「The Art of Engineering」
24年もの歳月を経て登場した二代目にあたるVMAXまたはVMX1700。
車体価格が先代の二倍以上となる税込2,367,000円となった事から分かるように、既存のバイクとは一線を画するスペシャルモデルへと生まれ変わりました。
専用部品のオンパレードなのはもちろん、アルミだらけで可能な限り樹脂を使っていない。
更にフロントフェンダー等を見てもらえば分かる通り、組立工場からクレームが来るのも当然なほど細分化されたパーツ構成。
前後フェンダーとタンクとサイドカウルだけでこれだけの部品数。
もうアルミ製プラモデルの域ですね。
更に更にVMAXのトレードマークであるエアダクトは本物のエアダクトとなり、アルミダイキャストで全て職人による手作業によるバフ掛け。
そして生産も完全受注生産、販売は定められた店のみでした。
さて・・・このVMAXはこう見えて初代が出る前から開発は始まっていたんです。
では何故24年もの歳月がかかってしまったというと簡単な話
”あーでもないこーでもない”
と何度も開発をやり直したから。
そのためVMAXには開発リーダーだけでも3人が歴任しており、開発に携わった人を全て含めると途方もない数で、正にヤマハが総出となって開発した様なかたち。
具体的に何処をそんなにやり直したのかというと、代表的なのがVMAXの要であるエンジン。
VMAXは1679ccですが、一番初めは2000ccで開発が進んでいました。
しかしあまりに重くなり過ぎて軽快さが損なわれてしまうという事から開発をやり直し。次に作られたのが1800ccのエンジン。
「OTODAMA(音塊)」
というタイトルで2001年の東京モーターショーでもお披露目されています。
これで市販化まであと一歩という所まで来たのですが、諸事情によりプロジェクトが停滞した事と、ある技術革新が起こった事で状況が大きく変わりました。
「電子制御燃料噴射装置(通称FI)」
です。
コンパクト化&精密化出来るFIを採用しない手は無いとしてまた作り直し。
これによりVMAXはエンジンの挟み角を更に狭い65°に”凝縮”する事が出来ました・・・が、コレでも終わらなかった。
このFI化で作り直したエンジンで順調に開発が進んでいたんですが、担当していたテストライダーが
「もう少しパワー(排気量)があった方が良くなるのでは」
と完成間近になって提言。
普通ならば
「いまさら無理」
となる。
エンジンのパワーを上げるということはエンジンはもちろんフレームも足回りも再設計になるから聞けるわけがない。
しかし検討やテストの結果、そうした方が良くなるという事が分かり迷いなく再び開発のやり直し。
この65°V型四気筒1679ccというエンジンはそんな三度のやり直しの末に完成した
まさに
「三度目の正直エンジン」
というわけ。
ただしこういった話はエンジンだけではなく、これまたアルミになったダイヤモンドフレームや足回りでもそう。
最初は倒立フロントフォークで進んでいたのに、ハンドリングが硬くなりすぎているとして見直され、規格外の太さを持つ専用の正立フロントフォークになった。
フロントフォークの正倒を変えるという事は、ステム周りの剛性が大きく変わってしまうのでフレームも三叉も当然ながら再設計。
細かい所で言えばタンクの上にある一見すると何の変哲も無いマルチメーターもそう。
これ2008年当時としては珍しかった有機ELディスプレイ。
最初は液晶で進んでいたんですが
「発光が液晶より良い」
という理由だけでここでも再設計が行われている。
VMAXの凄い所というのは、見えないカプラーまでもが専用設計な事も、ボルト一本に至るまでデザインされている事も、樹脂がほとんど使われていない事もそうですが
この様に
「何も惜しまない開発をした事」
が一番凄い所なんです。
こんな事が当たり前のように四半世紀も続いたから開発メンバーも
「これ終わらないんじゃ・・・」
と本気で思うほどだった。
もちろんデザインも例外ではありません。
「過去これほどスケッチしたバイクは無い」
と監修した一条さんや担当された梅本さんも漏らすほど、何十何百と練られた末のデザイン。
新型VMAXの噂が立っては消えていたのはこういった理由があったから。
ちなみにこのVMAXは先代とは違いアメリカがデザインコンセプトではありません。
力の象徴『金剛力士像』がデザインコンセプト・・・そうこのVMAXは”和”なんです。
洋から和になった理由、そしてここまで贅沢な開発プロジェクトが許された理由は、VMAXの総括プロデューサーだった牧野さんの信念にあります。
「日本のバイクメーカーとして、ヤマハ発動機としての意地と技術を示したい」
という信念です。
時も金も手間も惜しまず開発を続ける事が出来たのは、社員一丸となってこの信念を貫いたから。
生産終了となった2017年までマイナーチェンジすら一切なかったのは、持ちうる全ての技術を出した妥協のないものだから。
そしてVMAXを『ヤマハの至宝』と言っていたのは
「自分たちの意地を形にした自慢のバイクだから」
主要諸元
全長/幅/高 | 2395/820/1190mm |
シート高 | 775mm |
車軸距離 | 1700mm |
車体重量 | 311kg(装) [310kg(装) ] |
燃料消費率 | 16.0km/L ※定地走行テスト値 |
燃料容量 | 15.0L |
エンジン | 水冷4サイクルDOHC4気筒 |
総排気量 | 1679cc |
最高出力 | 151ps/7500rpm [200ps/9000rpm] |
最高トルク | 15.1kg-m/6000rpm [17.0kg-m/6500rpm] |
変速機 | 常時噛合式5速リターン |
タイヤサイズ | 前120/70-18(59V) 後200/50-18(76V) |
バッテリー | YTZ14S |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
CR9EIA-9 または IU27D |
推奨オイル | ヤマルーブ プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス |
オイル容量 ※ゲージ確認を忘れずに |
全容量5.9L 交換時4.3L フィルター交換時4.7L |
スプロケ | – |
チェーン | – |
車体価格 | 2,200,000円(税別) ※[]内はEU仕様 |