「うちから5kmの大冒険」
1997年にヤマハが出した60年代アンティーク風、ジャンル的に言うとレトロスクーターといえるビーノ。
宣伝でPUFFYが乗っていたのを覚えている人も多いのではないかと。
一見するとただオシャレなだけに見えますが、こう見えて20Lものトランク容量と6.3馬力を叩き出すJOG譲りの2stエンジンで実用性もかなり高いものを持っていました。
しかし爆発的な人気となった要因はやはりレトロなデザインで、これが多くの女性のハートを射止め大ヒット。ちなみにデザインはGKデザインではなく子会社のエルムデザイン。
ただし一応断っておくとビーノはレトロスクーター勢としては決して第一人者ではありません。同ジャンルで唯一のライバルともいえるホンダのジョルノの方が5年も前となる1992年に登場しているんです。
加えて言えるのがビーノが登場した1997年はヤマハの看板スクーターだったJOGがエンジンもろともフルモデルチェンジした年であるということ。
つまり言葉が悪いんですがビーノというモデルは乾坤一擲のモデルというよりは
『余ったプラットフォームを活用する形』
で造られた原付というのが実情・・・だったんですが、それを補って有り余るデザイン性の高さが潜在需要である女性から大いに評価されたわけですね。
これはヤマハからすると油田を掘り当てた様なもので、この需要を逃すまいと
『宇多田ヒカル監修モデル(写真上)』
『コラボの鬼ことキティモデル(写真下)』
など女性向け限定カラーを相次いで販売しました。
結果として2stや4stなどまだまだ色んなモデルがいた原付市場において5年間で約23万台、年間で均等に割ると
「10台に1台ビーノが売れる」
という異常事態ともいえる状況に。
一躍大ヒット原付となったもんだから排ガス規制により2stが難しくなった2004年になると、JOGのお下がり原付だったのが嘘のようにJOGを差し置いて真っ先に新型4stエンジンを積んで登場。
通称SA26J型と呼ばれるモデルで3バージョン展開。
【ビーノ】
通常のビーノ
【リモコンビーノ】
・アンサーバック機能
・キーシャッターとホイールロック解除
・シートオープン
が可能なリモコン付き
【ビーノデラックス】
・立体メッキエンブレム
・メッキボディ
・レッグシールドモール
出世頭とは正にこの事かといえるVIP扱いに。
※ビーノは通称型式(メーカーコード)が多いので認定型式(国土交通省コード)で書いています
ただしここからがビーノの真骨頂。可愛いだけじゃないんですこの原付。
重ねて言いますが人気となった理由は女性にウケたからで、男女比7:3が基本の原付市場においてビーノはヤマハいわく男女比が4:6と女性からの支持が多かった。
しかし逆に言うと4割も男性ユーザーがいることになる。
確かに男性が乗っていても変じゃないオシャレさがあるんですが、デザインとは別にもう一つビーノには隠された魅力があったんです・・・それは走行性能。
こんな可愛い見た目をしているにも関わらずビーノは眼を見張る性能を持っていた。だから原付スクーターマニア達の間では非常に人気が高く原付スクーターレースなどでも重宝されるほどでした。
具体的に説明すると最初に話した新世代4stエンジンが凄いことが一つ。
ビーノが初めて積んだこのヤマハの新設計4stエンジンは
・吸気2バルブ&排気1バルブの3バルブ
・水冷式を採用
・メッキシリンダー
というジェネシス思想ともいえる豪華なもので馬力も5.2psとクラストップレベル。これは南プロジェクトリーダーいわく2stから4stへの転換において
「2st並の軽快感と機敏性を兼ね備えなければならない」
と考えて開発されたから。
だからこそこれほど贅沢なエンジンが出来たわけですが、合わせて重要なのが
「非常に軽い」
という事。
ビーノは2st時代から装備重量で70kgと軽かったのですが、部品点数が増える事からどうしても重くなってしまう4stまして水冷化されたこのモデルでも78kgと非常に軽い。
どうしてこんなに軽いのかといえば女性をターゲットにしていた事から原付の中でも小ぶりだったから。
つまり見た目を抜きにした場合ビーノという原付スクーターは
『パワーウェイトレシオが優れた原付』
だったんです・・・が、それだけじゃない。
よく見て欲しいんですがビーノはデザインの関係で灯火系がハンドルではなくボディにマウントされており、ハンドルはほぼ剥き出し状態でメーターとミラーが付いているだけ。
結果的にハンドルにかかる重量が減り
『操舵慣性モーメントの軽減』
という操舵の軽さに繋っているんです。
ビーノのハンドルレイアウトというのは極論するとストリートファイターと同じなんです。タコメーターすら無い分こっちの方が硬派と言えるほど。
そしてもう一つポイントとなるのがデザインを壊さないためにディスクブレーキではなくドラムブレーキを採用していること。
ドラムブレーキはディスクブレーキに比べて放熱が苦手でフェード(ブレーキ力の低下)を起こしてしまう問題があります。
しかし原付一種では速度が知れており熱がそれほど問題にならない。そしてドラムブレーキというのは放熱が苦手な代わりにディスクブレーキと違いキャリパーもローターも要らないので軽いというメリットがある。
つまりドラムブレーキを採用したビーノは路面追従性に直結する
『バネ下重量の軽さ』
が非常に優秀という事。
車重も軽い、操舵も軽い、バネ下も軽い、更にはコンパクトでホイールベースも短くクイックで水冷エンジンなので熱ダレにも強い。
だから原付スクーターにうるさい人達はビーノを見て
「なんて優秀なライトウェイトスポーツなんだ・・・」
と思うわけ。
しかも後にカスタム人気が高いJOGもこのエンジンを使うようになったのでチューニングパーツも豊富というオマケ付き。
これはFI化された2007年からのSA37J型やO2センサーが付いた2015年からのSA54J型以降も同じ。
排ガス規制の強化でただでさえパワー不足なのにさらなるパワーダウンと重量増を余儀なくなされるわけですが、それはビーノに限った話じゃない。
すると更に重要になってくるのが車重やウェイトバランス・・・結果ビーノの輝きが更に増すっていう。
つまり女性向け原付スクーターという立ち位置にも関わらず
「性能にうるさい男性すらも納得させる造りだった」
というのがビーノの隠された魅力だったんですね
しかし2018年になると原付一種市場の低迷で大量生産前提によるコスト削減が難しくなったため、ヤマハはホンダからのOEM供給という手段を取るようになりました。
AY02型と呼ばれるモデルで中身はライバルだったジョルノと同じで外装が違うだけ。
「これで遂にビーノ人気も年貢の納め時か・・・」
と思いきやそうならなかった。
ゆるキャンというアニメで起用されたことで
『ビーノでキャンプ』
というコンテンツがバイクに縁がなかった若者を中心としたアニメ層に流行したことで落ち目の原付市場で需要が急増し一人勝ち状態。
女性とはまた違う油田開発の成功による想定外の需要で生産も追いつかず一時は
「注文しても半年~1年待ち」
という悲鳴があちこちのバイク屋から聞かれ
「ホンダはもっとビーノを造れ」
とまで言われる事態に。
どんだけヒットすれば気が済むんだって話ですが、これ恐らく次もヒットする。
というのも原付一種は2025年から排ガス規制強化(一種だけ特例で他は2020年から)が決まっておりEVの流れになると思われるんですが、ビーノはEV版が既にテレビで大々的に宣伝されているから。
出川さんがやっている『出川哲朗の充電させてもらえませんか』でEVビーノの認知度は既に物凄く高い。
まだ大々的に売っておらずEV需要があるわけでもない現段階でもう土台がどんどん出来ている。
デザイン性で女性を、デザイン性が生んだ性能で男性を、そしてデザイン性が生んだアニメ起用というコトで若者を虜にし、ついでにEVへの備えもバッチリ。
もはや敗北という文字を知らない常勝原付といえるビーノ。
果たして何処までが計算内で何処からが偶然なのか、愛嬌ある姿がそれを分からなくさせる・・・もしやそれすらも計算のうちなのか。
主要諸元
全長/幅/高 |
1620/630/1005mm {1665/630/1005mm} [1675/630/1005mm] <1650/670/1015mm> |
シート高 |
715mm |
車軸距離 |
1150mm {[1160mm]} <1180mm> |
車体重量 |
70kg(装) {78kg(装)} [84kg(装)] 《80kg(装)》 <81kg(装)> |
燃料消費率 |
47.0km/L {70.0km/L} [66.0km/L] 《68.3km/L》 <80.0km/L> ※定地走行テスト値 |
燃料容量 |
6.0L {4.5L} [4.4L] <《4.5L》> |
エンジン |
空冷2サイクル単気筒 [{《<水冷4サイクルSOHC単気筒>》}] |
総排気量 |
49cc |
最高出力 |
6.3ps/7000rpm {5.2ps/8000rpm} [4.2ps/6500rpm] 《4.5ps/8000rpm》 <4.5ps/8000rpm> |
最高トルク |
0.67kg-m/6500rpm {0.47kg-m/6500rpm} [0.40kg-m/6500rpm] 《0.43kg-m/6500rpm》 <0.42kg-m/6000rpm> |
変速機 |
Vベルト無段階変速 |
タイヤサイズ |
前後80/90-10(34J) {前後90/90-10(50J)} [《前後90/90-10(41J)》] <前後80/100-10(46J)> |
バッテリー |
GT4B-5 {[GTX5L-BS]} 《YTX5L》 <GTZ6V> |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
BPR6HS {[《CR7E》]} <CPR8EA-9> |
推奨オイル |
オートルーブ {[《SAE 10W-40》]} <SAE 10W-30> |
オイル容量 ※ゲージ確認を忘れずに |
全容量1.3L {[《全容量0.8L 交換時0.78L》]} <全容量0.7L 交換時0.65L> |
Vベルト |
4JP-17641-00 {[《5ST-E7641-00》]} <B3K-17641-00> |
車体価格 |
169,000円(税別) {159,000円(税別)} [184,000円(税別)] 《189,000円(税別)》 <185,000円(税別)> ※スペックはSA10J(~2003) ※{}内はSA26J(2004~) ※[]内はSA37J(2007~) ※《》内はSA54J(2015~) ※<>内はAY02(2018~) |
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