ECU(またはECM)という部品の名前を聞いたことがあると思います。ちなみに上の写真のECUはHAYABUSAの物。
正式名称はエンジン・コントロール・ユニット(またはモジュール)。人間で言う脳みたいな部品で、防水ケースの中は基盤が入っておりCPUやRAMやROMが載っています。
サイズも容量も肥大化の一途を辿っており、昔は8bit/256KB程度だったのが今や32bitで容量も大きいものだと50MB以上に膨れ上がっているとか。
何故肥大化しているのかといえば偏にECUの仕事が増えているからです。
ECUの仕事といえばエンジンを動かす事で、行程の始まりから終わりまで各部に目を光らせながら制御している・・・・といってもECUには目も耳もない。
じゃあ何処でどうやって監視しているのかというと、目の代わりにセンサーを各部に張り巡らせているわけです。
まず一番最初に置かれているのはエアクリーナーボックスにある気温を測る吸気温度センサー。
こういう物がボックス内から顔出しているのを見たことがある人も多いのではないでしょうか。
これで温度を測っています。
一部の高性能バイクにはエアクリーナーボックス内に気圧の変化を監視する大気圧センサーも付いています。
そして次にあるのはどのくらい空気を吸い込む口を開くのか決めるスロットルボディ。
スロットルバルブの開度を測るセンサーが付いておりECUがどれくらい開いているのか監視しています。昨今の俗に言う電子スロットルの場合は開度もECUがモーターで制御していますね。
そして次にあるセンサーが吸気圧センサー。
エンジンが一体どれほど空気を吸っているのかを測っているセンサーです。
インテーク内スロットルバルブの奥にあります。
こんな付けなくても大して問題なさそうですがとっても大事な部品。
そして次にあるセンサーが
「エンジンがいま何番が何度でどの位の速さなのか」
を測っているクランクセンサーとカムセンサー。
エンジンの回転数がメーターに表示され、皆が知る事が出来るのもこのセンサーのおかげ。
さて・・・どうしてそんなあちこち測る必要があるのかというと、FI(電子制御式燃料噴射装置)で燃料をどれくらい吹くのが最適か計算するため。
FIは加圧でガソリンを吹くタイプなので、負圧で燃料を持って行かせていたキャブと違い自分で調整して吹かないといけない難しさがあります。
ちなみに加圧するためにガソリンを押し込む燃料ポンプが必須。
キーをオンにした瞬間
「ウィーン・・・ボコボコ」
と鳴っているのはECUが燃料ポンプの動作チェックと、急いでガソリンをFIまで押し流している音。
まとめると
・吸気圧センサー
・気温センサー
・スロットルセンサー
・クランク/カムセンサー
主にこれらを元に基本燃料噴射量を決めています。
この方式をスピード・デンシティ(Dジェトロ)式と言います。バイクは基本的にこれ。
クルマは違います。クルマはエアフローセンサーという物がスロットルボディの手前辺りに設置されており、そのセンサーを通った空気の量から導き出すマスフロー(Lジェトロ)式が一般的。
空洞内部に熱くしたワイヤーを張っており、吸気の風に奪われた熱量から風量を導き出しています。
簡単に言うとバイクは予測型、クルマは実測型という感じで正確なのはもちろんクルマのマスフロー(実測型)の方。
「何故バイクはスピード・デンシティ(予測型)なのか」
というと障害物(エアフローセンサー)が無い事による空気抵抗の少さと、構造がシンプルな事で応対速度が速くレスポンスが良いから。最近はスロットルスピードといってスロットル開度から燃料噴射量を決める方式もあります。
そのかわりどちらも予測型なので環境変化への応用力が乏しい。だから再チェックするためにO2センサー(オキシジェンセンサー)が付いている。
ザックリ言うと
「本当にその燃料と点火タイミングで正解か」
を測って見直す為に排ガス中の酸素濃度を測っています。
これも見たことある人は多いでしょう。
外すとECUが怒ります。
エンジンを動かす上で大事になるセンサーは主にこれら。
既に結構長くなってしまったのでエンジンに付いてる残りのセンサーはまとめて紹介します。
例えばエンジンを掛けると勝手に暖気(ファーストアイドル)を始めてくれるのは水温や油温センサーがあるから。
温度を測り、暖気が必要(ガソリンの蒸発性が悪い)と判断して燃料を多めに吹いているんです。ちなみにオーバーヒートもだいたい同じで燃料を大量に吹いて冷まそうとします。
もう一つのノックセンサーは文字通りノッキングを起こさせない(抑える)為のセンサーで、ノッキングの振動を検知するとリタード(点火を遅らせて圧縮比を下げる)制御を行います。点火が遅くなるので体感できるほどトルクが落ちます。
これらはFI化された大型バイクならほぼ当てはまる内容。
ただ最近は小排気量は中心に
・クランク角センサー
・吸気温度センサー
・吸気圧センサー
・エンジン温度センサー
のみなどコストの問題からか簡略化されています。
ただしECUの仕事量が年を追う毎に増えていると言うのはFIだけが理由ではありません。
例えばスピードメーター。
昔はアナログ式でしたが、これも今やデジタル式。
何処で測っているのかというとドライブスプロケット近辺にセンサーを配置し測るのがメジャーでしたが最近変わりました。
ABSの義務化に伴い、ホイール速度を測るABSセンサーにスピードセンサーの役割も持たせるようになったんですね・・・何故ならABSの制御もECUの仕事だから。
ライダーがブレーキを握る事で高まる圧力をECUが常に管理しコントロールする。
場合によってはブレーキ圧を電気信号に変え、モーター駆動によってキャリパー圧をコントロールする場合もあります。
ディスクローターについたスピードセンサーによって速度とディスクのスピードに狂いが生じると、ECUが介入し転倒を回避させるというわけ。
ところが昨今のABSは更に進化していて、このスピードセンサーだけで判断しているわけではなく
「何速なのか、何回転なのか」
等の情報をシフト(ドラム)センサーやクランクセンサーから仕入れ多角的に判断しています。
一部の高級バイクに付いている横滑り防止のトラクションコントロール(TCS)も基本的にABSと同じで制御するのがブレーキかアクセル(スロットルバルブ)かの違いだけ。
最近ではABSやTCSの制度を更に増すためにIMU(慣性計測装置)からの情報も演算の材料として取り入れられます。ウィリーコントロールなどが良い例ですね。
ECU大忙しですが、車種によってはまだあります。
例えばツアラーモデルへの採用が広がっているバンク角に応じてインを照らすアダプティブヘッドライト。
これもIMUから送られている車体姿勢信号からECUが判断し制御している。
まだまだあります。
スーパースポーツに採用されているクイックシフター。
クラッチを切ることなくギアチェンジが出来る代物ですが、これもシフトロッドの動きをECUがセンサーで感知し一瞬だけ燃焼を止める制御。
まだまだまだあります。
電子制御サスもSCUというコントローラーとECUによるもの。
他にも排気デバイスの開閉もECUの仕事、可変バルブの切り替えもECUの仕事、電圧・空気圧表示やキーレスといった快適装備も、出力モード切り替えも・・・。
もはやエンジンコントロールユニットというよりマシンコントロールユニットと言ったほうが正しい気がしますね。
ちなみに2017年10月以降発売のモデルはこれらのセンサー類どれか一つでも異常があるとエラーを知らせる自己診断機能(OBD)が義務化されました。もちろんその役割を担うのもECUです。
ありとあらゆる部分を監視&制御している凄いECUですが、言われないと分からない本当に凄い事は別にあります。
それは・・・
「これらを一切の遅れなく完遂させる」
という事です。
これが本当に凄いこと。本当はこれが書きたかっただけ。
人間は待てない生き物です。
例えばPCやスマホでアプリやネットサーフィンをしていてクリックやタップをしたにも関わらず
“反応がないor動作が遅い”
となったらイライラして連打したり別の事をしたりしてしまいますよね。
こういった
「使用者の我慢限界」
をソフトウェア業界で”デッドライン”と言い、これを超えてしまう事を”デッドラインミス”と言います。
どんなに優れた商品であろうと、これが守れなかった場合は価値が無くなるという絶対に犯してはいけないミス。
そしてバイクという乗り物に許されるデッドラインはコンマ何秒という本当に短い世界。TVのチャンネル切り替えなんかより短い。
これだけの電子制御があるにも関わらず、誰もがそれを意識する事も違和感を感じる事もなく走れているのはECUが
「自然且つ素早く且つ確実に実行しているから」
ただの黒い箱なのに取り寄せたら10万円以上するのも少しは納得ですね。