開発コンセプト「Discovery of a New Concept」
記念すべき第一回として何が相応しいか考えた結果このDN-01が真っ先に思いつきました。
大型ATクルーザーという新しい楽しみ方の提供を狙って頭文字からDN-01。2008年という比較的まだ新しいけど既に忘れてる人が多いのではないでしょうか。
ちなみにこのバイクは2009年に生産終了という僅か二年足らずという短命さでした。
不人気さから言っても多分みんなこのバイクに興味が無いでしょう。何故ならATだから。
大型二輪というのは四輪のスポーツカー以上に嗜好性が強い乗り物。平成27年度の大型二輪の合格者は73,034人。そのうちAT限定を取った人は僅か116人。比率でいえば0.16%足らず。
自動車のようにAT免許取得者が増えれば変わってたかも知れない・・・と思いきやAT免許には
「ATかつ排気量が”650cc以下”の二輪車のみ」
という条件が付きます。そしてDN-01の排気量は….680cc。つまりAT免許では乗れないんですこのバイク。
大型MT二輪を免許を持つものだけが乗ることを許されるATスポーツ。一体どうしてホンダは680ccにしたのかといえば輸出仕様のNT700Vのエンジンがベースだったから。
いやでも少し排気量落としてもバチは当たらんでしょうに。
というかそもそも「クルーザー=空冷挟角の粘りのあるVツイン=ハーレー」という図式が出来上がっているのは日本に限らず欧米でもそうです。
そんな市場でヒュンヒュン回る高性能な水冷エンジンのクルーザーが認められなかったのは今に始まった事じゃないんですけどね。まあこれで空冷にしたら熱が凄いことになりそうだから無理なんだろうけど。
更にDN-01はスポーツバイクとして見た場合、ステップボードを見てもらえると分かる通りとてもスポーツ走行が出来るようには思えない。じゃあクルーザーとしてみた場合はどうかと言えばこう見えて収納スペースはほぼ無いので積載性が悪い。ローロングなデザインを優先したため防風性も悪い。
”スポーツもクルーズもデザインも”という欲張りな狙いが仇となって全体的にボヤけてしまい、結局ATという部分しか消費者には伝わらなかった。
ホンダもよっぽど推していたのか、仮面ライダーディケイドのバイクとしても売り込んでいました。CMなどもバンバン打ってました。終いには鈴鹿8耐で一台プレゼントするまでに。
それでもやはり効果が無かったのか初年度の販売台数見込みが3000台だったのに対し、次年度はその十分の一となる300台あまり。
DN-01は色物ATクルーザーと片付けて仕舞えばそれまでだし、既存のバイクとは一線を画したコンセプトとして出た時と全く変わらないデザインが一番の武器である事は間違いないんだろうけど、それらに興味のない人、ピンと来なかった人の為に少しだけこのバイクを掘り下げるとしたらやっぱりミッション。
DN-01は新型オートマチックトランスミッションHFT(Human Friendly Transmission)という物を積んでいます。
聞き慣れない人が多いでしょうから説明します。興味ないなんて言わず付き合って下さい。
これは簡単にいうとエンジン(クランク)の回転する力をミッション(メインシャフト)ではなく油圧ポンプに伝えているわけです。それだけ聞くと自動車のトルコンATと同じ様に聞こえますが全く違います。
一般的にハイドロ メカニカル トランスミッション(Hydraulic Mechanical Transmission 略してHMT)と呼ばれている形式の一種で、クランクの回転力でオイルポンプ側(赤)の斜板を回しピストンを動かします。
そうすると反対側(青)のピストンが油圧で押されモーター斜板(青)を回すことになる。
そして斜板に付いているピストンが180度に近づくにつれ、今度は反対側(青から赤)へ油圧が押し戻される。更にホンダのHFTはこれに加え中央のシリンダーも回転することでトルクのコントロールを可能にしているというわけです・・・言ってる意味が分かりませんよね。
Youtubeに分かりやすいのがあったのでそれを載せておきます。
※これは油圧のみの静油圧式無段変速機、通称ハイドロ”スタティック”トランスミッション(HST)といい、油圧機械式無段変速機であるHMTひいてはDN-01のHFTとは正確に言うと違いますが流れは少し理解できるかと。
車に代表されるトルクコンバータやCVTともスクーター等に採用されているVベルトとも違うのがわかると思います。
つまりDN-01の無段階変速機というのはトルコンATやDCT、スクーター等に採用されているVベルトやCVTなどとは全く違う変わったトランスミッションを積んでるわけです。
何故わざわざそんな物を積んだのか?
このHFTのメリットの一つとして変速ショックが無い事が挙げられます。変速は斜板による無段階なので”ガチャン”とギアが変わる事はありません。
「それならじゃあスクーターなんかに採用されているVベルトで良いじゃん」
と思うかもしれませんがVベルトは伝達効率が悪くダイレクト感に欠ける性質を持ってる。これはパワーが上がれば上がるほど顕著に出ます。
「じゃあDCTは?」
となるわけですが、DCTは基本的にマニュアルトランスミッションと変わらないので今度はVベルト(無段階)には無い変速が出てしまう。
今バイクにおけるオートマティックとして代表的なのはDCTとVベルトですね。ここにHFTを加え簡単に区別するとしたら
【MT】
DCT(限りなくMT)
|
HFT(MTに近いAT)
|
Vベルト(限りなく無段階)
【CVT】
という分かれ方になる。DCTはそもそもミッションがあってクラッチで制御してるわけですので「ATにもなれるMT」
HFTはミッションが無いもののダイレクト感のある油圧で制御しているので「MTにもなれるAT」
といった感じです。
スポーツとクルーズという二律背反をどうにか両立させようとした考えた末にホンダが出した答えが、DCTでもなくVベルトでもない全く新しいミッションHFTだったというわけ。
見た目も悪く無いしメカニズムも凄い。わざわざRC250MA以来となる技術を引っ張りだしてきて昇華させるというホンダの意欲も犇々と伝わる。ただ如何せんターゲットとなる大型バイクユーザーにとってアンマッチな嗜好性だった。
わざわざ専用ミッションを用意する作り込みが過ぎて車体価格が高くなった(1,180,000円税別)のも大きく響いてるでしょうけどね。
もしこれが日本なら250や400、欧州ならA2ライセンスといった新しい層に訴えられるクラスだったら少しは違った結果になっていたかも知れない。
そんな可能性を秘めていたバイクだと思うわけです。
【余談】
ちなみにこのHFT(ヒューマン・フレンドリー・トランスミッション)の基であるHMT(ハイドロメカニカルトランスミッション)は自動車にも採用歴はあるのですが、現状はトルクコンバータATやCVTが占めていますね。
しかし一方で自動車以外の業界では幅広く採用されていたりします。ブルドーザーやクレーン車、果ては戦車など。そんな中でも目を引くのは農耕機やコンバイン。
日本を代表する農機、建機、小型船舶メーカーであるヤンマーもDN-01と同じように(I-HMT)採用しています。ヤンマーといえば農機だけでなくマリン部門も非常に強く、同じくマリン部門を持っている特にヤマハにとっては目の上のたんこぶ・・・と思いきやATV部門ではヤマハ製をヤンマーが売る業務提携をしたり。
ただ”Yammer-YAMAHA”とスペルが似ていることからグループか何かと思っている人を時々見ますが全く別の会社です。
また話が反れてるとお思いでしょう。でも今回ばかりはそうでもない。
近年のホンダといえば小型ジェットもそうですが、カセットボンベで動く耕うん機や発電機が大ヒットし、今ではホンダの中でも勢いがある部門があります。
エンジンは既に持ってる、そしてDN-01でミッションも出来た。という事はDN-01の後ろにHマークの農耕機が見え・・・なくもない?
※追伸
と思ったら既に除雪機での採用歴があるとの事。
やっぱりホンダの農耕機が出る日も近い気が。
主要諸元
全長/幅/高 |
2320/835/1115mm |
シート高 |
690mm |
車軸距離 |
1610mm |
車体重量 |
269kg(装) |
燃料消費率 |
25.0km/L ※定地走行テスト値 |
燃料容量 |
15L |
エンジン |
水冷4サイクルOHC2気筒 |
総排気量 |
680cc |
最高出力 |
61ps/7500rpm |
最高トルク |
6.5kg-m/6000rpm |
変速機 |
常時噛合式6速リターン |
タイヤサイズ |
前130/70-17(62W) 後190/50-17(73W) |
バッテリー |
YTX14S |
プラグ |
SIMR8A9 |
推奨オイル |
ウルトラG1/G2/G3(10W-30) |
オイル容量 |
全容量4.0L 交換時2.9L フィルター交換時3.3L |
スプロケ |
– |
チェーン |
– |
車体価格 |
1,180,000円(税別) |
系譜の外側