バイクトリビア

二気筒エンジンが七変化した理由

二気筒エンジン

直四至上主義が蔓延っていた国内ではほんの十年ほど前までは安物バイクと見向きもされなかったのですが、技術向上による侮れない性能とコストパフォーマンスの高さから市民権を得て来ている二気筒。

Ninja250R辺りからの印象ですね。カワサキは昔から250はパラツインがベストと言って頑固一徹造り続けてたわけですが、やっと理解されるようになったわけです。

二気筒エンジンは色んな種類がある事を何となく知ってる人も多いかと。位相クランクだの180度クランクだの耳にしたことがあるでしょう。

YZF-R25エンジン

実際この記事もリクエストを頂いて書いているわけですが、じゃあそれが

「どういう意味なのか、どうしてそんな事をしてるのか」

という事ですが、先に答えを言うと振動の問題が大きいです。

なるべく噛み砕いてWikipediaのアニメーションを切った張ったして書いていこうと思います。あまり詳しく書くとボロもでますし。

 

まずエンジンというのは

「1.吸気(180度)→2.圧縮(360度)→3.燃焼(540度 ※これが走る力になる)→4.排気(720度)」

4ストローク

というピストンが二往復、ピストンが付いてるクランクが二回転(720度)で1セットとなり走っているわけですが、たった二つピストンを付けるだけなのに他の多気筒と違い非常にバリエーション(特性)に富んでいるのが二気筒エンジン。

 

 

まず代表的なのが「パラレルツイン(パラツイン)」という並列二気筒エンジン。

バリエーションとしては

・360度クランク

・180度クランク

・270度クランク

三種類ほどあります。クランク角を示す○○○度というのは上で言ったエンジンの行程で

「一つ目が"3.燃焼(540度)"に来た時に、もう一つが何番(何度)にいるか」

を角度で表しているわけです。

 

360度クランク並列二気筒

クランクアングル

"ダン、ダン、ダン、ダン"と360度間隔で交代交代燃焼する等間隔燃焼。

一つが"3.燃焼(540度)"の時、もう一つは"1.吸気(180度)"をしています。540-180=360だから360度クランク。

360度クランクアニメ

代表的なのは車種はヤマハのTMAX530やBMWのF800など。等間隔燃焼なのでエンジンが出しゃばらず低速から安定したトルクが出る。

ただしシングルエンジンを二つ並べたような形なので振動が大きい。

 

180度クランク並列二気筒

クランクアングル

"ダダッ・・・ダダッ"と不等間隔燃焼。Ninja250やYZF-R25やCBR400などスポーツモデルの並列二気筒エンジンはこれが基本です。

一つが"3.燃焼(540度)"にきた時もう一つは"2.圧縮(360度)"にいます。540-360=180だから180度クランク。

何故そんな変なタイミングを取ってる(クランクを捻っている)のかということ、360度クランクで話をした振動が問題だったから。

360度クランクアニメ

この360度だと単気筒で起こっていたピストンの上下運動(そのまま上下に向かおうとする慣性力)による振動も単純に二倍になってしまいクランクが綺麗に回れない事から出力や回転数を上げるのが難しくなった。

そこで誕生したのが左右それぞれのピストンがそれぞれ反対の動きをし、互いの振動を打ち消し合う180度クランク。

180度クランクアニメ

こうやって左右のピストンが反対の動きをすることで互いが互いの上下運動に寄る振動を打ち消し合うので、360度クランクで問題だった振動が問題にならない・・・んだけどコレはコレで360度には無かった別の振動が生まれます。

それは一次偶力振動といって要するにピストンが左右対称に動いていない事から生まれるエンジンを揺すり回すような振動。

偶力振動

更に180度は燃焼タイミングがあまりに極端でトルクの波が大きい事から発進時など低域での扱いやすさに難があります。

 

270度クランク並列二気筒

270度クランクアングル

"ダ・ダ、ダ・ダ"とこんな感じです。分かりませんよね懲りずにスイマセン。これは360度と180度のように必然的に生まれたクランク角というよりも、並列二気筒の可能性を求めた結果生まれたクランク角。発端はヤマハのパリダカです。

"3.燃焼(540度)"にきた時もう一つは"2.吸気途中(270度)"にいます。540-270=270だから270度クランク。

こうすると点火タイミングが180度ほど極端にならずタイヤを休ませる時間が空くことでトラクションに優れている事と、エンジンのパルス感を味わえる・・・っていうのはよく聞く話だと思うけど270度のメリットはもう一つあって、360度や180度だと発生する微振動(二次振動)が発生しません。

何故かというとピストンの上下するスピードというのは一回転する間にも一定ではなく速い遅いを繰り返してるんですが、270度(90度)ズレてれば片方の速度が変わっても、もう一つが逆のゾーンに入って相殺するから。

慣性トルク

正確に言うとコンロッドの傾斜によるピストンの速度差。難しいから上の写真で納得してください。これは慣性トルクの写真なんですが。

ただし、270度はその角度通りピストンが左右非対称に動いてお互いを打ち消し合わないので360度と同じように大きい振動と揺れ動く振動が出ます。

もっと知りたい方は「豆知識:クロスプレーンだと何が良いのか」をどうぞ。

 

ちなみに

一次振動というのはクランクが一回転する毎に一度起こるから一次振動。お尻を突き上げたりパーツが脱落するほどの大きい振動。

二次振動というのはクランクが一回転する毎に二度起こるから二次振動。ハンドルから伝わってきたりするビリビリとした微振動。

つまり一次偶力振動もクランクが一回転する毎に一度だから一次。これは完全に消すのが基本なので感じることはほぼ無いかと。

ちなみに三次振動や四次振動などもありますが、問題となるのは二次振動まで。

 

纏めると

【360度】
大きい振動(一次振動):有
細かい振動(二次振動):有
揺する振動(一次偶力振動):無
特徴:扱いやすいけど振動が大きく回転数を上げるのが苦手

 

【180度】
大きい振動(一次振動):無
細かい振動(二次振動):有
揺する振動(一次偶力振動):有
特徴:回転で問題の一次振動が少なく回転数を上げるのが得意だけど低回転域が苦手

 

【270度】

大きい振動(一次振動):有

細かい振動(二次振動):無

揺する振動(一次偶力振動):有

特徴:数字通り380度と180度の特性を足して2で割ったような特性

二気筒クランク角

ザックリ言ってこんな感じです。大きい振動、細かい振動、揺れる振動、無くせるのはどのクランク角でも一つしかない。

ただ恐らく

「ツインに乗ってるけどそんな振動ないよ」

って思ってる人が多いかと思われます。

それはバランサーと呼ばれる振動を(反対の振動を生み出して)消す重りの付いたシャフトによって打ち消しているから。

バランサー

例えば360度や270度の場合は大きい一次振動を消すバランサー(一次バランサー)が付いてますし、180度の場合は左右に揺れ動く振動を消すバランサー(偶力バランサー)が付いているのが一般的です。

GSR250エンジン

ただしバランスシャフトは魔法のステッキではなく代償があります。クランクから動力を奪って動くわけなので出力や燃費が犠牲になるんです。

更に構造やスペース問題が複雑になることから負担やコストも増えます。

250並列二気筒180度クランクのスポーツタイプが一次偶力振動のバランサーだけで二次振動のバランサーを付けていないのもそういう理由から。深刻な振動ではないから演出の為に残している面もありますが。

 

ただそんな二気筒でもバランサーが要らない二気筒があります。

 

バンク角90度V型二気筒

VTR1000SPエンジン

燃焼間隔は並列二気筒エンジンの270度クランクと同じです。

Vツインで"クランク角"ではなく"バンク角"と言ってるのは、Vツインというのはクランク(クランクピン)が実質的に単気筒分しかなく、本来なら一つしか付けない所に二つのピストン(コンロッド)を付けてるから。だから次の角度がない。

V型2気筒エンジン

そのかわりシリンダーという燃焼室で左右に振り分けることでタイミングを変えてるからVツインはクランク角ではなくバンク角(シリンダーの開き)で表すようになってる。これがV4になるとまた二つ付ける場所が必要となりクランクピンが追加されるのでクランク角という言葉が出てきます。

V4については>>VFR400R(NC30)の系譜で少し語っていますので割愛。

 

【90度Vツイン】

大きい振動(一次振動):無

小さい振動(二次振動):無

揺する振動(一次偶力振動):無

なんと振動を生まない。※無視出来る範囲の話で直6のような完全バランスではない。

説明はもう面倒くさいので省きますが要するにバランサーは要らない(無くても大丈夫)なんです。

しかも並列二気筒のように並べなくていいからスリム。

つまり

「二気筒の最適解は90度Vツイン」

 

・・・とは、ならないんですねコレが。

並列二気筒と90度Vツイン

90度Vツインはその名の通り2つのピストンを並べなくていいけど、そのかわり90度もピストンの間を広げないといけない。

結果どうなるかというと、前後に長いエンジンとなり必然的に全長やホイールベースが伸びてしまう。そうすると少し眠いバイクになってしまうわけです。

ハーレー狭角エンジン

ちなみにハーレーなどが45度とかなり狭い角度にしているのはわざとバランスを崩して振動を発生させるためです。見た目もありますが。

 

話を戻すと、理想的なバランスを誇るけど前後が長すぎる90度Vツイン。それをなんとかしようとしたドゥカティが生み出したのが・・・

バンク角90度L型二気筒

Lツイン

90度Vツイン自体を更に90度傾けL字にして搭載することで全長を抑えるようにしたわけです。

これで万事解決・・・かと思いきや、コレをすると後ろのシリンダーが立ってしまうのでフレームや吸排気といった周囲のレイアウトに大きな制約を生んでしまう。

だからLツインは(Vツインもそうですが)基本的に整備性が悪くバイク屋は結構面倒がったり工賃が高くなったりします。それはエンジン以外の部分で前後長を可能な限り抑える事と、良くも悪くも細身のボディという限られたスペースにエンジン以外の主要部品を詰め込む必要性があるから。

 

そんな中でホンダが考え作ったユニークエンジンがバンク角52度と狭角ながら90度と同じ燃焼タイミングを持たせたVツインエンジン。

バンク角52度V型位相クランク二気筒

位相クランクVツイン

52°なのにどうやって90度と同じようにしたのかというと、一つのクランクピンに2つを付ける従来の方法ではなく、クランクウェブと呼ばれる仕切りを設け別角度に二気筒目をズラして付けてる。

90度Vツインと変わらない燃焼間隔かつ全長を短くしたVツインというわけ。NV400/500やBROS、最近ではVT750Sなどに搭載されていました。

しかしこうすると実質的に並列二気筒に近いクランク形状になるので、幅が増えクランクが重くなってしまう事と"左右に揺れ動く偶力振動"が発生してしまう。つまり狭角というスペース的有利を取る代わりに無振動とスリムいうVツインの武器を捨てた形。

砂漠の女王と呼ばれたホンダのNXRもこの方法を取りました。それだけV型の前後長というのは軽視できない問題なわけです。

 

ならばと出てくるのがモトグッツィに代表されるエンジン。

バンク角90度Y型二気筒

モトグッツィYツイン

確かに縦に積むとVツイン最大のデメリットである前後長は抑えられるしエンジンの振動はない。

ただしこうすると駆動系も90度向きを変えることになるので駆動系にシワ寄せが行く。そして何よりニーグリップ、ライダーの膝が当たらないように考慮しないといけないので必然的に後ろ乗りなバイクになってしまう。

 

最後に挙げるのはゲルマン魂が生んだ伝統の二気筒。

バンク角180度F型二気筒

BMWフラットツイン

最大のメリットはエンジンを低く積めて低重心に出来る事と一番熱くなるエンジンヘッドを効果的に冷やせること。これはY型もだけどね。

燃焼間隔は360度の等間隔。これも上で話したホンダの位相クランクVツインと同じようにピストンがそれぞれ別のクランクピンに付いてるVツインとパラツインのハイブリットのような形。

ブランドイメージから

「BMWのフラットツインは振動が少ない」

と思ってる人がチラホラいるけど、ピストンが左右それぞれ反対方向に動くので、並列二気筒の180度クランクと同様に"微振動である二次振動"と"揺れ動く偶力振動"が発生します。

だからこのフラットツインにも偶力振動を抑えるバランサーが付いてる。つまり振動だけで見ると、向きこそ違えど実は並列二気筒180度とそれほど変わらなかったり。幅が短いぶん並列二気筒よりも小さいけどね。

MT-01エンジン

そしてこれらV型・L型・Y型・F型ツイン全てに共通するデメリットとしてシリンダーやヘッド(エンジンの上半分)が2つ必要だということ。これが重量・コスト増に繋がってしまう。

 

 

もう長くなってしまったのでいい加減締めると

「たった二つの気筒を組み合わせるだけ」

なのにこれほど多彩な形が生まれたのは

「たった二つしか組み合わせる気筒数がないから」

ということです。

二気筒の種類

その結果がこの七変化。どういう組み合わせをしようが一長一短で最適解はない。

同じ気筒数でこれほど色んな形があるのは間違いなくバイクの二気筒エンジンだけでしょうね。奥が深い二気筒エンジンの世界でした。

 

 

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