エンジンと言えば2stか4st・・・というか排ガス問題で2stがほぼ死滅したため4stになった現代。
もう4stが常識であるかの様な世の中ですが、そんな状況に異を唱える者たちによって5stや6stが生み出されている事をご存知でしょうか。
おさらいを兼ねてサックリと2stと4stの話を。
2stはクランクが360°回転することですべての行程を終わらせる内燃機関ですね。
下がってくるピストンによってクランク室の圧力が上がり掃気ポートを伝って燃焼室に吹き込まれ、排ガスが押し出される。
再びピストンが上がり始めると掃気ポートと吸気ポートが塞がれ圧縮/燃焼する。
その燃焼で再びピストンが下がり始めて・・・以下繰り返し。相変わらず下手な絵ですいません。
2stが排ガス規制を通すことが難しいのは潤滑オイルを一緒に燃やしてしまう事もありますが、未燃焼ガスが一緒に排気されてしまう問題もあります。
チャンバーっていう膨らんだエキパイを見たことがあると思いますが、あれは排ガスの圧力波を引っくり返して一緒に出てきてしまった未燃焼ガスを押し戻して蓋をする役割があります。
ただそれでも未燃焼ガスをキッチリ戻すことは出来ないから規制を通すのが難しいという話。
要するに一石二鳥な行程なんだけど仕事が少しオザナリになってしまう感じ。
次は4stの話。
4stは何となく知ってる人も多いと思います。
混合気を吸って、圧縮して、燃焼して、排気。
720°つまりクランクが二回転で一つの行程が完了。
一つ一つの行程がキッチリ分かれており安定しているのが特徴です。
これを踏まえて紹介するのが5ストロークエンジン。
行程が奇数の時点で普通じゃない感じが伝わると思いますが、5ストロークのエンジンは3気筒または3の倍数の気筒数である必要があります。
これでワンセット。
まず一番なり三番なりが4stと同じ様に
「吸気・圧縮・膨張・排気」
をします。
しかしその排気ポートはエキゾーストではなく隣(真ん中)のシリンダーの吸気に繋がっている。
上から見るとこんな感じです。
そしてその排気エネルギーで真ん中のピストンを押し下げクランクを回す。
これを両サイドですると
で綺麗に整う。
『吸気・圧縮・膨張・排気(吸気)・排気』
900°つまりクランク二回転半ですべての行程が完了するから5ストローク。
これはただ捨てているだけの排気損失をターボなどのデバイスを持ちいらずとも利用できるようにした形。
ただしこれはバルブレイアウトに大きな制約があり直列にも出来ない。そしてクランクは360度に固定されるし、中央シリンダーのフリクションロスも大きい。
要するに費用対効果が無いので実用化されていないというのが現実です。
お次は6ストローク。
1080°つまりクランク三回転で行程が完了する6ストロークは実は結構メジャーです。
基本的に4ストローク目の排気までは4stと同じで、残りの2ストロークは何をしているのかと、単に空気を吸ってそのまま吐くパターンが一つ。
これの狙いは4ストローク目に当たる排気で排出しきれなかった残留排ガスを燃焼室から綺麗に排出し燃焼室の温度を下げるため。
ピーキーな高圧縮エンジンでノッキングを回避するために持ちいられる方法です。
これとは別に空気ではなく排気ガスを循環させ、もう一度吸い込んでそのまま吐くパターンもあります。
「なんでわざわざ排ガスをもう一回吸うのか」
って思いますよね。
このパターンが使われるのは燃費競技などの極端な場合。
燃費競技では常にエンジンを動かしているわけではなく、加速が必要なときにだけエンジンを動かすようになっている。
そうした時に問題となるのがエンジンのオーバークール。
エンジンが冷えすぎているとガソリンの気化/混合が上手く行かず燃費が悪くなってしまう。だから熱い排ガスを入れて保温しているというわけ。
これは毎年行われているホンダエコチャレンジで、最高記録は2011年の3644.869km/Lだそう。
ちなみにエンジンはスーパーカブC50です。
まあ説明するまでもないけど、これらが実用化されないのは
「オンかオフか」
の二択という極端な走行で初めて真価を発揮するエンジンだから。
次に紹介するのは面白いけど、実現は難しいであろうパターン。
先に紹介した2パターンと同様に排気までは従来どおり。そして5ストローク目で何をするかと言うと・・・なんと水を入れる。
燃焼で熱くなった燃焼室に注水することで水蒸気を発生させ、その力でピストンを押し下げクランクを回すというもの。
しかも水による気化潜熱はガソリンの比ではないので冷却性も大幅に向上・・・なんですが、水を吹くので腐食の問題があり実用域には達していません。
しかし最近BOSCHが腐食を起こさないウォーターインジェクション技術を確立したようで・・・もしかしたら有り得るかも。
既にBMWのM4 GTSとかいう車が近いことをやってますしね。(エアクリーナーの先で少し水を吹く)
ちなみに簡略化してるので鋭い人は気づくと思うのですが、いま紹介してきた6ストロークエンジンはカムやバルブが別に用意されていたり、カム山が二つあってハート型の様になっていたりとエンジンヘッドも特徴的だったりします。
で・・・ここまでは何となく4stの延長線上にある感じですよね。
という事で最後に紹介するのは非常にユニークな『バジュラズ6』とよばれる6ストロークエンジン。
もうこれだけで普通じゃない感じが伝わると思うのですが、まず1ストローク目は普通に空気を吸います。
2ストローク目でその空気を左上にある燃焼室の外枠に運ぶ。それと同時に燃焼室では燃焼を開始。
3ストローク目でその燃焼を利用するため左から二番目のバルブが開く。
ここで注目して欲しいのは最初に燃焼室の外枠に運ばれた空気。これが燃焼による熱で温められているのがポイント。
燃焼が終わり発生した排ガスを4ストローク目で排出。
そして5ストローク目になってやっと出番なのが最初に吸われた空気。
外枠で温められ膨張した空気を放つ様にバルブを開くわけです。
締めの6ストローク目で膨張し冷却された空気を燃焼室に運ぶ。
で、1ストローク目に戻る。
これがバジュラズシックスと呼ばれる6ストロークの仕組み。
なかなか面白いんですが・・・圧倒的に出力が稼げない。
まあこれはこのバジュラズ6だけでなく全般に言える話。
燃費はいいし排ガスも少ないんだけど、ポンピングロスやフリクションロス、更にレスポンス悪化や部品点数増など、4stほど色んな意味で効率的じゃない事が5stや6stの致命的な課題。
でも4stもガソリンエネルギーの7割以上をロスしてるわけだからベターではあってもベストではないのが現状。
だから皆が、それこそエンジニアですら当然のように思っている4stという固定観念を吹き飛ばすストロークが現れる可能性はゼロじゃないという話。
埼央エンジニアリングさんの
スーパー6サイクルエンジンのエンジンも、解説して欲しかった
ホンダが開発中らしいV3型エンジンが5ストロークだったら面白いかもしれない。
高回転まで回せて燃費も排気量の割に良いとか夢のようなエンジンにならないかな。