「ライヴに遊べるトラバイ(Trunk Bike)」
モトコというアダ名で根強く親しまれ再び人気急上昇中のような気がする全長わずか1185mm、車重も装備重量で45kgしかない原付一種のモトコンポ/AB12型。
こうやってカブやモンキー50と並べてみるとモトコンポが如何に小さく、また背が低いかが分かりますね。
何故これほど小さいのかというと
「シティ(車)に積めるバイク」
というのがコンセプトだった事にあります。
キッカケは後に『HY戦争』と呼ばれるようになった原付を中心に巻き起こっていたホンダとヤマハの常軌を逸したシェア争い。
そこで
「車を買う人に原付も買ってもらって台数を稼ごう」
という算段だったわけです。
ただ少し驚きだったのはモトコンポの開発を要請したのがHY戦争の陣頭指揮を取っていた二代目ホンダ社長の河島さん、つまり社長勅命プロジェクトだったということ。
もしかしたら河島さんは70年代に行われていた『ホンダアイディアコンテスト』を覚えていたのかもしれないですね。
これはホンダの若手技術者が枠にとらわれず自分のアイディアを形にしてプレゼンする大会。
そしてそこで出された一つが『携帯用オートバイ』という作品。
どう見てもモトコンポですね。
しかも実はこの『携帯用オートバイ』はその斬新さから社長賞つまり本田宗一郎賞を取っています。
それから10年、まるで掘り起こされる様な形で市販化となったという話。モトコンポが宗一郎のお墨付きというのはこの事から。
ただしこれには少し問題がありました。
というのも社長の勅命が下った時、もう既にシティは完成しており約半年後に控えた発売日を待つ状態だった。そんな差し迫った状況からモトコンポの開発は始まったんです。
しかも開発メンバーは僅か4人で突貫工事のようなスケジュール。メンバーの一人だったデザイナーの小泉さんいわく
『箱』
というデザインコンセプトのもとスケッチをサクッと終わらせ、クレイモデル(検討/修正するモデル)をすっ飛ばしていきなりモックアップモデル(見本的なモデル)を造って開発開始。
設計も実質2人だけだったにも関わらずモックを忠実に再現しつつガソリンが溢れないように完全密閉タンクや逆止弁、そして折り畳み格納ハンドルなどでシティに積めるよう随所に創意工夫。
そのため意外と知られていないんですがモトコンポは横積みも出来るようになっています。
シティに積むことを考えただけあってスッポリ収まる絶妙な固定ですね。ちなみにシティの荷台の幅は1270mmです。
ではこの圧倒的なコンパクトさをどうやって実現させているのかというと中身はこうなっています。
牛の部位紹介みたいになっていますが、中でも注目してほしいのはメインフレーム(黒い横線)の上と下の境目。
パワーユニットを全てメインフレームの水平ラインより下に配置しているのが分かると思います。これがモトコンポ一番の特徴。
モトコンポはシティに積める事が絶対条件だったんですが、加えて開発チームが絶対に実現させたかったのが
「上面を平らに出来るようにする事」
でした。
そのためにこうやって下に全て詰めてハンドルやシートを収納出来るスペースを確保したわけですが、何故そこにこだわったのかというともちろん
「箱感を出すため」
です。
これが可能だったのは河島社長から出された勅命が
「シティに積めるバイクを造れ」
という条件”だけ”でコストについての言及が無かったから。
だからパワーユニットこそ開発が間に合わない事からロードパルから流用したものの、そのぶん車体回りへのコストをあまり気にせず箱にする事だけを考えて造ることが出来た。
ベースであるロードパルより1万円以上高い8万円という車体価格になったのはこれが理由。
加えて生産が大変だった事もあります。モトコンポの生産が始まると生産工場から
「なんてものを造ってくれたんだ」
とクレームが入ってきたんだそう。
これは車体全体を箱にするためプラスチックでキッチリ覆ったことで気温の変化による歪みから組み付けが難しくなってしまったから。
加えてシティに合わせて豊富なカラーリングも用意と、実は結構バブリーというか大変なモデル。
デザイナーだった小泉さんも
「本当はこれ8万円で売るようなバイクじゃないんですよ」
と仰っています。※Honda Designより
そんなモトコンポですが市場でどうだったのかというと81年から85年までに約5万台売れました。
5万台と聞くと凄い数字と感じるかも知れませんが当時としてはそうでもない数字。タクトなんかは単年で18万台でした。
そもそもモトコンポはシティのオマケ的な立ち位置で、バイク層からすると一部のマニア向けだったことを考えると大健闘とも言えますが。
ちなみにバイクマニアとして有名な漫画家の藤島さんが『逮捕しちゃうぞ』に登場させた事で人気が出たのですが、これは86年の漫画でモトコンポは既に生産終了してたっていう・・・アニメに至ってはもっと後の事。
原付層(当時で言えばファミリーバイク層)にウケなかった理由としては
「ファミリーバイクとしては少し厳しかったから」
といえるかと思います。
まず一つ目としてパワーユニットがせいぜい40km/hがやっとな変速機のない2.5馬力という既に旧世代エンジンだった事に加えガソリンタンクも2.2Lしか入らず航続距離は50km未満だった事。
そしてもう一つは車に積むというコンセプトに少し無理があった事です。
皆さんモトコンポを車に積んで走っている人を見たことがあるでしょうか・・・恐らく無い人が大半かと思います。これが何故かというと車内が臭くなるからです。
これは蒸発ガソリンの大気放出が禁止となった2018年以前のバイク全てに言えることでモトコンポに限った話ではないんですが、車に積むとガソリンを積んでいる以上どうしても蒸発するガソリンが漏れ出てしまう。
つまり手軽に積めて邪魔にもならないけど、そうするとずっと車内がガソリン臭くなってしまうんですね。買ったはいいものの車に積まず庭やガレージに置きっぱなしにする人が多かったのもこれが理由。
要するにモトコンポは毎日の下駄的な使い方も、そして車に積んで現地で乗るという用途も少し難しい面があったから広く受け入れられる事がなかった。
でもこれはあくまでもモトコンポを当時の下駄車として見た場合。
大衆の下駄車が原付から軽自動車に変わったいま改めてモトコンポを見ると、平面主体のプラ外装だから思い思いにデコったり着せ替えたり出来るし、走りがダメだからこそチューニングやカスタムのやりがいもある。
『盆栽4mini』
として高いポテンシャルを持っている事に改めて気付き、また実際に行動に移す人が急増しているから人気が出ている。
まあただこれは4mini沼にハマったマニアにおける話。
モトコンポが他と違って広く愛される最大の魅力はもう本当に見たまんま。
「バイクっぽくない」
という事からでしょう。
だからこそバイクに詳しくない人でも乗ったり弄ったり、そして飾ったり眺めたりする事に抵抗が生まれない。それが幅広い人気に繋がっている。
「必死に箱に擬態してる小さいやつ」
そんな愛らしい佇まいが多くの人を惹き付けるモトコンポの魅力ではないかと。
主要諸元
全長/幅/高 | 1185/535/910mm |
シート高 | – |
車軸距離 | 830mm |
車体重量 | 45kg(装) |
燃料消費率 | 70.0km/L ※定地走行テスト値 |
燃料容量 | 2.2L |
エンジン | 空冷2サイクル単気筒 |
総排気量 | 49cc |
最高出力 | 2.5ps/5000rpm |
最高トルク | 0.38kg-m/4500rpm |
変速機 | 自動遠心クラッチ |
タイヤサイズ | 前後2.50-8-4PR |
バッテリー | 6V-4Ah |
プラグ | BP2HS/BP4HS(標準)/BP5HS または W9FP-L/W14FP-L(標準)/W16FP |
推奨オイル | ホンダウルトラ2スーパー |
オイル容量 | 1.0L |
スプロケ | – |
チェーン | – |
車体価格 | 80,000円(税別) |