第十二回目はリアサスペンション・・・というかリザーバータンク付きリアサスペンションについて。
今どきは二本サスにしろ一本サスにしろ筒状のサブタンクが付いている物が多いですよね。
誇らしげに社名が入っているリザーバータンクが付いているだけで何だか高性能なサスペンションというイメージを持つと思います。
実際それは正しくてリザーバータンクというのは高性能なサスペンションの証みたいなものです。
では何故コレがあるのか、何故コレが高性能の証なのかリアサスペンションの構造から物凄くザックリと説明。
サスペンションは伸び縮みする事で乗り心地や路面追従性を向上させているわけですが、一重にリアサスペンションといっても『スプリング』と『ダンパー』があります。
そして実際に伸び縮みする皆が思うリアサスペンションの役割というのはスプリングが担っているわけですね。
ただし、スプリングというのは跳ね出すといつまでもビョンビョンと跳ね続ける。
そこでそのスプリングの跳ねを良い感じに収束させるのが同じ様にストロークするダンパーの役割。
ここまでは何となく分かる人も多いかと。
そんなダンパーの中にはオイルとガスが入っており、その中にはピストンがあります。
このピストンにはオリフィスと呼ばれる小さな穴が空いていて、スプリングの伸縮と同じ様にこのピストンが上下する事で穴をオイルが通る様になっています。
そしてオイルが通る際に発生する抵抗が跳ね続ける(ダンパーから見ると上下に動き続けようとする)スプリングを落ち着かせている。
『減衰力』って聞いたことがあると思いますがそれです。
お風呂を混ぜようと動かしたら重くなるのと同じような原理。
これがダンパーの仕組み・・・物凄くザックリですが。
「じゃあリザーバータンクは何のためにあるのか」
って話になるんですが、それは上の図のようなシンプルな構造では問題があったから。
最も大きな問題が
『キャビテーション』
です。
キャビテーションというのは早い話が低圧になることでオイル内に気泡が発生してしまう現象の事。
炭酸飲料の蓋を開けたら急にシュワシュワと泡立つのと同じ様な現象。
キャビテーションによって発生する気泡は空気なのでオリフィスを通っても減衰力にならない、それはつまりダンパーの役割を果たせないという事。
だからピストンには低圧にならない様にワンウェイの通り道が設けられています。
「これだと縮む時は減衰力を稼げないのでは」
と思いますが正にその通りでこの状態では縮む時は減衰力が働かない。
そこで新たに考えられたのが『ツインチューブ式(複筒式)』と呼ばれているサスペンション。
こうすることでオイルの圧力を保ちつつ伸縮それぞれで減衰力を発生させる事が出来るようになった。
これで万事解決・・・かと思いきやコレでもまだ問題はあった。
一つは容量の問題。
複筒式にすると単筒式に比べ有効容量がどうしても少なくなってしまう。
つまりオイル容量の減少による熱(熱ダレ)への弱さ、ピストン径の小径化による伸縮時の応答性の悪化などの問題があったんです。
そしてもう一つは『エアレーション』というやつ。
これはダンパー内のオイルと空気が、振動やロール・ピッチ・ヨーなどの動きでシェイクされる事によりオイル内に気泡が発生してしまう現象。
キャビテーションと同じ様にダンパーとしての役割を果たせなくなってしまう。車ならまだしも動きも熱も激しいバイクならではの問題。
そんな中でド・カルボンという偉い博士が1953年に閃きました。
「単筒でオイル室とガス室を仕切ればいい」
オイル室とガス室の間に敷居のようなフリーピストンを設ける方法を思いついたわけです。
こうすれば単筒式の武器である有効容量を確保しつつ、空気と油が混じってしまうエアレーションも圧力差によって発生するキャビテーションも防ぐことが出来る。
ついでに仕切ってあるから上下左右どうつけても大丈夫。
「低圧によって発生するキャビテーションはどうしてるの」
と拙い文章ながら理解した人は思うかもしれませんが、それを防ぐためにガス室には高圧(窒素)ガスを封入しています。
こうしてダンパー内の圧力を最初から高い状態にしておく事でキャビテーションを防いでいる。
「サスには高圧ガスが入っている」
と言われる際のガスとはこの事で
「サスが抜けた」
と言われるのはこの高圧を封入しているシールが圧力に負けて抜けてしまった事を表しているわけです。
ついでに言うと、一昔前のバイクのリアサスがオーバーホール不可なのは圧力に耐えられるシールが無く溶接で封入していたから。
何がともあれこれで問題は解決・・・ってリザーバータンクはどうしたって話ですね。
仕切りを設けることでキャビテーションもエアレーションも、そして更には取付角度の問題も解決したド・カルボン式でしたが、一方で新たなデメリットがありました。
それは横の容量は稼げても縦の容量(ストローク)が稼げない事です。
ガス室とフリーピストンを設ける必要がある事からストロークを稼げないんです。
全長に対してストロークを稼げないとなると乗り心地や足つきの悪化に繋がってしまう・・・そこでどうしたか。
ここまで来ればピンと来た人も多いでしょう。
ガス室とフリーピストンを別に設ければいい。
こうすれば縦の容量も稼ぐことが出来る。リザーバータンクというのはこのためにあるんです。
こうして数々の問題を解消しただけでなく、弱点をも克服したリアサスペンションがリザーバータンク付きド・カルボン式。
「リザーバータンクは高性能の証」
と言える理由はここにあるわけです。
為になりました
分かり易い説明をありがとうございます。所で窒素ガスはタイヤにも使われていますが、サスの場合もタイヤと同様2㌔の補充をすれば良いのでしょうか?それとも専門家による点検が必要なのでしょうか?