『オクタン価(RON)』
言葉くらいは知ってる人が多いと思います。
・自己着火し難い”イソオクタン”
・自己着火しやすい”ノルマルヘプタン”
オクタン価というのはこの混合比(容積比)の事で、オクタン価が高いガソリンほど自己着火し難いガソリンとなる。
そしてハイオクはオクタン価100。
つまりほぼイソオクタン(99.5%以上)で、レギュラーのオクタン価90はヘルマルヘプタンが少し入っているという事。
厳密に言うと、現在では燃焼試験によって算出するためオクタン価というのは一種の目安でしかないそうですが。
そして一部の高性能車がハイオク仕様となるのは、エンジンの性能(圧縮比)を上げていく際に問題となるノッキング(自己着火)を回避するため。
ノッキングというのは燃焼行程で燃料がプラグからの火を待たずに勝手に燃え始める事。
エンジン開発はノッキングとの闘いとも言われるほど、ノッキングというのは非常に厄介な現象。
ノッキングを起こすとパワーダウンとなり、高負荷時に起こるとエンジンブローします。
つまりハイオク仕様というのは、自己着火し難いハイオク燃料を前提にする事でノッキングのボーダーラインを引き上げるため。
それ即ち性能(圧縮比)が上がるわけですからね。
まあそんな事よりもこのページで大事なのは
「ハイオク仕様≠オクタン価100仕様」
という事です。
これは日本と海外で流通しているガソリンはオクタン価が違う事が関係しています。耳にしたことがある人も多いかと。
【欧州のオクタン価:92/95/98】
欧州ではオクタン価95のガソリンを販売する事が欧州燃料指令(DIRECTIVE 2009/30/EC)で義務付けられています。
「欧州のレギュラーは日本のハイオク」
と言われる理由はこれで、向こうの人はほぼこのオクタン価95を使っています。
ちなみにオクタン価92のローグレードは国によって有ったり無かったりするマイナーグレード。
【北米のオクタン価:※87/89/91】
北米は地区によっては若干の誤差があるんですが、それより重要なのはオクタン価の計測方法が他の国がリサーチ法を用いるの対し
「リサーチ法(RON)×モーター法(MON)」
による算出のため他の国より低い数値になっている事。
ただこれをリサーチ法に換算するとおおよそ92/95/98で欧州と変わらない。
この算出法の違いから
「89指定ということはレギュラーでいいのか」
という誤解を招きやすいので注意を。
日欧米を纏めるとこうなります。
| LOW | MID | HIGH |
日本 | 90 | 無 | 100 |
北米 | 92 | 95 | 98 |
欧州 | 92 | 95 | 98 |
つまり日本に持ってきた際にハイオク仕様となるのは
「欧米のレギュラー(オクタン価95)に合わせているから」
となるわけですね。
これを知っている人はハイオク仕様でもハイオク(オクタン価100)とレギュラー(オクタン価90)を半分ずつ入れて節約したり・・・あまりオススメしませんが。
あとオクタン価を上げる高濃度のアルコール系添加剤も金属やシール・ゴムを駄目にするので絶対に止めておきましょう。
話を戻すと、要するにハイオク仕様というのは極一部の例外を除き
「オクタン価95以上が条件であってハイオクが条件ではない」
という事です。
ハイオク仕様の逆輸入車にお乗りの人はタンクなどに貼ってあるコーションラベルを見てもらうと分かります。
”RON95(オクタン価95)”もしくは”95Octane”
と書かれている文を発見できるかと。
ココまでが豆知識で、これ以降は備忘録と思って下さい。
上記の内容を見て同じように思った人も多いと思います。
「なぜ日本のレギュラーはオクタン価90と低いのか」
という話。
これは日本のオクタン価はJIS規格K2202で
・プレミアムガソリン(1号:オクタン価96以上)
・レギュラーガソリン(2号:オクタン価89以上)
と定められているから。
だからレギュラーはオクタン価90となっている。
規格の89より1多いのは下回った場合、売れなくなってしまうので安全マージンというわけ。
しかしそうすると新たな疑問が湧いてくる。
「なら何故ハイオクは規格の96を大きく上回る100なのか」
という事。
いくら調べても答えが見つからなかったのでJXTGエネルギー株式会社に問い合わせてみたところ・・・
「石油各社が商品アピール競争した結果」
という想定外な答えが返ってきました。オクタン価を品質と思ってる消費者が多いということでしょうか。
※実際に売られているハイオクはオクタン価98程度という話もあります
まあハイオクは好き者や極一部の人しか使わないのでいいとして、問題は9割以上の人が使うレギュラーです。
最初にも言いましたが、エンジンの性能を向上させる上で問題となるのはノッキング。
マツダの某エンジニアの方も
「オクタン価90と95は全然違う・・・」
と嘆くほど、90というオクタン価はエンジニア泣かせな要素なんです。
ちなみにいま存在するオクタン価90(レギュラー)前提のエンジンを、オクタン価95前提の設計にすると燃費や馬力が5%ほど上がると言われています。
だから実はJAMA(日本自動車工業会)も2007年に石油業界に95に上げるように要請した事があります。
「欧州を中心に高圧縮&ダウンサイジングの流れが来ている。
しかしそれはオクタン価95の環境があるからで、オクタン価90である日本の環境ではハイオク仕様となり売れない事から、高圧縮技術の開発が進まず置いていかれる。
もしもオクタン価が95になれば燃費も伸びるからエコにも繋がる。」
凄く真っ当な言い分です・・・が、結果はお流れに。
そしてその言い分の通りメーカーが恐れていた欧州発端ダウンサイジングターボブームが巻き起こり
「日本はHV偏重だったから欧州の直噴ダウンサイジングターボで遅れを取った」
などと好き勝手に言われる事態に。
ちなみにレギュラーのオクタン価は最初から90だったわけではありません。
| 一号 | 二号 | 三号 |
1952 | 72 | 65 | 60 |
1958 | 80 | 75 | 60 |
1961 | 90 | 80 | 廃止 |
1965 | 95 | 85 | |
1986 | 96 | 89 | |
こうやって少しずつ上がってきたんですが、1986年を最後に30年以上もオクタン価は上がっていない。
なおのこと
「燃費も性能も向上するんだから上げろよ」
と思いますよね。
じゃあオクタン価を引き上げに反対する
『石油業界の言い分』
は何なのか。
どうして石油業界がレギュラーのオクタン価引き上げに難色を示しているのか色々と調べたところ
「バランスが崩れてしまうから」
というのが大きな理由のようです。
石油から様々なものを造っているのは皆さんご存知と思います。
その中でガソリンとして主に精製されているのは
・重質ナフサを接触改質して精製する改質ガソリン
・原油から得られる直留ガソリン
・LPガスをベースに付加反応で精製するアルキレートガソリン
・重油を接触分解して精製する分解(またはFCC)ガソリン
これらを上手いことミックスして造っているのがガソリンで、一つだけでガソリンになるわけではないんですね。
そして大量に精製する必要があるレギュラーガソリンのオクタン価を95に上げるとなった場合、この基材(ベース)の割合を変える必要がありバランスが崩れてしまう。
「コスト増&設備負担増&他の石油製品への影響大」
という理由から石油業界は首を立てに振らないというわけ。
これは安定供給第一という国からの命題を守るためでもあり、国(経産省)の方も
「オクタン価を95に上げると確かに自動車のCO2は減るが、設備負担とコストが増すので慎重を期する必要がある」
という結論を出しています。
また我々は値段とオクタン価しか見ませんが、ガソリンにもバイクの排ガス規制のように硫黄などの有害成分に規制値が設けられており、石油メーカーは年々強化される規制値をクリアするガソリンの開発という課題も抱えているんです。
ちなみにその規制のおかげで日本のガソリンは今や世界一クリーンなんだとか。
ただもう欧米だけでなく台湾やシンガポールなどでもオクタン価95がメジャーになっている時代。
そんな中で日本だけオクタン価90というのは・・・いつか95、もしくは95グレードが設けられる日は来るんでしょうかね。
そのまま水素に移行する気がしないでもないですが。
【オマケの豆知識】
ガソリンって同じ銘柄でも地域や季節によって微妙に違うのをご存知でしょうか。
冬や北海道などでは始動性をあげる為に寒候用ガソリンに、夏や沖縄などでは加熱によるベーパーロック(気泡発生)を防ぐために夏季用ガソリンに、蒸気圧(37.8℃kPa/44以上78以下)などで変えてある。
だから同じ銘柄でも地域や季節によって五種類ほどあるんだそう。※種類や詳細については企業秘密
最後になりましたが、迅速かつ丁寧に色々とお答えいただいたJXTGエネルギー様、出光興産様ありがとうございました。
給油の際は是非ともエネオスか出光で。