山をショートカットするためにあるトンネル。日本は山だらけなこともあり世界一のトンネル技術国家とか言われていたり自負したりしていますが
「そもそもトンネルとは何か」
という説明から入るとこれにはちゃんと定義があります。
『計画された位置に所定の断面寸法をもって設けられた仕上がり断面積が2平方メートル以上の地下構造物』
となっている。※OECD(経済協力開発機構)より
その一方で曖昧なのが意外にも名前の由来。
・古代フランスの大酒樽(tonne)から
・同じく古代フランスのうずら取りの籠(tonel)から
・16世紀頃の英語で管やチューブをtonelと言うように
などが語源ではないかと言われておりハッキリしてない。ちなみに日本でトンネルという言葉が使われ始めたのは文明開化以降でそれまでは
『隧道(ずいどう)』
と言っていました。
まあ昔話はこれくらいにして本題に入りたいと思います。
1.照明は凄く考えられている
トンネルには照明機器が備え付けられているのはご存知かと思いますが、常に等間隔で全部が点いているかというとそうではなく消えていたり抜けがあったりしますよね。
これは手抜きや故障ではなく
『緩和照明』
といって本来ならば真っ暗なトンネルと外の明るさの差を緩和させるためで、中が抜けているのではなく出入り口が強烈に照らされている形。
ちなみに高速道路のトンネル出入り口などでこういう物が備えられてるのを見たことがある人も多いと思うのですが、これでトンネル入り口の明るさ(照度)を測定しています。
何故そんなことをする必要があるのかと言うと、照明が無かったり弱かったりしてトンネルの内と外で明るさに大きな差があると非常に危険だから。
もしもトンネル内が暗いと中が全く見えないブラックホール現象に見舞われるし、出る時も明るさに差があるとホワイトホール現象といって眩しくて同じように先が全く見えない状況に陥ってしまい事故を誘発してしまう。
だからトンネルの出入り口は強烈に照らしている。
また別のパターンとして高速道路のトンネルに多いんですが、歯抜けだけではなく片側の照明が全く点いていない状況になっているのを見たことがある人も多いと思います。
これも節電かと思いきやちょっと違っていて二重化するのが狙い。
こうすることで片方のラインを点検する際にもう片方で明るく保てるのはもちろん、万が一どちらかのラインが点かない等のアクシデントがあっても反対側でリカバリー出来るようにするため。
それだけトンネル内を照らすのは大事ということですが、加えて言うと単純に明るく照らしているだけではなく出入り口は配光も真下ではなく非対称照明となっている場合が多いです。
こうする事で障害物や先行車の視認性を高め事故を未然に防いでいるんですね。
あとわざわざ整備しにくい高い位置に照明を設置しているのもフリッカ対策(チラツキ防止)などなど・・・トンネルの照明っていうのはとんでもなく考えて備え付けられているという話。
2.コンクリート路面の理由は一つじゃない
道路といえば通常はアスファルトですが、トンネル内はコンクリートになっている場合が多いです。
「その理由は知ってるよ」
って人も多いと思いますが全部言える人はそうそう居ないのではなかろうか・・・そう、実はトンネルがコンクリートになっている理由はいっぱいあるんです。
『理由1:耐久年数がアスファルトの倍以上』
アスファルトの耐久性が約10年と言われているのに対しコンクリートはその倍となる20年。ただしこれは国土交通省による指標みたいなもので実際はコンクリート舗装は30年も40年も使える例もある。これは簡単に言うとコンクリートはアスファルトよりも剛性が高く変形(わだち)を生じにくいから。
そしてなぜ耐久性が重要かというとトンネルは見通しが悪いうえに迂回路などを用意するスペースがないため補修が一般道より大変だから。だからすこしでも耐久年数が高いコンクリートが好まれている。
『理由2:明るくしてくれる』
最初にも上げたようにトンネル内というのは本来ならば真っ暗で明るくしないと危険。それなのに真っ黒いアスファルトを敷いてしまうと道路が更に暗くなってしまう。
一方でコンクリートなら明白性が高い(真っ白)なので光を反射しやすく特に夜間においてトンネル内を明るくしてくれ事故を防げる。
『理由3:有毒ガスを発生させない』
コンクリートの原料が骨材(砂や砂利)なのに対し、広く使われているアスファルトは原料が石油なので加熱されると目眩や嘔吐の症状を引き起こす硫化水素を発生させる恐れがある。
空が広がる一般道路ならそれでも問題ないものの、狭い空間であるトンネルというのは換気が弱いことに加え消火活動も難しい。そんな環境で有毒ガスを発生させるような事があっては一大事になる。だから砂で出来たコンクリートが使われているという話。
「じゃあ道路はアスファルトやめて全部コンクリートにしたほうが良いのでは」
という疑問が発生するのですが、コンクリートにも弱点がある。
・舗装後すぐに走れない(硬化するのに数日かかる)
・原材料が国産で工法も難しいので(二割ほど)コスト高
・平坦性が悪くまたロードノイズがうるさい
などのデメリットがあり、特に舗装率を上げる事を重視していた日本では安いアスファルトが好まれている。
あとコンクリートは路面温度が上がりにくく、またすべり抵抗値(滑りやすさ)もアスファルトより悪いのであんまり嬉しくなかったりします。だからトンネルをかっ飛ばしたりするのは実は結構危ないのでご注意を。
3.傾斜しているのは都合が良いから
トンネルを走っていると気づかぬうちにスピードが出たり落ちたりしてる経験があると思いますが、これ何故かっていうとトンネルは基本的に傾斜しているから。
なんで傾斜しているのかというと排水の都合が良いからです。
この排水っていうのは大雨などの冠水対策も確かにあるんですが、どちらかというと掘るときの排水。というのもトンネルを掘る際に問題となるのが湧水だから。
トンネル工事は事前に徹底的な調査が行われるものの、それでも掘ってると水が出てきてしまう。その量は大きいトンネルになると一日だけで何千トン規模。
そこで考えられたのが登るように斜めに掘る方法。
こうすれば湧水が出てきても重力で勝手に外へ流れていってくれるので問題になりにくい。トンネルが傾斜しているのはこれが大きな理由。
長いトンネルが最初は上がっていたのに後半は下がる山形になっているのもこれで、工期短縮のため両側から掘るから。
だから繋げた時に山形になる。
しかしこれが当てはまらないトンネルもある・・・潜る必要がある地下トンネルや海底トンネルですね。
そのまま掘り進めていったら当然ながら湧水や漏水で水没してしまう。
じゃあこれらがどうやって作られているかと言うと
・掘った穴に予め作っておいたトンネルユニットを繋げて埋める開削工法
・それを川底や海底でやる沈埋工法
・専用の掘削機を深い地底に設置し掘らせるシールド工法
といった方法を取る。
最近は必ずしもそうとは言えないものの一般的に開削や沈埋(ちんまい)で作られたトンネルは四角で、大規模なトンネルや軟弱地盤などにはシールド工法による丸いトンネルという特徴があります。
ちなみにシールド工法というのは本体を頑丈なシールドで覆っている事から名付けられたシールドマシンという巨大な掘削機を使う工法で下水道なんかはほぼこれ。
そしてこのシールドマシンは日本が世界に誇る技術なんですが、その製造メーカーの一つがなんとあの川崎重工業。
・ドーバー海峡トンネル
・東京湾アクアライン
という誰もが知る海底トンネルは川崎重工製のシールドマシンが大活躍しました。このページで一番覚えておいて欲しいのはここだったりします。
ただしこれらのトンネルは山形には出来ないので完成後も(特に海底トンネルは)水がどんどん溜まってしまいポンプでずっと汲み上げ続ける必要がある。
実際に東京湾アクアラインや関門トンネルなどでは毎日何万トンもの海水を休みなく汲み上げて排出しており、これが止まると水没するって話。そう考えると海底トンネルってやっぱり結構無理があるというか大変なんですね。
4.古いトンネルほど上にある
トンネルには
「古いやつほど山の上、新しいやつほど山の下」
という定説というか傾向がある・・・これは掘削技術が関係しています。
日本のトンネル技術は欧州などに比べると昔(昭和時代)は少し遅れており、崩落などの事故により亡くなる人が当たり前に何十人も出る非常に危険な工事でした。
そのため
「(崩落を連想させるから)お茶漬けや卵かけご飯は食べない」
という願掛けまで誕生したんですが、技術が未熟だった事による問題は人命だけではなく工期や費用なども莫大に掛かることから
「長いトンネルを掘れない」
というのが昔は常識だった。
しかし山越えしなくていい便利なトンネルを作りたい・・・じゃあどうすればいいか。
登れるところまで登ってからトンネルを掘ればいいんですね。
昔の人達はこうやってトンネルを作っていた。山道を登った先に古いトンネルがあったりするのは大きな理由なんですが平成に入ると掘った箇所にすぐボルトを打ち込みコンクリートを吹き付けて固める
『NATM(新オーストリアトンネル工法)』
という今もなお広く使われている安定かつ掘削スピードを早く出来る優れた山岳工法が伝来。
これにより距離の問題が解消されると、トンネルとしての利便性を最大限発揮できるよう山の麓を突き通す長いトンネルを新たに掘るようになった。
だから新しいトンネルは下の方にあるという話。分かりやすいのが各地にある”新道”と”旧道”ですね。
参考文献:トンネル工法の”なぜ”を科学する|アーク出版ほか