「The Pride」
ビッグネイキッドとしては最大となる1401ccの油冷エンジンを搭載して登場したGSX1400。
スズキは当時スポーツ性の高いバンディットというネイキッドはソコソコ好評だったものの、トラディショナルなスポーツネイキッドといえばオールド寄りなイナズマ1200だけで他社に大きく遅れをとっていた。そこで作られたのがGSX1400。
何を置いても語らないといけないのがやっぱり1401ccの油冷エンジン。
1985年のGSX-R750から続く伝統の油冷、Bandit1200に積まれていた物をベースに腰上を新設計とした最後の油冷エンジンです。
エンジンというのは排気量を上げれば上げるほどサイズが大きくなっていくのは分かると思いますが、特に幅は大きくなるほど人間工学的な扱い辛さが増します。
だからこのGSX1400もボアはシリンダーピッチをBandit1200のままでいけるギリギリに留め、ストローク量を長めに取ってるから幅は意外とコンパクト。そしてストローク量を多く取った事で12.8kg-m/5000rpmというオバケトルクにもなりました。
これらの事が出来たのは何を隠そうSACS(Suzuki Advanced Cooling System)つまり油冷システムだったからというのがあります。
そもそも油冷が生まれた理由は空冷の冷却性能に限界が来たから。今では水冷が当たり前ですが、油冷が生まれた頃には水冷も既にありました。
では何故スズキだけが水冷ではなく油冷を選んだのかというと、水冷は確かにエンジンを最も冷やせる(一定の温度に保てる)冷却システムです。ただしウォータージャケットといって熱を奪うクーラント(冷却水)が通る血管のような道をエンジンの動力部周辺に張り巡らせないといけない。
そうするとどうしてもウォータージャケット分だけエンジンが大きく重くなってしまう。
スズキはそれを嫌い
「潤滑オイルに冷却もさせればウォータージャケットが要らないから軽くコンパクトに出来る」
と油冷を選択したわけ。
そのかわりエンジンヘッドなど熱くなる部分にオイルを噴射する装置を付けたりしているわけですが、基本的には空冷エンジンと変わらないシンプルな構造だから軽くコンパクト。
つまりGSX1400のエンジンが1401ccなのに意外とコンパクトな事や、乾燥重量228kgという見た目に反した軽さを持っているのは油冷だからという点が大きい。
その代わりオイルの容量と負担が少し増えちゃう事と、基本が空冷と近い事もあって冷却フィンが必要になるわけですが、この冷却フィンもGSX1400が油冷エンジンとなった理由の一つ。
GSX1400は企画段階ではHAYABUSAの水冷エンジンを積む案もあったそうです。ただ水冷はご存知のように冷却フィンが必要なく、更にサイドカムチェーン(左右非対称)なので見た目がメカニカルで冷たい。それに対し油冷はセンターカムチェーンで左右対称、それに冷却フィンという温かい機能美もある。
それらの点を考えると油冷エンジンというのはビッグネイキッドと非常に相性が良い。
他にも二本出しマフラーとダブルクレードルフレームといったビッグネイキッドのツボは抑えつつもメジャーとは言い難かった時代にFI化し、ライダーのアクセル操作を演算し補助する二枚目の隠れたバルブが付いたSDTVというスポーツモデル向けの最新装備も装着。
更には前後フルアジャスタブルサスや6potキャリパー、入念に練られた軽快なハンドリングなど、1400という排気量とそれ伴うオバケトルクが話題になるけどこういった先端スポーツ装備もしてるわけです・・・その中でも忘れてはならないのが当時クラス唯一だった6速ミッション。
ビッグネイキッドは基本的に下から上までトルクフルな上にギアチェンジによる疲労を軽減するためワイドな5速が当たり前。ましてGSX1400はクラストップのトルクなので普通なら6速なんて一番いらないバイク。
だから開発段階では逆に4速も検討されたんだけど、それでは走りを楽しむスポーツ性が犠牲になるとしてオバケトルクの美味しい部分を常に使って走れるようクロス気味の5速と巡航用オーバードライブの6速という変則6速に決定。
上で説明したデュアルスロットルバルブのSDTVもそうですがGSX1400がスポーツ性を捨てなかったのは
「峠でSSに勝てるビッグネイキッド」
という目標があったから。だからこその6速化。
他にも一軸二次バランサーを装着しエンジンの一部をリジットマウントにすることでダブルクレードルながらフレーム剛性を上げるような事もしています。
最大排気量ネイキッドという事からモッサリしたイメージが湧きがちだけど、ビッグネイキッド然としていながらも当時のスポーツバイクの装備を数多く装備しGSXを名乗るためのスポーツを詰め込んでいるんです。
そして熱い思いを込めていたのは開発側だけでなく営業側もそう。
GSX1400は初年度販売目標台数10000台とかなり強気な目標を掲げていました。他にもモーターショーや事業報告書でも表紙に選ばれるほどの熱の入れよう。
翌2003年には欧州でも売るために(盗難保険の兼ね合いから)イモビを装備、更に2005年にはマイナーチェンジでマッピング見直しと一本出しマフラーに変更したことで-2kg。センタースタンドにも変更が加わっています。
しかしこの時、既に年間販売台数目標は初年度の1/10である1000台に・・・GSX1400はビッグネイキッドのツボをキッチリ抑えていて言うほど悪くなかったんですが、何が駄目だったのか考えた時
「スズキっぽさが見て取れない」
という点が大きいのかと思います。
バンディットはちょっと癖のあるフレームやモノサスだから見間違える事はないけど、GSX1400は他所の物と見間違えても不思議じゃないくらい典型的なビッグネイキッドの形。
となるとGSX1400のアピールポイントは”油冷エンジン”だけになる。
スズキがHAYABUSAの水冷エンジンではなく、わざわざ新たに作り直した油冷エンジンを積んだのは”油冷エンジンで勝負できる”と考えたからでしょう。
常に過酷な使い方をされるレースエンジンという第一線は退いたものの、ロードスポーツのエンジンとしては(上で言った通り)メリットがあるし、1985年から絶えず続けてきた歴史もある。
「油冷エンジンにはそれだけの価値がある」
という自信とプライドがスズキにはあった・・・ただ結果はそうじゃなかった。スズキの思いとは裏腹に油冷に価値を見出す人はそれほど居なかった。
もしもGSX1400の油冷エンジンに付加価値を見出す人がもっと多かったら08年の排ガス規制後も続いていたでしょう。しかし市場はあまりにも残酷だった。
「油冷に付加価値は無い」
という現実をGSX1400でまざまざと見せつけられ1985年から続いたSACSという伝統(Pride)をスズキは捨てる決断をしたという事です。
主要諸元
全長/幅/高 | 2160/810/1140mm |
シート高 | 775mm |
車軸距離 | 1520mm |
車体重量 | 228kg(乾) [226kg(乾)] |
燃料消費率 | 28.0km/L ※定地走行テスト値 |
燃料容量 | 22.0L |
エンジン | 油冷4サイクルDOHC4気筒 |
総排気量 | 1401cc |
最高出力 | 100ps/6500rpm |
最高トルク | 12.8kg-m/5000rpm |
変速機 | 常時噛合式6速リターン |
タイヤサイズ | 前120/70ZR17(58W) 後190/50ZR17(73W) |
バッテリー | YTX14-BS |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
CR8EK |
推奨オイル | スズキ純正 エクスター |
オイル容量 ※ゲージ確認を忘れずに |
全容量5.7L 交換時4.2L フィルター交換時4.8L |
スプロケ | 前18|後41 |
チェーン | サイズ530|リンク116 |
車体価格 | 998,000円(税別) ※[]内は後期モデル |
GSFがアクセルで軽々離陸してたのに1400は1速で引っ張ってもウィリーしなかったツアラー設定。それ以外は本ページ前半の通り心をくすぐる完璧装備だった。だからFスプロケットを他車17丁流用して楽しんでました。
「スズキっぽさが見て取れない」的を得てるかと。(笑)10年以上前に1400を売却して以来バイクには乗っていないけど次もし何に乗るかと問えば、また1400でも。でも軽くしたいです。
バンデッド1200S、バンデッド1250Sに乗っていた目から見ると、一番大切なエンジンのデザインが単調、当時のW650やCB750、ゼファー、XJR1300と比較してエンジンの造形美がない。鋳造の鋳型から抜いて黒くしました!!って感じ。あとカラーリングセンスが・・SSじゃないんだからもうちょっとこう・・、最期はよくわからない巨大マフラー、もう少し頑張ろうで自分で踏み追ったちゃったプライドだろうに。
17年落ちのSEを2024年になって購入しました。今改めて眺めると、まさにオーソドックス、王道。油冷しか取り柄がない(取り柄かどうかもわからない)バイク。
しかしこれ以上のバイクらしい造形のバイクはありません。
20年前から美しく、20年後も美しい、この時代のネイキッドはそんなデザインだと思います。
売れてないから市場に出回る台数も少なく、20年後にさらに評価される幻の名車でしょう。
1401CCの4気筒油冷エンジンは乗ってアクセルを捻れば5感を刺激してくれます。これに乗ったら他では満足できないかもしれませんね。