「近未来&COOL」
それまでのバイクとは明らかに毛色が違い異彩を放っているNM4/RC82型。
NCシリーズにも採用されている水冷二気筒745ccのDCTエンジンをロー&ロングな新設計専用フレームに搭載したモデル。
2016年からのEURO4規制で仲間がバタバタと倒れゆく中で、DN-01と同じ道を辿りそうな臭いをさせながらも生産終了どころかDCTとマフラーの改良が加えられ存続。
写真左がノーマルのNM4-01で右がNM4-02。
NM4-02は
・ユーティリティーボックス
・グリップヒーター
・ETC
などを標準装備したモデルです。
アメリカでも発売されていますが欧州では『NM4 Vultus』という名前で発売。
2017年時点で売っているのはイギリスとスペインぐらい。向こうでは定番のTMAXとよく比べられていました。
デザインテーマは
「フロントマッシブスタイリング&コックピットポジション」
今となっては懐かしい話ですが、これが発表された当時は凄い反響でした。
「遂に金田(AKIRA)バイクが出た」
と大きく話題に。
恐らく市販車の中で最も近いんではないでしょうか・・・こう書くと
「ぜんぜん違うだろ」
とファンから怒られそうですが、実際ところ金田バイクは実現不可能です。
夢のバイクを真面目に解説するのも無粋な話ですが
『セラミック製ツインローター両輪駆動』
というトンデモな駆動方式を除いたとしても無理です。
例えば金田バイクのカッコ良さの大部分のファクターを締めているであろう部分である前に大きく突き出たフロントフォークとフロントタイヤ。
スイングアーム形式かと思いきや一般的なテレスコピック式。見た目だけで言うならトリシティの方が近いですね。
ただ金田バイクほどフロントフォークを寝かせることは不可能です。
フロントフォークの角度(正確にはキャスター角)というのは
「それを見ればそのバイクがどんなバイクか分かる」
と言われるほどバイクにとって重要な部分なんです。
見方としてはフロントホイールの中心(アクスルシャフトの部分)に対し、ステアパイプ角(ハンドルの軸)の線を地面まで引いた時の線の距離をトレール量と言います。
このトレール量というのは直進安定性に直結していて長ければ長いほど速ければ速いほど真っ直ぐ前を向こうとする復元力が強く働きます。
ちなみにこのトレール量というのはホイール径でも大きく変わります(小径だと減り、大径だと増える)。
よくフロントフォークを有り得ないほど前に伸ばしているチョッパー系がありますが、それに反して前輪のホイールが意外と小さかったりするのはホイールでトレール量を調整している面があるから。
しかしこの直進安定性の復元力というのは言い換えると『曲がらなさ』でもあるんです。
上の写真を初めとしたスーパースポーツのキャスター角が立っていてトレール量が短いのはそういう事。
以上の点を踏まえて金田バイクを見てみると、非現実的なトレール量を持ったバイクである事が分かるかと思います。
ただ少し調べてみるとNEO-FUKUOKA(現在活動停止)という方が金田バイクのレプリカを造られた事があるようです。
少し調べてみるフロント周りがどうなっているのか調べてみると
『ロッドエンド式ツインステアリングシステム』
というハブステアともボールナットとも違うリンクロッドを噛ませた遠隔操作のような構造。
ただこれ間違いなくトラクションを感じられず怖いです。
というのもバイクはフロントの直線上にハンドルがあるのが基本なんですが、こうすることでフロントからのインフォメーションをライダーは余すことなく感じる事が出来るようになっている。
しかしこれをリンクなどでズラしてしまうとそのインフォメーションが希薄になってしまい、ライダーはフロントがいまどういう状況なのか分からなくなってしまうんですね。
もちろんここまで実現したNEO-FUKUOKAさんの情熱には脱帽ですが
「じゃあNM4はどうなっているのか」
というとNM4もデザインコンセプトの時点で”可能な限りフロントを前に押し出す事”を重視しており、結果としてフォーク角は37°とクルーザーに負けずとも劣らないほど寝ています。
重ねて言いますが寝かせすぎるとトレール量が増え曲がらないバイクになってしまう上に角度が角度なので衝撃吸収と路面追従性というフォーク本来の働きにも悪影響が出る。
じゃあNM4も駄目なのかと思いきやホンダがそんなバイクを出すはずもなくちゃんと考えられています。
フォークは寝かせつつもヘッドパイプの軸を立てる(スラント角をつける)ことでトレール量を減らしているんです。
要するにフロントフォークは大きく寝ていてタイヤは前に出てるんだけど、その分(青線になる)ステアリングパイプを起こしてキャスター角を抑えてるということ。
ただこれも先に話した違和感と同じ様に
「角度差を付けるほどフロントの接地感が希薄になる」
という事から4°が限界と言われているんですが、NM4はその最大角度ギリギリまでフロントフォークを寝かせる事を優先したということですね。
これによりNM4はフロントフォークが寝ているにも関わらずトレール量は110mmしかありません。
これは一般的なスポーツネイキッドと同じトレール量。つまりフロントフォークが寝ているからハンドリングはユッタリだけど、トレール量が抑えられてるから決して曲がりにくいなどの扱いにくさはなく自然なハンドリングはキープしている。
オマケとして金田バイクが不可能な理由としてもう一つあげるならフロントホイールのカバー。
これは絶対に無理です。
フロントホイールを覆ってしまうと走行風が当たらないのでドラムブレーキだろうがディスクブレーキだろうが冷却できず熱ダレを起こして機能しなくなるから。
さらに横風にも弱くなり簡単にハンドルと取られてしまう事や、空力が良すぎる事でハンドルの切り返しが重くなるなどもあります。
一般的な車両のホイールが剣先みたいな形になっているのは、実は風を乱したり切ったりしてハンドル操作をしやすくする役割があるんです。
要するに結論からいうと金田バイクというのは『曲がらず止まらず横風に弱いバイク』で、正に
「ピーキー過ぎてお前には無理だよ」
という事。
金田バイクの話ばかりになってしまいましたが、NM4も全く意識していなかったかといえばそんな事は無いでしょう。
NM4というのはそんなバイクを知らない人、既存のバイクに興味のない人が求める
「非常識な求めに可能な限り応えた常識的なバイク」
じゃないかと。
主要諸元
全長/幅/高 | 2380/810/1170mm |
シート高 | 650mm |
車軸距離 | 1645mm |
車体重量 | 245kg(装) [255kg(装)] |
燃料消費率 | 38.0km/L ※定地走行テスト値 |
燃料容量 | 11L |
エンジン | 水冷4サイクルOHC二気筒 |
総排気量 | 745cc |
最高出力 | 54ps/6250rpm |
最高トルク | 6.9kg-m/4750rpm |
変速機 | 電子式6速リターン(DCT) |
タイヤサイズ | 前120/70-18(59W) 後200/50-17(75W) |
バッテリー | YTZ14S |
プラグ | IFR6G-11K |
推奨オイル | ウルトラG1(10W-30) |
オイル容量 | 全容量4.1L 交換時3.2L フィルター交換時3.4L(クラッチ含む) |
スプロケ | 前17|後39 |
チェーン | サイズ520|リンク112 |
車体価格 | 925,000円(税別) [1,075,000円(税別)] ※[]内はNC4-02 |