四輪を知っているなら一度は聞いたことがあるであろうチューニングメーカーのMUGEN。
正確に言うと現在は2003年頃に法人税に関するゴタゴタで『(株)M-TEC』という会社がMUGENブランドを担っている形なんですが、MUGENは三度の飯よりレースエンジン設計が好きで後に四代目ホンダ社長にもなる川本さん(右から二番目)が宗一郎の長男である本田博敏さんらと共同でレース開発部門がわりに創設したのが始まり。
動機はレースから一歩引くホンダの経営方針に納得出来なかったから。つまり端的に言うとホンダ社内のレース狂エンジニア達の放課後クラブ的な立ち位置でスタートした会社というわけ。
そうして1973年創設と同時にFJ1300という日本フォーミュラレース用にシビックの1.3LをベースにしたMF318というエンジンを開発。
これを皮切りにGTやフォーミュラなどで活躍していきます。
そのためどうしても四輪系チューニングメーカーというイメージが強いかと思いますが、バイクも色々やってますのでそれを少し紹介。
バイクにとっての始まりは創設から3年後となる1976年。
ヤマハファクトリーで全日本モトクロス選手権のタイトルを獲得した鈴木秀明さんがヤマハを退職し、新しいチームを模索する中でMUGEN(正確には本田博俊)に働きかけたのが始まり。
鈴木秀明さんからのラブコールに無限が応えたのが始まりなんですが、実際に無限が用意できたのはファクトリーマシンではなく市販モトクロッサーであるCRM125M。
プロトタイプのファクトリーマシンが当たり前な世界では無謀とも言えるマシンだったんですが、しかし鈴木秀明とタッグを組み二人三脚でマシンを仕上げただけではなく見事1976年(一年目)の全日本モトクロスGPで総合優勝という快挙を達成。
「もう一つのワークス」
と言われ、また翌年からは他のライダーへのマシン供給やパワーアップキットの販売も開始。
1979年頃になるとホンダがモトクロスレース活動を本格的に再開した事もありワークス代わりという役割を終えるわけですが、そのワークスマシンにはMUGENの開発技術が大きく取り入れられておりMUGENキットを組み込んだ自身のマシンも大健闘。
その勢いは留まるところを知らず1980年にはあの世界モトクロスGP125で無限のME125Wが見事に優勝しています。
その後も約16年間に渡りモトクロスレースを戦うだけではなく、レーサー育成に重点を起いた活動やパワーアップキットやコンプリートマシンなどレースの敷居を下げる事に尽力していました。
MUGENとバイクの関係性があまり認知されていないのは国内ではマイナーなモトクロスが基本だったからというわけなんですが、一応オンロードの方でも活動しています。
代表的なのが1984年に鈴鹿8耐に向けてムーンクラフトとチーム生沢と協力しCBX750Fレーサーを製作したマシン。
『White Bull(ホワイトブル)』
二年連続で参戦し一時は6位を走行したりするほどの大健闘。ちなみに第一ライダーはマン島TTで通算26勝を上げ銅像まで建てられた欧州で最も有名なライダーであるジョイ・ダンロップというライダーもエンジニアも凄い人達が集結したチームでした。
そこから少し飛んで2001年になるとこんなモデルも販売。
「FTRじゃん」
と思われるかも知れませんが、FTRではなくXR250のエンジンをオリジナルフレームに搭載したMFT250という無限オリジナルモデル。
これは既に生産終了されていたもののダートレースのエントリー車両として需要があったFTRが、いわゆるストリートバイクブームによる高騰のせいで購入できない事態に発展した事が由来。
育成に力を入れていた無限としては看過できない問題だとして用意したんですね。
ただこの後すぐに量産効果により比べ物にならないほど安かったFTRが復活した為、100万円近い値段で公道も走れないMFT250はお役御免となりました。
そこから先はご存知の方も多いと思いますがRRの無限仕様などチューニングというより無限カスタムパーツやそのコンプリートマシンを展開。
今もホンダ車全般で扱っていたりしますので気になる方は無限のホームページかホンダドリームをどうぞ。
ちなみに正規販売されていなかったVFR-Xを無限仕様として販売など逆輸入車取り扱い的な事もやっていましたね。
少し話を巻き戻しますが、次に紹介したいのが1998年に製作したエンジン。
『MRV1000(エンジンのみ)』
・空冷OHVバンク角70°ドライサンプ式
・955cc(89mm×80mm)
・51ps/5000rpm
今では平気で1億円する幻のイギリスバイクであるヴィンセントブラックシャドウに近い、MUGENが開発したとは思えないノスタルジック臭プンプンのエンジン。
何故MUGENはこんなエンジンを造ったのかと言うと、本田博敏さんや永松邦臣さん(ホンダ出身の二輪も四輪もこなしたプロレーサー)らが
「スチームパンクな味のあるバイクを造りたいね」
と意気投合したから。
そうして1996年からF3やGT選手権の合間をぬって開発し出来上がったのがこの
『MRV(Mugen Racing V-twin)』
というエンジン。
ただしこれを製作したエンジニアの勝間田さんいわくレースエンジンと同じ要領で開発してしまったためコストがとんでもないことになり試作エンジンが完成した時点で開発中止が決定しお蔵入り。
「じゃあこの超カッコイイ完成車はなんだ」
という話なんですが、これは企画者の一人である永松さんが2000年のマン島TTクラシックに出場するために製作されたもの。
恐らくこの世に数台というか恐らく一台しか無い。
しかしそれから約20年後となる2018年の東京モーターショーに1400cc化とミッション別体式にリファインされまさかの復活。
さらに驚くべきことに今回はスタディモデル(試作機)としながらも2020年の販売を目指しているとの事。
ただし前回同様エンジン単体のみの予定で、全体像をどう纏めるかはフレームビルダー達にお任せというスタンス。
奇しくも2018年にエグリという過去にヴィンセントエンジンのレーサー
『エグリ・ヴィンセント』
を造って有名になったフレーム屋(スイス版ビモータのような存在)が復活してるんですよね。
そう考えるとエグリヴィンセントならぬエグリ無限が世に出る可能性も無きにしもあらず・・・ただ庶民が買える値段じゃなくなる可能性も高いですが。
ちなみにMRV1000による2000年マン島クラシックTTへの挑戦に触発されて始めたのがこれ。
『神電(shinden)』
マン島TTレースのZEROクラス(CO2ゼロクラス)向けのEVスーパースポーツ。
無類の速さで6連覇を達成しました・・・が、残念ながら2019年をもって活動を中止するとの事。
ただし代わりと言ってはなんですが2017年から『E.REX』というEVモトクロッサーの製作を進めています。
MUGENがモトクロッサーを造る理由、そしてEVにする理由は長々と書いてきた歴史を見ればもはや説明する必要は無いですよね。
『モトクロッサーと神電というMUGENが持つ技術の融合』
それがこのE.REXというわけ。もしかしたら昔みたいにモトクロス競技でワークス顔負けの時代が再び訪れるかも知れない。