カタログスペックで一番注目される所と言えば馬力だと思います。
ちなみに何故トップの写真がケンタウロスなのかというと、ロッシ曰くイタリアではバイク乗りのことをケンタウロスと評する事があるんだとか。面白い例えですね。
まあそんな話はさておき、このサイトでも車種の最後に
エンジン:水冷4サイクルDOHC4気筒
排気量:748cc
最高出力:106ps/10500rpm
最大トルク:8.0kg-m/8300rpm
車両重量:224kg(装)
と簡単な諸元を書いています。
「最大出力:***PS」
というのが馬力を表す数値で、これはドイツ(ドイツ工業規格)が起源。
PS(Pferde Stärke)というドイツ語で馬力という文字通りの意味なんですが日本語では仏馬力とも言います。
「ドイツなのに何故にフランス・・・」
と思いますが、それはフランスで生み出されたメートル法から算出した方法だから。
そしてこのPS(仏馬力)は広く認知されています。日本はもちろんドイツやイギリスもほぼ全ての先進国がこの仏馬力。
しかし皆がPSかというとそうでもなく、例えばそのフランスでは
「Cheval(馬)Vapeur(蒸気)」
でCHまたはCVと言っています。スペルは違えど表している数値はPSと同じ馬力です。
少し話が反れますがフランスは昔から馬力で税金が違ったから、この様にCVと書かれた車が多かったです。
ちなみに2や4という数字は実馬力ではなく該当する馬力クラスの事。日本でいう排気量みたいなものですね。
要するに元がドイツ語だったのが色々と問題だったのか国によって言い方が違うんです。
オランダで馬力はPaarden Krachtだから”pk”
ノルウェー語が使われる北ヨーロッパではHeste Kraftだから”hk”
フィンランドではHevos Voimaだから”hv”
という感じでみんなバラバラ。
どれもみな表しているのは仏馬力だけどPS(Pferde Stärke)と言っている国は意外と少ない。
日本だって馬の力だから”馬力”と言いますよね。
「俺のバイクは200プフェアルデシュテァケ(200Pferde Stärke)もあるぜ」
なんてドイツ語で言ってる人はまだ見たことはありません。
こういった国による単位違いを無くし、世界共通の単位を使いましょうと1954年に制定されたのが
「国際単位系(International System of Units)」
略称”SI”です。そして見て分かる通りPSという単位はありません。
略称がISではなくSIなのはフランス語では(Système international d’unités)と書くから。
何故フランス語なのかというと、これまた元となっているメートル法がフランス発祥なのと、フランスがロビー活動を頑張ったから。
そして日本のJIS(日本工業規格)も1991年からSIに準拠するように。つまりPSが非推奨単位になった。
ではバイクや車における馬力が国際単位でどういう単位になっているのかというと
「W(ワット)」
です。
出力が大きいからkW(キロワット)と書かれていますね。目にした事もある人が多いかと。
プフェアルデシュテァケに直すと1kW=約1.36プフェアル・・・1.36馬力です。
そしてこの国際基準単位は当然ながらトルク(kgf-m)も例外なく適用。
「N・m(ニュートンメートル)」
1N・m=約0.102kg-mです。
仏馬力に慣れ親しんだ身としてはややこしいですね。
だからメーカーもスペックシートには国際単位とは別に慣れ親しんだローカル単位の両方を載せている場合が多いです。
他に慣れ親しんだ単位としては
・Calorie(カロリー)→J(ジュール)
・μ(ミクロン)→μm(マイクロメートル)
等が国際的に決められたとか。
話を馬力・・・ではなくkWに戻すと、皮肉な事にこの混乱が起こっているのはモータリゼーションが早くから起こった日欧だけ。
比較的近年にモータリゼーションが起こった東南アジアなどでは最初からkWやN・mで統一されています。
これはインドネシア版YZF-R25のスペックシート。
つまり向こうの人は最初から馬力という単位自体を使わない・・・面白いですね。
また少し話を脱線させると、モータリゼーションが早くから起こった国として忘れてはいけないのがアメリカ。
・・・なんですが、ミリメートル法すら頑なに拒み、イギリス伝来のヤード・ポンド法を使い続ける事から分かるように、アメリカは英馬力とも呼ばれるHP(Horse Power)をイギリスがPS(仏馬力)に切り替えた後も使い続けています。
そして厄介なことにHPは今まで挙げてきたスペルが違うだけだったものとは違い、表している数値も違うという問題があります。
【HP:英馬力】
1秒間に550ポンド(249.48kg)の物を1フィート30.48cm持ち上げる力が1馬力(0.7457kW)
【PS:仏馬力】
1秒間に75kgの物を1m持ち上げる力を1馬力(0.7355kw)
ミリメートルとフィートの違いが原因で、我々が使う1馬力(仏馬力)というのは、アメリカ(英馬力)では0.98632馬力なんです。
だから
「新型は200馬力なんて凄い」
なんて日本で言われても、アメリカでは
「197馬力か大台突破しなかったな」
なんて事が起こっている。
ちなみにこれはメートル法準拠の世界史図。
当然ながらアメリカは今も準拠しないので今も真っ黒。ただお硬い(国際的な)業種の人たちはメートル法を使っているようです。
カナダとイギリスが縞々なのはメートルとインチがゴチャ混ぜ状態だから。よく混乱しないですね。
そしてこれが本題である国際単位系:SI準拠マップ。
ミリメートル法すら準拠しないアメリカは当然このSIにも準拠しません。
カタログもHPとlb-ft(フィード-ポンド)のみでkWのキの字すら無い。おのれアメリカと言いたくなりますね。
「日本も仏馬力でいいよ、kg-mでいいよ。」
と思う人が多いと思いますが、これは単位の勘違い等により起こる事故や混乱を招かない為の国際協調なんです。
まだ慣れてないのはドイツもイタリアもイギリスも発案者のフランスも同じ。
それに考えてみて下さい。
日本はほんの60年ほど前まで一尺、一貫、一俵などの尺貫法を使っていました。それが今では当たり前のようにメートル法を使っているんですから。
もしも今どき
「全長が6尺(1800mm)もあるのかこのバイク」
なんて言ってる人が居たら笑っちゃいますよね。
・・・でもそれと同じ事が近い将来それが起こり得るわけです。
「○○○馬力もあるのか」
と我々が何気なしに放った言葉が
「馬力?馬の力ってなんすかそれ・・・」
と若者に笑われカルチャーショックを受ける日が、何年先か何十年先になるかは分からないけど、いつか必ずやって来る。