エンジンは触れない事からも分かる通りものすごく熱くなります。
燃焼温度は2000℃を超え鉄すらも溶かしてしまう程の高温です。
それに対して圧縮する役目を持っており一番その熱を受けるであろうピストンは基本的にアルミで出来ており融点は鉄よりも低い660℃となっています。
つまり普通に考えると2000℃を超える燃焼に晒されたらピストンはデロデロに溶けるハズ・・・なのに溶けない。
これが何故かというと熱伝導で逃しているのも勿論あるんですが、断熱境界層という2mmほどの空気のベールに包まれるからなんです。
ザックリいうと燃焼の火炎とピストンを始めとしたエンジンの間に空気の膜が形成される事でエンジンが直接晒されずに済み溶けないんです。
熱いお風呂でも浸かると慣れてしまうのと同じです。
これを踏まえて次。
「ノッキングでエンジンが壊れる」
と言われる理由もこれに関係しています。
早い話が設計上の点火と別の場所で異常燃焼が起こってしまうと、それによる圧力波で断熱境界層を破ってしまう。
この膜が破られる事でピストンを始めとしたエンジンの各部が燃焼の火炎に直接晒されてしまい溶けてしまうんです。
絵が下手で申し訳ないですが、これもお風呂で例える事ができます。
さっき熱い風呂でも浸かれば慣れると言いましたが、そんな状況でも体を動かしたり風呂を掻き回されると途端に熱く感じますよね。
まさにそれもこの断熱境界層が破られるから。氷の中で缶を回すと冷えるのもそうです。
つまりノッキングはエンジンにとって厄介な湯掻きみたいなもの。
このノッキングによって温度境界層が破壊され溶けたり、掻き回した事で発生した圧力波が縦横無尽に反射してシリンダーを傷ついたりする・・・んですが、更に不味いのが『プレイグニッション』を誘発する事。
どこかでも言いましたがノッキングによる断熱層破壊により熱せられた部分が点火装置となってしまう。
アチラコチラで点火はまだ先なのに勝手に点火と膨張を始めてしまい更にひどい状況になる。
『ノッキング』
↓
『熱せられてプレイグニッション』
↓
『プレイグニッションで更に熱せられる』
↓
『暴走型プレイグニッション』
↓
ピストン溶解、コンロッド変形、焼付き
などなど・・・となる。
だから
「ノッキングがエンジンを壊す」
と言われているんですね。
以上がエンジンが溶けない理由、そしてノッキングでエンジンが溶ける(壊れる)理由でした。
ちなみに良い様に思える断熱境界層ですが『断熱』なので、場合によっては厄介なものだったりもします。
油冷や空冷がエンジンヘッドやピストンといった熱に厳しい部分にオイルを流すだけではなくジェットで勢いよく吹き付けるのは、単純に冷却するためだけではなく断熱境界層を破る(破って熱を奪いやすくする)狙いもあるんです。
つまり湯掻きならぬ油掻きというわけです。