「ADVENTURE URBAN TRANSPORTER」
X-ADVとしては二代目となる2021年3月発売のRH10型。
・1kg軽量化された新設計フレーム
・電子制御スロットルの採用
・新型FIを採用
・給排気やバランサーの見直しで4馬力向上と1.4kg軽量化されたエンジン
・メットインスペースが+1Lで23Lに
・ウインカーオートキャンセラー
・エマージェンシーストップシグナル
・新型スクリーン
など2021年モデルのNC750X/RH09と共通の変更が多くなっているのですが、X-ADV/RH10はそれに加えて
・DRLの採用
・HSVCSを搭載
・シート前方を絞って足つき性向上(日本仕様はダウンサスも継続採用)
・4速から6速までをロングレシオ化
・DCTのシフトスケジュール設定を2段階から5段階に
・グラベルが加わった5つのライディングモード
(スポーツ/”グラベル”/スタンダード/レイン/ユーザー)
・メットインスペース内にUSB Type-C(15W/5V,3.0A)
・スマートキーのメインスイッチをノブ式からプッシュ式へ変更
・パーキングブレーキをハンドル右側へ移設
・空いたスペースにフェアリングポケットを新設
・4つの表示パターンを選べる多機能5インチカラーTFTメーター
・純正パニアケースをOPで用意(トップはスマートキー連動型)
など更に様々な改良と追加が入っています。
DRLというのはデイタイム・ランニング・ランプといって簡単に言うと
「シグネーチャーランプを昼間点灯の代わりにしてもOK」
という2020年末から解禁された制度で、ホンダとしてはこのX-ADVが第一号。
ちなみにDRL点灯中は目尻にあるロゴも光る遊び心つき。
あともう一つ説明が必要だと思われる新機能が
『HSVCS(Honda Smartphone Voice Control system)』
というやつで、簡単に言うとスマホとヘッドセットのBluetooth接続を補佐するシステム。
スマートフォンとヘッドセットを直接ペアリングするのではなく、間に本体に内蔵されたBluetoothユニットを挟む形で
・ナビ(GoogleMapで矢印をメーター表示)
・電話
・メッセージ送受信(SMS)
・音楽
をスマホを操作せずバイクに乗りながら行えるようになる。※2021/11/28時点ではBluetooth4.2以上のAndroidのみ
これだけだとバイクが介入する必要性があまり無いように感じられるもののそうでなく、これの肝となる部分は左ハンドルに備え付けられたセレクトスイッチ。
例えば電話やSMSなどが来るとヘッドセットから
「電話に出るor電話に出ない」
「SMSを読み上げるor読み上げない→音声入力で返信するor返信しない」
という風に二択方式の案内が入り、ハンドルについている物理スイッチの左右でそれぞれYES/NOを選択出来るようになる。説明するまでもないですが、こうすることでグローブをつけたままで確実な操作が出来るようになる。
更にはアプリがフリーズなど応答を停止した場合も自動で再起動を掛けてくれる機能付きだから、スマートフォンはメットインスペースに新たに設けられたUSB Type-Cソケット(15W/5V,3.0A)に繋いで放り込んでおけばOK。
より洗礼されたスマートキーも合わさって
「煩わしさを徹底して排除した形」
になったのが今回の一番の変更点じゃないかと。フレームもステア周りの剛性が上げられて走りにも磨きが掛かっているんですけどね。
ところでX-ADVがこれほど贅沢というか高待遇な改良が加えられたのは、弟分などが登場している事からもお分かりの通り大成功を収めたからというのがあります。
X-ADVは約120万円とNC兄弟の中でも最高値なのですが、それにも関わらず初代モデルはMCN(イギリスのバイク誌)によると、2019年までに世界で約32,000台(ヨーロッパだけで7,500台)のセールスを記録。近年のホンダ車を代表するスマッシュヒットモデルとなりました。
ちなみに免許制度の関係で需要が小さいであろう日本でも年間500台前後の販売となっています。
このヒットの要因が何処にあるのかといえばズバリ
「ビッグスクーターの概念を覆したモデルだったから」
という点に尽きるかと思います。
先代でも少し話しましたがビッグスクーターは
・パワーユニットが埃を被る下側にある
・車重やバネ下が重くなりがち
・メットイン機能でシート高が上がるので大径ホイールが難しい
・同理由でロングストロークのサスペンションなども難しい
といった問題があることから
「オフロードとスクータースタイルを両立させるのは難しい」
というのが現実問題としてあった。だからオンロードとしてコンフォートやスポーツに振るしか無かった。X-ADVはそんな定石を覆した形。
とはいえ実際のところNC派生の新型スクーター(X-ADV)を造るプロジェクトが始まった際も、最初からこのSUVスタイルだったわけではなく、インテグラのような従来スタイルの案もあった。
では何故SUVスタイルに方針決定されたのかというと、レジャーでも使えるビッグスクーターがほしいという要望がフランスやイタリアからあったというのも要因なのですが、決定打となったのはプロジェクトリーダーの見崎さんいわく
「こういうバイクがあったら楽しいよね」
というEZ-9に通ずる実にホンダらしい至極単純な理由から。
そしてそれに呼応するようにそういうのが大好きなイタリアホンダ(アフツイと同じMaurizio Carbonaraさん)がノリノリでSUVコンセプトデザインを作成。これがX-ADVの始まりになります。
参照:How the Honda X-Adv went from concept to reality|MCN
実際に形にすることが出来たのはX-ADVのパワーユニットがスクーターではなく一般的なオートバイだからというのが大きいというのは先代でも話した通り。
でもX-ADVが絶妙だったのはここから。
というのも見てわかるようにメットイン機構を設け、そのためにリアホイールを15インチにインチダウンするなど、決してスクーターが持つ利便性という武器を捨ててまでオフロード偏重にしているわけではないから。
「じゃあオフロードっぽいのはただの飾りか」
っていうと決してそうではなく、開発にはホンダのフラッグシップアドベンチャーでありガチンコアドベンチャーでもあるアフリカツインのメンバーも招集されノウハウが注入されました。
しかしそこで目指したものはアフリカツインに迫れるような性能を持つ優れたアドベンチャーというわけではなく
「オフロードを走ってもワクワク出来るエモーショナルを持たせる」
ということでした。
大ヒットとなった要因は間違いなくここで、X-ADVはコンセプトとパフォーマンスそのどちらも大事にしたのは心を躍らせる『ワクワク感』だったわけです。
今までにないタフなルックスを見て心が躍る・・・だけじゃない。
乗ってみるとメットインがあってゆったり座れるポジションだから街乗りも楽だけど、あくまでスクーターに擬態した形だから足回りのバタつきや鈍重さが無いからスポーティな走りを楽しめる。
豊富な低速トルク&超低燃費なエンジンとクラッチ不要のATだからストップアンドゴーの多い街乗りに最適だけど、ベルトによる無段階変速ではなくDCTだからエンジン回転数の変化を楽しみながらの走ることも出来る。
そして何よりエンストの心配無用でアクセルワークに集中できるから、躊躇なく道を外れて悪路を楽しく走ることだって可能。
X-ADVはコミューターの要件を満たすプレジャー要素の塊みたいなモデルになっているから、それが結果として
「平日はコミューターとして、休日はアドベンチャーとして使えるバイク」
という評価を獲得し、多くの人をワクワクさせているという話。
コミューターとして使うも、アドベンチャーとして使うもオーナー次第。スポーツ多目的車(Sport Utility Vehicle)というコンセプトに偽りなしですね。
余談・・・
ご存知の方も多いとは思いますが、ホンダは昔からAT(クラッチレス)の可能性を広げるために色んなタイプのAT車を出しては受け入れられず消えていった歴史がある。
そんな歴史を持つだけにX-ADVのヒットは本当に感慨深いものがあるし、同時にそんな歴史があるからこそX-ADVを造れたんだろうなと。
主要諸元
全長/幅/高 | 2200/940/1340mm |
シート高 | 790mm |
車軸距離 | 1580mm |
車体重量 | 236kg(装) |
燃料消費率 | 27.7km/L ※WMTCモード値 |
燃料容量 | 13L |
エンジン | 水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒 |
総排気量 | 745cc |
最高出力 | 58ps/6750rpm |
最高トルク | 7.0kg-m/4750rpm |
変速機 | 電子式6段変速(DCT) |
タイヤサイズ | 前120/70R17(58H) 後160/60R15(67H) |
バッテリー | YTZ12S |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
FR6G-11K |
推奨オイル | Honda純正ウルトラG1(10W-30) |
オイル容量 | 全容量4.0L 交換時3.1L フィルター交換時3.4L (クラッチ含む) |
スプロケ | 前17|後38 |
チェーン | サイズ520|リンク118 |
車体価格 | 1,200,000円(税別) |