「SUPER Z」
カワサキが1978年に発売したZ1300/KZ1000。
後のMKIIやFXに通ずる角張ったスタイルもさることながら、空冷4気筒90馬力がハイスペックと言われていた時代に
『水冷6気筒120馬力』
という驚異的なパワーを引き下げての登場は大いに話題となりました。
6気筒なのはもちろん何気に水冷ビッグバイクである事もカワサキ初なんですが、そもそも何故このバイクが造られたのかというと単純な話で
「900Super4(通称Z1)の次を担うフラッグシップモデル」
という狙いから。
だから実はZ1300の開発プロジェクト『コードナンバー203』はZ1発売の翌年にあたる1973年から始まっています。
しかし実際に登場したのはそれから5年後となる1978年と非常に遅い登場だった・・・これには様々な理由がありました。
一つはZ1300と同じ様にZ1の次を担うはずだったバイクが二台続けて頓挫したから。
一台目は2st水冷スクエア4のモデル。
『750SQUARE-FOUR』
マッハIVとして有名な750SSの後継としてZ1から数年で出す予定だったZボディの2stモデル。しかしこれがどうやってもターゲットだったアメリカ市場の厳しい排ガス規制(マスキー法)をクリア出来なかった事からお蔵入り。
そしてもう一台はこれ。
『X99』
同じくZボディながらこっちは水冷ツインロータリーエンジンを積んだモデル。しかしこっちも排ガス規制や信頼性の問題をクリアできずお蔵入りに。
このようにカワサキは900Super4以降(言葉は悪いですが)二台続けてフラッグシップの開発に失敗していた。四気筒がやっと出始めた1970年代にファクトリーマシン顔負けのスクエア4やツインロータリーを市販/量販なんてそりゃ無理な話なんですけどね。
「そもそも何故そんな色物エンジンを」
と思いますが、これは900Super4が量販車初のDOHC四気筒で成功した様に
『他に無いエンジンを積んだフラッグシップ』
というのが開発ポリシーにあったから・・・ここまでいうとZ1300が造られたのも分かりますよね。
『量販車初の6気筒』
が存在しなかったからです。
6気筒を造るとなった際にアメリカは相変わらずV6推し
「V6が良い、V6にしろ」
という意見が強かったようですがバイクに積むには無理があったので並列でいくことになったんですが、これが一筋縄ではいかず何度も開発をやり直す事になった。
これが出るのが遅かった二つ目の理由。
Z1300はもともとZ1200として計画が進んでおり1975年、つまりZ1300の3年前にはお披露目となる予定でした。
1200だったのはハーレーのフラッグシップモデルだったスーパーグライド(1207cc)の排気量を越さないギリギリの範囲が1200だったという事からだったようですが、色んな資料を読んで照らし合わせてみたところ大きく分けて2回ほど開発され直してる。
当初の予定だった1975年頃に造られたプロトタイプでは
・並列6気筒1200cc
・Z1Rに繋がる直線基調デザイン
・薄型タンクで燃料はシート下
・BMW R90Sに通ずるビキニカウル
・6連キャブ
・シャフトドライブ
という形でどちらかというとスポーツ的な立ち位置だった。
しかしこれが実走を兼ねた長期テストを重ね改良されていくうちに1976年頃には
・Z650系の丸みを帯びたデザイン
・6to6から6to2へ変更
・プライマリーをクランクウェブギア(Z1式)からチェーンに変更
という形に変更。
特に大きかったのがプライマリー(クランクの回転をミッションに伝える方法)で、クランクウェブに直接ギアを刻むZ1の画期的な方法だとコンパクトに出来るものの、カムギアを想像してもらえば分かる通り騒音が抑えられずうるさかった。
そこで伝達方法をギアからハイポイドチェーンに変更し騒音を抑えるという変更を下し静寂性をアップという、スポーツよりもツアラー性を重視する変更となったわけですが、これは開発中に
・オイルショックによる逆風
・アメリカを中心にツアラーが確立
という時代の変化が起こったから。
これがZ1300の方向性を決定づける事になりました。
ちなみに参考(ベンチマーク)にしていたのはドイツのミュンヒという高級オートバイメーカーの1200TTSというモデルだったようです。
NSUのエンジンを使ったセミオーダーメイドのハイスペック高級バイクなんですが、開発スタッフはこれを乗り回して研究していたそう。
そんなこんなで1977年末にやっと完成したのがこの形。
・ロングストローク化で1286ccに(ハーレーの1344cc化が要因と言われてる)
・シフト操作スペースを考えシャフトドライブを右に変更
・それに伴い点火系を後方へ移設
・ニーグリップを考えデザインを変更
・同理由でキャブを6連から2バレル×3連に変更
・ラジエーターの小型&静音化
・Z1000ST(シャフトドライブZ1)との共有化でコスト削減
などなど二作目よりも取り回しを改善し更にツアラー色を強める結果になりました。
5年にも及んだ長い開発期間にはこれらの背景があったからなんですが、このせいで
『量販車初の6気筒バイク』
という名誉をあろうことかまたもやホンダ(CBX)に僅か4ヶ月ほどの差で奪われてしまうっていう。
量販車初の4気筒バイクをCBに奪われてしまったZ1と全く同じ状況になってしまったわけですね。歴史は繰り返すとはよく言ったもんです。
ただしZ1と通ずる部分があるのはここまで。
Z1300は路線変更したと説明したようにロングストロークなエンジンに加え、シャフトドライブで各部にこれでもかというほどダンパーを備え非常にジェントルなツアラーモデルとして登場しました。
ちなみにこの頃はシャフトドライブが全盛を迎えていた時期でもあり各社ともシャフトドライブを悪戦苦闘しながら開発していたんですが、そんな中でもカワサキは結構すんなりいけた。
これが何故かというとカワサキはシャフトドライブの設備を自社で持っていたから。
実はこれISUZUから請け負っていたトラック向けシャフトドライブ設備とノウハウをそのまま流用したものなんです。
だから臨機応変な変更が出来たんでしょうね。
とはいえ最初にも言ったようにいくらツアラーといえど4気筒90馬力の時代に
『1286cc/6気筒/120ps』
というスペックはあまりにも飛び抜けており、この発表を自国のケルンモーターショーで知ったドイツ(西ドイツ)はあまりにも危険だとして急遽100馬力規制を施行。
そのためドイツ向けだけ99psに落とされるという事態になり、フランスもこれに続きました。
当時の西ドイツはアメリカに次ぐマーケットだったのでカワサキにとってはかなり痛手だったかと思います。
ドイツ絡みでもう一つ上げると『Z1300』『K1300』と二つの名前があるのもドイツが理由。
「ZとKZって何が違うの」
と混乱している人も多いかと思いますが、これは名前(仕様地)が違うだけ。
本当はZもKL(カワサキのオフ向け)やKR(カワサキのレース向け)などと同じ様にKZ(カワサキのストリート向け)という名前になるはずだったんだけどZ1(KZ900)を出す時に
「KZは強制収容所の略称(カーツェット)だから駄目」
とドイツから注意され名前を改める必要性が生まれた事で、北米だけKZにして日欧向けはZという名前に変更したのが始まり。そして後に日欧の方が人気が出たためいつの間にかZに統一されたという話。
つまりドイツが駄目と言わなかったらZという名前で呼ばれていなかったかもしれないんですね。
話が脱線したので戻します。
『Z1を超えるZ』
という開発コンセプトで出たZ1300の着地点はスーパースポーツというよりもグランドツアラーに近いものとなった事で、出始めこそ騒がれましたが毎年のように見るZ特集記事でも省かれたりする不遇さからも分かる通り
・ツアラー色が強かったこと
・ハーレーに匹敵する価格(4,659ドル)
などの理由からZ1の様に誰もが買い求める様なバイクになることは出来ませんでした。
もちろんカワサキもそこら辺は考えていて発売と同時に高級グランドツアラーになれるカウルをアクセサリー部品として発売。翌1979年からはKZ1300Bとして最初から装着したモデルもラインナップもするように。
これが1983年から発売されるZN1300ボイジャーに繋がるわけですが、当時はオイルショックによって燃費が非常に重視される時代だったため
『10km/L(実燃費)』
という燃費の悪さが目立つZ1300に対する評価は決して良いものではなかった。しかもアメリカ向けはタンク容量が20.4Lしかないっていう。※B型およびEU仕様は27Lタンク
そのためZ1300は1983年にボイジャー用にFI化(当時はDFI化)したエンジンをベースにカムや圧縮比を変更したものを搭載し、130馬力まで上げると同時に燃費を改善したZG1300A型にモデルチェンジ。
しかしそれでもやはり6気筒から来るデメリット
「でかい・重い・燃費悪い」
を気にする人が多かったのか肝いりのZだったにも関わらず今ひとつ波に乗る事が出来ず、またZの歴史に大きく名を刻むことも出来ずZ1300は消えていくことになりました・・・
・・・ある国を除いて。
実はZ1300が非常に人気となった国が一カ国だけあります。
残念ながら日本ではありません。日本はまだ逆輸入車という文化もなく高価すぎて買えなかったから。
「大きいが正義のアメリカだろ」
と思われそうですが、アメリカでは金翼が強すぎて太刀打ち出来なかった。
Z1300が凄まじい人気となった国・・・それは100馬力規制を敷いたドイツなんです。
ドイツでZ1300はZ1に勝るとも劣らない人気を誇りました。
他所の国が早々に販売終了する中でドイツだけは人気があり1989年モデルまで販売が続けられたんです。
その影響は今でも残っており当たり前のようにZ1300のショップやコミュニティがあるし、Wikipedia.deでも有志によって1年単位でフレーム番号による区別まで事細かく書いてあったりする。
だからカワサキもそれに応えるように2012年に開かれたZ40周年のケルンショー(正式名称インターモト)でわざわざZ1300を担ぎ出して飾ってる。写真:Webikeギャラリー
それだけドイツではZ史において欠かすことが出来ない偉大なバイクとして認知されているという事。
日本にとってケルンの衝撃といえばKATANAですが、本場ドイツ人にとってのケルンの衝撃は法までも動かしてしまったZ1300というわけですね。
参照:カワサキモーターサイクルズヒストリー他いろいろ
主要諸元
全長/幅/高 |
2295/905/1280mm [2335/840/1155mm] <2335/835/1165mm> |
シート高 |
810mm [820mm] <835mm> |
車軸距離 |
1580mm |
車体重量 |
325kg(装) <326kg(装)> |
燃料消費率 |
12.6km/L ※定地走行テスト値 |
燃料容量 |
20.4L [27.0L] <27.0L> |
エンジン |
水冷4サイクルDOHC6気筒 |
総排気量 |
1286cc |
最高出力 |
120ps/8000rpm <130ps/8000rpm> |
最高トルク |
11.8kg-m/6500rpm |
変速機 |
常時噛合式5速リターン |
タイヤサイズ |
前110/90V18 後130/90V17 |
バッテリー |
Y50-N18L-A |
プラグ |
BPR6ES |
推奨オイル |
カワサキ純正オイル または MA適合品SAE10W-40から20W-50 |
オイル容量 |
全容量4.6L 交換時4.0L フィルター交換時4.6L |
スプロケ |
– |
チェーン |
– |
車体価格 |
※[]内はEU仕様 ※<>内はZG1300(83~) |
系譜の外側