GSX-S1000(GT79A/GT79B) -since 2015-

2015GSX-S1000

「The spirit of GSX-R Ready for street」

スズキが2015年に出したGSX-S1000/GT79A型。

最初に主な特徴をあげると

・直列四気筒エンジン

・988cc/145馬力

・3モード+OFF機能付きトラコン

・ABS及びbremboモノブロックキャリパー

・シート高810mm

・多機能フルLCDメーター

などなどで、一言で表すと

『GSX-R1000のストリートバージョン』

と言えるんですが、スズキにしては珍しくスペシャルサイトを作ったりメディア露出が多かったりした事からも分かる通り、これまでにない方向性に力を入れた力作モデル。

GSX-S1000コンセプトデザイン

ロングセラーになっているのも納得という話なんですが、そこら辺を少し解説しようと思います。

ベースとなっているのは2005年に登場した今もなお名車の呼び声高いGSX-R1000のK5型。

K5ネイキッド
内部

ただこうやって並べてみると分かる通りベースとなっているのはほぼエンジンだけで、スイングアームはGSX-R1000/L2のもの、そしてメインフレームはGSX-S1000専用に開発されています。

本当はメインフレームもGSX-R1000の物をそのまま使う予定だったものの、それでは剛性が高すぎてストリートには合わないということで新設計された経緯があります。

S1000デザインスケッチ

そして同時にここにちょっとしたドラマがある。

設計開発が終わりかけた時にデザイン担当の田村さんが

「どうしても納得出来ないからもう一度設計させて」

と本来ならもう修正不可能な土壇場でまた開発をやり直してるんです。何処に納得出来なかったのかというとエンジンを固定するエンジンハンガーと呼ばれる部分。

エンジンハンガー

写真のちょうど真ん中シリンダーブロックの後ろ側。

ここはエンジンとフレームの剛性を橋渡しする非常に重要な部分。だからここを変えるということはフレームやエンジンなどメンバーを全て見直す事になる。それでも作り直すと言い出し実際にやった。

なんでそんな事したのかっていうと

「もっと美しく仕上げたい」

という理由から。そうして作り直されたのがこの起伏あるものの陰影の流れをスムーズにしているエンジンハンガー。

GSX-S1000リアショット

GSX-S1000は外装デザインはもちろんこういった細かいところにまで余念のない意匠が凝らしてある。

それだけあって手掛けたデザイナーの田村さんも

「ここまで色々こだわってデザインさせてもらったのは初めて。凄く思い入れがあるバイクになった。」

との事。

GSX-S1000フロント

まあエンブレムの位置を見れば如何にデザインにこだわったかが分かりますよね。こんなところに付けるなんて早々許される事じゃない。

そしてこれがGSX-S1000がこれまでのモデルとは明らかに違うところ。

スズキのスポーツバイクというと一にも二にも先ず

『絶対的な速さありき』

が当たり前だった。でもGSX-S1000はそういう造りをしていないんです。

これは性能面でもそうで、このGSX-S1000は低中速を太らせるというありきたりなストリート向けの改良をしていない。

エモーショナルGSX-S1000

「どれだけエモーショナルに出来るか」

という事に重点を置いて開発されてる。

例えばストリート志向にする場合カムといってエンジンのバルブを動かす部品を中低速寄りな形状(カムプロフィール)を変更するのがベター。

カムプロフィール

そうやってパワーカーブを良い塩梅に持っていくんです・・・が、GSX-S1000は違った。

「どのカム形状が1番良い音を出すか」

という事を重点に置いて開発してる。カムを変えるということは管楽器でいうところの吹き方を変えること同義なので音色がコロコロ変わるからです。

絶対的な性能を引き出す事を第一にするのではなく音質を引き出すためにカムを変えるという前代未聞な開発。そうして造られたいわば

『高音質カム』

がこのGSX-S1000には積まれてる。ちなみにエキゾーストパイプやサイレンサーなども同様です。

「それでどういう音色を出すようになったのか」

って話ですが、これはエンジンを掛けた瞬間に誰でも分かります。

S1000壁紙

誇張なしで本当に、誰でも、乗るまでもなく分かる。

何故こんな事が出来たのかといえばそれはもちろんGSX-R1000という有り余るパワーを持つエンジンがベースだったから。多少パワーを落としてもストリートなら何の問題も無かったから可能だったという話。

「じゃあ性能は大したこと無いのか」

っていうと145馬力なのを見れば分かる通りそんなことはないのは勿論のこと、性能面でもエモーションにも様々な意匠が施されてる。

例えばGSX-S1000は低域から高域までフラットにトルクが出るようにセッティングされています。それだけ聞くと面白くないと思うかも知れませんが、これはつまり開けたら開けただけ遠慮なく(溜めがなく)スコーンとパワーが出る。徐々にパワーが出るプログレッシブ(二次曲線的)な特性じゃない。

アップライトなポジションのリッターで出だしからずっと捻っただけパワーが出続けるっていうのは言葉で言うのは簡単だけどなかなかクレイジー。

GSX-S1000

スズキがGSX-S1000をヒョウ(豹)に例えているのもここにあります。

元々はもう少しストリートでの使い勝手を考えて万人受けする出力特性にする予定だったものの、その試作機を乗ってみると全くもって楽しくなかった。

「GSX-R譲りの牙が削ぎ落とされている」

という事が分かり、万人受けするストリートファイターという路線を中止。

S1000牙

「GSX-Rの牙を感じ取れるストリートモデルにしよう」

となり、捻れば捻っただけリッター相応のパワーが出るエンジンと、そんな特性を積極的に活かしてアクセルワークでコントロールするハンドリングにした。

だからこれ人によっては落ち着きがないとかアクセルワークがシビアだとか感じるかもしれない。

開発された方々も

「GSX-S1000はベテランがメインターゲット、ビギナー向けにはGSX-S750を開発した。」

と正直に話しています。

つまり逆に言うとリッター慣れしているベテランライダーにはたまらない特性という事でもある。そんなもんだから社内のジムカーナ好きからも

「これはジムカーナ最速車だ」

とか絶賛されたそう。

これがGSX-S1000が豹と言える部分であり、これまでにない方向性に力を入れた力作といえる部分。

GSX-S1000/GT79B

『俊敏かつ可憐かつ獰猛なエモーショナルバイク』

というのがGSX-S1000というわけ。

そんなGSX-S1000はそんな特性と税別100万円ちょっとというコストパフォーマンスが世界中で評価され、2018年時点で世界累計3万台超とスズキとしては本当に久しぶりとなるロングセラービッグバイクになりました。

ちなみにモチーフになってるヒョウですが、古代ローマ時代では

「芳しい香りを放ち、吸ってしまったものを魅了する」

と言われていたんだそう・・・これも本当にGSX-S1000にピッタリですよね。

スズキGSX-S1000

ふらっと寄ったショップでGSX-S1000が出す雰囲気や音に魅了されてしまいハンコを押してしまった人は間違いなく多いかと。

参考
スズキGSX-Sスペシャルコンテンツ各種|GSX-S完全ファイル(ヤエスメディアムック)

主要諸元
全長/幅/高 2115/795/1080mm
シート高 810mm
車軸距離 1460mm
車体重量 209kg(装)
燃料消費率 19.2km/L
[18.7km/L]
※WMTCモード値
燃料容量 17.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 998cc
最高出力 145ps/10000rpm
[148ps/10000rpm]
最高トルク 10.7kg-m/9500rpm
[10.9kg-m/9500rpm]
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後190/50ZR17(73W)
バッテリー FT12A-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR9EIA-9
または
IU27D
推奨オイル スズキ純正
エクスター
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.4L
交換時2.8L
フィルター交換時3.2L
スプロケ 前17|後44
チェーン サイズ525|リンク116
車体価格 1,033,000円(税別)
[1,048,000円(税別)]
※[]内は18以降(GT79B)

年次改良

2017年:スリッパークラッチ及び3馬力アップ(GT79B型)

2019年:スロットルケーブルガイドをKATANAと同じ物に変更

系譜図
GSX-S1000 2015年
GSX-S1000
(GT79A/GT79B)
GSX-S1000F 2015年
GSX-S1000F
(GT79A/GT79B)
2001GSX-S1000 2021年
GSX-S1000
(EK1AA)
GSX-S1000gt 2022年
GSX-S1000GT
(EK1AA)

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