バイクに乗って競争するレースというものにバイクメーカーは多額のお金を突っ込んでいます。
オンロードでいえばMotoGPやSBK、オフロードでいえばMXGPやスーパークロスなどなど。バイクレースの最高峰と言われるMotoGPなんかでは年間うん十億円もかかるんだとか。
どうしてメーカーがそれほどまでしてレースにお金をかけるのかというと一つは宣伝のため。レースでの活躍は自社の優位性をアピールする最高の場なんですね。
ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキなどの日本メーカーはもちろん、イタリアのドゥカティやアグスタにイギリスのトライアンフなどなど現存する名だたるバイクメーカーは
「レースで活躍したから生き残った」
といっても過言ではありません。
一見レースとは無縁なイメージがあるBMWですら一時期はパリダカというレースでブイブイ言わせていました。
KTMに至っては現在進行形でラリー王者に輝き続けています。
「巨大企業である日本メーカーに競り勝つなんて凄い」
ともっぱらの評判です。
ただレースに興味がない人からすると宣伝はおろか縁のない遠い世界の話ですよね。
しかし実はそういう人たちにとってもレースというのは無関係ではないんです。というのもメーカーが湯水の如くレースにお金をかけるのは宣伝の為だけはなくもう一つあるから・・・それは
「技術力の向上」
です。
レースが何を競っているのかといえば順位ですよね。そして順位がどうやって決まるのかというとラップタイムになる。
つまりレースでは皆が
『ラップタイムを0.01秒でも縮める』
という事を目標に新しい技術を開発して挑む・・・これが技術力の向上に繋がってるわけ。
「別にレースじゃなくてもいいのでは」
と思うかもしれませんが新しい技術を試すにはレースが最も適しているんです。
レースが走る実験室と言われる理由もここにあります。
何故ならレースは『ラップタイム』という数値化が出来るから。
・ライダー
・コース
・マシン
全て同じ状況下の中で新しい技術を加えた結果どういう影響を及ぼすのかがラップタイムとしてハッキリと表れる。
単純な話ラップタイムが遅くなったらそれはダメな技術。ラップタイムが速くなったらそれは優れた技術となる。
このように
「0.01秒でもタイムを縮める為に莫大なお金を使い、とてつもない開発速度でトライ&エラーを繰り返す」
という事をやるから技術力が向上するという話。
そしてもう一つ大事なのは優れた技術でラップタイムを縮め、ライバルに差をつけたとしても
「その差はすぐに埋まってしまう」
ということ。
何故なら優れた技術であればあるほどライバルたちにすぐ真似されるからです。
それどころか真似されたものを更に昇華させる様な改良までされ、出し抜くために編み出した技術で逆に出し抜かれたりもする。
でもそうやって競い合うからこそ技術力の向上に繋がる。
三人寄れば文殊の知恵ならぬ
『ライバル寄れば文殊の知恵』
といったところですね。
そうして改良合戦という磨き合いによりピカピカになった技術はレースにおいてデファクトスタンダード(必須装備)になる。
レースに興味がない人も無関係じゃないと言えるのは、この
『レースで当たり前となったピカピカの技術』
はやがてレースで戦った人材と共に市販車に下りてくるから。
こういう例はたくさんあります。
例えば倒立フォークやモノサスはオフロードレースで問題となったストローク長や量を解決するために編み出されたものだし、トラクション性が優れる不等間隔燃焼が生まれたのもその方が何故か速いという事に気付いたから。
もっと単純な所でいえば色んな形があるエンジンやフレームはレースで馬力や剛性問題を解決するために生まれたのが始まりだし、今では当たり前に付いているカウルだって整流によるトップスピードの底上げを狙って編み出されたもの。
排気量あたりのパフォーマンスやタイヤの性能向上も・・・などなど挙げだしたらキリがないほど今では当たり前の様にある技術はどれもこれもレースから来ている。
つまり我々がいま優れたバイクに乗れているのは
「メーカーが血眼になってレースという名の技術競争をしてきたら」
といっても過言ではなく、興味の有無に関わらず全てのライダーがレースがもたらす恩恵を受けているんです。
だから最後にレースに興味がない人へ少しだけ偉そうな事を言わせてもらうと、詳しくなれとか観戦しろとまでは言いませんが
「レースは技術への投資であり、決して無関係なものでも不要なものでもない」
という事だけは理解してほしいと思います。