『砂漠の女王』
NewXRということからNXR750と名付けられたアフリカツインのご先祖様というか起源であるホンダのパリダカワークスマシン。
水冷化やクランク新造なので見た目は大きく違うわけですが、前ページのRS750Dを造った松田さんが直後に手掛けたモデルな事もあり同じ45°Vツイン90°位相エンジンを積んでいます。
ちなみに説明していませんでしたが、位相というのはクランクピンを前後で共有せずに(並列二気筒のように)それぞれ設けて少しずらす事。
こうすることで狭角ながら一次振動(大きな振動)が無いVツインとなります。
そんなNXR750の武器はトラクション感が強い90°位相Vツイン(495-225)もそうですが、安定性を向上させる事も重視された。
例えばいま説明した水冷化ですが、当時はまだ空冷がメジャーだった時代。何故なら水がない砂漠でラジエーターが壊れたり、漏れや詰まりが起こったら修復が不可能だからです。
でも安定した性能(冷却性)を確保するなら絶対に水冷がいい。
そこで取った方法が
「冷却を二分割する」
という方法。
万が一、転倒やアクシデントで片方のラジエーターを壊しても、ラジエーターを除くように繋げれば片肺とはいえオーバーヒートは防げる。
これのおかげでNXR750はオーバーヒートによるトラブルが一度もありませんでした。
そしてもう一つは燃料タンク。
パリダカは450kmを走り切る燃料を積むことがレギュレーションで決められていました。
そしてNXR750の燃費は10km/L。悪いように思えますが、これは現地の燃料が粗悪で圧縮比を高く出来ないから。
つまり約50Lもの燃料を積めないといけない。しかしそんな大容量を通常通りの方法で積むと重心や重量バランスが崩れてしまう。
そこで編み出されたアイディアが
「燃料ラインを三分割する」
というラジエーターに通ずる考え。
NXR750の燃料タンクは前にメイン二つ(左右分割&脱着式)、そしてリアに一つという独立した三つのタンク構造になっています。
下の方に行くほど膨れ上がるメインタンクはNXR750のトレードマークですね。
そしてフューエルコックの位置を三つ揃える事で燃料の移動をスムーズにし重量バランスの問題を解決。
更には万が一、転倒などでどれか駄目になってもコックを閉めて移せば走れるという革新的かつ手堅い構造。
なんでも妊娠中の奥さんの(下のほうが膨らんでいる)お腹を見て閃いた構造なんだとか。
NXR750が四連覇を成し遂げられたのはこの”堅実さ”があったからです。
一つ面白い話をすると、初参戦の1986年パリダカの雰囲気が一変したのは有名な話。
何故ならホンダの参戦マシンがWGPと同じスポンサーカラー・・・ロスマンズカラーだったからです。
「ロスマンズカラー×ホンダ×謎のバイク」
これだけでホンダが本気でパリダカを取りに来たのが誰もが分かった。
そしてその下馬評通り・・・どころか下馬評を大きく上回るパリダカ四連覇という伝説を残しました。
主要諸元
※ファクトリーマシンのため不明