ショートストロークとロングストロークの違い

ロングストロークとショートストローク

バイクは燃費が良くてエコな乗り物なのは誰でも知ってると思います。

趣味の大型バイクでも実測で20km/Lなんて当たり前・・・なんて言うと

「リッター20なんていかないよ!嘘つかないで!」

と高馬力バイクの典型であるスーパースポーツに乗ってるオーナー等から怒られそうですね。SSは燃費悪いですから。

なぜSSというか馬力が高いバイクほど燃費が悪くなるのかというと、エンジンのスペックを決める最も重要な部分であるボアストロークの比率がショートストローク寄りだからです。

ロングストロークとショートストローク

ショートストロークエンジンというのはボア(シリンダーの内径)がストローク(上下する行程)の長さより大きいエンジンの事。

逆にストロークの方がボアの大きい(長い)エンジンの事をロングストロークエンジン、同じ長さの場合はスクエアと言います。

ロングストロークになるほど燃費と低速トルクが良くなるけど馬力が低くなる。

ショートストロークになるほど燃費も低速トルクも悪くなるけど馬力が高くなる。

ここまでは何となく知ってる人も多いかと。

どうしてショートストロークとロングストロークでこんなに違いが生まれるのかというと、馬力とトルクの違いにも繋がる話なんですが・・・

クランク

馬力とトルクって何ぞやって人も居るかと思います。馬力というのは簡単に表すと

「馬力=トルク×(クランクの)回転数」

で求められる・・・って言っても分からないですよね。まあ別に分からなくても何も困らないので大丈夫です。ただこの式をアタマに入れてください。

つまり馬力というのはトルクと回転数という要素を倍々で掛け合わせて出していくのですが、ロングストロークエンジンはショートストロークエンジンほど回転数を上げることが得意ではないので必然的に馬力を上げ辛くなる。

なんでロングストロークは回転数を上げられないかというとバルブという燃焼室の入り口が狭い事が原因。緑の丸がそうです。

ロングストロークとショートストローク

回転数が上がるということはバルブの開閉時間(吸排気時間)も短くなっていくので、バルブの口が狭いロングストロークでは吸排気が間に合わなくなる。

人間で例えるなら、ショートストロークが浅い呼吸なのに対しロングストロークは深呼吸。深呼吸を早く出来る人間なんていませんよね。

そしてもう一つ理由があります。それはその名の通りストロークが長いから。

コンロッド

ストロークが長いという事は上下するピストンスピードが速いという事で、その負荷にコンロッドが耐えきれず壊れてしまうんです。

逆にショートストロークエンジンはバルブ口も広く、ストローク量も浅く、ピストンスピードが遅いので

「回転数を上げられる=馬力を上げられる」

というわけ。

FI

これだけ聞くとショートストロークエンジンの方が勝っているように感じるけどもちろん違います。これらはあくまでも馬力を上げるとなった時の話。

最初に言った通りショートストロークなら馬力は稼げるけどロングストロークほど低速トルクを稼げません。

これは呼吸が浅い(低回転時の充填効率が悪い)事もありますが、いま言ったピストンの速さそれに燃焼室の広さが関係しています。

燃焼速度

エンジンはガソリンを燃やして発生した膨張圧力でピストンを押し下げる事(これがトルク)によりクランクを回して走るわけですが、燃焼によって生まれたエネルギーが100%ピストンを押し下げる圧力になるかというとそうではなく30%ほどしか使えていません。

残りの70%は何処に行ってるのかというと

・燃焼時に熱となって逃げてしまう冷却損失が30%

・排気ガスとして出てしまう圧力や熱の排気損失が30%

・機械同士の摩擦による機械損失が10%

大まかに分けてこうなっていて約70%も無駄にしてるわけです。

排気損失

“燃焼効率”というのはこれらの割合の事で、この70%のロスを1%でも減らし可能な限りピストンを押し下げる圧力にする事に何処のメーカーも血眼なのが現状です。それが燃焼効率を改善することが燃費にもトルクアップにも繋がるからですね。

そしてこのページでフォーカスを当てるのは熱として逃げてしまう冷却損失の部分。

冷却損失というのはガソリンを燃やした時にエンジン(ヘッド・シリンダーピストン)やオイルやウォータージャケット(冷却水)へ熱として逃げてしまう損失の事。

エンジン触ると熱いですよね。アレが冷却損失です。もったいない話ですがどうしようもない。

熱損失

「熱を逃さないようにすればいいのでは?」

と思うかもしれないけどそうするとエンジンが高温になりすぎてノッキング(自然発火による異常燃焼)、吸気温度上昇による体積効率(密度)の低下によるパワーダウン、内部への熱ダメージなどなど・・・いわゆる熱ダレ、オーバーヒートを起こしてしまう。

そんな冷却損失ですが、これもショートストロークとロングストロークで大きく変わってくるんです。

ショートストロークエンジンというのはビッグボア、径が大きいのでシリンダーの表面積(外径)も大きい。

ボア径による違い

つまりそれだけ熱として壁を伝って逃げる割合も大きい。更にショートストロークは文字通り

「ストロークが短い=ピストンが上下するピストンスピードが遅い」

ので更に損失が大きくなる。

そしてもう一つあります。それは燃焼伝播の問題。燃焼伝播というのは要するに混合気の燃え広がる速さです。

ロングストロークとショートストローク

表面積が大きいと端の方まで燃えるのに時間がかかる。ただでさえストローク量が短いのにチンタラ燃え広がるからピストンを押し下げる圧力(トルク)を稼げない。これが下スカスカと言われる原因。

じゃあなんでショートストロークエンジンが高回転になるとトルクを稼げてるかというと、ザックリ言って高回転になると流速が増し乱流(火炎を掻き回す気流)が発生するからです。

・・・低速トルクの大事さを書こうと思ったのですがショートストロークとロングストロークの説明になって少しボヤけてしまいました。

まあとにかくロングストロークとショートストロークそれぞれ得意不得意があるという事です。天は二物を与えずとはよく言ったものです。

余談ですがバイクのエンジンは燃費特化のスクーターや一部の車種を除くと基本的にショートストロークエンジンがほぼすべてを占めています。

CB1300エンジン

一見ロングストロークっぽく見えるCB1300でもボア78.0 × ストローク67.2とショートストロークエンジン。SR400ですらショートストロークです。

これはバイクの車重が軽く低速トルク(蹴る力)がそれほど要らないから。逆に車は重い上に燃費最優先なので低速トルクを稼げて熱を垂れ流しにくいロングストロークが大半。バイクとクルマの回転数がかけ離れてるのはこういったことから。

つまり最初に言った”バイクは低燃費でエコ”と言うのはエンジンが低燃費だからというよりも車重が軽いからで、内燃機関としてだけで見るとバイクはそれほどエコではなかったりする。

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