バイクトリビア

「当時のまま復刻してくれ」という願いが聞き届けられない理由

1978年のラインナップ

「〇〇を見た目そのままで復刻してくれ」

という止むことの無い要望。

そういう場合に上げられる車種は歴史に名を刻んでいる名車がほとんどで

・プレミア価格で買えない

・部品供給が途絶えてる

などの理由が背景にあり、特に近年は旧車の価格がさらに暴騰。業者オークションでも

VFR750R(未使用車)→680万円

FZR750R→380万円

Z1000MK2→350万円

CB400FOUR→200万円

NSR250R/MC28→280万円

などでもはや投機のような値段になっている。

しかし残念ながらその声が聞き届けられる事は歴史を見ると分かる通りほぼ無い。新車の方もレトロブームが到来した事で往年の名車を意識したモデルが色々と出ています・・・が、インスピレーションこそ感じるものの明らかに元ネタのモデルとは形が違いますよね。

ヘリテージモデル

「クルマと違って歩行者頭部保護規制とか無いんだから騒音規制と排ガス規制クリアだけソックリしたモデルを出せば大ヒット間違いなしだろうに」

と疑問に思っている方も多いと思うのでザックリ簡単に解説して行きたいと思います。

 

 

理由1.そもそも生産出来ない

昔のモデルを復活させる時に最も問題となるのがこれ。

『金型』

という大量生産の要とも言える設備(工具)の問題になります。

金型

大雑把に言うとこれでバシバシ作った部品を組み立てて完成させているのが製品なんですが、そういう製品を生業としている製造業において金型というのは門外不出な企業秘密の塊。

だから開発費から導入費までトータルで見ると億単位のコストが掛かったりする。これは1〜2個造るわけではなく万単位で迅速かつ安定して生産(ショット)出来る高い信頼性も必須だから。一つでも金型に問題が発生したら生産ライン全体が止まっちゃいますからね。

しかもそんな思いをしてまで導入しても金型というのは

・使うほど摩耗する

・同じ形しか作れない

という問題があるので一定の数を生産しストックしたら破棄し、次のモデルに向けた新しい金型へ新陳代謝のように移り変わっていく。

金型の摩耗

だからメーカーも旧車の金型は既に持っていないんです。

部品供給打ち切りや、その事を嘆く人が出る理由もこれ。補修部品っていうのは基本的に生産後にストックした在庫限りみたいなものなんですね。

ちなみにこれは金型が企業秘密の塊であるがゆえに

『固定資産税の対象』

という事も強く影響しており、これがあるからメーカー(及びその下請け)は経営の観点から迅速に生産して迅速に金型を廃棄するようになってる。

ヤマハパーツセンター

部品を全部ストックしていたら倉庫がとんでもない規模になってしまう問題もあります。

 

加えて問題となるのがジェネレーションギャップ。

これは量産効果(規模の経済と範囲の経済)に関する問題で、製造業というのは

・稼働率の高さ

・製造数の多さ

ザックリ分けてこの2つの要素次第で全く同じものでもコストが1/10にも10倍にもなる宿命がある。

範囲の経済

だから特にクルマが象徴的ですがメーカーはその開発費および製造費を少しでも抑えるために色んなモデルで色んな部品を共有してる。そうすれば単純に安く出来るだけではなく、予算に余裕が出来るので更にお金を掛ける事が出来ますからね。

 

じゃあもしそんな中で何世代も前の形をした金型や部品を用意して復刻させたらどうなるか。

廃れた技術

「いや今さらこんな足回り他にどう使えと・・・」

となってしまい結果的に専用部品の塊つまり超ハイコストモデルになってしまうから厳しい。これらが生産の都合上出来ない理由。

 

理由2.嬉しくない売れ方をする

嬉しくない売れ方

もし仮に生産上(コスト)の問題をクリアしたとしても売れ方にも問題を抱えてる。

これは

「〇〇で〇〇なモデルが欲しい」

という要望にも通ずるものがあって、言い方が悪いんですがそういった”比較的誰でも思いつく製品”っていうのは実はそれほど売れないのが分かってる。

その理由は

『意外性』

という要素が無いから。ヒット製品になるにはこれが必須なんです。

顕在需要と潜在需要

「自分でも欲しいものが分かっていない潜在需要を如何に掘り起こせるか」

がヒットに直結する。

大ヒットし今では名車と言われているモデルもほぼ例外なくこの意外性があった。

 

もちろんそれでも誰もが知る名車なら一定の需要があるでしょう。モノよりコトが重視されるようになった現代なら年間販売台数一位を記録するかもしれない・・・でも仮にそうなってもメーカーは手放しでは喜べない。

というのも顕在需要向けの(意外性が無い)製品というのは明確に欲しいと定まってる人への製品なので

『飛びつくか、全く興味を示さないかの二択』

という極端な売れ方をするから。

 

こういう売れ方はメーカーとしてはあまり嬉しくない。最初はドカンと注文が入るけど、その駆け込みが終わったら稼働率も製造数もガクッと落ちるからです。

生産の問題でも話した通り設備っていうのは用意するのも維持するのもお金が掛かるのでメーカーは開発段階から無駄が出ないように

『製造年数と総製造数』

をある程度予測して絶妙な生産キャパシティを決めるのが一般的。

そうした時に欲していた人達が殺到して初年度はドカンと売れるものの、二年目以降は閑古鳥が鳴く売れ方になってしまう顕在需要向けの要素が強い製品というのはどうしても設備に大きな無駄が生まれてしまう。

売れ行き

無駄を生まないように

「当時の3倍の価格で完全予約制で納車は3年後です」

なんて売り方にしてハイ分かりましたと素直に待つ人は居ないですよね。そんなのが罷り通るのはフェラーリやランボルギーニといったスーパーカーくらい。だから取り扱いが非常に難しい。

ちなみに

『一ヶ月で一年分を受注』

『納車半年待ち状態』

などの現象や人気殺到なのになかなか増産しなかったりするのもこの余剰設備問題によるもの。さっさと増産(増設)してくれって納車待ちの人は思うけど、メーカーとしては後で負債になる事が分かりきってるから簡単には出来ない。

 

だいぶザックリですがこういう問題があるから現実問題として復刻車を造ることが出来ないという話・・・ですがオマケでもう一つ。

 

 

余談.モノづくりとしてのプライド

インダストリアルデザイン

一番推したい事というか理解して欲しい事。

当たり前のように売っており、また当たり前のように町中を走ったりしている市販車を開発している人達っていうのは

「車体の軽量化を頑張ったら俺が軽量化したわ」

なんてジョークになってないジョークを飛ばすほど文字通り開発が三度の飯より好きな人達が当たり前の世界。

趣向性が強いバイクは特にその傾向があって開発中のモデルを

「世界一可愛いと思ってる嫁」

「天塩にかけて育ててる娘」

「毎日夢に出てくる悪魔」

などと例えるほど溺愛し、心血を注ぐように開発している。

KATANA CAD

そうやって理想と現実の間で藻掻きながらも名車と称してもらえるようなモデルを造ろうとしているのに、当時の名車をソックリそのまま造れっていうのは

「良いものを造る努力はしなくていい」

と言ってるようなもの。

これはモノづくりの否定であり侮辱でもある。その往年の名車だって良いものを造ろうと尽力したからこそ誕生できたんですから。

 

ちなみにこれは最近のネオレトロが似てるんだけど明らかに元ネタとは違う形になっている事にも通じていて

「何故もっと似せなかったのか」

って考えてる人も多いと思うんですが、上で話した生産の問題や需要の問題も勿論ある。

でも一番はこれらのモデルっていうのは元ネタである往年の名車を実際に乗っていたエンジニアや憧れて入社したようなエンジニアが

『往年の名車へのリスペクトと、ハリボテじゃない良い物を造りたいというプライド』

この両方を掛け合わせた形だから似てるんだけど明らかに違うんですね。

 

最後の最後に。

どうしても昔のモデルが欲しい、復刻して欲しいモデルがある人がいるならこうアドバイスします。

気持ちは痛いほど分かるが復刻の可能性はゼロだから腹を括って中古を買うべし。

 

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