バイクのはてな

知ってるようで知らないディスクブレーキの仕組みと大事なこと

ディスクブレーキの仕組み

第九回目は誰もが知っているつもりになっているディスクブレーキについて。

当たり前のように使っていますが、実はとってもよく考えられたブレーキシステムなんですよ。

 

まず最初にディスクブレーキの流れを簡単に説明すると

ブレーキを握る事でマスターシリンダーがフルード液を押す

ホースを伝ってキャリパー内のピストンを油圧で押し出す

ピストンがブレーキパッドをローターに押し付ける

摩擦によりブレーキが掛かる

ディスクブレーキの主要部品

ですね。

「それくらい知ってるよ」

って人が多いでしょうし、1ページでブレーキを全部書けというのも無理な話なので端折りつつ行きます。

 

まず最初はブレーキで一番初めに動作するマスターシリンダーから。

マスターシリンダー

ブレーキレバーのそばに付いている細長い筒みたいなものがマスターシリンダー。

仕組みを簡単に表すとこんな感じです。

マスターシリンダーの仕組み

本当はもっと複雑な経路があるんですが、要するにレバーを引くとマスターシリンダー内のピストンが押されフルード液に圧を掛ける・・・わけですが

ブレーキの流れ

「どうしてこんな小さな物と力であんなに重いバイクを止められるのか」

って不思議に思いませんか。

 

実はこれには皆さんよくご存知な

「テコの原理」

が使われています。

テコの原理

回転するボルト部を支点に、レバーを握ることで力点となり、作用点がマスターシリンダーを押す。

つまりギュッと握っている力がそのままマスターシリンダーを押しているわけではなく、テコの原理によって増幅された力がマスターシリンダーを押しているわけです。

 

ところで

"ラジアルマスターシリンダー"

というのを聞いたことがある人が多いかと思います。

ラジアルマスターシリンダーの仕組み

これは文字通りマスターシリンダーが従来のように水平ではなくレバーと同じ垂直方向に動く様になっている物の事。

スーパースポーツなどお高いバイクでは当たり前な装備となっています。

従来型とラジアルマスターの違い

「ラジアルだと何が良いのか」

って話ですが、レバーを握ってもらえば分かる通りテコの原理を使っている以上、マスターシリンダーを常に真っ直ぐ押すことは出来ない。

従来型のブレーキレバーの動き

どうしても軽くカーブを描いてしまう。

するとライダーの入力(力)に対し、レバーの角度によって伝わる力が一定でないからタッチの感覚差が大きくなってしまう。

これを何とかしようとして編み出されたのがラジアルマスターシリンダー。

ラジアルブレーキレバーの動き

テコの原理の支点と作用点を近づける事でレバー比を大きくし、レバーの振れ幅を小さくしている。

その代わりストローク量も減るので、ラジアルマスターシリンダーは従来型よりも大径のマスターシリンダーピストンなのが一般的。

マスターシリンダーのストローク量

従来型が深さで圧を稼ぐロングストロークなのに対し、ラジアル型は径の大きさで圧を稼ぐショートストロークというわけ。

 

つまりラジアルマスターシリンダーというのは、ブレーキの性能を上げる為というよりも精度を増すための構造。

ブレーキ周りで一番影響力がある部分はパットでもキャリパーでもなくこのマスターシリンダーです。誰が握っても分かるほど通常とラジアルではタッチが全く違います。

NISSINのラジアルマスター

「よし俺もラジアルマスターシリンダーにしよう」

と思われた方が居るかもしれませんが、ちょっと待ちましょう。

ディスクブレーキにはテコの原理だけでなくマスターシリンダー径(圧)が大きく関係している原理がもう一つあります。

密閉された流体の一点に力を加えると同じ強さの力が全ての部分に伝わる。

パスカルの原理

「パスカルの原理」

です・・・ザックリな絵ですが。

テコの原理ほどではないですが、中学か高校物理で習ったはずなので何となく覚えている人が多いかと思います。風船が綺麗に膨らむウンタラカンタラですね。

 

つまりキャリパーピストンとマスターシリンダーの径(圧)というのはブレーキ性能に直結しているわけです。

キャリパーポット数

パスカルの原理なのでポット数が増えれば増えるほど力はそのまま倍々で増していきます。ちなみに対向では倍になりませんが、Wディスクでは倍になります。

ただし基本的にポット数を増やす場合はキャリパーピストンの径を小さくするのが一般的なので、ポット数だけで単純に強さが決まるわけではありません。

ブレンボのラジアルマスター

話をマスターシリンダーに戻すと、他車種の流用にしろサードパーティ製にしろマスターシリンダーを変更する時は(単純に同一直径で選ぶのでなく)車種にあった物にしましょう。

まあ一番気をつけなくてはいけないのは干渉かと思いますが。横につける事が前提だったハンドルに縦の物を付けるわけですから。

 

残念ながらまだ話は続きます。

マスターシリンダーによって押されたブレーキフルードがホースを伝ってキャリパーピストンを押す事でブレーキが掛かる。

ブレーキキャリパー

じゃあブレーキを離したら・・・圧が無くなるのでブレーキが解除されますよね。

この時、押し出されたピストンがどうなるかというと、出たままではなく引っ込みます。

ピストンリリース

誤解している人が多いですが、決して出っぱなしではありません。

この役割を担っているのがゴミが入らないようキャリパーに掘られた溝に嵌めてあるダストシールの更に内側にあるピストンシール。

キャリパーシール

ピストンシールは

「ピストンとキャリパーの隙間を密閉しフルードを漏らさない為の栓」

と一般的に言われていますが、役割はそれだけじゃないんです。

ピストンシールはピストンが押し出されると一緒に前に出ます。しかしピストンシールの根元は動かないキャリパー側に固定されているので撓るようにピストンに付いていく。

ピストンシール

そう、つまりこの撓ったピストンシールが戻ろうとする力によってピストンが戻るんです。

ピストンに付着したダストを洗い落とす"ブレーキの揉み出し"が大事と言われる理由や

「絶対にシールの溝にキズを付けるな」

と言われている理由はここにあります。

ただの太い輪ゴムに見えますが実はとっても重要な部品で、溝やシールの形状はメーカーによって何種類もあり車種によって使い分けられています。

ラジアルマウントキャリパー

ちなみにマスターシリンダーと同じようにキャリパーでも”ラジアルマウントキャリパー”というのがありますね。

これはまあ見て分かる通りキャリパーを横から固定するのではなく、縦で固定するタイプのキャリパーの事。

ラジアルマウントボルト

普通は縦ではなく横ですよね。

キャリパーマウント

「こうすると何が良いのか」

っていうと、ブレーキキャリパーというのは動いているホイールを受け止めようとするので強い力が掛かる。だから意外とガタガタ動く。

そこでキャリパーを固定するボルトを放射状に付ける事で、そのガタガタを抑えるという話。

ガタガタ動く範囲が通常とラジアルでは10倍以上違うと言われてます・・・が、ラジアルマスターシリンダーとは対照的に分かる程の効果があるかというと。。。

 

あともう一つ説明しておきたいのがモノブロックキャリパーというやつ。

2ピースとモノブロック

普通はモナカの様な2ピースなんだけど、そうではなく1枚ものというか1ブロックになってるキャリパーがモノブロックキャリパー。

これは単純に軽くする事が狙い。

モノブロックのメリット

モノブロックにすることで頑丈なボルトも、ボルトを差すスペースも要らなくなる・・・モノブロックのアングルが若干間違えていますね。

※追伸

一体成型による剛性確保を書いていないというご指摘を受けましたスイマセン。

ブレーキを掛かるとパットを押す凄い力が掛かるので、同時にキャリパーを開こう(曲げよう)とする力が掛かる。

そうした時に一体型のモノブロックだと見て分かる通り剛性が高いから簡単には変形せず安定した制動力を掛けられるという話。

 

【最後に一番大事なこと】

こうやって散々偉そうに端折りながら説明してきたディスクブレーキシステムですが、大前提として正常なブレーキフルードが入っていないと動作しません。

そしてブレーキフルードというのは最低でも2年毎に交換することが推奨されています。

ブレーキフルードの交換目安

これはヤマハのオーナーズマニュアルからですが、他のメーカーも同じ。

 

ブレーキフルードを交換しないといけない理由は

「劣化してブレーキが効かなくなるから」

と言われています。

ブレーキフルードは劣化し黒くなってくると沸点が下がりベーパーロック(フルードの沸騰)を起こしやすくなるから。

要するに効かなくなるわけで、マニュアルにも酷使する下り坂ではエンブレ使えと書いてありますね。

ベーパーロックの注意文

ただ今どきのフルードは性能が良い上にバイクはブレーキが剥き出しなのでベーパーロックなんて簡単には起こしません。

じゃあ変えなくていいのかというと断じて違います。

 

「絶対に最低でも二年毎に変える事」

 

これはベーパーロックよりも厄介な問題を招くからです。

 

フルードはグリコールという成分で出来ており、ブレーキホースから(拡散浸透する)水分を、隙間からダストを吸います。

そして交換せずにいると結晶化といってカチカチな粒のような個体が出来たり、ドロドロデロデロな沈殿物が出来てしまう。

 

問題はそれが”出来る事”ではなく”出来る場所”です。

この結晶やヘドロが何処に付くのかというと、フルードラインの一番下にある大事なピストンシールに付くんです。

ピストンシールの結晶化

戻る力というのはシールの撓りだけなのでとっても弱い。だから些細な詰まりや抵抗が起こるだけでピストンが戻れなくなる。

そしてこれの何が厄介かというと

「なかなか気付くことが出来ない」

という事です。

 

どうして気付けないのか・・・それは

「テコの原理とパスカルの原理でブレーキは効くから」

ブレーキの流れ

多少詰まったり固まったりして流れや動きが悪くなっても、フルードが少しでも通り、押すことが出来ればブレーキは効くんです。

ただしこれは押すときだけの話で戻りは悪いまま。

新旧ピストンシール

無視できない程の引き摺りを起こすようになってようやく異常に気付く。

しかしもうそこまで行くとキャリパーシールもマスターシリンダーもそれら不純物で駄目になっているのでオーバーホールするしかなくなる。

ずっとブレーキを掛けた状態で走行していたワケなので、お高いディスクローターも熱で曲がり駄目になっている場合もあります。ABS付きの場合ABSユニットまでダメになってしまう可能性もある。

ディスクローターの焼け

ディスクローターがこんな風に茶色く焼けてませんか。それ引き摺ってる可能性高いですよ。

こうならない為にも、後で泣かない為にもブレーキフルードは最低でも2年毎にちゃんと交換するようにしましょう。

純正ブレーキフルード

自分で交換する際は塗装を痛めるので他の部分につかないようにする事と、間違ってもグリコール系(一般的なバイクはコッチ)とシリコン・鉱物系(ハーレーや一部の旧車)を混ぜないこと。入れた瞬間に結晶化してオーバーホールするハメになります。

 

【まとめ】

ブレーキというとビギナーもベテランもついつい

「効くか、効かないか」

に意識を持っていきがちだけど

ディスクブレーキシステム

「戻るか、戻らないか」

も同じくらい意識を持って見てあげないといけないという事です。