拒絶された渾身のATスポーツクルーザー DN-01 (RC55) -since 2008-

DN-01

開発コンセプト「Discovery of a New Concept」

記念すべき第一回として何が相応しいか考えた結果このDN-01が真っ先に思いつきました。

大型ATクルーザーという新しい楽しみ方の提供を狙って頭文字からDN-01。2008年という比較的まだ新しいけど既に忘れてる人が多いのではないでしょうか。

ちなみにこのバイクは2009年に生産終了という僅か二年足らずという短命さでした。

DN-01ブルー

不人気さから言っても多分みんなこのバイクに興味が無いでしょう。何故ならATだから。

大型二輪というのは四輪のスポーツカー以上に嗜好性が強い乗り物。平成27年度の大型二輪の合格者は73,034人。そのうちAT限定を取った人は僅か116人。比率でいえば0.16%足らず。

自動車のようにAT免許取得者が増えれば変わってたかも知れない・・・と思いきやAT免許には

「ATかつ排気量が”650cc以下”の二輪車のみ」

という条件が付きます。そしてDN-01の排気量は….680cc。つまりAT免許では乗れないんですこのバイク。

大型MT二輪を免許を持つものだけが乗ることを許されるATスポーツ。一体どうしてホンダは680ccにしたのかといえば輸出仕様のNT700Vのエンジンがベースだったから。

NT700V

いやでも少し排気量落としてもバチは当たらんでしょうに。

というかそもそも「クルーザー=空冷挟角の粘りのあるVツイン=ハーレー」という図式が出来上がっているのは日本に限らず欧米でもそうです。

そんな市場でヒュンヒュン回る高性能な水冷エンジンのクルーザーが認められなかったのは今に始まった事じゃないんですけどね。まあこれで空冷にしたら熱が凄いことになりそうだから無理なんだろうけど。

DN-01壁紙

更にDN-01はスポーツバイクとして見た場合、ステップボードを見てもらえると分かる通りとてもスポーツ走行が出来るようには思えない。じゃあクルーザーとしてみた場合はどうかと言えばこう見えて収納スペースはほぼ無いので積載性が悪い。ローロングなデザインを優先したため防風性も悪い。

”スポーツもクルーズもデザインも”という欲張りな狙いが仇となって全体的にボヤけてしまい、結局ATという部分しか消費者には伝わらなかった。

ディケイダー

ホンダもよっぽど推していたのか、仮面ライダーディケイドのバイクとしても売り込んでいました。CMなどもバンバン打ってました。終いには鈴鹿8耐で一台プレゼントするまでに。

それでもやはり効果が無かったのか初年度の販売台数見込みが3000台だったのに対し、次年度はその十分の一となる300台あまり。

DN-01は色物ATクルーザーと片付けて仕舞えばそれまでだし、既存のバイクとは一線を画したコンセプトとして出た時と全く変わらないデザインが一番の武器である事は間違いないんだろうけど、それらに興味のない人、ピンと来なかった人の為に少しだけこのバイクを掘り下げるとしたらやっぱりミッション。

DN-01は新型オートマチックトランスミッションHFT(Human Friendly Transmission)という物を積んでいます。

DN-01

聞き慣れない人が多いでしょうから説明します。興味ないなんて言わず付き合って下さい。

これは簡単にいうとエンジン(クランク)の回転する力をミッション(メインシャフト)ではなく油圧ポンプに伝えているわけです。それだけ聞くと自動車のトルコンATと同じ様に聞こえますが全く違います。

一般的にハイドロ メカニカル トランスミッション(Hydraulic Mechanical Transmission 略してHMT)と呼ばれている形式の一種で、クランクの回転力でオイルポンプ側(赤)の斜板を回しピストンを動かします。

ハイドロフレンドリートランスミッション

そうすると反対側(青)のピストンが油圧で押されモーター斜板(青)を回すことになる。

そして斜板に付いているピストンが180度に近づくにつれ、今度は反対側(青から赤)へ油圧が押し戻される。更にホンダのHFTはこれに加え中央のシリンダーも回転することでトルクのコントロールを可能にしているというわけです・・・言ってる意味が分かりませんよね。

Youtubeに分かりやすいのがあったのでそれを載せておきます。

※これは油圧のみの静油圧式無段変速機、通称ハイドロ”スタティック”トランスミッション(HST)といい、油圧機械式無段変速機であるHMTひいてはDN-01のHFTとは正確に言うと違いますが流れは少し理解できるかと。

車に代表されるトルクコンバータやCVTともスクーター等に採用されているVベルトとも違うのがわかると思います。

つまりDN-01の無段階変速機というのはトルコンATやDCT、スクーター等に採用されているVベルトやCVTなどとは全く違う変わったトランスミッションを積んでるわけです。

何故わざわざそんな物を積んだのか?

このHFTのメリットの一つとして変速ショックが無い事が挙げられます。変速は斜板による無段階なので”ガチャン”とギアが変わる事はありません。

「それならじゃあスクーターなんかに採用されているVベルトで良いじゃん」

と思うかもしれませんがVベルトは伝達効率が悪くダイレクト感に欠ける性質を持ってる。これはパワーが上がれば上がるほど顕著に出ます。

DN-01ハンドル周り

「じゃあDCTは?」

となるわけですが、DCTは基本的にマニュアルトランスミッションと変わらないので今度はVベルト(無段階)には無い変速が出てしまう。

今バイクにおけるオートマティックとして代表的なのはDCTとVベルトですね。ここにHFTを加え簡単に区別するとしたら

【MT】

DCT(限りなくMT)

HFT(MTに近いAT)

Vベルト(限りなく無段階)

【CVT】

という分かれ方になる。DCTはそもそもミッションがあってクラッチで制御してるわけですので「ATにもなれるMT」

DN-01フェイス

HFTはミッションが無いもののダイレクト感のある油圧で制御しているので「MTにもなれるAT」

といった感じです。

スポーツとクルーズという二律背反をどうにか両立させようとした考えた末にホンダが出した答えが、DCTでもなくVベルトでもない全く新しいミッションHFTだったというわけ。

DN-01白

見た目も悪く無いしメカニズムも凄い。わざわざRC250MA以来となる技術を引っ張りだしてきて昇華させるというホンダの意欲も犇々と伝わる。ただ如何せんターゲットとなる大型バイクユーザーにとってアンマッチな嗜好性だった。

わざわざ専用ミッションを用意する作り込みが過ぎて車体価格が高くなった(1,180,000円税別)のも大きく響いてるでしょうけどね。

もしこれが日本なら250や400、欧州ならA2ライセンスといった新しい層に訴えられるクラスだったら少しは違った結果になっていたかも知れない。

RC55

そんな可能性を秘めていたバイクだと思うわけです。

【余談】

ちなみにこのHFT(ヒューマン・フレンドリー・トランスミッション)の基であるHMT(ハイドロメカニカルトランスミッション)は自動車にも採用歴はあるのですが、現状はトルクコンバータATやCVTが占めていますね。

しかし一方で自動車以外の業界では幅広く採用されていたりします。ブルドーザーやクレーン車、果ては戦車など。そんな中でも目を引くのは農耕機やコンバイン。

ヤンマーYT

日本を代表する農機、建機、小型船舶メーカーであるヤンマーもDN-01と同じように(I-HMT)採用しています。ヤンマーといえば農機だけでなくマリン部門も非常に強く、同じくマリン部門を持っている特にヤマハにとっては目の上のたんこぶ・・・と思いきやATV部門ではヤマハ製をヤンマーが売る業務提携をしたり。

ただ”Yammer-YAMAHA”とスペルが似ていることからグループか何かと思っている人を時々見ますが全く別の会社です。

また話が反れてるとお思いでしょう。でも今回ばかりはそうでもない。

近年のホンダといえば小型ジェットもそうですが、カセットボンベで動く耕うん機や発電機が大ヒットし、今ではホンダの中でも勢いがある部門があります。

ホンダ耕うん機

エンジンは既に持ってる、そしてDN-01でミッションも出来た。という事はDN-01の後ろにHマークの農耕機が見え・・・なくもない?

※追伸

と思ったら既に除雪機での採用歴があるとの事。

ホンダの除雪機

やっぱりホンダの農耕機が出る日も近い気が。

主要諸元
全長/幅/高 2320/835/1115mm
シート高 690mm
車軸距離 1610mm
車体重量 269kg(装)
燃料消費率 25.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 15L
エンジン 水冷4サイクルOHC2気筒
総排気量 680cc
最高出力 61ps/7500rpm
最高トルク 6.5kg-m/6000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前130/70-17(62W)
後190/50-17(73W)
バッテリー YTX14S
プラグ SIMR8A9
推奨オイル ウルトラG1/G2/G3(10W-30)
オイル容量 全容量4.0L
交換時2.9L
フィルター交換時3.3L
スプロケ
チェーン
車体価格 1,180,000円(税別)
系譜の外側
DN-01

拒絶された渾身のATスポーツクルーザー
DN-01
(RC55)

gts1000

悪いのは人か技術か
GTS1000/A
(4BH/4FE)

750カタナ

カタナと名乗れなかったカタナ
GSX750S
(GS75X)

ザンザス

Zの亡霊と戦ったZ
XANTHUS
(ZR400D)

CBX400カスタム

30年経ってCBXと認められたアメリカン
CBX400CUSTOM
(NC11)

BT1100

イタリア魂が生んだもう一つのMT
BT1100 BULLDOG
(5JN)

GSX1300BK

本当の怪物は誰も求めていなかった
GSX1300BK B-KING
(GX71A)

ZR750F/H

死せるザッパー生ける仲間を走らす
ZR-7/S
(ZR750F/H)

ホンダCBX1000

大きすぎた赤い夢
CBX1000
(CB1/SC03/06)

GX750/XS750

ブランドは1台にしてならず
GX750
(1J7)

スズキGAG

SUZUKIのZUZUKI
GAG
(LA41A)

Z1300

独走のレジェンダリー6
Z1300/KZ1300
(KZ1300A/B/ZG1300A)

NM-4

アキラバイクという非常識
NM4-01/02
(RC82)

FZX750

大きな親切 大きなお世話
FZX750
(2AK/3XF)

GSX1400

踏みにじられたプライド
GSX1400
(GY71A)

750Turbo

タブーを犯したターボ
750Turbo
(ZX750E)

NR750

無冠のレーシングスピリット
NR
(RC40)

TRX850

現代パラツインスポーツのパイオニア
TRX850
(4NX)

GS1200SS

嘲笑される伝説
GS1200SS
(GV78A)

ゼファー1100

ZEPHYRがZEPHYRに
ZEPHYR1100/RS
(ZR1100A/B)

NS400R

狂った時代が生んだ不幸
NS400R
(NC19)

RZV500R

手負いの獅子の恐ろしさ
RZV500R
(51X/1GG)

RG500Γ

チャンピオンの重み
RG500/400Γ
(HM31A~B/HK31A)

AV50

なぜなにカワサキ
AV50
(AV050A)

ドリーム50

五十路の夢
DREAM50
(AC15)

フォーゲル

楽し危なし
POCKE/VOGEL
(4U1/7)

ストリートマジック

シンデレラスクーター
TR-50/TR-110
(CA1L/CF12)

Z750ツイン

鼓動と振動
Z750TWIN
(KZ750B)

フォルツァ125

市民権の象徴
FORZA125
(JF60)

SRX4/6

決して多くない人たちへ
SRX-6/SRX-4
(1JK/1JL~)

DR-Z400SM

最初で最後のフルスペック
DR-Z400S/SM
(SK43A/SK44A)

ZX-7R/RR

問題児レーサー
ZX-7R/RR
(ZX750P/N)

RC213V-S

2190万円の妥協と志向
RC213V-S
(SC75)

YZF-R7

7と1でWE/R1
YZF-R7
(5FL)

バーグマンFCS

エコの裏で蠢くエゴ
BURGMAN FCS
(DR11A)

エリミネーター750/900

名は体を現す
ELIMINATOR750/900
(ZL750A/ZL900A)

モトコンポ

こう見えて宗一郎のお墨付き
MOTOCOMPO
(AB12)

TDR250

聖地突貫ダブルレプリカ
TDR250
(2YK)

グース

決めつけられたシングルの正解
Goose250/350
(NJ46A/NK42A)

Z650

小さく見えるか大きく見えるか
Z650
(KZ650B)

X4

単気筒
X4
(SC38)

SDR200

軽く見られた軽いやつ
SDR
(2TV)

チョイノリ

59,800円に込められた思い
choinori
(CZ41A)

ゼファー750

復刻ではなく集大成
ZEPHYR750/RS
(ZR750C/D)

PS250

モトラリピート
PS250
(MF09)

DT-1

冒険という感動創造
トレール250DT1
(214/233)

Vストローム250

二度ある事は三度ある
V-STROM250
(DS11A)

エリミネーター250

周期再び
ELIMINATOR250/SE/LX
(EL250B/A/C)

CX500ターボ

打倒2ストのブースト
CX500/650TURBO
(PC03/RC16)

YA-1

原点進行形
YAMAHA125
(YA-1)

rf400r

RでもFでもない
RF400R/RV
(GK78A)

250-A1

半世紀を迎えた吉凶のライムグリーン
250-A1/SAMURAI

Vツインマグナ

氷河期 of Liberty
V-TWIN MAGNA(MC29)

TDR50

RALLYってしまった原付
TDR50/80(3FY/3GA)

SW-1

オシャレは我慢
SW-1(NJ45A)

ボイジャー1200

可愛い娘は旅をせよ
Voyger XII
(ZG1200A/B)

WING

Twist and Shaft
WING
(GL400/GL500)

ビーノ

その愛嬌は天然か計算か
VINO
(SA10J/SA26J/SA37J/SA54J/AY02)

DRビッグ

爪痕を残し飛び去った怪鳥
DR750S/DR800S
(SK43A/SR43A)

テンガイ

愛おぼえていますか
Tengai
(KL650B)

CB92

雪辱のSSその名はシービー
CB92

XT400E

本当の名前は
ARTESIA
(4DW)

ジェベル250

ツールドジェベル
DJEBEL250/XC/GPS
(SJ44A/SJ45A)

KV75

混ぜるなキケン
75MT/KV75
(KV075A)

ダックス

泥遊びなら任せろ
DAX
(ST50/ST70/AB26)

ランツァ

単槍匹馬のラストDT
LANZA
(4TP)

GT750

水牛であり闘牛である
GT750
(GT750J~N)

「拒絶された渾身のATスポーツクルーザー DN-01 (RC55) -since 2008-」への1件のフィードバック

  1. 初めまして
    2019年12月1日より大型二輪オートマ限定免許の排気量上限撤廃されており、オートマ限定免許でも乗れるようになりました。

コメントを残す