バイクというのはシンメトリー(左右対称)に見えて実はアシンメトリー(左右非対称)に出来ています。
最も分かりやすいのがマフラーで、基本的にマフラーは右側にあるのが一般的ですよね。
これは騒音規制の測定時にチェーンなどが発するメカニカルノイズをなるべく拾わないようにするためと、マスの集中化やバンク角の確保のためにマフラーは出来るだけ車体に寄せたいから。
車体に寄せようとなった時に、チェーンやシャフトなどのドライブラインがあると車体に寄せられない。だからドライブラインとマフラーは左右に振り分けられる様になっている。
これは最終的に真ん中に出ているセンターアップマフラーでもそう。
必ずと言っていいほどチェーンとは逆の右側を沿わせるよう設計されています。
ちなみに二本出しマフラーも一見シンメトリーに見えるけどよく見てみると・・・
このように左右のクリアランスは同じではないので、シンメトリーに見せるため右側を少し離して付けていたりします。
でもこれでは説明不足かと。
「それなら左右反対でもいいのでは」
と思いますよね。
これは簡単な話で、バイクを押す時は左側から押すから。
左から押すのに左に熱いマフラーがあったら火傷する危険性が高まるし、何よりチェーンの比じゃない大きさだから身体を寄せないといけない押し引きの時に邪魔になる。だからマフラーが右側となっているんです。
ちなみに似た形の自転車ではバイクを作っているヤマハですらチェーンはバイクと反対に右側が基本。
これは自転車にはマフラーが無く、邪魔になるのはチェーンだけだから。
話をバイクに戻すと、その弊害と言うべきか一本出しマフラーのカタログ写真はマフラーのある右側から撮ったものがほとんどです。
反対に左側から撮ったジャケット写真というのは意外と少ない。これは左側はマフラーが無いぶん絵的に寂しいから。
そしてこれはオーナーが撮る愛車の写真も同様の傾向があります。
大体こんな3パターン。
左側からのアングルはボリューム満点な二本出しマフラーじゃないとなかなかサマにならない。
ただし実際は二本出しマフラーのオーナーですら、この左後ろ45度の十八番アングルではなく右側から撮った写真ばかりなのが現実。
その理由はこれまた左右非対称に付いている物・・・サイドスタンドが原因です。
サイドスタンドは必ずと言っていいほど左側についているので、停めると左に傾く。
そして左に傾いている物を左から綺麗に撮るのは難しい。反対に右側なら自然と胸を張っているように見えて綺麗に撮れるから、右側からばかり撮ってしまう。
これが次のお題。
「何故サイドスタンドは左側なのか」
という事。
左側通行だからと思っている人が居ますが違います。右側通行の国もサイドスタンドは左側にあるのが基本。
これには乗馬の歴史が関係しています。
馬に乗る時はどの国でも左側から乗るように教わります。
これは乗馬の際に外側の手綱と馬を引き寄せる必要があり、当然ながら利き手で外側を引き寄せた方が引き寄せやすいから。
そして右利きの人が圧倒的に多いから左から乗るというのが常識となった。
これは
でも話した軸足も関係しています。
右利きが多いということは軸足は左が多いとも言えるわけで、先ず足を入れて踏ん張る鐙(あぶみ)に軸足の左を入れ、利き足の右で大きく跨ぐのが跨ぎやすいから。
ただしこの左側から乗るスタイルは英国式と言われ、日本は右側から乗っていたとされています。
これは絵巻物などから
「甲冑や刀の影響で平安時代からそうだった」
という説が有力なんですが、20年ほど前に姫塚古墳(千葉県)から発掘された馬型埴輪を復元したところ、右の鐙(あぶみ)の方が足を引っ掛けやすいように長くなっていた事から
「古墳時代から右乗りだった」
という説もある。
更に言うと文献で馬形埴輪の後部には女性が乗れる様に横向きの土台が付いていたとのこと・・・つまり
”耳をすませば”などでも有名なこの嫁入りタンデムは古墳時代からあった文化だった可能性がある。
ただ明治に入り廃刀令が布告され、甲冑も刀も身に着けなくなった事から日本も左から乗るようになりました。
話をバイクに戻すと、要するにサイドスタンドが左側に付いていて左に傾くようになっているのは、乗馬の流れを受けているから。
これは断定出来るような物証が無いので、あくまでも説ですが現時点でこれより有力な説は出てきていません。
最後にもう一つ左右非対称なもの・・・それは右側に付いているリアブレーキペダルと、左側に付いているシフトペダル。
1940年頃まではシフトチェンジといえば車と同じように手でノブを操作するハンドシフトがメジャーでした。
しかし1950年代に入ると広く普及し始めた事でレースやスポーツが盛んになり、ハンドルから手を離す必要があるハンドシフトは危険な上にタイムロスになるという事でフットシフトに移行。
当然ながら前例がないので
「右シフト派のイギリス組vs左シフト派のドイツ組」
という形で二分化しました。
では一体どうして左シフトが主流になったのかというと、実はこれ日本メーカーの影響なんです。
ホンダを筆頭に日本メーカーはイギリス式を模範としていたメグロを除き、左シフト&右リアブレーキを採用していた。
そしてレースで猛威を奮ったことで高性能の代名詞が英国車ではなく日本車に変わり人気が出た事と、模範されるようになった事から、左シフト派が圧倒的なシェアと支持を獲得し、右シフト派は廃れていったというわけ。
どうして日本メーカーが左シフト派だったのかについてはハッキリしていませんが
「左足を着くのに左足でブレーキをしていたら忙しくて危ないから」
という説が有力です。
「カブがそうだったから」
という説もあります。
最後に
マフラーが乗り降りしない側にあるから火傷の恐れもない。
サイドスタンドで歩道側に傾いてくれるから安全に乗り降り出来る。
フットブレーキが右だから余裕を持って左足を付ける。
このように左右非対称になっている部分には理由があるわけですが、車のように右ハンドル左ハンドルといった作りわけが無いバイクは日本メーカーの成功もあって
「左側通行に便利な非対称構造をしている」
と言えるわけです。
ちなみにイギリス以外の欧州も昔は右側通行ではなく左側通行でした。
ではどうして左側通行から右側通行へ変わってしまったのかというと・・・
「この人が左利きだったから」
と言われています。