エンジンバルブという部品というか部分があります。
簡単にいうと燃焼室の出入り口、扉みたいなもの。
エンジンの性能を決めると言っても過言ではないほど重要な部品で、エンジンの回転数に限度があるのもバルブが回転についていけなくなるから。
ちなみに今回の話は多くのバイクに採用されているポペット式というバネの力で戻るやつです。
ドゥカティのデスモドロミック等は少し話が変わってくるのでご了承下さい。
「バイク豆知識:高性能車はバルブが違う」でも書いたので基本的な事は飛ばしますが、バルブはカムの速度について行けなくなるとバルブサージングを起こします。
バルブサージングというのは要するにバルブに付いているスプリングが、振動(共振)を起こしてしまい正しく機能しなくなる事。
ここまでは説明したと思いますが、せっかくなのでもうちょっと紹介します。
一つはバルブジャンプというやつ。
これはカムに押されて沿うように開くはずが、カムが早すぎるために勢い余ってカム山から離れてしまう現象のこと。
もう一つはそのジャンプによって誘発されるバルブバウンスという現象。
これはジャンプによって長く開いたままの状態から勢い良く閉じてしまった為に、反動でもう一回ピョンっと少し開いてしまう現象。
これらの異常を起こす事は非常に問題です。
というのも、必要以上に空いてしまう、または閉じないといけないのに空いてしまうという想定外の動きをすると、ピストンとぶつかって折れるから。バルブクラッシュと言います。
これを起こしてバルブが折れてしまうと、破片などが燃焼室に混入しエンジンが駄目になる。
この現象はバルブの質量(重さ)が大きいほど、またバルブスプリングの硬さが柔らかいほど起こるわけですが、エンジンバルブというのは基本的に2バルブでも4バルブでも吸気が大きいのが常識。コレは排気より吸気が大事だからです。
つまり吸気バルブの方が重い・・・にも関わらずメーカーは基本的に吸気バルブと排気バルブのバルブスプリングは全く同じか、ほぼ同等の硬さの物を使うようにしています。
ということは、説明してきたバルブの異常現象は必ず吸気バルブの方から起こるようになっている。
これこそがメーカーが施している配慮。わざとそうしているんです。
※吸気バルブが小さい5バルブや3バルブや軽いチタンバルブでも同じように調整されています
どうして吸気バルブから起こすようにしているかというと、吸気バルブと排気バルブそれぞれが開く時のピストンの動きを見れば分かります。
排気バルブが開く(動く)時はピストンが上がってくる時。反対に吸気バルブが開く(動く)時はピストンが下がっていく時。
どちらが異常を起こした時にピストンと衝突しやすいか一目瞭然だと思います。圧倒的に排気バルブですよね。
吸気バルブが異常を起こしてもピストンとぶつかる可能性はかなり低い。
そしてバルブが異常を起こすと明らかに失速するのでライダーは本能的にアクセルを戻す。
それはつまり速すぎて悲鳴を上げたバルブを落ち着かせる事と同義なのでバルブクラッシュを起こさずに事なきを得る、または吸気バルブの交換だけで済む可能性が高くなるというわけ。
そもそもバルブ異常が起こらない様にメーカーは余裕を持たせたレッドゾーンを設けているので、よほどのことが無い限り先ず起こりません。
ただ万が一、それが起こっても被害を最小限に抑えるための備えとしてメーカーはこういう見えない配慮をしているというわけです。