「気軽に気ままに、自由自在。」
ホンダが1969年に発売した特徴的な原付であり、1970年代レジャーバイクブームの火付け役でもあるDAX/ST50Z。
名前の由来は細長い胴回りが特徴のダックスフンドというドイツの犬から。
だからダックスって説明は言うまでもないと思いますが細かいことを言うと正確には
『ダックスホンダ』
といって名前も微妙に掛かったものになっています。
あと意外と知られていないんですがダックスはハンドル分離機能も備えていました。
HONDA1300(を始めとした車)に載せる事が出来ますと当時のカタログでもアピール。
「なにこれモンキーと一緒じゃん」
という話ですが、それもそのはずDAXは約2年前に出て(主に海外で)思わぬヒットを飛ばしたモンキーに続けと開発された第二弾なんですね。
ただダックスの場合この取り外し機構が無いバージョンを始め多彩なモデル展開&併売していた歴史があり、語る上でも欠かせない要素なので最初にザックリですが歴代の系譜をご紹介しようと思います。
【1969年】
ST50Z/ST70Z
(通称I型)
フロント取り外し機能を持ったダックスの初代モデル。
・大きなフェンダー(通称カブトフェンダー)
・モナカマフラー(通称ツチノコマフラー)
・HONDAの立体エンブレム
が特徴。
【1969年】
ST50EX・Z/70EX・Z
ST50EX/70EX
(通称II型)
初代の半年後に追加で登場したスクランブラー(エクスポート)スタイルのダックス。
・アップフェンダー
・アップマフラー
・プリントエンブレム
を採用しているのが特徴。
恐らく多くの人が思い浮かべるであろうダックスのスタイルはこれじゃないかと思います。ちなみに末尾にZが付くEX・Zはフロント取り外し機構付きで、付かないEXはそれをオミットしたモデル。
※これをIII型としている場合もある
【1970年】
ST50T/ST70T
(通称III型)
ハンドル非分離のエキスポートモデルEXをベースにしたトレール版ダックス。
・4速MT
・タイヤサイズを3.50から4.00に変更
・ブロックタイヤの採用
・リアキャリアを標準装備
・バー付きアップハンドル
・ブラックアップマフラー
・フレームエンブレムをDaxに変更
などの変更が施された初のマニュアルクラッチモデル。一年足らずしか併売されず公式にも載ってない界隈では有名な幻のダックス。
【1971年】
ST50SPORT-I/ST70SPORT-I(通称IV型)
上記トレールモデルの後継(別称)に当たるモデルで
・ハンドルロックの機能
・ウィンカーの変更
などの変更が加えられたスポーツ版モデル。
【1972年】
ST50SPORT-II/ST70SPORT-II(通称V型)
SPORT-Iをベースに
・オイルダンパー式フロントフォーク
・エンジンガード
・別体式スピードメーター
を装備した上位版スポーツモデル。
1976年:ST50/ST70(通称VI型またはVII型)
ノーマルモデルであるI型の実質的な後継(マイナーチェンジ)になるVI型とVII型。
・可変式フェンダー
・スクランブラースタイル
・エンジンプロテクター
・油圧フロントフォーク
などエキスポートに対してメッキが控えられている分、キャリアやガードなどのオプションパーツを装備しているのが特徴。
ノーマル版のVI型が自動遠心クラッチの三速仕様で、VII型がマニュアル四速仕様でした。
ここまでが第一世代DAXなんですが、混乱している人も多いと思うので端的に纏めると
『ノーマル(自動遠心3速、後に4速も登場)』
『エクスポート(スクランブラー)』
『スポーツ1(ハンドル非分離のスポーツ)』
『スポーツ2(スポーツ1の上位グレード)』
という大きく分けて4バリエーション展開を行なっていました。
ちなみにシリーズの中で人気だったのが一番左のホワイトダックスというやつで、これは1971年からのエキスポートモデルとスポーツモデルに用意された花柄シートなどが特徴のスペシャルカラーバージョン。
公式カタログいわく『フランス仕込み』なんだとか何とか。※上の写真は海外仕様
【1979年】
ST50M/C(通称M型またはC型)
70が廃止され50のみになった第二世代ダックス。
・段付きシート
・プルバックハンドル
・ロングストロークフォーク
・メガホンマフラー
・透過式メーター
・DAXロゴを変更
などなど大幅な改良でアメリカンスタイルなのが特徴。人によってはコッチのほうがピンとくるかもしれないですね。
M型はマニュアル四速の正立フォーク、C型は自動遠心クラッチ三速の倒立フォークとなっています。
【1981年】
ST50M/Cの販売終了
【1995年】
ダックス(通称AB26型)
再販を望む声に応える形で14年ぶりに復活した初代デザインの第3世代ダックス。
・名前をダックスホンダからホンダダックスに変更
・MFバッテリー
・12V/CDIマグネット点火
など電装系の現代化が行われているのが主な特徴。
フレームから何から変わっており実質的に歴代とは全く別物なものの、見た目も寸法も限りなく近づけており復刻魂を感じるモデル。ミッションは自動遠心クラッチの三速リターン式のみ。
【1999年】
ホンダダックスの販売終了
だいぶ飛ばし気味に書きましたがこれが大まかですがダックスの系譜()になっています。※マイティとノーティを除く
「ダックスってこんなに歴史と系譜があったんだな」
と思ってもらえたなら幸いなんですが、もう一つダックスについてどうしても知ってほしい事があるので書いていきます。
そもそもなんでこんないっぱいバリエーションが出たのかというと
「国内のみならず世界中で大ヒットしたから」
というのがあります。
ダックスは日本だけではなく欧米にも50と70が主に輸出され、特に70の方が絶大な人気を獲得しました。
そのおかげで第一世代(約10年)だけで累計72万台という驚異的な生産台数を記録する事になった。
この人気は現在進行系で国内外問わず今でも非公開ファンクラブやミーティングがあるほど人気のミニバイクなんですが
「じゃあダックスの何がそんなにウケたのか」
という話をすると既存のバイクとは、それこそ先輩であるモンキーとも決定的に違う部分があったから・・・それが何処か分かりますか。
正解はガソリンタンク。バイクの顔と呼ばれる部分をダックスは持っていなかったんです。
これはガソリンタンクをフレームに被せるのではなく、フレームの中に隠すという通常とは真逆の思い切ったレイアウトによるもの。
「そんな勿体ぶって言うほどの事か」
とお思いかもしれませんが後に出てくるライバル勢を見てもこの要素が非常に重要なのは明白。バイク乗りからするとなかなか理解できない話なんですが、バイクにそれほど高い関心といいますか見慣れていない人にとってタンクは邪魔な異物でしかなくそれが躊躇や窮屈さを生むという話。
こうやってモンキーと並んでいる姿を見ると志向の違いが分かりやすいですね。
小さいサイズでバイクっぽい雰囲気を出してマニアを唸らせたモンキーに対し、ダックスは小さいサイズでバイクっぽさを消した。どちらかというと小径ホイールの折りたたみ自転車に近い雰囲気を出して既存とは違う層を唸らせた。
だからモンキーという存在が居るにも関わらず成功し共存することが出来たという話。
犬猿の仲ならぬ犬猿のデザインといったところですかね。
ちなみにこれは上のコンセプトデザインはもちろん検討段階のデザイン案などを見ても最初からそれを狙ってた意図が伝わってくる。
どれもこれもガソリンタンクが何処にあるのか分からないバイク乗りからすると違和感すらあるデザインばかり。
これがダックスの肝であり知って欲しかった事・・・じゃない。
やっぱりダックスっていうとどうしてもその愛くるしいデザインの話題になりがちなんですが、個人的にダックスについて本当に知って欲しい事というか本当に偉大な事は別にある。
現代においてダックスというと有り余ったスペースに物を言わせてカスタムする4miniの代表格というイメージを持たれている人が多いと思います。
実際そういうカスタムに最初に火を付けたのもダックス。理由は横型エンジンながら70モデルが登場した事にあります。
・72ccのピストン&シリンダー
・4速ミッション
・大径バルブヘッド
・二枚クラッチ
などなど70という名の純正強化横型エンジン。
これはモンキーやダックスなどの横型50cc乗りにとって見ればほぼ入れ替えるだけで耐久性を犠牲にすることなく大幅強化になるキットパーツみたいなもの。使わない手は無いですよね。
実際そういうカスタムが流行し、これが4miniカスタムという文化の始まりになったという話。
でもですね一番紹介したい事、ダックスがどう人気だったかっていうのは別にあります。
「多くの人が思い浮かべるダックスはこれ」
と最初に書いた系譜でスクランブラースタイルのエクスポートを紹介した通り、ダックスはスクランブラースタイルが人気だった・・・その理由は
『庶民派レジャー原付』
と評判だったからです。
DAXが出た1970年頃は高度経済成長末期。国民がどんどん豊かになった事でレジャー産業の需要が強くなっていました。
ツーリングというバイク乗りなら誰もが知る移動を楽しむ文化が国内で根付いたのもこの頃。これは道路の舗装がバンバン進んでいた事も関係しています。
とはいえコンクリートやアスファルトでバッチリ舗装された道路というのは都市部の幹線道路くらいで全国の舗装率は国道を含めても僅か15%程度の時代。
だから少し道を外れたら砂利道やあぜ道や草道がそこら中に広がっていた。
そういう背景があったからホンダで言えばCLシリーズのようにトレールバイクの前身ともいえる
『スクランブラータイプ(未舗装路も走れるオンロードバイク)』
がこの頃は人気カテゴリだったんですがそんな中で出てきたのが
・ノーヘルで乗れた原付
・ミニバイクらしく車重は60kgちょっとで足ベタベタ
・カブエンジンで燃費も馬力も十分
・前後にサスペンションが付いている
・サイズの割に車軸距離が長く挙動が穏やか
・10インチながらブロックタイヤ装備
というスクランブラー要素をそれなりに兼ね添えた形のダックス。
つまり当時のダックスっていうのはオシャレな原付という意味も勿論あったんだけどそれと同時に
『スクランブラーの超々エントリーモデル』
という存在でもあったんです。
もちろんオフロード性能は決して高いわけじゃない。でも軽くて小さくて上のクラスに比べれば安い原付だったから多少の無理も無茶も笑ってやり過ごせる”ゆとり”みたいなものを持っていた。
だから当時多くの若者がダックスで土手を無駄に登り下りしてひっくり返ったり、砂地でズリズリやって転けたり、段差を飛んで強打したり、農道でスタックして泥だらけになったりする
『高度経済成長期らしい庶民派バイクレジャー』
を楽しんでいたんです。
これがダックスの本当に知ってほしい事であり本当に偉大なこと。
ダックスっていうのはお金がない多くの若者にオフロードというツーリングとはまた違う走る楽しさを手軽さと気軽さを武器に教え広めたバイクでもあるんです。
1970年代後半から起こったオフロード(トレッキング)ブームは間違いなくこのダックスが、ダックスでオフロードの楽しさを知った若者のステップアップが絡んでる。
走って転けて泥をかぶるミニトレールの草分け的な存在として多くの若者に重宝されたのがダックス。
ダックスフンドが本来は狩猟犬だったように、ダックスホンダもただの愛玩として生まれ人気犬になったわけじゃないんですね。
主要諸元
全長/幅/高 |
1510/580/960mm {1610/705/1005mm} <1510/590/980mm> |
シート高 |
– |
車軸距離 |
1035mm {1085mm} <1045mm> |
車体重量 |
64kg(乾) {73kg(乾)} <75kg(乾)> |
燃料消費率 |
90.0km/L <80.0km/L> ※定地テスト値 |
燃料容量 |
2.5L |
エンジン |
空冷4サイクルOHC単気筒 |
総排気量 |
49cc [72cc] {49cc} <49cc> |
最高出力 |
4.5ps/9000rpm [6.0ps/9000rpm] {4.1ps/8000rpm} <2.6ps/7000rpm> |
最高トルク |
0.37kg-m/8000rpm [0.51kg-m/7000rpm] {0.37kg-m/6000rpm} <0.29kg-m/4500rpm> |
変速機 |
常時噛合式3速 {常時噛合式4速/3速} <常時噛合式3速> |
タイヤサイズ |
前後3.50-10-2RP {前後4.00-10-2RP} <前後3.50-10-51J> |
バッテリー |
6N2A-2C-3 [6N2-2A-8] <FT4L-BS> |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
C5HSA {C6HA} <CR6HSA> |
推奨オイル |
<ホンダ純正オイル ウルトラU> |
オイル容量 ※ゲージ確認を忘れずに |
全容量0.7L <全容量0.8L 交換時0.6L> |
スプロケ |
前15|後41 [前15|後38] <前15|後41> <前14|後40> |
チェーン |
サイズ420|リンク90 [サイズ420|リンク88] {サイズ420|リンク90} <サイズ420|リンク88> |
車体価格 |
66,000円(税別) [69,000円(税別)] {120,000円(税別)} <198,000円(税別)> ※スペックはST50Z ※[]内はST70Z ※{}内はST50M/C ※<>内はAB26 |
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