これは四輪でも言えることなんですが日本車(日本メーカー)が世界中で売れる様になった理由は高性能やリーズナブルさも勿論ありますが一番は
『故障しない』
という事だと思いますが、では
「どうして日本メーカーはそこまで信頼性を重視したのか」
というと、これは一重に世界的に見てお金持ちが多いアメリカで売るためと言えます。
「アメリカと故障に何の関係が」
と思われるかも知れませんが、これに関するエピソードが幾つかあるので紹介します。
アメリカで一番早く成功したバイクメーカーといえば世界一であり故障知らずな事もあって優等生と言われるホンダですが、そんなホンダは1959年にアメリカに進出。
カブを足がかりに快進撃を始めたのですが・・・実は最初はカブを売っていないんです。
最初はCB92やベンリィなど小排気量(当時のホンダとしては最高クラスの)スポーツバイクのみの販売でした。
カブを扱わなかった理由はアメリカ人には排気量が小さすぎる事などから
「ブランドイメージを損なう」
と本田宗一郎が考えたから。
この頃の宗一郎というのは大型バイクを重視していた頃。アメリカではスーパースポーツメーカーとして売り出したかったんでしょうね。
しかしここで問題が起きます・・・なんと自慢の商品だった上記車種の故障が続出するというホンダらしからぬ大失態を招いたんです。
この原因はアメリカの環境が日本と違っていたことにあります。
アメリカはどこまでも真っ直ぐな長い道が多い。
つまり長距離をブンブン回しながら走る、常に最高速アタックをする様な環境だったからバイクが持たなかったんです。
この一件でホンダは参入と同時に
「アメリカで売れるバイクがない」
という窮地に。
そんな中でアメリカホンダのバイアーだったシアーズという企業が従業員用に配られていたスーパーカブC100を見て
「アレ(スーパーカブ)を売れよ」
と持ちかけて来た。
最初に言ったようにホンダは売るつもりはなかったものの、相次ぐ故障で売れるバイクがなくなってしまい背に腹は変えられないという事でスーパーカブの販売を進出から8ヶ月後に販売開始。
皆さんご存知のようにその耐久性の高さからアメリカの中流層にそれまで存在しなかった下駄車という文化を根付かせるほどの大ヒットに。
そこから更にリピーターが生まれホンダは一気にシェアを拡大していく事となりました。
※リチャード・パスカル「ジャパニーズ・マネジメント-日本的経営に学ぶ」より
そしてもう一つ紹介したいのが同じく日本を代表するバイクメーカーであるスズキ、正しくは鈴木修会長の自伝「俺は中小企業のおやじ」のエピソード。
スズキもホンダに少し遅れる形でアメリカに進出し1967年に『X-6 HUSTLER』というバイクの輸出を始めたところ、これが非常に人気で一年で2万台近く売れる日本では考えられないアメリカだからこそ実現した大ヒットとなりました。
ところが・・・これまたホンダと同じ様に二年目になると
「ミッションが簡単に壊れる」
というクレームが相次ぎ修理や返品の嵐になった。
当時USスズキに所存していた鈴木修会長は急いで日本の本社へ電話し故障の旨を伝えたところ
「そんな故障は(日本では)無い。何かの間違いだろう。」
と突っぱねられて話が進まず。
そこで鈴木会長は横内さん(刀やRG250ΓやGSX-Rの生みの親)をアメリカに呼び寄せ調査させたところ問題が判明。
『クラッチを切らずに蹴るように入れる横暴なシフトチェンジ』
が原因だったんです。
そりゃ壊れるわって話。自動遠心クラッチのカブが壊れず好評だったのも納得ですね。
ちなみにこの一件でUSスズキは大赤字となり鈴木会長は責任を取るために辞表を提出。引き止められたものの浜松本社へ戻る事は許されず支局へ異動、事実上の降格&左遷となりました。
話を戻します。
要するにこれらのエピソードからも分かる通り、日本車がどうしてこれほどまでに故障知らずになったのかというとアメリカで売っても大丈夫な様にするため。
もっと突っ込んで言うと
「アメリカ人が運転しても壊れないように作るようになったから」
国が広大なせいか向こうの人は本当に故障を嫌うらしく、四輪の方ですがドイツ車(ポルシェは除く)がアメリカで人気が無いのも壊れるからなんだそう。
「じゃあお前のところのハーレーは何なんだ」
と言いたくもなりますが・・・層が違うか。
兎にも角にもアメリカ人が運転して壊れないということは世界中どこの国の人が運転しても壊れない。
こうして世界中どこで売っても
「日本車は壊れない」
という評価になったという話。
良く言えばアメリカ人に鍛えられたと言えなくもないんですが、免許取得が先進国にあるまじき簡易さな事やカーチェイスが人気な事からも察せる通りアメリカは本当に運転が荒い人が多い。
ここで思い出したのが10年ほど前にスズキがGSX-R1000で行ったリコール。
「海外(米国)でウィリーし過ぎるとフレームにクラックが入ることが判明したのでリコールします」
日本車を信頼してるのはありがたいけどもう少し大切に扱えっていう。
最新のeクラッチに至るまでホンダはスポーツバイクのAT化に執着し続けていますが、この問題も理由の一つなんでしょうねぇ。