ホンダのバイクは優等生とよく言われていますね。
そう言われる最大の理由はライバル車よりも馬力が低い事が多いからかと。
では何故ホンダはいつも馬力が低い傾向にあるのか考えた事はあるでしょうか。
先に答えを言ってしまうと
「圧縮比が低い場合が多いから」
というのが大きな理由です。
なるべく簡単な説明を心がけます。ちなみに4stの話です。
圧縮比というのは文字通り混合気をどれだけ圧縮するかという事で、圧縮比を高く設定すると取り出せる仕事量(熱効率)も上がるので馬力が上がります。
分かりやすい例として600ccのスーパースポーツを挙げてみます。※2008年ごろのモデル
ZX-6R | 圧縮比13.3:1 | 128馬力 |
YZF-R6 | 圧縮比13.1:1 | 129馬力 |
GSX-R600 | 圧縮比12.9:1 | 126馬力 |
CBR600RR | 圧縮比12.2:1 | 118馬力 |
平均値 | 圧縮比12.8:1 | 125馬力 |
○○:1というのは要するに何分の1にまで圧縮するかという事で、CBR600RRは12.2分の1とライバル車よりも一段落ちる圧縮比な事から馬力も少し低いですね。
何故ホンダだけ圧縮比が低いのかというと、高圧縮によるデメリットを嫌っているからです。
空気は圧縮されると熱を持つ性質がある事から、高圧縮=高圧にすればするほどプラグが点火した火が届く前に圧力に負けて勝手に火が付いてしまうノッキングという異常燃焼を起こしやすくなる。
ノッキングが起こるとプラグ点火による膨張とぶつかることで衝撃波が生まれシリンダー内を駆け巡る事に。
キンキン、チリチリと衝撃波が壁にあたって跳ね返る音を聞いたことがある人も多いと思います。
ノッキングは熱損失となりエンジン内の温度が跳ね上がり、また燃焼効率もガタ落ちとなるので良い事は一つもありません。
ただしリタード制御といって点火タイミングを遅らせて(遅角させ)シリンダー内の圧力を上げないようにする機能が付いているので神経質になる必要はない。
「どうして点火タイミングを遅らせると圧力が上がらないのか」
って話ですよね。
点火のタイミングというのはピストンが一番上に来た時(混合気の圧縮が完了した時)と思いがちですが、実際は一番上に来る少し前に点火されています。
この理由の1つは、一気にバンッと燃えるLPGガス等とは違い、ガソリンは燃え広がるのに時間がかかるから。
そしてもう1つは、ピストンにも丁度いいタイミングというのがあるから。
これは自転車に例えると分かりやすいです。
ペダルを漕ぐ時に一番力が伝わるのはペダルが少し進んだ時ですよね。
これと同じでピストンにも丁度いいタイミングがあるんです。
これらの事からガソリンが燃えるタイムラグとピストンがドンピシャに来る位置を計算し点火タイミングを早めているというわけ。
ただし早めに点火することには問題があります。
ピストンが上がり切る前に点火をするということはピストンが圧縮中(上昇中)なのに燃焼膨張を始めるわけなので、当然ながらシリンダー内の圧力が跳ね上がりノッキング(意図しない自然発火)を起こしやすくなる。
つまりリタード制御(点火を遅らせる制御)をすることでノッキングを回避できるのは、ピストンの圧縮に逆らわない様にしてるから。
しかしこれはいま話した様に膨張のタイムラグ、ペダルを漕ぐタイミングがかなり遅れるのでノッキング時ほどではないにしろ本来のパワーは得られない。レスポンスやフィーリングも悪化します。
ちなみに
「耐ノック性の高いハイオク仕様の高圧縮エンジンにレギュラーを入れても壊れないけど性能は落ちる」
と言われているものこのリタード制御が理由。
これが点火タイミングの難しい所。
点火タイミングを早めれば気持ちよく回ってパワーも出るけど、圧が増すのでノッキングを起こす可能性が上がる。
一般的には無視できる範囲のノッキングしか起こらないところまで点火時期を早めるのがベターだと言われています。その為レース用のマシンやキットでは点火時期を市販モデルより早める様になっている。
※エンジンブローと隣合わせなので安易に弄らない様に
ただしコレはピークパワーだけを見た時の話です。
常にパワーバンドに入れる走りをするならば別ですが、少なくとも公道ではそんなの無理な話。
ここで問題となるのがエンジンというのは低回転域が、簡単に言うとゆっくりした動き(燃焼)が苦手という事。
特に高圧縮エンジンの場合、素早い燃焼に貢献する混合気の渦(流速)を押し潰して消してしまう等の問題があるので更にノッキングを起こしやすく(ノッキングによる膨張時間を与えることに)なる。
その為このようにカタログのパワーカーブではスムーズでも、実用途ではノッキングを起こし易くなる。しかしそれでは乗れたものではないので先に話したリタード制御(点火の遅角)が入る。
つまり少し大袈裟に言うと
「高圧縮エンジンは実用域で綺麗に気持ちよく回れていない(点火できていない)場合が多い」
ということ。
ホンダはこれを嫌っているんです。
では実用域でも点火タイミングをドンピシャで合わせるにはどうしたらいいか。
圧縮比を上げなければいいんです。
圧縮比が低ければピークパワーを稼ぐことが難しくなる代わりに、点火時に跳ね上がるシリンダー内圧力も下がるからノッキングの問題が軽減され点火タイミングの自由度が増す。
つまり低回転でも高回転でもドンピシャで気持ちよく回る点火タイミングが可能になる。
ホンダのバイクが大人しいとか、優等生とか言われる理由。そして下から上までモーターの様に回るとか言われるもこれが大きな理由。
「安易に圧縮比を上げてはいけない」
ホンダのエンジニアはこう考えているという話。
断っておきますが”高圧縮が悪”で”低圧縮が善”という話ではないですよ・・・実際2017年に出たCBR1000RRやCBR250RRはそうも言ってられなかったのかモリモリ高圧縮エンジンです。
ホンダに限らず実用性のあるバイクが低圧縮なのは理由があるし、高圧縮なのも理由がある。
ただ圧縮比の高低で測れるのはピークパワーであり、必ずしもフィーリングと直結するわけではないという事です。