一本サスの原付二種が増えている理由

スクーターのサスペンション

近年14インチオーバーの大径ホイールを履きつつもリアサスペンションが片側にしか付いていない原付二種スクーターが結構出ていますよね。

一見するとただケチってるだけの様に見えますが、決してコストカットだけが狙いではありません。

シングルサスペンション

先に答えを言ってしまうとこれはアジア市場への配慮の形です。

ただ日本も全く関係ないという話でもないので書いていこうと思いますが、これにはまずスクーターの構造を交えつつ長々と。

一般的にスクーターと呼ばれる乗り物はバイクとは違い『スイングユニット式』とよばれる形を採用しています。

スイングユニット式

凄く乱暴に言うとスイングアームにエンジンと駆動が直接付いている様な形。

ここで重要なのがスイングユニット式というのはいわゆる片持式と同じ様な構造をしている事。

スイングユニット式イラスト2

ということで本来ならばサスペンションを付ける箇所は左側にしかしかないからサスが一本になるのは実は合理的な話。だから50ccの一種などは基本的に左にしか付いていない。

じゃあなんで二本サスの原付二種が幅を利かせているのかというと、一番は乗り心地を良くするため。

SH125

スイングユニット式というのはバネ下重量が激重なのでサスペンションは非常に大変。

だから二本サスにしてあげて一本あたりの負担を減らす事で柔らかくして乗り心地を改善しているというわけですね。

ただし重ねて言いますがスイングユニット式というのはタイヤを挟むようにスイングアームが伸びている一般的な両持ちと違って右側にはなにもない。

スイングユニット式イラスト

つまりサスペンションを設ける事がそのままでは不可能なわけです。

じゃあ右側にサスペンションを付けるためにどうしているのかというと、新たにアームを足しています。

スイングユニット式イラスト3

こうやって両持ちの様にすることでサスペンションを二つ付けられる様にしている。

ちなみにこのアームはリアの剛性を上げる補剛材という狙いやディスクブレーキ化のステー代わり等の狙いもあるんです・・・が、これはこれで問題がある。

シグナスのスイングユニット

それはタイヤを外すのが非常に手間になるという事。

一般的な片持式スクーターのリアタイヤを外す場合の手順は大体こんな感じです。

片持式のアクセス方法

(1)エキパイのジョイントナットを外す
(2)サイレンサーのボルトを外す
(3)アクスルナットを外す

この3ステップで基本的にリアホイールは外せます。

場合によってはマフラーを触らずともタイヤを外せる様になっている車種もあります。

それに対してカバーを付けて両持ちにしているスクーターだと・・・

両持ち式のアクセス方法

(1)エキパイのジョイントナットを外す
(2)サイレンサーのナットを外す
(3)アームに付いたリアサスを外す
(4)アクスルナットを外す
(5)アーム本体を外す

となる。

想像しただけでも伝わると思いますが、非常に手間が掛かって面倒臭い。もしもブレーキキャリパーが付いていたらそれを外す手間まで増える。

自分で外してみた事がある人はいま凄い勢いで頷いてくれていると思います。

つまりサスを一本にしているのは単純なコストカットだけではなくリアタイヤを簡単に外せるようにするためなんですが・・・

ブルーコアエンジン

「そんな頻繁に触る部分じゃないのに」

と思われるかと。

でもそれは舗装が行き届いている日本に居るからそう思う話で、メインターゲットのアジアでは事情が変わってくる。

アジアというのは都市部の幹線道路こそ舗装はそれなりにしっかりしているものの、少し外れたり農村部まで行くと鋭利な石や釘などが当たり前のように落ちているのでパンクやバーストが日常茶飯事なんです。

インドのパンク修理屋

特にその傾向が強いのが最大市場であるインドで、パンク修理で生計を立てている人達も大勢居ます。

また実は日本など先進国で回収された廃タイヤの大量輸入もしており再利用なども活発に行われてる。

こういう状況があるからそれを鑑みて一本サスにしている狙いがあるんですね。

ちなみに・・・

ホンダCD110

「アジアといえばコレ系だろ」

と考えてる人も多いかと思います。

実際今まではその通りで、大きいシートで大人数や大荷物を載せられる事が求められた為にそういうビジネスバイク需要が大きかった。

しかし近年の目覚ましい経済発展によってバイクを買えなかった人、そして何より女性の進出が大きく進展。要するに一人一台の時代になってきたんです。

そしてそんな人達の足として好まれているのが一般的なビジネスバイクではなく、メットインスペースがあってATで運転も楽ちんなスクーター。

パッソルカタログ

1970年代後半に女性の社会進出によってパッソルやラッタッタなどのファミリーバイクが人気になった日本とほぼ同じ状況にあるという事ですね。

ただ何度も言いますがパンクやバーストが日常茶飯事なので、運転だけでなくタイヤ交換も楽な一本サスのスクーターが都合がいい。

インドのストリート

というのが増えている理由というか背景です。

「じゃあ国内で乗る分には二本サスでいいな」

と思うのもごもっともな話ではあるんですが・・・脱着の面倒臭さが違うのでキッチリしたショップなら工賃が違う場合もある。まあ変わっても数百円程度の差でしょうけど。

整備性の一本サス、乗り心地の二本サスという感じですね。

コメントを残す