エンジンブレーキの仕組みとデメリット

エンジンブレーキ

「エンジンブレーキって何処に付いてるんですか」

と聞かれた時に答えられない人、また

「エンジンブレーキよく使っている」

という人に向けたページです。少し長いですけどお付き合いを。

最初にエンジンブレーキの仕組みについてなるべく簡単に説明します。※一般的なMTバイク前提

主要三軸イラスト

エンジンブレーキに関与している部分は当たり前ですがエンジンです・・・って、これじゃ分かりにくいので簡易イラストを作りました。

主要三軸イラスト

クランクはピストンの下に付いてるもの、インプットシャフトとアウトプットシャフトというのは一般的にミッションと呼ばれている部分。

インプットをメイン、アウトプットをカウンターと言う場合も・・・というかそう言う場合が多く、走行する上で絶対に欠かす事が出来ない三本柱で、主要三軸とも言われています。

色分け

普通はピストンの上下運動をクランク(赤)が回転運動へ変換し、端に付いているプライマリーギアやチェーンでインプット(青)を回し、更にアウトプット(緑)とのギア比で変速を完了させてチェーンやシャフトドライブを介してタイヤを回す。

動力のフロー

エンジンブレーキが掛かる時はこの力関係が逆転した時。

簡単に言うとクランク(赤)の回る力より、駆動しているアウトプット(緑)の回る力が上回った場合です。

チェーンやドライブシャフトを介してアウトプット(緑)を回し、インプット(青)で変速され、クランク(赤)を無理やり回す。

動力のフロー2

押し掛けもこれ。要するにエンジン回して駆動するのではなく、駆動でエンジンを回しているということです。

ではどうして減速するのかというとエンジンを回すのが大変だから。

皆が捻るアクセルの開度というのはエンジンの口にあたるスロットルバルブの開度と直結しています。

色分け

アクセルを開ければ開けただけ上の写真のようにガバッと開くし、アクセルを戻せば閉じる。

つまりアクセルを戻すと失速してしまうのは、このスロットルバルブが閉じてしまうから。よく注射器で表されています。

スロットルバルブの役目

ピストンが空気を吸えないからシリンダー内が負圧になり、下がる事に大きな力が必要となる。

この抵抗がエンジンブレーキの代表的な原因の一つ。厳密に言うとピストン運動に至るまでの機械損失も大きい。

失速する理由はこれ・・・ですが、これだけだと説明不足ですよね。

一般的に言われるエンジンブレーキというのはアクセルオフにした時の減速ではなくシフトダウンした時にくるあの

『ギュイン』

でしょう。

これを説明するにはギア比というものも見なくてはいけません。

動力のフロー2

例えばこのバイクは三速6000回転では60km/h出る。

じゃあここから二速に落としたら・・・ギュインとエンブレが掛かって失速しますよね。

これが何故かと言うと

「エンジンと速度が合っていないから」

スロットルバルブの役目

60km/h走行をする場合、三速では6000rpmでよかったけど二速では8000rpmまで回る必要がある。

つまりシフトダウンするとエンジンの回転数が速度に対して足りていない状況になるわけです。

だから

「エンジンさん遅いよ8000rpmだよ」

と駆動が遅いエンジンを無理やり8000rpmまで吊り上げようとする。そのために力が使われるから回転数が上がりつつも、ギュインと両方回転数の良い落とし所まで失速するわけです。

エンブレ

これがシフトダウン時の強烈なエンジンブレーキの正体。

そしてもう一つエンジンブレーキに関して言われるのが

「エンブレは使うべきか使わざるべきか」

という話。

これはバイクに限って言うと

「率先して使うものではない」

と言えます。

何故かと言うとデメリットが結構大きいから。

油冷エンジン

一つは最初に話したエンジンが負圧になる事が関係しています。

負圧になると圧が高い所から吸おうとしますよね。でもさっき言ったスロットルバルブなどは閉まってるから全然吸えない。

しかしまだ吸える所があるんです。それはピストンの下、クランク室です。

スロットルバルブの役目

シリンダーというのはもともとオイルの膜を張る程度のクリアランスが設けられているのでそこを伝ってオイルやブローバイガスが吸い上げられるように燃焼室に入ってきてしまうんですね。

俗にいう

『オイル上がり』

と言うやつです。あまり神経質になる必要はありませんが、エンブレを使うほど消費するオイル量が増えるのは事実です。

それより問題なのはクラッチ。

クラッチ

クラッチというのは最初に紹介した三軸のインプットに付いており、クランクとインプットの橋渡しが役割。

もう少し拡大して詳しく表すとこうです。

クラッチの仕組み

ちなみに上の図はクラッチが繋がっている状態。バネの力で抑えられています。

クラッチの仕組み

これが離れている(クラッチを切っている)状態・・・若干飛び出しちゃってますが。

そして走行中にクラッチを切ったらどうなるかというと、こうなる。

走行中にクラッチを切った場合

橙と青でそれまで一つだった回転が二つに分けられる。反対に言うと二つの回転を一つにも出来る。

つまりギア比で言った通り、両者の速度差を受け止めるのもクラッチの仕事。

クラッチ板

だからシフトダウン時のギュインとなる速度差による減速はクラッチにとっては本当に酷な事なんです。文字通り身を粉にして両者の間中を合わせないといけない。

エンジンブレーキを多用するとクラッチ板(の摩擦材)がどんどん減ります。半クラッチ操作でエンブレの強さを制御する行為も同様です。

クラッチ板

ブレーキパッドの節約とエンブレを多用していたらクラッチ板のほうが摩耗して高く付きますよ。

少し話が反れますが

「シフトチェンジは素早く、クラッチは少し切るだけでいい」

と言われるのは、この青と橙の速度差を可能な限り小さくするため。

変速ショック

アクセルを戻してクラッチを切ると分かりますが、エンジンの回転数が落ちますよね。そうなると駆動で回っているインプットシャフト(青)との速度差が大きくなり、繋いだ時の負荷が大きくなる。

シフトチェンジでショックが大きくギクシャクしてしまう人の大半はこのクラッチの切り過ぎが原因。走行中のシフトチェンジ時のクラッチは本当に少し切るだけでいいという事です。

話を戻すとエンブレを多用すると負担が増す部分はもう一つあります・・・それはチェーンです。

エンブレ使うとチェーンが伸びるのが早くなります。これはエンジンブレーキによってアウトプット(エンジンの回転)とタイヤで速度差が出るから。

チェーンが伸びる

実際に後輪を減速させる部分はここ。

どうしてエンブレを強く掛けすぎるとリアがロックしてしまうのかも分かるかと思います。

タイヤが回るまいとする抵抗するエンジンに負けてチェーンを引っ張れなくなるからロックしてしまうんですね。

チェーンはもちろんスプロケにも非常に悪いです。クラッチなんかより高く付きます。

ボディ

神経質になるほどではないにしろエンジンブレーキは車体のアチコチに負荷を掛けます。

タンデム時や低速・停車時などでは使えるので絶対に使ってはいけないとは言いませんが、シフトダウンして”ギュイン”と唸らせるほど強く掛けるのはバイクに優しくないのであまりしないようにしましょう。

フロントブレーキ

ブレーキの主役はフロントブレーキです。エンブレではなくフロントブレーキを酷使する事。

最後に少し説教臭い事を言わせてもらうと

「初心者ほどエンブレに頼ってしまう」

というのが定説です。

これはいま説明してきたようにエンブレというのは挙動がリアブレーキと一緒だから。ノーズダイブ(前のめり)しない安心感があるから強力なリアブレーキとして重宝してしまいがちになる。

一次旋回と二次旋回

しかし少なくともオンロードスポーツ系のバイクでそんな乗り方をしていては綺麗にも気持ちよく曲がる事も出来ません。

何故なら曲がる時はフロントブレーキで荷重を前にやりフロントフォークを沈めて曲がり始めるが基本です。だから上手い人はエンブレをメインブレーキに使ったりしません。

CB1100

もしもエンジンブレーキによる減速をメインに使っているなら

「エンブレに頼った減速をやめる事」

これはバイクだけでなく自分が気持ちよく曲がる為の第一歩でもあります。

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