブランドは1台にしてならず
GX750
(1J7)

スズキGAG

SUZUKIのZUZUKI
GAG
(LA41A)

Z1300

独走のレジェンダリー6
Z1300/KZ1300
(KZ1300A/B/ZG1300A)

NM-4

アキラバイクという非常識
NM4-01/02
(RC82)

FZX750

大きな親切 大きなお世話
FZX750
(2AK/3XF)

GSX1400

踏みにじられたプライド
GSX1400
(GY71A)

750Turbo

タブーを犯したターボ
750Turbo
(ZX750E)

NR750

無冠のレーシングスピリット
NR
(RC40)

TRX850

現代パラツインスポーツのパイオニア
TRX850
(4NX)

GS1200SS

嘲笑される伝説
GS1200SS
(GV78A)

ゼファー1100

ZEPHYRがZEPHYRに
ZEPHYR1100/RS
(ZR1100A/B)

NS400R

狂った時代が生んだ不幸
NS400R
(NC19)

RZV500R

手負いの獅子の恐ろしさ
RZV500R
(51X/1GG)

RG500Γ

チャンピオンの重み
RG500/400Γ
(HM31A~B/HK31A)

AV50

なぜなにカワサキ
AV50
(AV050A)

ドリーム50

五十路の夢
DREAM50
(AC15)

フォーゲル

楽し危なし
POCKE/VOGEL
(4U1/7)

ストリートマジック

シンデレラスクーター
TR-50/TR-110
(CA1L/CF12)

Z750ツイン

鼓動と振動
Z750TWIN
(KZ750B)

フォルツァ125

市民権の象徴
FORZA125
(JF60)

SRX4/6

決して多くない人たちへ
SRX-6/SRX-4
(1JK/1JL~)

DR-Z400SM

最初で最後のフルスペック
DR-Z400S/SM
(SK43A/SK44A)

ZX-7R/RR

問題児レーサー
ZX-7R/RR
(ZX750P/N)

RC213V-S

2190万円の妥協と志向
RC213V-S
(SC75)

YZF-R7

7と1でWE/R1
YZF-R7
(5FL)

バーグマンFCS

エコの裏で蠢くエゴ
BURGMAN FCS
(DR11A)

エリミネーター750/900

名は体を現す
ELIMINATOR750/900
(ZL750A/ZL900A)

モトコンポ

こう見えて宗一郎のお墨付き
MOTOCOMPO
(AB12)

TDR250

聖地突貫ダブルレプリカ
TDR250
(2YK)

グース

決めつけられたシングルの正解
Goose250/350
(NJ46A/NK42A)

Z650

小さく見えるか大きく見えるか
Z650
(KZ650B)

X4

単気筒
X4
(SC38)

SDR200

軽く見られた軽いやつ
SDR
(2TV)

チョイノリ

59,800円に込められた思い
choinori
(CZ41A)

ゼファー750

復刻ではなく集大成
ZEPHYR750/RS
(ZR750C/D)

PS250

モトラリピート
PS250
(MF09)

DT-1

冒険という感動創造
トレール250DT1
(214/233)

Vストローム250

二度ある事は三度ある
V-STROM250
(DS11A)

エリミネーター250

周期再び
ELIMINATOR250/SE/LX
(EL250B/A/C)

CX500ターボ

打倒2ストのブースト
CX500/650TURBO
(PC03/RC16)

YA-1

原点進行形
YAMAHA125
(YA-1)

rf400r

RでもFでもない
RF400R/RV
(GK78A)

250-A1

半世紀を迎えた吉凶のライムグリーン
250-A1/SAMURAI

Vツインマグナ

氷河期 of Liberty
V-TWIN MAGNA(MC29)

TDR50

RALLYってしまった原付
TDR50/80(3FY/3GA)

SW-1

オシャレは我慢
SW-1(NJ45A)

ボイジャー1200

可愛い娘は旅をせよ
Voyger XII
(ZG1200A/B)

WING

Twist and Shaft
WING
(GL400/GL500)

ビーノ

その愛嬌は天然か計算か
VINO
(SA10J/SA26J/SA37J/SA54J/AY02)

DRビッグ

爪痕を残し飛び去った怪鳥
DR750S/DR800S
(SK43A/SR43A)

テンガイ

愛おぼえていますか
Tengai
(KL650B)

CB92

雪辱のSSその名はシービー
CB92

XT400E

本当の名前は
ARTESIA
(4DW)

ジェベル250

ツールドジェベル
DJEBEL250/XC/GPS
(SJ44A/SJ45A)

KV75

混ぜるなキケン
75MT/KV75
(KV075A)

ダックス

泥遊びなら任せろ
DAX
(ST50/ST70/AB26)

ランツァ

単槍匹馬のラストDT
LANZA
(4TP)

GT750

水牛であり闘牛である
GT750
(GT750J~N)

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