スズキが2015年のモーターショーでEX7というターボ付きの二気筒エンジンをモーターショーに出展したことで再びターボの時代が来ると話題になりましたね。
スズキのアナウンス曰く
「中速域からトルクフルで扱いやすい今までとは違うターボ」
ということでした。これは最近クルマの方で流行ってるダウンサイジングターボというやつに近い構想かと思います。
最新のダウンサイジングターボについて調べてみると、排気量を落とす事でエンジン全体のフリクションロスを減らし燃費を向上させ、排気量ダウンにより落ちた分の力(トルク)はターボで補うという考え。
※元々750Turboの系譜に載せる予定だった考察に近い内容なのですが長くなりすぎたのでコッチに書いてます。だからちょっと重複してしまう部分がありますがご了承ください。
ターボというのは排気ガスでタービンというプロペラを回し、反対側に付いているコンプレッサーというプロペラを共回りさせ吸気された空気を圧縮する仕組み。正確に言うとコンプレッサーが先が細くなっていく経路に空気を強制的に送る事で圧縮しています。
そうすることで本来なら1000ccしか吸えないエンジンが、(1000ccまで圧縮された)1500cc分の空気を吸えて1500cc並の燃料を吹いて燃焼出来るからパワーが出せる。ただ勘違いされがちですがターボの燃費が悪いのはこのクラス以上の燃料を吹いてるからではありません。
このダウンサイジングターボはVWが最初に思いついたようですが、これを実現できたのはターボの課題だった”ノッキング”と”ターボラグ”の大幅な改善に成功した事が大きいです。
ターボ問題その1:ノッキング(自然着火)
空気は圧縮されるほど熱を持つ性質があるのでターボで圧縮すると熱くなる。だからターボで圧縮された空気は一度インタークーラーと呼ばれる部分で冷やすんだけど、最後の燃焼時には更にピストンで圧縮するわけなので凄い熱になる。
するとプラグによる点火を待たず勝手に着火してしまう。これがノッキングの原因で、重ねて言いますが圧縮された空気を更に圧縮するターボはノッキングが起こりやすい。
最悪の場合エンジンを壊してしまう恐れのあるノッキングですが、これを避ける方法は主に二つあります。
一つはガソリンを大量に吹くこと。
ガソリンによる気化潜熱(液体が気体に変わるときに周りから奪う事)を利用するため大量にガソリンを吹く。ターボの燃費が悪い理由はコレです。
そしてもう一つはノッキングが起こらない程度まで圧縮比を下げること。
圧縮比というのはガソリンと空気の混合気をどれだけ圧縮して点火させるかという数値で、エンジンの性能を見る一つのバロメーターでもあります。
例えば先に取り上げた750turboを例に上げると、ベースとなったZ750FXの圧縮比が9(1/9まで圧縮)なのに対し750turboは7.8(1/7.8まで圧縮)と圧縮比をかなり落とされてる。
こうすることでノッキングを回避してるわけです。昔のターボ車はだいたいコレくらいの圧縮比。
ただし圧縮比を落とすということは仕事量、つまり取り出せるトルクも落ちるということ。
昔のドッカンターボ車が
「ターボが掛かるまでは遅くてダルい」
とか言われるのはこれが主な理由。ターボが掛かるまでは効率の悪いポンコツエンジンなわけです。
ターボ車にハイオク指定が多いのはハイオクが自然着火し難い(対ノッキング性が高い)燃料だから。
ちなみにスーパースポーツなど高性能バイクがターボじゃないのにハイオク指定なのも、トルク(仕事量)を稼ぐため圧縮比を(13前後と)凄く高くしてるからです。
念のために言っていきますが今のエンジンはリタードといって点火時期を遅角(実質的な低圧縮比)させる自己防衛機能がありますので、高圧縮比だからといってノッキングによるエンジンブローを心配する必要はありません。
さて、じゃあダウンサイジングターボ車の圧縮比はどうなってるのか見ると”10″もあります。従来のターボ車の圧縮比が8弱なのを考えるとかなり高いですね。
これが可能となったのは超高圧で燃料を燃焼室に直接噴射する直噴FIシステムの寄与が大きいです。
熱い燃焼室に直接ガソリンを噴射することで先に言った気化潜熱の効果を高めることができ、圧縮比を大きく上げることが可能になった。
吸気中にガソリンを吹き、圧縮中(点火寸前)にもう一度ガソリンを吹くという面白い出し方をしてる場合もあります。
さすがに自然吸気エンジンほどの圧縮比は難しいですが、これでターボ車の低圧縮比問題は改善しました。
ターボ問題その2:ターボラグ
コレについては可変範囲広く中間ロックが可能となったVVT(可変バルブ)が大きく貢献。
ターボは吸気を圧縮して送る事から吸気側が排気側よりも高圧になる特性がある。これを利用して排気が弱い低回転域では吸排気バルブのオーバーラップ(両方開いているタイミング)を大きく取って、排気ガスを差圧によるスカベンジング(掃気効果)で積極的に追い出す事で排気を稼いでる。
排気(流速)を稼げるということはそれだけタービンも回りやすくなる。BOSCHによると、こうすることで低域でのターボ効果によるトルクが50%も増えるそうです。
アトキンソンサイクルにする為のVVTでもありますし、他にもウェイストゲートバルブが電動式になった事もありますがもうシンドいので割愛します。
つまりスペースやコストの問題を無視した場合
・圧縮比を高める為の高圧直噴FI
・低域での排気流速を稼げる可変バルブ
この二つを取り入れればバイクでも全く違和感の無いダウンサイジングターボは可能と思われます・・・思われますが、バイクに合ってるかというと多分合ってない。
スズキがターボコンセプトを出した時に
「次期ハヤブサはターボに!!」
みたいな煽る記事やコメントが多く見受けられたんですが、恐らく無いと思います。
ターボというと多くの人が「一クラス上の動力性能」という認識かと。400が600並に、600なら750並に、1300なら・・・などなど夢が広がりますね。
しかしながら今流行っているダウンサイジングターボというのはそのイメージとは全く違うんです。分かりやすいのが軽自動車のターボエンジン。
これはホンダの軽自動車Nシリーズの物。左がNA(自然吸気)、右がターボモデル。
トルクカーブを見てもらうと分かる通り、ターボモデルは低回転域から強靭なトルクを発生させている一方、高回転になるとガクッと落ち最高出力(最高馬力)はNAとそんなに変わらない。
これが何故かと言うとターボが効いてないからです。何でターボ効いていないのかって言うと、ダウンサイジングターボというのは弱い排気でも簡単に回る小さいターボ(小さいタービン)を積むことが大前提だから。
簡単に回る=低回転域からターボが効く。しかし一方で小さいターボ(タービン)というのは仕事量の限界も低く、高回転で勢いよく出てくる排気を捌ききれなくなる。
そうなると排気の邪魔をする足枷にしかならないので、上で言った”高圧な吸気側”と”低圧な排気側”の差圧による掃気効果が逆転してしまい、熱い排気ガスが燃焼室から抜けきらず残留ガスとして残り、次の圧縮でノッキング(自己着火)を起こしてしまうからNAに比べエンジンの回転数を上げる事が出来なくなる。
最先端過給テクノロジーの詰まったカワサキのH2が排気で動くターボチャージャーでなく、クランク動力で動く過給圧が低いスーパーチャージャーを採用したのは応対速度に遅れが出るターボラグもだけど、この抜けが悪くなる排圧問題もあったかと。
スーパーチャージャーなら排気回りは基本的に自然吸気エンジンと同じだからターボだと使えない排気脈動という排気を促進する掃気効果を活用できる。
じゃあ大きいターボ(タービン)を積めばいいと思われるかもしれませんが、大きいタービンだと簡単には回らないのでドッカンターボになる。直線番長ならいいかもしれませんがスポーツ走行は難しい。
それにどう足掻いても圧縮比はNAよりも落とさないといけないので、常用域における燃費やレスポンスがガタ落ちします。
最近はツインスクロールターボといって排気の道を太い一本ではなく細い二本に分割することで排気干渉を防ぎ排気流速を稼ぐターボが出てきていますが、結局コレも回るのは小さいタービンだから多少の改善こそあれど下から上までフルブーストとはいかない。
しかも排気経路を二つ用意する必要があるからコストとスペースの問題が大きい。
他にはツインターボといって大きいターボと小さいターボの両方を積んで使い分けるタイプもありますが、これはツインスクロールの比じゃないコストとスペースそして重量の問題が出る。今時これを積んでるのは高級車やスーパーカーくらい。
結局のところ一般的なターボがいう”ワンクラス上の動力性能”というのはターボが効いている美味しい領域での話であって、それはターボが効かない領域の犠牲の上に成り立ってる事。
極論するとダウンサイジングターボというのは低捨高取だったのが、低取高捨になっただけの話・・・というと怒られるかな。
あとバイクの場合はCVTやATが基本の車と違い、MTが基本なのでその制御問題もあります。シフトチェンジのタイミングは十人十色だから。
いい加減まとめると
ダウンサイジングターボバイクは可能。でも中低域のトルクが大事なクルーザーやビジネスバイクには向いているけど、馬力が求められるスポーツバイクには向いていない。
つまりダウンサイジングターボは夢じゃないけど、夢のようなターボでもないということ。
タコメーターが8000rpmまでしか刻まれておらず、高回転が美味しくないのにNAより割高なハヤブサなんて誰も欲しくないでしょ。