「Respect R World」
規制に伴い9年ぶりのモデルチェンジとなり立ち位置が大きく変わった六代目YZF-R6のBN6型。
・ABS標準装備
・6段階トラクションコントロールシステム
・クイックシフター(UPのみ)
・3種類の出力モード切替
・R1と同型の大径フロントフォーク(φ43㎜)
・R1と同型のブレーキ(φ320mm)とフロントホイール
・アルミ化された新型燃料タンク
・新開発のMgシートフレームで約20㎜スリム化
などなど足回りと電子制御を中心とした強化が入っています。
もともと電スロをいち早く採用していたからABSやトラコンはの採用はかなり遅かったと言っていいほどなんだけど、これはどうも市場の縮小もありますが先代がモデルチェンジせずともすこぶる好評だった事も関係していたようです。
カタログスペックとしてはEURO4(排ガス規制)の関係で118馬力と+2kgとなっているわけです・・・が、それ以上に注目したいのが相変わらずデザイン。
このYZF-R6は従来の路線とは真逆ともいえる方向へ大変貌しました。
YZF-R1と同系の新設計のカウルデザインによりCdA値(空気抵抗)がなんと8%も向上し最高速アップ。
ちなみにR1と同様に光ってる部分はポジションライトでアッパーカウルの下に付いてる丸いレンズが本体。左がロー、右がハイ。当然ながらヘッドライトのみならずウィンカーまでもがLEDとなってます。
睨んでいる様に見える顔ですが、これは『白面の者(うしおととら)』から取ったんだそう。
それでどうして真逆なのかって話ですが、系譜を見ると分かるように
「R6はR1の弟分ではない」
という事を誇示するように似ていないデザインだった。
しかし今回それが大きく変更されR1に準ずる様なデザインに。特にリア周りは特にR1と区別が付きにくいほど。
開発責任者の平野さんいわく
「R1に抜かれたと思ったらR6だった」
という思惑が込められているんだそう。やられた方はなかなか屈辱的ですね。
それでR6がR1と親しいデザインになった理由なんですが、これはR1とR6しか居なかった状況からYZF-R1~YZF-R25まで(海の向こうではR125まで)のYZF-Rファミリーになったから。
ヤマハ語でいう
『R-DNA(プラットフォーム化)』
で展開する様ために関連付ける必要があったからR1ともR25ともデザインから改められたという話。
これにはミドルスーパースポーツのブームが去ったことも影響しているかと思います。
R6は歴代累計16万台ほど生産したようなんですが、今やそれが嘘のように閑古鳥が鳴く始末でライバルたちもバタバタと倒れゆく時代。
そんな中で存続するだけでなくモデルチェンジに加え世界市販600レースへのワークス再参戦という逆張りに近い行為が出来たのもファミリーに一翼を担うようになったおかげでしょう。
そのおかげというべきか案の定というべきか600レースは国内外問わずYZF-R6が猛威を奮ってたりします。
『Furious Track Master(猛烈なサーキットの怪物)』
という開発コンセプト通りサーキットで傍若無人っぷりを発揮しているわけですね。
ただ残念ながらもうクラスが完全に下火というかもうレースでしか存続してない事もあり2020年モデルがEURO5規制の関係で最後な模様。後継の話もいまの所なし。
まあモデルチェンジした翌年の2018年ですら424台と大型一位だったバイクの1/10しか売れてないですからね。開発費が掛かる類のバイクなのにこれじゃ存続も無理な話。
そのため生産も期間を絞った受注生産に近い形なので欲しい人は店頭に並ぶのを待つのではなく今すぐ予約しましょう・・・と購入を煽りたい所ですが価値観の押し付けの様な話を批判覚悟で少し。
正直に言うと(先代含む)R6はオススメしません。
オーナーからの苦情を覚悟で言わせてもらいますが、もし周りでR6を
「言われるほどキツくない、乗り辛くない」
などと言ってる人が居たらそれは間違いなく納車されたてで浮かれている人か、サーキット沼にハマって頭のネジが2~3本取れてる人です。
スーパースポーツというのはR6に限らず基本的にサーキット走行ありきなので日常的な走りは苦手です。
・キツいポジション
・高すぎる回転数
・硬いサスペンション
などなど。
ただメーカーも数を売らなければいけないので(一部のホモロゲや外車SSを除き)可能な限り一般ユーザーが使うであろう用途も考慮しているのが実情。
しかしR6の場合それがほとんど無い。
このスーパースポーツは外車も真っ青なくらい
「公道のための1を捨ててサーキットの0.1を取った」
といえるモデルなんです。ポジションやシート高などがよく言われていますね。
どうしてそうなのかといえばこれまでの系譜でも話した通り
「走りで存在感を出す」
という事に重きを置いているから。
本当にトラックに全振りしているスーパースポーツしてるバイクだから
「ルックス買いなら止めといたほうがいいよ」
とアドバイスします。
ただ勘違いしてほしくないのは
「R6はピーキー過ぎてお前には無理だよ」
という事が言いたいわけではありません。
むしろ反対でR6はライダーの入力に正確に応えてくれる本当にピュアなスーパースポーツ・・・だからこそレーサーでもなんでもない一般的なライダーには向いていない。
メーカーも一般ライダーに買ってもらうために街乗りしてる写真を出したりキャッチコピーでも
『場所を問わないエンターテイメント』
とかやってますがハッキリ言って無理がある。
もちろんツーリングや街乗りで使うのも盆栽するのも可能だし個人の自由なんだから大いに結構。でもそういう付き合い方だと長く付き合っていく事は難しいと思います。
よく大型初心者の人が想像から
「公道でSSは難しいですよね」
なんて言ったりしていますが意外とそうでもなく乗れてる気になれる事は可能だったりする。
でもR6はちょっと例外で
『下スカスカで上スカスカで最上がドッカン』
だから公道でスポーツしようにもリッターSSより難しい・・・というか無理。そして気持ちよくスポーツ出来ないフラストレーションにクラスでも抜きん出たキツいポジションや足つきや排熱など公道ではネガでしかない部分ばかりが気になり始めて嫌になってくる。
早い話がバイクに乗らなくなる要因がこれでもかというほどあるからオススメしないって話なんですが、ここまで言われてもなお
「それでも一番カッコ良いR6が欲しい」
と思うなら買えばいいです。
ただし一つだけどうしても聞いて欲しい事があります・・・それは
「長く付き合っていきたいと思うなら絶対に一度はR6でサーキットを走って」
ということ。
R6でサーキットを走れば自分が今どの程度のライディングスキルを持っているのか否が応でも分かります。全然乗れてない事に落胆すると思います。
ただそれと同時にほんの一瞬かもしれないけど公道の1を捨てサーキットの0.1を取った要素
『Furious Track Masterの片鱗』
を感じ取る事も出来る。
それを知ってたとえ年に数回だろうとサーキットに行って少しずつでもR6の本領を発揮できるようになれば
「カッコいいミドルSS」
という表面的なR6の魅力だけでなく下手くそなら下手くそと、上手いなら上手いと誤魔化さず走りで応えてくれる
「正直者なミドルSS」
という内面の魅力にも気付ける。だからサーキットを走って欲しいんです。
これはトラクションコントロールというアシスト機能が付いたこの代でもそう。
トラコンは”甘えの装備”とか言われるんですが、このR6にはIMU(慣性計測装置)が付いておらず6段階も細分化された”自分で設定する必要がある調整機能”になっている。
これがどういう事かと常に自動でベストな補正をしてくれるわけではないという事。
つまり
「いま自分がどれくらいの制御が必要なのか」
己で見極めて走る必要があるんです。
要するにクラストップの速さを持つR6だけど、丸投げで速く走れるSSでも勘違いさせてくれるSSでもないという事。
公道ではあまり見ないのにサーキットにいくとよく居る理由、優しくないのに絶対に手放ない人がよく居る理由もここにある。
R6の魅力というのはカッコよさや超高回転という表面的なものではなく
『何処まででも切磋琢磨していける関係性を築ける内面』
が本当に素晴らしい魅力なんです。
その事を理解できれば5年でも10年でも20年でも付き合っていける関係になる。ポジションも足つきも排熱も嘘のように気にならなくなる。
もし仮に手放す事になったとしてもその時は
「YZF-R6ありがとう」
などというありきたりな感謝の念を抱くような事はない。
「YZF-R6には色々と教えてもらった」
と敬愛の念を抱くようになる。
【関連車種】
CBR600RRの系譜|GSX-R600の系譜|ZX-6Rの系譜|DAYTONA675の系譜
主要諸元
全長/幅/高 | 2040/695/1150mm |
シート高 | 850mm |
車軸距離 | 1375mm |
車体重量 | 190kg(装) |
燃料消費率 | – |
燃料容量 | 17.0L |
エンジン | 水冷4サイクルDOHC4気筒 |
総排気量 | 599cc |
最高出力 | 118ps/14500rpm |
最高トルク | 6.3kg-m/10500rpm |
変速機 | 常時噛合式6速リターン |
タイヤサイズ | 前120/70ZR17(58W) 後180/55ZR17(73W) |
バッテリー | YTZ7S(F) |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
CR10EK |
推奨オイル | ヤマルーブ プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス |
オイル容量 ※ゲージ確認を忘れずに |
全容量3.4L 交換時2.4L フィルター交換時2.6L |
スプロケ | 前16|後45 |
チェーン | サイズ525|リンク114 |
車体価格 | 1,450,000円(税別) ※プレスト価格 |
今から買おうとする人はイグニッションコイルに注意です。
どうもヤマハのイグニッションコイル自体が熱に弱いらしく、真夏に渋滞など悪条件が重なると破損し、アイドリング不調が起こります。
一回の交換で2万以上は取られると思うので、これからの時期に納車する方は少しお金を多めに残しておくと安心かも。