誤解された5バルブのメリットとデメリット

5バルブ

今ではすっかり見なくなった5バルブ。

あれこれ語る前に5バルブが分からない人に簡単に説明すると、エンジン(燃焼室)の扉が

【吸気2:排気2】

ではなく

【吸気3:排気2】

になっているのを5バルブといいます。

4バルブと5バルブ

こうすることでカーテン面積(吸気面積)を多く稼げる事による混合気の充填効率の向上。さらにバルブの一本あたりの重さ軽く出来る事からの高回転化。

要するに

『4バルブよりパワーを稼げる』

というのが5バルブのメリット・・・というより大名目でした。

そしてこの大名目のせいで様々な誤解が生まれた。

バイクではヤマハの専売特許の様なメカニズムだったのでヤマハの歴史と見解を元に書いていきます。

ヤマハと5バルブの歴史をこれまたサラッとおさらいすると、WGPマシン用にマルチバルブ化が検討されたのが始まりで最初は7バルブなどの選択肢もありました。

7バルブ

それで紆余曲折あってFZ750という市販車(レース兼用)で5バルブとして花咲いたわけです。

詳しくは>>FZ750の系譜をどうぞ

そこから歴史を積み重ね、遂にはMotoGPマシンのYZR-M1/0WM1等にも採用される様になり

0WM1

「ヤマハといえば5バルブ」

という認識が広まりました。

しかし2年後の2004年YZR-M1/0WP3から4バルブに変更。そしてそれに合わせるように2007年にはYZF-R1/4C8も4バルブ化。

このフラッグシップモデルの相次ぐ5バルブ取りやめ、そして他のメーカーも5バルブを採用しない事から

「5バルブは駄目だった」

という認識というか誤解が生まれました。

断っておきますが5バルブは駄目な技術ではありません。

ちまたではフリクションロスが増えるからとか色々と言われていますが、少なくともヤマハが5バルブをヤメた理由は違う。

M1のエンジンを担当されていた北川さん曰く

2002YZR-M1

「セッティングが追いつかなかった」

というのが一番の理由だったそう。

MotoGPというのはコース毎にエンジンマップを幾つも用意して現地テストで擦り合わせていく作業が必要になる。その際に5バルブだとその作業量が4バルブの比ではなくなるんです。

これは簡単な話、4バルブなら左右対称つまり真っ二つになるよう擦り合わせればいいところを、5バルブは綺麗に2で割れず三等分する必要があるから。

バルブでお手玉

「お手玉を2つでやるか3つでやるかほど違う」

と例えられていました。

何がそんなに三等分するのが難しいのかと言えばもちろん吸気(混合気)の流れ。

タンブル

効率よく吸気して効率よく燃焼をする為には、混合気の渦の流れがとっても大事になります。

スワール渦とかタンブル渦とか聞いたことがある人も多いと思いますが、パワーを出す(充填効率を上げる)にはその渦が綺麗に出来るようにしないといけない。

そうなった時に吸気バルブが一本多い5バルブというのはその渦を綺麗に描かせる難易度が跳ね上がるんです。

その最もたる原因は真ん中の吸入。

5バルブの渦

真ん中の吸気が左右対称で返ってくる渦とぶつかって乱してしまう問題が発生する。

渦を乱してしまうと当然ながら充填効率が悪くなりパワーも落ちてしまう。

5バルブR1

この乱流ロスというのは回転数が高くなるほどそれだけロスも増える。

そうすると5バルブの大名目であった

『吸気通路面積増加による出力向上』

よりも

『乱流による出力損失』

が上回ってしまうわけです。

ヤマハがM1で5バルブをヤメたのはこのロスを解消する”時間”が足りなかったからというわけ。

TDM900の5バルブ

「5バルブ駄目じゃん」

とここまでだとダメダメな技術と思ってしまいますが実はそうでもない。

これらは下から20000rpm近くまで完璧に吹け上がるエンジンを限られた時間で作る必要があったレースでの話。

5バルブにもちゃんとメリットはあります。しかもそれはレースといった無縁のものではく一般ライダーにとって非常にありがたいもの。

5バルブは本来なら二等分するバルブ面積を三等分している。という事は二等分する4バルブより一本あたりの径が小さい。

5バルブ部品

すると何が起こるかと言うと・・・強く吸えない中低速域での吸気効率が上がるんです。

簡単な話、細いストロー効果で弱い負圧でもグングン吸ってグングン渦を造ってくれる。

それはつまり普段遣いに何より必要な低速トルクが稼げるということ。

5バルブという童心をくすぐるメカニズムであることからブンブン回して

5バルブR1

「5バルブでパワーが凄いぜ」

と言われたり思われたりする5バルブですが、実は5バルブの一番のメリットはそこじゃない。

5バルブFZ1

『5バルブなんて全く意識しない当たり前な日常の中』

にこそ5バルブのメリットはあったんです。

逆に言うと

「だから市販車でも採用されなくなった」

とも言えるわけですけどね。

4バルブなら誰もが気にする最高出力を5バルブより安く容易に上げる事が出来るわけですから。

色々とアレなスズキの海外広告

ウェイオブライフ

豆知識と言っていいのか微妙な所ですが、スズキの海外広告(特にフランス)はぶっ飛んでる物が多く、国内で出したら絶対に怒られるような物が結構あります。

そんな中でも選りすぐりをご紹介したいと思います。

※Adblock系が誤作動を起こし画像が表示されない問題が起こるようです。申し訳ありませんがこのページでは切るか別のブラウザでの閲覧をよろしくお願いします。

FOR THOSE WHO CAN’T FLY
(飛べない者たちへ)

飛べない者たちへ2
飛べない者たちへ

RMX450Zの広告です。

見ての通り飛べない鳥が飛んでます。

INVADE THEIR AIRSPACE
(奴らは空から来る)

奴らは空から来る
奴らは空から来る2
奴らは空から来る1

RMZ450の広告です。

タイヤ痕が空で一体何があったのかを物語っていますね。

Avec ou sans carénage?
(カウルの有無に関わらず)

With or Without Fairing
With or Without Fairing2

banditの広告です。

性能の凄さをシワだらけの犬で表現しています。

Vue de profil &Vue de dessus
(幅と高さ)

With or Without Fairing

VanVan125の広告です。

下駄車なので下駄と同じ寸法だと言っているのだと思います。

Nous,les.malades, on les soigne.
(我々は治す方法を知っている。)

バンディット1200

bandit1200の広告。

心臓にタコメーター。

DR-Z400

DR-Z400の広告。

頭にブロックタイヤ。

GSX-R750

GSX-R750の広告。

頭にストップウォッチ。

治療薬シリーズ

XF650

profiter de son agilité pour surprendre le quatre cylindres
(四気筒には無い俊敏さを楽しめ)

GSX-R1000の広告

GLADIUSの広告です。

Vツイン特有の軽快さで四気筒を突けと言ってるんでしょうけどアングルが・・・

GSX-R1000: “Fast”
(速い)

GSX-R1000の広告

GSX-R1000の広告。

街中でどれだけ速いかを表しています・・・こらこら。

道路脇に木が植えられる20の理由

街路樹

歩道と道路の間や対向車線との間に植物がよく植えられていると思うんですが、その理由を御存知でしょうか。街路樹ってやつですね。

え?バイク豆知識じゃない?まあ細かいことは木にしない・・・ナンチャッテ・・・はい。

みなさん景観やCO2対策だけだと思って気にも留めてないと思いますが、街路樹にはもっと様々な理由や狙いがあり全部で20個ほどあります。

そこで今回はその20の理由を環境省の資料を元に挙げてみます。

景観のメリット

1.景観の形成(この理由が一番わかり易いですね)

2.並木道などの装飾機能(大学の正門前なんかがよくやってますね)

3.ランドマーク(奇跡の一本松とか、このーきなんのき♪の日立の樹とか・・・あれはハワイか)

4.目隠し効果(喧しい建物や看板を遮って運転手の目線を道路に集中させる)

目隠し

環境保全のメリット

5.騒音低減(硬い構造物だらけで止まない反射音を街路樹が吸音してくれます)

6.大気浄化(植物といえば光合成ですね)

7.ヒートアイランド緩和(蒸散して周囲の気温上昇や乾燥を抑えてくれる全自動大自然エアコン)

緑陰

緑陰形成のメリット

8.直射日光の遮断(西日とかいやらしいですよね)

9.日陰効果で暑さを防ぐ(熱中症には気をつけましょう)

10.降雪予防(ある程度までなら樹が受け止めてくれますが頭上注意)

11.強風の緩和(折れるまで身を挺して防ぐ健気さ)

12.砂塵予防(これもそうで風向きを変えるためだったり)

13.雨を防ぐ(これまたそう)

防災

交通のメリット

14.対向車ライトなどの眩しさを遮る(高速なんかに多いですね)

15.前照灯の影響を防ぐ(屋内まで照らされちゃたまったもんじゃないですよね)

16.ガードレール効果(ただのガードレールと違って自然治癒能力持ち)

高速道路

自然環境と防災のメリット

17.土壌の侵食を防ぐ(樹が根を張り雨を自身に集めてくれるおかげ)

18.飛砂を防ぐ(これも根を張ってくれてるおかげ)

19.吹雪を防ぐ(ほんと身体張ってますよね)

20.火事の延焼を防ぐ(イチョウなどは燃えにくいんですね)

植樹

以上が道路に植物を植える理由です。知らなかった効果も多いのではないでしょうか。

ちなみに一番植えられている樹種は

街路樹樹種

火に強いイチョウ(写真左)、景観として秀でているサクラ(中)、タフさピカイチなケヤキ(右)

となってます。

自分の地方の街路樹を見てコレは何を狙って植えているのか考えてみると面白いかもしれませんね。

メーカーを影から支える功労社(日系サプライヤー)

カットモデル

当たり前ですが、ホンダもヤマハもスズキもカワサキも自社だけでバイクを作っているワケではありません。

完成され市販されるバイクはもちろん販売するメーカーのバイク。
でもその完成に至るまでの部品(500~1500点)や技術はスポットライトを浴びることがなく、メーカーの無理難題を押し付けられるサプライヤーと呼ばれる部品メーカーの努力の成果であり結晶だったりするわけです。

そんな影の功労社であるサプライヤーを有名所から馴染みのない会社まで抜粋してご紹介しようと思います。

アイシン精機

アイシン精機

サプライヤー最大手で、ブレーキからハンドルやフレームまでほぼ全てとも言える自動車部品を担っている。

バイクでもクラッチ板やミッション、シャフトドライブなど様々な部品を全メーカーに供給しているトヨタグループの企業。

アドヴィックス(旧住友電工)

アドヴィックス

そんなアイシングループの一つでブレーキ関係を担っているのがアドヴィックス社。

バイクでも車と同じくブレーキキャリパーやマスターシリンダーなどブレーキ全般を担っている。
ヤマハのMOSキャリパーやOEMブレンボ(通称ヤマンボ)もこの会社。

自動車に至っては国内シェアを50%以上も持ってます。

株式会社デンソー(DENSO)

デンソー

これまた自動車部品メーカーの大御所で規模で言えばアイシンより大きいご存知デンソー。更にこれまたトヨタグループの会社。

アイシンがトランスミッションやブレーキ等を担当するのに対し、デンソーはABSやセンサー等の電装系などを担っている。
巷で流行っているハイブリッドカーが世に出せたのはこのデンソーの助力があったから。

バイクでもイリジウムプラグやフューエルインジェクション、電装系やトラクションコントロールシステム等を担っている。

ちなみに歴代社長は全員従業員からの生え抜きという実力主義企業。さらに社内に大規模なオートバイクラブがある。

株式会社ブリヂストン(BRIDGESTONE)
住友ゴム工業株式会社(DUNLOP)
井上ゴム工業株式会社(IRC)

タイヤメーカー

無いと話にならないタイヤを作っているタイヤメーカー。
時速300kmバイクが普通に世に出せたのは、ブリヂストンやダンロップのラジアルタイヤ技術(対バースト性能)向上の賜物です。

今や当たり前なマルチコンパウンド(センターは硬くサイドが柔らかい)タイヤを最初に生み出したのは脱シェア宣言しておきながらずっと世界シェアNo1のブリヂストンです。(現在特許切れ)

かたやIRCは大手が煙たがっているバイアスタイヤ主軸で今だに新製品を出し続けている。
さらに旧車やマイナー車種に多い需要の少ないタイヤサイズもちゃんと用意してくれるありがたいメーカー。

ダンロップは一番最初に空気入りタイヤ、つまり現在のタイヤを発明した最初のメーカー。
ただそれはアイルランドの話で、ダンロップの経営はちょっと特殊。
日本を含むアジア系では住友ゴム工業株式会社が担っており、欧米ではグッドイヤーが運営している。

大同工業株式会社(DID)
株式会社江沼チヱン製作所(EKチェーン)チェーンメーカー

バイクのアキレス腱とも言えるチェーンを手がける最大手チェーンメーカーの二社。

ノーメンテでもなかなか切れないチェーンが当たり前になったのはこの二社の努力の賜物です。

DIDは明治時代から続く老舗で今では軍事系の部品にも多く使われています。
対するEKは世界で初めてシールチェーンを開発した大功労社。

サンスター技研

SUNSTAR

国内四社のスプロケットほぼ全てを担っているスプロケット&ローターのメーカー。

OEM品の耐久&精度の良さが災いしてか、同じOEM品を市販することをバイクメーカーから禁じられてます。

ちなみに歯のSUNSTARの子会社です。

日本特殊陶業株式会社(NGK)

NGK

ご存知プラグメーカーのNGK。
バイクではノーマルプラグ、イリジウムプラグ、プラグケーブル、O2センサー等、点火周りを多数担ってたりします。

新電元工業株式会社

SHINDENGEN

エンジン発電機用インバータなど様々な半導体を手がけるメーカー。

バイクではCDIなどを担っている。

三菱電機

MITSUBISHI

エアコンの霧ヶ峰でお馴染み、三菱系で唯一ロゴが赤くない三菱電機。

バイクではECUやCDI、燃料ポンプ等を作っています。

ちなみに霧ヶ峰は三菱電機で、ビーバーエアコンは三菱重工です。なんてこったい。

興和精機株式会社(KOWA)

KOWA

工具メーカーのKOWA。目立たないけど欠かなせない車載工具を生産している。

日本の工具メーカーといえばKTCやTONEばかり上げられるけど、こういう陰ながら支えてる工具メーカーも居るんです。

株式会社ショーワ(SHOWA)

SHOWA

ショックアブソーバーを製作するメーカー。
ホンダ系列の会社だが、他のメーカー(ヤマハ以外)にも部品を供給している。

近年ビッグピストンフォークやバランスフリーリアクッション等、目覚ましい成果を上げている。

もはやオーリンズを超えたと言っても過言ではないが、自社での販売は一切せずサプライヤーに徹するという堅気っぷり。

株式会社ケーヒン

ケーヒン

ホンダ系列ながら他社とも多様な取引をしている。

キャブレターのイメージが強いけど、ホンダのECU等を製作している。

株式会社エフ・シー・シー(F.C.C.)

FCC

ホンダ系列のクラッチメーカー。

オートバイ用クラッチの分野で世界シェアなんとNo.1。

日信工業(NISSIN)

チョイノリ

「NISSIN」でお馴染みのブレーキメーカー。

ホンダ系列でキャリパーやマスターシリンダー、コンビブレーキ、ABS等を作っています。

ホンダバイクのキャリパーによくNISSINって入ってるから知ってる人も多いかな。

ホンダへの出荷が7割強なだけあり二輪ブレーキ部門では世界一のシェアを持っています。

エンケイ株式会社(ENKEI)

チョイノリ

アルミホイールメーカー。
ほぼ全ての日本車のアルミホイールを担っているだけあってアルミホイールシェアは世界一の企業です。
車のほうではアフターパーツとしても市販されてるから車好きなら知ってるかな。

二輪車も例外ではなく、国産バイクのアルミホイールの大部分を担っています。

トキコテクノ株式会社(TOKICO)

トキコテクノ

ブレーキやショックアブソーバーなどを作っています。
スズキ車やカワサキ車がよく付けてますね。

実は日立系列の会社なんですよ。

株式会社キタコ(KITACO)

キタコ

小排気量バイクのアフターパーツ問屋として有名なキタコ。

メーカー向けにも小排気量バイク部品を納品してます。

株式会社萱場製作所(KYB)

KYB

重機から原付までダンパーやショックアブソーバーと言えば先ずこの会社ともいえるショックアブソーバーメーカー。

バイクではヤマハやスズキやカワサキなどに広く採用されています。

近年ヤマハとの共同出資会社を設立。打倒SHOWAを目指す・・・のかな。

最後に・・・

ひとえにホンダのバイク、ヤマハのバイクと言ってもこれだけの会社が関わっているんです。あとホンダの内製へのコダワリが見て取れますね。

ただここで紹介したサプライヤー企業は大中小で言えば超大企業な有名サプライヤーばかり。これらの会社の下には更に子会社、孫会社、ひ孫会社・・・果てはステンやアルミの企業、ネジやボルトの企業など材料メーカーなど、無数の中小・零細企業が存在しています。

全体像に目が行きがちなニューモデルも、見慣れた愛車も、ちょっと視点を変えて見てみると数々の企業の努力の結晶に見えるハズ・・・

ホンダといえば5気筒エンジン

世間一般的にエンジンのシリンダー数は2で割れる偶数が基本で、奇数エンジンは小排気量の三気筒くらいなのはご存知の方も多いかと。

これは簡単にいうと左右対称に出来れば互いが互いの振動を相殺出来るようになるから。奇数になるとそれが出来なくなる(パワーロスや振動を生む)からメジャーになっていない。

しかしそんな中でも五気筒エンジンもある事はあった。その中でも一番歴史も実績もあるメーカーは何処かといえば間違いなくホンダ。

RC211V

まずホンダの五気筒エンジンとして多くの人が思い浮かべるのが2001年に登場したRC211Vじゃないかと思います。

『75.5°Vバンク角104.5°位相ピン5気筒エンジン』

という呪文のようなエンジン。

V5エンジン

これは世界最高峰レースだったWGPが2sから4st(WGP500からMotoGP)への移行が決まった際に開発されたエンジンになります。

最初は並列三気筒でいく予定だったもののV4にしてほしい社内とモメにモメてる中で商品企画トップだった三神さんが

「V5だったら商品的に面白いよな」

と放った一言が独り歩きし

「V5が良いらしいぞ」

「V5でいくらしいぞ」

「V5に決まったらしい」

みたいな感じでV5に。

エンジン設計の山下さんはV5で行くと最初に聞いた時は奇数エンジンなんて冗談だろうと思ったものの、やってみると振動を打ち消すバランサーが不要かつ不等間隔燃焼も得られるので意外とイケると判明し開発。実際レースでも敵なしなほど速かった。#RACERS13

更に遡ると四輪の方になりますが1989年に出たアコードインスパイアもありました。

アコードインスパイア

こちらも流用ではなくわざわざ開発された直列五気筒エンジンで強烈な振動はバランサーで抑えているタイプ。

排気干渉を避けるためのレイアウト(5-3-1)が大変だったせいなのかFFなのにエンジン縦置きという面白さ。

G20A

144°の等間隔爆発で特性はまんま四気筒と六気筒の間のような感じです。

なんでこんなエンジンを作ったのかって話ですが、テクニカル資料を読むに四気筒の燃費と六気筒のパワーのイイトコ取りを目指したという事でした。

またV10エンジンでブイブイ言わせていたF1のオーバーラップを狙った意味合いもあると言われました。いずれにせよバブルだから成せた正にバブリーエンジンで、ついでに言うと

「S2000も本当はこれを積む予定だった」

という説もあります。

S2000コンセプトカー

S2000の元となっているコンセプトカーSSMがこのエンジン(G20A)だった事が根拠のよう。

そして今回のオチというか一番紹介したいモデル。

それは1965年に開発されたホンダと五気筒の始まりでもあるRC148/RC149。

RC149

これは直列五気筒エンジンのRCVと同じ世界GP用のレーサー。

1シリンダーあたりわずか25ccしかない125ccレーサーで、デモランされた宮城さんいわく

「13000rpm以上回してないとエンジンが止まる」

との事。

このマシンを開発した理由は、当時2st勢(というかスズキ)が速くて4st四気筒マシンRC146だったホンダは優勝を逃してしまったから。

そこでさらなる速さを身につけるため多気筒化つまり六気筒化を検討。しかし六気筒を造るとなった場合、翌年のレースに開発が間に合わない問題が出てきた。

そこで

「50ccレーサーのエンジンを使おう」

という案が浮上。

というのも当時の50ccレーサー(RC115)は二気筒エンジンだったから。

RC115

50ccで二気筒という事は一気筒あたりの排気量は25ccになる・・・そう、つまり

「5個繋げば最強の125cc/5気筒エンジンが出来る」

という話。

RC115は50ccクラスチャンピオンに輝いていたモデルで性能も信頼性も抜群。それを使えばゼロから造るより合理的という算段ですね。

そうして突貫工事のように造られ1966年に登場したのがRC148というモデルで、エンジンの中身はこんな感じになりました。

RC148の設計図

RC115のエンジンを2つ並べ、更にもう一つ付けた形で全部が180°毎にあるハチャメチャな感じ。

だから間違いなく狙ってそうなったわけではないであろう不等間隔爆発にもなってる。

RC149

そのエンジンを載せたRC148をホンダは1965年のシーズン末に投入、更にフル参戦となる翌1966年には改良版となるRC149を出し

4RC146(四気筒)
『28ps/18,000rpm』

から

RC149(五気筒)
『34PS/20,500rpm』

と大幅なパワーアップを果たした事でチャンピオンを獲得。世界GP全クラス制覇からの全撤退という花道に貢献しました。

125チャンピオン

ちなみに、この五気筒エンジンを手掛けたのは入社して間もない入交さん。

13年後の1979年、世界GP再参戦で楕円ピストンエンジンレーサーNRを生み出す事になる人だったりします。

スリッパークラッチに対する誤解

スリッパークラッチ

年を追う毎にどんどん採用車種が増えていくスリッパークラッチ。

ついにはNinja250にまで積まれる様になりました。

しかしNinja250へのスリッパークラッチ採用が発表された際

「250にスリッパークラッチなんて要らないだろ・・・」

という声を多く聞きました。

確かにスリッパークラッチというと急激なエンブレによるホッピングを抑える”バックトルクリミッター”という機能だと誰もが思いますしその通りです。

バックトルクって何よ?って人に簡単に説明

普通バイクは(車もだけど)エンジンの力でミッション(ギア)→スプロケ→チェーンと伝ってタイヤを回して走りますよね?

しかし急激なシフトダウンをするとエンジン側とタイヤ側で大きな回転差が生じてしまい、逆(タイヤからエンジンへ)の力(バックトルク)によってチェーンが暴れてタイヤがトラクションを失って跳ねたり(ホッピング)タイヤのロックを起こしてしまうんです。

ホッピング

80年代初頭までレーサーはこの問題に非常に頭を悩ませていました。
(今も完全に解消されたわけではないんですが)

そこで生まれたのがバックトルクリミッター機能。

バックトルクリミッターとかスリッパークラッチとか色んな呼び方で言われますが、”バックトルクリミッター”というのはそのバックトルク対策の機能の総称で、”スリッパークラッチ”というのはその役目を担う構造の一つ名称で言うなればバックトルクリミッター付きクラッチ・・・説明ベタですいません。

例えばもしクラッチじゃなくてホイール内でバックトルクを解消する構造が生まれてもバックトルクリミッターホイールとかスリッパーホイールとは言えるけどスリッパークラッチとは言わない。

そして肝心なそのスリッパークラッチの構造ですがこれまた簡単に説明すると

既存の一般的なクラッチは

非スリッパークラッチ

物凄く単純で詳しい人に怒られそうですがまあこんな感じになってます。
クラッチを切る(クラッチを握る)と赤と青が離れる状態。

クラッチの仕組み

半クラッチは赤側と青側が中途半端にくっついてる状態と考えて下さい。

じゃあそれに対しスリッパークラッチがどうなってるかというと・・・

バックトルクリミッター付きクラッチ

こんな感じです。(詳しい人は怒らないで下さい・・・)

注目して欲しいのはエンジン側とミッション側の間のギザギザ。傾斜したギザギザが付いているのが分かりますか?

このオス・メス状のカムになっているこれこそがバックトルクリミッター機能を持つスリッパークラッチの正体です。

最初に言った通り、ホッピングやロックといった現象はバックトルク(タイヤ側からの力)がエンジンの力を上回るほど強烈で、エンジン側(赤)よりミッション側(青)が速く強い回転をするから起こるわけです。

ではスリッパークラッチの場合どうなるかと言うと・・・

slide

図を見ると分かる通り傾斜が付いている為に噛んでたのがズレて半クラの状態になるわけですね。

これが原理。

で、ここからが本題。

傾斜が付いてるから抜けるのは分かってもらえたと思うのですが、じゃあ逆にエンジン側(赤)が速く強い時、すなわち通常の時はどうなるか?

傾斜の角度を見て何とか分かってもらいたいのですが、エンジン側(赤)が速く回るとミッション型(青)を巻き込んで自然と深く噛んで回る様になるわけです。

これがどういうとことかというと、発進時などの半クラ操作が容易になり自然に噛むことで従来の様に強く押し付ける必要がなくなったためバネレートを柔くできクラッチを軽くすることが可能になったわけです。

アシストクラッチ

副産物と言えば副産物と言えるかも知れませんが、スリッパークラッチにはこういった隠された機能が付いているわけなんです。

だからメーカーのサイトを見てもらえば分かる通りスリッパークラッチではなく

「”アシスト”&スリッパークラッチ」

と言ってるわけなんですね。

Ninja250やXV1900やV-STROM1000といったサーキット走行を主体としないバイクにも採用されるのにはこういった理由からによるものが大きいんです。

駐車違反取り締まりに大きな地域差

駐車禁止

二輪も駐車禁止の取り締まり対象になってはや10年弱(2006年6月施行)

施行開始後は鬼のような取り締まりで泣きを見た人は多いのではないでしょうか。

駐輪場がないのに取り締まりはキツいという無情さに業界総出で自粛要望を行いました。

そのおかげで近年は年を追う毎に検挙数は減少傾向にあります。が、無くなったわけではなくバシバシ切られてる県もあります。

2014年度全国確認標章取付件数によると、取付件数が多いワースト5は

1位 神奈川県 45,184件(80.7%)

2位 東京都 45,066件(84.3%)

3位 大阪府 22,496件(76.1%)

4位 京都府 15,615件(92.6%)

5位 広島県 9,244件(149.3%)

レスポンス様 全国のバイク放置駐車取締り、神奈川県が2年連続でワースト)などでも取り上げられましたね。

何故か広島県だけは厳しくなってます・・・広島県民の方はお気を付けを。

ちなみに駐車違反には二種類あるのをご存知でしょうか?

駐禁切符

まあご存知の方が多いと思いますが、左の青い切符は警察が切る反則切符。

右の黄色いのは警察に委託された民間の監査員が切る確認標章取付です。

んで内約はどうかというと

警察が切った駐禁が2%なのに対し、委託監査員が切った駐禁が98%となっています。

警察と違って切符を切ることが仕事なだけあって容赦無いですね・・・緑が憎い(カワサキじゃないです)

さて、ここまではニュースでも取り上げられましたが、じゃあ逆に少ない県は何処だろう?

と思いませんか?思って下さい。

ネット上の資料が見つからず手元の資料(二輪新聞様)で申し訳ないのですが。

これが面白い結果でした。

駐車禁止が最も少なかった県は

青森県、岩手県、秋田県、山形県

茨城県、群馬県、山梨県

新潟県、富山県、石川県

福井県、和歌山県

鳥取県、島根県、岡山県

徳島県、香川県、愛媛県、高知県

佐賀県、大分県でした。

全ての県がなんと駐車違反件数0件・・・すなわち駐禁が切られてない。

なんと優しい県なのでしょうか。

四国に至っては全県0です。

つまり・・・うどんを食べに行っても、ポンジュースを買いに行っても、阿波踊りを踊りに行っても、カツオを釣りに行っても、悪質でない限り駐禁を切られる心配がありません(多分)

山も峠も川も海もフェリーもサーキットもあるなんて一番バイク環境が恵まれてるのは四国かも?

もちろん保有台数の違いや土地の広さ等の関係はあるのでしょうが、交通違反はあれど駐車違反に限っていうとゼロとは都会人からしたら羨ましい限りですね。

逆にこれらに該当する(失礼ながら)田舎の人は都会に行った時に地元の感覚で停めないように注意ですよ。

停めやすい所ほど光の速さで切られます。3分あれば切られます。

ちなみに止める場所は別に二輪用に用意された駐車場じゃなくても大丈夫です。

パーキング

こういったセンサー式のメーターパーキングはバイクでも使えます。(二輪普及協会のお墨付き)

ただし、ちゃんとセンサーが感知するように停める様に気をつけましょう。

ご利用方法はいろいろあって間違うとこれまた容赦なく切られるのでそれもご注意を。

EU仕様とUS仕様が違う理由

EU仕様とUS仕様

大型バイクでは比較的珍しくない”逆輸入車”ですが、逆輸入車は全てフルパワーかというと違います。

中でも混乱しがちなのがEU仕様とUS仕様のスペック差。カワサキを例に見てみましょう。

ZX-10R

ZX-10R仕様地

EU/UK仕様:200馬力/13,000rpm

US/CAL仕様:187.6馬力/11,500rpm

EU仕様がフルパワーでUS仕様は1割ほど落ちていますね。

この事から

「US仕様はフルパワーではない」

と言われたりします・・・ところが

ZX-14R

ZX-14R仕様地

US仕様200馬力/10,000rpm

EU仕様200馬力/10,000rpm

ZX-14Rになると全く同じスペックになる。不思議ですね。

これは簡単にいうと規制の測定方法が欧州と北米では違うからなんです。

加速騒音測定

一例としては加速騒音規制。測定方法は上記のように決まった距離を走り抜けた際の騒音を測る試験なのですが、欧州の場合

「二速&三速それぞれでアクセル全開走行」

が測定基準。その一方で北米の場合は

「最大出力回転数×50%」

が測定基準なんです。(※EURO4、LA#4)

つまり北米での計測は高回転型のバイクにとっては非常に不利で、低回転型のバイクにとっては非常に有利な測定方法。

ZX-10Rはパワーが落とされているのにZX-14Rが北米もEUも変わらないのはこういう理由があるから。

ちなみに日本は既にEUに準拠しており、アメリカも準拠しろと国連から強く言われていますが今のところ聞く気はない模様。恐らく国内メーカーが二輪四輪問わず大排気量な車が多い事が理由かと思われます。

バイクというモノを売る時代は終わる ~販売網再編の狙い~

ホンダドリームショップ

最近よく話題になっているバイク販売網の再編。

ホンダは2018年4月から251cc以上のバイクは『ホンダドリーム』という専門いわば正規ディーラーのみの取扱となりました。要するにそこら辺のバイク屋では売れなくなったわけですね。

カワサキも同様で2020年から401cc以上は『PLAZA』という正規ディーラーのみの取扱になる事が決まっており、ヤマハも『アドバンスディーラー制度』で二社に続くだろうと言われています。

カワサキプラザ

スズキだけは販売網がちょっとアレなのでまだ行わないようですが

「何故この様な流れになったのか」

という事をハード面とソフト面の両方から長々と説明させてもらいます。

【ハード面から見た場合】

国土交通省のお達しで2016年10月1日以降の新型車(継続生産や輸入車は2017年)から車載式故障診断装置

『OBD(On-Board Diagnostics)』

が義務付けられました。

・大気圧センサー
・吸気圧センサー
・吸気温度センサー
・冷却水温センサー
・スロットルセンサー
・シリンダーセンサー
・クランク角センサー
・空燃比センサー
・点火システムセンサー
・排気センサー
・車速センサー
・FIセンサー
・ノックセンサー

などなどのセンサーの断線に加え、排ガスの異常を検知出来るようにし、万が一なにか問題が起こった場合はエラーをECUが記録してメーターなどで知らせる機能。

これは

『円滑な整備と安定した運用』

を図るためで、守らないとメーカーは行政指導や行政処分されてしまう。

OBD点検くん

2020年からは断線だけでなく

・触媒の劣化
・システムの劣化
・トルク低下

までも検知するOBD-IIへの移行が既定路線となっています。

そんなOBD機能なんですが、これを搭載したバイクが万が一故障を起こした場合はECUがエラーを知らせ記録します。

そうした場合まず修理・・・ではなくスキャンツールでチェックする必要がある。

OBDチェック

そして故障箇所を特定し修理した後に、DCT(故障情報)をECUから消去して修理が完了となる。

ここで問題となるのが、この一連の流れとOBDに関する設備投資やPC作業を個人のバイク屋が出来るかという話。

まして最近の大型バイクは構造自体も複雑化しているので修理自体も難しい、更にもはやスロットルすら電子制御の時代なので些細なミスが致命的な問題を起こす恐れもある。

ディーラー整備工場

だから電子制御システムてんこ盛りな大型バイクはメーカーの教育を受けた専門店のみの扱いに絞ったというわけ。

これがハード面から見た販売網再編の理由。

【ソフト面から見た場合】

販売網再編についてメーカーの人は

「顧客満足度を上げるため」

と一貫して仰っています。

じゃあ

「何がどう顧客満足度に繋がるのか」

って話なんですが、一つはハード面で話したメンテナンスでのトラブルを防ぐ事で満足度を上げること・・・でも狙いはそれだけじゃない。

実はこの販売網の再編には前例があります。

ハーレーダビッドソンジャパン(以下 HDJ)です。

ハーレーダビッドソンジャパン

ハーレーが日本で販売を始めたのは1913年と日本メーカーよりも古いのですが、一方でHDJが日本に設立されたのは1989年と実は結構最近のこと。

そして今では考えられない話ですがHDJが設立された頃のハーレーというのは減少の一途で、年間販売台数も3000台足らず(今で言えばKTMやDUCATI程度)しかありませんでした。

しかしHDJが設立されてからは縮小していく市場に反比例するように上がっていき約20年後の2008年には15,000台にまで大成長。

HDJの登録台数推移

この成長の鍵はCRM(カスタマー リレーションシップ マネジメント)システムというマーケティングを用いた事にあります。

具体的に何をしたのかというと、まずハーレーに対する高い知識や接客など定められた厳しいプログラムを遵守する店を正規販売店化して手厚くサポートする事でした。

メーカーとショップの信頼関係

つまり今まさに日本のメーカーが始めている

『販売網の整理と正規販売店化』

なわけです。

これの狙いは顧客満足度の向上。

何故なら顧客と直接やり取りするのはHDJではなく店だから。

ショップとユーザーの信頼関係

だからHDJは販売店を教育する事と厳しい取り決めを理解してもらう事に死力を尽くした。

HDJの一方的な要望の様に感じますが、販売店もノルマやサービスなど厳しいプログラムが課せられる一方で公認印を貰えるので収益は増える。

・サービスの質を上げられるHDJ

・正規店となり収益を上げられる店

これでHDJと販売店はWin-Winの関係となった。

そして顧客も『正規店なら全国どの店でも同様の高いサービス』というプログラムによって

「間違いのないショップ」

という安心感が生まれる。

ハーレーショップ

店の外観を統一するのもコレが狙い。

ビジュアル面でもその事(コーポレートアイデンティティ)をアピールするためです。

ここでミソとなるのが正規店で高いサービスを受けた顧客は、店だけでなくメーカーに対し高い信頼を持つようになるということ。

ファミリーネットワーク

そうなるとその顧客はまた同じメーカーの製品を優先して買うようになる。

この『Win-Win-Win』の関係を生むことでHDJは高い顧客満足度や顧客生涯価値(上客)を獲得したわけです。

これは顧客から見れば資本が違えどメーカーの人間と変わらないという認識を生む正規店だからこそ可能なことで、色んなメーカーを売っている店(顧客から見ればメーカー外の個人)だとトライアングルは生まれない。

ショップ買い

信頼関係が顧客と店だけで終わってしまうんです。

つまり日本のメーカーが再編に積極的に動いているのは

『Win-Win-Winのトライアングル』

を作り出すためというわけ。

このCRMシステムは成熟した市場で効果を発揮するマーケティングと言われています。

一応ここまでが建前というか定石なソフト面の話・・・ここからは解説というか独自な見解を交えます。

HDJが縮小していく市場で一人勝ちした理由はこのCRMシステムだけではなく、もう一つあります。

ハーレーのイベント

『イベント』です。

ハーレーは(海外でもそうですが)イベントをどのメーカーよりも多く開催しています。

しかもそれは商品を売るための試乗会や商談会だけではなく、単純にオーナー向けや家族連れ向けのエンターテイメントなお祭りまで。

これの狙いは

「ハーレーは買った後も色々やってくれる」

という顧客の信頼や満足度を上げる狙いや

「ハーレーを知るきっかけ」

という新規開拓などの狙いも勿論ありますが、一番の狙いは別にあります。

ハーレー2018ストリート

『ライフスタイルの提案』

です。

そもそもハーレーは日本メーカーのバイクと比べると割高。そのまま売っても物好きしか買わないバイクです。

では割高なハーレーが何故、縮小していく市場で売れたのかというと

『ハーレーというモノでなく、ハーレーというコト』

を売ったからです。

ハーレーのタンクエンブレム

ハーレーを買えば所有感や手厚いサポートを受けられるだけでなく、イベントが目白押しで土日が忙しくなる。

これがハーレーが飛躍的な人気となった理由。

『ハーレーというライフスタイル』

を売ったんです。

ハーレーのツーリング

ハーレー集団が大所帯と言われ、またそれが事実なのもこれが大きな理由。

「ハーレーを所有できて満足」

というモノ要素だけでなく

「ハーレーファミリーになれて満足」

というコト要素に満足しているオーナーが多いから大所帯になるんです。

ブルースカイヘブン

そしてこれにはもう一つ強みがあります。

『顧客が営業になる』

という事です・・・これがモノに満足している人が多い日本メーカーのユーザーと決定的に違う所。

何故ならハーレーに満足している人の多くは、いま話したように『ハーレーというモノ』に満足している以上に『ハーレーというコト』に満足しているから。

HDJ

だから周りにバイクを勧める事はしないし、アメリカンを勧める事もしない・・・ハーレーだけを勧める。

ハーレーがジワジワと人気を広げていった理由はここにあるわけです。

「割高なハーレーが如何にして売れたか」

という(マーケティングでは有名な)話をしてきたわけですが、ご存知の様に日本のバイクももはや割高感が否めませんよね。

そして日本のバイク市場は成熟しきっているだけでなく、人口減少や少子高齢化により市場縮小は更に悪化していく。

バイク人口

しかも成熟しきった市場の顧客というのは目が肥えているという厄介な要素もある。

そんな時代と市場で実用性が車ほどなく割高感のあるバイクを売るには、ハーレーの様に『バイクというコト』を売るようにしないと

「付き合い方は自分で見つけて」

という旧来のモノを売るやり方はどんどん通用しなくなる。

いい例なのがビーノというヤマハの原付。

ヤマハ・ビーノ

中身はホンダのジョルノと同じなのに、原付は他にもあるのにビーノだけが市場予想を大幅に上回る人気が出ました。

要因となったのは『ゆるキャン』という人気アニメに登場するキャラが乗っているから。つまりビーノが売れたのはビーノが良い”モノ”だったからじゃない。

ゆるキャンVINO

『ゆるキャンの世界観』

『ビーノでキャンプ』

という良い”コト”があったから成熟しきって腐りかけている原付市場にも関わらず人気が出た。

「それが販売網再編とどう関係しているのか」

って話ですが、販売網を正規店に絞れば顧客や顧客情報をメーカーが集約し把握できるわけです。

すると顧客に対して”モノ”の満足度を上げる為のフォローだけでなく、サポートやコミュニティやライフスタイルといった”コト”に対する潜在的な満足度を上げる(育む)為のマーケティングを打ち出しやすくなる。

ホンダドリームのイベント

最近メーカーや正規店主催のイベントが市場規模と反比例するように目立つ様になったのが何よりの証拠。

つまり販売網の再編は、良いバイクを造ればそれでよかった

『バイクというモノ』

を売る時代から

『バイクというコト』

を売る時代へと変わっていく始まりでもあるんです。

バイク屋が儲からない理由 ~バイク屋の選び方と付き合い方~

儲からない

「バイク屋は儲からない」

という声を耳にした事がある人も多いと思います。なぜ儲からないのかを理解すれば

「バイク屋の選び方や付き合い方」

が捗ると思うので色々と話をしていきます。

※小さいバイク屋前提の話

まず初めに解きたい誤解があります。

中古バイク

「中古車を売ったほうが儲かる」

という事です。

何故こう言われる様になったのかというと内約にあります。

内約

中古車のほうが仕入れ値が安いからですね。

昔それこそCB750FOURの頃なら新車のフォアを一台売れば一ヶ月は食べられたそうですが、現在は新車を売っても消費税かと思う程度しか儲けはありません。

では何故これが誤解なのかというと中古車というのは新車ではないからです。

バイク屋にある中古車というのは下取りや業者オークションで仕入れたものを売っているわけですが、それをそのまま売っているわけではありません。

業者オークション

例えば業者オークションで40万円の車体を仕入れて60万で販売するとします。

その差額は60万円なので売れたら20万円の利益・・・とは当然ならない。何故ならオークションに出される中古車というのは基本的に何かしら故障や劣化を抱えているものだから。

だからバイク屋は中古車を仕入れたら売れる状態にするために先ず整備をします。

そしてこれが難しい所。

価格設定

「何処まで仕上げればいいのか分からない」

という問題があるからです。

新車に負けないほどの整備をしたら当然ながら販売価格も高くなるから売れない。

かといってあまり手を掛けず状態が悪いまま売ってしまうとクレームによる無償修理で利益が飛ぶし、何より悪印象を与えリピーターになってくれない。

いくらバイクのプロといえど何処が悪くて何処が壊れかけなのかを見極めるのは難しい。だから後々の事を考えると必ずしも中古車のほうが儲かるとは言えないわけ。

中古車販売

仮に上手くいって40万で仕入れたバイクが60万で売れたとしましょう。

しかし仕上げるまでには場所代はもちろん部品代やケミカルやオイルなどの出費があるわけです。

これを5万円とした場合、利益は15万円になるものの、部品代だけでなく売れる状態まで整備したのは当然ながらバイク屋なわけで人件費が掛かっている。

結局コレが利益となるわけですが、仕入れて引き取って何日も掛けて整備して・・・そして売れて初めて15万円の利益。

言い方を変えるなら

「いつ売れるかも分からない物に40万円も投資して何日も労する必要がある」

あまりにもハイリスク&ローリターンですよね。

だから中には業オクで仕入れた車両を整備せずそのまま横流しのように(顧客にその旨を説明せず)売ったり、メーター戻しなどに手を染めてしまう店が出て来てしまう。

走行距離改ざん

何故ならこれが一番手っ取り早く利益を上げる方法だから。

これに関連する事としてプレミア価格というのもあります。

典型的なのが『空冷Z』や『ビンテージハーレー』といった旧車。

ビンテージハーレー

これらのバイクは元々アメリカでは二束三文のバイクだったんですが、これらを日本に持ってきてレストアし

『歴史ある希少なバイク』

という付加価値を付けることで高値で売るのが流行った。

これにメディアなども乗った事で二束三文の仕入れ値で新車を遥かに超える高値で売れるという錬金術の様なビジネスが成り立ったんです。

古いから壊れるんだけどそれも『古いバイク』という理由で片付けられて修理代まで稼げるという算段。

これらの行為をする店は本当にごく一部の話なんですが、結局こういう事をやっていたからバイク屋に対する信頼が揺らいでしまったわけですね。
※現在はもう数が無いので状況が違います

横流しやメーター戻しなどの不誠実な行いをしていないバイク屋からしたら迷惑な話なんですが、では真っ当なバイク屋が主に何で利益を出しているのか、生計を立てているのかと言うと

『整備や修理』

です。

整備

ただこれにも問題があるからバイク屋が儲からない・・・というのもいわゆる”工賃”というのはバイク屋が定めている

『レバレート(時間工賃)』

とメーカーが車種ごとにパーツマニュアルで定めている

『整備標準時間』

に基づいて算出されます。

例えばレバレート8000円の平均的な店が、ヘッドライトのバルブを交換したとします。

パーツリストの工数

そうすると某カタログでは『標準時間0.2時間』となっているので

『8000*0.2=1600円』

これが工賃になるわけです・・・が、この定められた作業標準時間というのは言ってしまえば

「構造を熟知した人が新車で行った場合」

の時間なんです。

触ったことのないバイクの整備が簡単に行かないのはバイク屋も同じ。まして故障する様な車体というのは当たり前の様にボルトやネジが錆びていたりするから絶対に時間内に終わらない。

錆びたボルト

だからといってマニュアル以上の工賃を請求することは出来ない。

もしも0.2時間のライトバルブ交換でネジが腐っていて慎重にした結果0.5時間掛かったとしても4,000円も工賃を請求することは出来ない。

つまり多くのバイク屋というのは

「丁寧にやるほど儲からない仕事」

を生業としている、そうならざる負えない経営体質になってしまってるんです。

異音など原因不明の不具合の修理が嫌われる原因も分かりますよね。

「リアから異音がする」

とオーナーが持ち込んできて

・ブレーキ

・チェーン

・スプロケ

・ベアリング

などなど色々と調べてみた結果

修理

「フェンダーのボルトが緩んでいただけだった」

と判明した場合、その特定までに掛かった作業時間を請求する事が出来ないわけです。

「フェンダーのボルトが緩んでいました1時間かかったので工賃8000円です」

なんて請求できるわけないですよね。そんな事をしたら二度と来ないどころか悪評を立てられてしまう。

もちろん整備の中には標準時間内に終わる作業もあります。

・オイル交換

・タイヤ交換

・チェーン交換

・バッテリー交換

などなどの消耗品交換は比較的時間内に終わります・・・が、実際これらって自分でやる人が多いですよね。比較的簡単だから。

つまりバイク屋っていうのは

「面倒で割に合わない整備で生計を立てている」

のが現状なんです。

これがバイク屋が儲からない理由。

ガレージ

「お金を払っているんだから良くしてもらって当たり前」

というのは適正なお金を払って初めて言える事。そして個人の小さなバイク屋というのは適正なお金を貰えないんです。

じゃあなんでやってるのかといえばそれは我々と同じかそれ以上に

「バイクが好きだから」

なんですよ。

接客がなってないバイク屋が多いのは半分趣味みたいな経営だから。でもだからこそ続けている。

極論なんですが個人の小さなバイク屋を相手に『お客様』という考えは捨てたほうがいいです。

別に謙る(へりくだる)ようにしろって話ではなく『個人と個人の付き合い』と思ったほうが良い。この人とは合わないなと思ったら違う店に行く。

今どき一見さんお断りなんて早々ありません。あったとしてもそんなバイク屋は業界再編の流れで消えていくでしょう。

ただ注意点として他所のバイク屋の悪口を言わないこと。バイク屋というのは何度も言いますが、半分趣味みたいな経営なので横の繋がりが強く心象が悪くなります。

もしもそういう人付き合いが嫌なら

「お客様として確かなサービスを受けたい」

と考えているなら迷わず正規ディーラーで購入して正規ディーラーで整備してもらうようにしましょう。

ディーラー

ディーラーなら確かで手厚いサービスや整備やサポートを受ける事が出来ます。

ただしディーラーはその分だけレバレートが高めでキッチリ取ります。それが対価なんだから当たり前なんですけどね。

説教臭くなりますが

「高いサービスを安い工賃でやってほしい」

という甘い考えは捨ててください。その考えは自分もバイク屋も嫌な思いしかせず本当に誰も得しません。

「それでも工賃はあまり払いたくない」

と思うなら自分で整備するようにしましょう。今はネットで調べれば先人たちがやり方を色々と親切に解説したりしています。

自分でやれば構造にも詳しくなれるからスキルアップにもなる・・・でもやってみたら恐らくこう思うハズです。

「次はバイク屋に頼もう」

そういう割に合わない作業をバイク屋は素性が知れない他人のバイク相手に毎日やってるんです。

だからもしも信頼できるバイク屋に巡り会えたら、付き合っていきたいと思えるバイク屋に巡り会えたらお金を落としてあげてください。

消耗品の交換程度でも良いし、お金がないなら手土産や缶コーヒーを持っていくだけでもいい。

そうすればバイク屋も必ず良くしてくれます。

「恩には恩を」

ってやつです。