社外マフラーにすると低速トルクが無くなる理由 ~排気慣性効果とは~

社外マフラー

「マフラー変えたら低速トルクが無くなった」

というのを身をもって経験した人、または耳にしたことがある人も多いと思います。

それが何故かというと

「マフラーの抜けが良くなりすぎるから」

と言われますし、なんとなく分かるかと。

ではどうしてマフラーの抜けが良くなると低速トルクが無くなるのか、それについてスリップオンに焦点を絞ってザックリ説明していきます。

そもそもマフラーが何のためにあるのかというと一つは消音するため。そしてもう一つは排気ガスをスムーズに大気に放出するためで低速トルクが無くなるのはこれが関係しています。

純正マフラー

排気ガスはエンジンが吐き出すわけですが

「エキパイを外すとまともに走らない」

と言われる通り排気というのはピストンの力だけで排出しているわけではなく排気系の助力が必要不可欠なわけです。

これは吸気にも言える事でエンジンがパワーを出すにはエンジンだけでなく吸気と排気が大事になる。

「良い吸気・良い燃焼・良い排気」

と言われているようにこの三要素がスムーズに流れ作業をすること、三位一体となる事でパワーが出る。

流れ作業

つまり『良い排気』にあたる部分であるマフラーを変えるとそのバランスが崩れて流れ作業に支障が出るから低速トルクが無くなるんです。

じゃあなにが崩れるのかと言うと

『排気慣性効果』

というやつ。

これは凄くザックリ言うとシリンダー内の排気ガスを導く流れを作ってスムーズな排気を手助けする事で、この流れはそのまま吸気にも影響します。

排気の流れ

ではどうしてマフラーを変えるとこれが崩れるのかというと言うと、その流れの速さを示す

『排気流速』

が抜けの良いマフラーにした事による排気ラインの背圧(排圧)低下で稼げなくなってしまうからです。

排気の流れその2

圧力が高いほうが流速が稼げるとか言われても意味不明ですよね。

でもこれは誰もが知らず知らずのうちに応用している事だったりします・・・それは洗車などで使う水道ホースです。

ホース

蛇口を少し捻って水を出しても水はゆっくりチョロチョロとしか出てこないですよね。

じゃあチョロチョロの水を勢いよく出すにはどうするかって言ったらホースを潰す。こうするとホースの中の圧力が高まり同じ水量でも勢いのある水が出てくる。

水道ホース

背圧や排気流速というのはこれと同じ。

つまり抜けが良いマフラーにするとエキゾースト内の背圧が下がってしまいユックリ(低回転)時の排気の流れを上手く作れなくなる。

結果として上でいったように排気の後に来る混合気の流れの足をも引っ張る形となり燃焼効率が悪化、更に排気が掃けないという事はシリンダー内の圧力も落ちにくいのでピストン運動による排気に余計なエネルギーが必要(損失)となり低速トルクが落ちるというわけ。

「じゃあなんで馬力は上がるの」

という話ですが、これは高回転まで回すと排気がドンドン勢いよく出てくるので

『排気流速』

よりも

『排気流量』

といってどれだけ”速く”排気を導けるかではなく、どれだけ”多く”排気を導けるかが大事になってくるから。

つまり高回転になると良い排気のバロメーターが『抜けの速さ』から『抜けの良さ』に変わるから社外マフラーにすると回転数とトルクの掛け算である最大馬力が上がるんです。

まとめると低速トルクを取るなら流速重視の絞ったマフラーが良くて、最大馬力を取るなら流量重視の開いたマフラーが良いという事。

排気流速と排気流量

だから必ずしも抜けが良い方が正義ではないという事で、加えて言うならば昨今の主流であるダウンショートマフラーがわざわざタコ足の様にエキゾーストマニホールドを這わせて距離を稼いでいるのも限られたスペースで背圧を稼ぐ為なんです。

エキゾーストレイアウト

しかしそうなると疑問が出ますよね。

「何故トルク重視(流速重視)の絞った社外マフラーが無いのか」

という事。

これは抜けの良いマフラーにしたほうが音も大きくなるし、最大馬力が上がるからというセールス面が第一にあると思いますがそれだけじゃない。

というのも低回転時の流速不足がトルク低下を招くわけですが、反対に高回転時に必要な流量が不足してしまった場合どうなるかというと・・・エンジンが壊れるんです。

水道で蛇口を最大まで開けて水をガンガン流している状態でホースの出口を指で絞ったらどうなるか。

どんどんホース内の圧が高くなって最後には蛇口の方から漏れてきますよね。

臨界背圧

『臨界背圧』

と呼ばれる逆流現象なんですがこれがエンジンでも起こる。排気ガスがシリンダーから排出されるどころか圧力に負けて逆流してしまうんです。

熱々の排気ガスがシリンダーに充填されそのまま圧縮されると当然ながらノッキングとなりエンジンブローとなる。マフラーに雪を詰めたらエンジンが壊れるというのもこれが理由。

だから純正より抜けの良いマフラーを造ることは出来ても、純正より絞ったマフラーを造るのは非常にリスキーで難しいという話。

スズキの排気試験

これは逆に言うとメーカーの純正マフラーというのはそんな低速トルク(排気流速)と最大馬力(排気流量)という相反する要素の最大公約数を取った非常によく考えられたマフラーなんです。

ちなみに排気デバイスという物が誕生したのもこの流速と流量が関係しています。

排気デバイス

要するに流速と流量の最大公約数を更に高くするためで、人間がホースを指で抑えて水圧をコントロールするのと同じ様に出口を絞ることで背圧を可変式にしたもの。

なんだか純正マフラー推しな内容になってしまいましたが、もちろん社外マフラーが駄目というわけではなく軽量化などの恩恵もあります。

純正サイレンサー

ただ断っておきたいのは純正マフラーは

「消音特化マフラー」

ではなく、ベストなバランスになるようにパーシャルからフルスロットルまで、アイドリングからレブリミットまであらゆる領域でベストな流速と流量になるように計算された凄いマフラーという事です。

※余談

今回はスリップオン(サイレンサー)に限定した話なので背圧が影響する『排気慣性効果』に焦点を当てた話でしたが排気には『排気脈動効果』というものもあります。

これは排気の流れ(反射)によるエキゾースト内の負圧を利用した掃気効果の事なんですが、何故省いたのかというと面倒臭かったから・・・というわけではなく排気脈動はエキゾーストパイプ(の長さや太さ)が大きな要因でスリップオンではほとんど影響がないから。

「スリップオンでは大して変化はないけどフルエキゾーストだと大きく変わる」

と言われるのはこのためです。

コメントを残す