モデルチェンジをする理由

モデルチェンジ

これは豆知識というよりコラムに近いんですが、面白い(自動車に関する)論文を「CiNii収録論文」で見かけバイクにも当てはまると考えたので、個人解釈も交えて噛み砕きながら話したいと思います。

※技術面を排他し、マーケティングに限って見た場合の話です

車やバイクというのは数年でモデルチェンジをします。せっかく買ったバイクが型落ちになるとガッカリですよね。

ただそう思わせるためなのがモデルチェンジをする理由の一つなんです。

【計画的陳腐化】

有名なマーケティング戦略なので聞いたことがある人も多いと思います。

人間不思議なもので、少し見た目と機能が変わっただけの新しいモデルを見ると

「新しい=優れている」

という印象を持ち、ついこの前まで現行だった型落ちモデルには

「古い=劣っている」

という印象を強く持ってしまう。

その結果、買い替えへの購買意欲が掻き立てられセールスに繋がるというわけ。

ゼネラル・モーターズ

自動車業界でのモデルチェンジがそれに該当するのですが、この手法を確立したのはアメリカの自動車メーカーBIG3の1つであるゼネラル・モーターズです。

ただしこの計画的陳腐化は既存の旧型オーナーだけに向けたものではありません。

物というのは年月が経つと価値が下がっていきます。10年前からある物を10年前の価格のまま買う人なんていないでしょう。

だから価値を再び押し上げる為に(価格を下げないでいいように)モデルチェンジするんです。

モデルサイクル

しかしこれは長い目で見た場合の話。

この計画的陳腐化の一番の目的、最も効果的に働くのはライバル社の消費者です。

モデルチェンジというのは言い方を変えれば抜け駆けの様な行為。

「うちの商品のほうが新しいですよ、価値がありますよ」

と言ってるわけですから。

自動車やバイク業界においてモデルチェンジの最も大きなウェイトを占める部分はデザイン・・・ただし簡単には行きません。

何故なら開発費や広告費、生産設備の再編などで莫大なお金が掛かるから。

コンセプトデザイン

莫大なお金をかけたにも関わらず変わり映えしないと判断されると陳腐化(抜け駆け)にならず費用対効果が得られない。

かといって変わり映えし過ぎて受け入れられないと大赤字で存続すら危うくなる。

モデルチェンジというのは正にDEAD OR ALIVEなんです。

そんなリスキーさ故にこんな現象が生まれる様になりました。

【強制流行現象】

計画的陳腐化というのは”最新”正しくは”最新感”が大事。

しかしここで問題となるのが消費者が好む”最新感”が必ずしもデザイナーが思い描く画の通りでは無いということ。センスは十人十色なんだから当たり前な話ですが。

でも売るためにはより多くの人が

「これは最新だ。」

と感じるデザイン、先代を陳腐で時代遅れだと感じさせるデザインにする必要がある。

最近それを止めたマツダの人が上手いこと言っていたんですが

「変えるためにデザインを変える」

という難しく嫌らしい事をしないといけないわけです。

そうした時にメーカーは限りなくALIVE率を高め、DEADを回避するために、新しいと好評な既存デザインに”追随”という手段を取ります。

こうすればユーザーが求める新しさを外してしまう事もない。起死回生の一打にはならないけど致命傷の一撃にもならない。

車

こうして同系のデザインが各社からまるで口裏を合わせているかのように出る事で、消費者に対しデザインが”流行している”という印象を与える事が出来る。

そうすると消費者は

「流行っているから良い物だ」

と思う。

これが強制流行現象ですが、恐ろしいのはその先。

流行というのは日々変わり長続きしない・・・つまり次の計画的陳腐化が容易になるんです。

他社と競争するためのモデルチェンジなのに、時と場合によっては協調するなんて面白い話ですが、それだけモデルチェンジというのはメーカーにとって大きな負担なんです。

「じゃあ止めればいい、年次改良をコツコツ続ければいい」

と思うかもしれませんが、それは無理です。

モデルチェンジによる計画的陳腐化を確立したのはゼネラル・モーターズと言いましたが、当時アメリカの大手自動車メーカーといえばフォードとクライスラーでGMはいつ潰れてもおかしくない会社でした。

フォード

「一生乗れる車を作る」

これは20世紀初頭まで米国において半分近いシェアを持っていたフォードの考え。

フォードは少ない車種にリソースを割き、長期的に生産することで安く確実な車を作ることを心がけていました。

しかしそんな考えを持っていたフォードですらモデルチェンジ商法をするGMの破竹の勢いの前には無力で、最終的には同じ手に打って出るしかなかった。

リスクが大きすぎると否定的だったクライスラーも同様です。

クライスラー

「GMやフォードが毎年新型を出しているのにウチだけ毎年同じものを売っていたらすぐに破産してしまう。」

と当時のクライスラー役員に言わせるほどモデルチェンジによる計画的陳腐化という手法は効果的だったんです。GMがフォード・クライスラーと並んでBIG3と言われる様になったのもこのおかげ。

モデルチェンジというのは抜け駆けなんです。

抜け駆けを許すと負けてしまう。じゃあどうするかと言えば抜け駆け仕返すしか手段はない。

モデルチェンジされたからモデルチェンジして、モデルチェンジしたからモデルチェンジされる。

止めるに止められない囚人のジレンマ。

ここで初めてバイクを例に挙げますが、スズキにハヤブサというバイクがあります。

このバイクはモデルライフが非常に長く1999年から2017年時点でフルモデルチェンジと呼べる変更は2008年の一回のみ。

ハヤブサの歴史

ただし何もしていないかというとそんな事はなく、年次改良や小変更を重ねています。ただ今では爆発的に売れた最初の頃が嘘のような販売台数。

それは何故かといえば

「新しくないから」

です。

モデルチェンジが行われる理由は企業が利益を得るため。

でも企業をそうさせているのは

“目新しい物に飛び付き、型落ちになってガッカリする我々消費者”

が望んでいるからです。

メーカーの二つ名はマーケティング戦略の片鱗

メーカーのイメージ

メーカーの二つ名を見たり言ったりした人は多いかと思います。

優等生なホンダ、ハンドリングのヤマハ、漢カワサキ、安っぽい・・・じゃなくて安いスズキなどですが、実はこれマーケティング戦略が大きく関わっている。

フィリップ・コトラーという現代マーケティングの父と呼ばれる方がいます。

この方が1980年頃に提唱した

「競争地位戦略」

という理論に見事に合致するんです。

競争地位戦略というのは簡単に言うと

「業界企業は四種のポジションに分類することが可能」

という話。

【リーダー】

圧倒的な力を有しているトップシェア企業の事。

【チャレンジャー】

リーダーの座を狙う業界二番手の企業の事。

【ニッチャー】

シェアは低いものの独自の地位を築いている企業の事。

【フォロワー】

市場動向に追従する低価格路線の企業の事。

の四種類。

競争地位戦略

こう聞いただけでも恐らく多くの人が

リーダー=ホンダ

チャレンジャー=ヤマハ

ニッチャー=カワサキ

フォロワー=スズキ

と思われたのではないでしょうか。

ただ当て嵌まるのはポジションだけではなく、競争地位で提言されている

「そのポジションにいる企業が生き残る為にとるべき戦略定石」

です。

【リーダーが取るべき戦略定石】

リーダー

リーダーが取るべき戦略は市場の拡大とシェアをフルラインナップで維持する事と言われています。

これは市場が拡大する事で最も恩恵を受けるのがリーダーだから。

例えば新製品を出した時に、目新しさがあるうちに買う人のことを

「前期大衆」

と言います。

このタイプはブランドや周囲の評判をあまり気にせず購入する。

反対に目新しさが無くなってきた頃に購入する人のことを

「後期大衆」

と言います。

このタイプは自分だけで判断せず、周囲の評判やブランドなど多角的に判断し購入する。

ここで重要となるのが市場拡大によって生まれた顧客というのは「後期大衆タイプ」が多いということ。

そして後期大衆にとってトップシェアメーカーというのは非常にプラスな判断材料。

つまり底上げされた新規顧客だけに絞って見るとリーダーは既に持っているシェア以上の顧客を獲得出来る。

だから市場拡大が戦略であり、後期大衆を逃さない為の圧倒的なラインナップというわけ。

ホンダがリーダーでありリーダー戦略を取っているのはラインナップを見ても疑いようが無いと思います。

ホンダのラインナップ

そしてホンダが優等生と言われるのは正に

「トップシェア=安牌」

という消費者心理と、底上げを狙った業界貢献のマーケティングが与える印象の現れかと。

ちなみにリーダーが豊富なフルラインナップを有する理由はもう一つあります・・・それは他社に対する参入障壁、牽制です。

包囲網

多くのジャンルで多くのタイプを出すことにより死角をなくし、他のメーカーに付け入る隙を与えないようにしている。

しかしそれでも完全に隙を無くすのはバイク史を見ても分かる通り不可能。

どれにも当てはまらないバイクがホンダ以外のメーカーから出てはヒットしていますよね。

新しい方向性

そうなってしまった場合は同質化戦略を取るのがベターだと言われています。

同質化戦略とは、圧倒的な資源・技術・販売力を屈指した同クラスの物をぶつけて目新しさを無くし持久戦に持ち込む事です。

同質化戦略

最初に話した通り、どれも変わらないなら安牌、優等生であるホンダを選ぶ人が一番多いですからね。

分かりやすいのがスポーツドリンクのポカリに対するアクエリとか。

アクポカ

どうして下を叩き潰すような事をしないといけないのかというと、シェアやブランド力を失ってしまうと豊富な資産がドンデン返しのように負債へと変わってしまうから。

ホンダ

とにかく市場拡大とシェア&ブランドの維持に努める事、間違えのない安心感を持った優等生のホンダと言われ続ける事がホンダに当て嵌まる戦略定石。

【チャレンジャーが取るべき戦略】

チャレンジャー

チャレンジャーが取るべき戦略は差別化によるシェア拡大で、真っ向勝負によるリーダーの奪取と言われています。

チャレンジャーはシェアが拡大するほどリーダーほど得られていないスケールメリットを得る事で利益が上振れする事が分かっているから。

そしてリーダーになるにはリーダーからシェアをもぎ取るのが最も効果的。もしもリーダーから奪うことが出来れば自分が+1になるだけでなくリーダーを-1に出来るので差が実質+2になるからです。

シェアの奪い合い

ではリーダーから取るにはどうしたらいいかというと

「リーダーとは違う」

ということを鮮明に打ち出して差別化すること。

じゃあバイクメーカーのチャレンジャーポジションにいるヤマハはどうでしょう。

4XVカタログ写真

「”ハンドリングのヤマハ”or”デザインのヤマハ”」

というイメージを皆が持っていますね。

これこそがチャレンジャー(ヤマハ)に大事な

「リーダー(ホンダ)とは違う」

という差別化の現れ。

人機官能

そしてもう一つ大事なのは

「リーダーの弱点を突く」

という事。

ヤマハはSTARシリーズやBOLTなどのクルーザー、XSRなどのヘリテイジなど”味や風情を求められる製品”が得意な傾向にありますよね。

ヤマハのラインナップ

SR400なんか正にその典型なわけですが、これはリーダーであるホンダが”簡単には同質化出来ない”苦手分野だからというのが大きい。

参考事例としてよく挙げられるのが一眼カメラのキャノンとミノルタ。

α-7000

チャレンジャーだったミノルタがオートフォーカス技術を採用したカメラα-7000を真っ先に出して人気を博したのに対し、リーダーだったキャノンはなかなか採用しませんでした。

それはオートフォーカス技術を採用する場合、それまでのレンズの互換性を切り捨てないといけなかったから。つまり既に多くのレンズを抱えていた顧客やラインナップという圧倒的な資産を切り捨てる事になる同質化が簡単には出来なかった。

ミノルタはそんなリーダーの強みを弱みに変える大どんでん返し戦略でリーダーのシェアを大きく奪い飛躍したわけ。

トリシティ

ヤマハで言えばトリシティなどの三輪車がそれに該当するかと思います。

ただこれは反対に言うとチャレンジャーはリーダーと変わらない事をしていてはリーダーに全てを持っていかれてしまう事でもある。

ヤマハ

だからハンドリングが違うハンドリングのヤマハ、デザインが違うデザインのヤマハ、と言われ続ける事がチャレンジャーであるヤマハに当て嵌まる戦略定石。

【ニッチャーが取るべき戦略】

ニッチャー

ニッチャーが取るべき戦略はリーダーやチャレンジャーには追随せず、他所が手を出さないものを出し、特定の部分に特化させる事と言われています。

これは限られているリソースをリーダーやチャレンジャーが注力していない部分に集中的に割くことで、その分野のミニリーダーとなり独自の地位を築けるから。

古くはGPZからZEPHYR、最近ではNinja250と新ジャンルでヒットしてきた製品を見ればカワサキは紛れもないニッチャーである事が分かります。

もう一つ分かりやすいのがスポーツバイク偏重でスクーターを作らない事。

カワサキのラインナップ

せいぜいOEMで売るくらいでメインはスポーツというかNinjaとZ。

その集中特化の結果

「スクーターを作らない=硬派=漢カワサキ」

という独自地位を確立し特定層からの支持を獲得した。最近出しているスーパーチャージャーなどもその地位を強固なものにする狙いがあるかと。

ちなみにニッチャーは同質化戦略をされる事があっても、する事は出来ません。

ニッチャーが同質化戦略をしてしまうと、せっかく築いてきた独自色の地位が揺らいでしまうから。

カワサキ

常に他所に無い、有りそうでなかったものを作り、決して追従しない硬派な漢カワサキと言われ続ける事がカワサキに当て嵌まる戦略定石。

【フォロワーが取るべき戦略】

フォロワー

フォロワーが取るべき戦略はリーダーやチャレンジャーに低価格路線で追随し、ラインナップの選択と集中を行いつつニッチャーな面も出す事と言われています。

これは一番弱い立場なので基本的にはリーダーやチャレンジャーの売れ筋への追随で開発コストのリスクを避け、価格優位性で対抗するのがベターだから。

ただそれは価格優位性を取り続けるわけではなく、現状を打破するニッチャー製品を出すための力の温存。

スズキのラインナップ

スズキがハヤブサの様な独自色の塊の様なバイクを造って一部の人に

「鈴菌or変態」

と言われたりするニッチャー的な独自地位を築きつつある一方で

「安っぽい(実際安い)スズキ」

と言われるのは競合車が居るクラスでは基本的に価格優位性を取っているモデルが多いフォロワー戦略を採用しているから。

数年前に行われた

”売れ筋だけを残す事で採算性を確保する”

というラインナップの整理も、フォロワーの戦略定石そのまま。

スズキ

独自地位も体力も不十分なうちは追随で凌ぎつつ、ポジションを上げる一手となるものを打ち出し、鈴菌や変態と言う人を一人でも多く増やす事がスズキに当て嵌まる戦略定石。

以上が豆知識というか独自分析のような話です。

競争地位を掻い摘んだだけでマーケティングはこんな単純な話ではないでしょうが、少なくともマーケティングを意識していない皆が漠然と抱いているメーカーに対するイメージというのは、結構大事なマーケティングの片鱗であると言えるかと。

最後に

メーカーのイメージ

これはメーカーも百も承知な事だと思います。

それはホンダもヤマハもスズキもカワサキも、マーケティングのマの字も無く200社以上のバイクメーカーが存在し一寸先は闇だった1950年代を生き抜いた歴史が証明しています。

生き抜いてこられたのは、自分のポジション、そしてライバルのポジションを見誤らなかったから。

「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」

というやつですね。

1億台の中に潜むレアカブ

レアカブ

累計生産台数1億台以上で今現在も更新中のスーパーカブ。1958年に出たC100を皮切りに世界中で販売されている最も有名でポピュラーな乗り物ですが

「じゃあ逆にレアなカブは何か」

という話。

まずポピュラーな限定車を上げるとコレらがあります。

「生誕30周年特別仕様スーパーカブ50」

30thカブ

生誕30周年を記念して1988年に発売されたスーパーカブ50の特別仕様車。

・パープルブルー
・ゴールドエンブレム&スペシャルキー
・リアキャリアにマット装備

などが特徴で生産台数は5000台(販売計画)。

「生誕50周年特別仕様スーパーカブ50」

50thカブ

こちらは更に20年後となる2008年に発売された生誕50年特別仕様。

・グラファイトブラック
・ロイヤルブラウンシート
・50thゴールドエンブレム

などが特徴で生産台数は3000台(販売計画)。ちなみにリトルカブバージョン(青ボティに赤シート)もありました。

「生誕60周年特別仕様スーパーカブ50/110」

60thカブ

更に10年後となる2018年に発売された生誕60年特別仕様。

・マグナレッド
・ブラックシート&キャリア
・60thエンブレム

などアメリカで最初に販売されたCA100を意識したカラーリングが特徴。生産台数は2300台(販売計画)。

ここでちょっと補足すると

「ホンダの特別仕様なんて毎年恒例みたいなもんじゃん」

と思っている方も多いかと・・・でも実は意外なことにスーパーカブはコラボモデルを除くと実質的に特別仕様はこれらと2019年に発売された特別カラーのストリートだけ。1964年から30年以上続いたC70やCM90/C90に至っては特別仕様は一つもなかったりします。

まあそれでも激レアかといえばそうとも言い切れない部分があるのも事実。じゃあカブマニアの間で有名なレアカブといえば何かというとこれ。

「1958年製 スーパーカブ C100」

初期型C100

いわゆる初期ロッドの初代スーパーカブ。

スーパーカブはご存知のように大ヒットを飛ばしたんですが生産が追いつかず工場を拡大。しかしそれに生産技術やサプライヤーが付いてこれず生産年や製造ロットで細部がコロコロ変わったりしているチャンポン仕様なんですね。

C100のロッド違い

だからこそ本当に本当の初期型はマニア垂涎モノ。

・80kmスピードメーター
・荷台左側にメッキグラブバー
・ビス止めタンクエンブレム

などになっているのが初期型C100の特徴で生産台数は24,195台だけ。

※スーパーカブ|三樹書房より

お次は更にマニアックなモデル。

「1964~65年製 C65/CM91」

初期型C65

1964年の末から発売されたモデルなんですが、何故これがレアなのかといえば1年ほどしか発売されなかったうえに異質なモデルだから。

簡単に説明するとスーパーカブというのは誕生から8年で一度だけ大きく生まれ変わっており

・大柄な第一世代(OHV世代)
・小柄な第二世代(OHC世代)

という大きな区切りになっています。

スーパーカブの世代

一般的にスーパーカブとして広く周知されているのは第2世代(OHC世代)で、第一世代はビンテージカブという感じ。最近C125として復刻されましたね。

それでC65やCM91が何故レアなのかというと、この二車種はその世代交代ゆえに狭間に生まれたモデルだから。

スーパーカブは爆発的な人気だったので生産ラインを止める事が出来ないうえに、絶対に失敗出来ないモデルでもあった。

そこでホンダは

「まず新しいエンジンを積んだモデルを出そう」

という考えを思いつき実行。

そうして生まれたのが第一世代ボディに第二世代エンジンが積まれた1964年からのC65と、1965年からのCM91というわけ。

初期型C65のカタログ

エンジンを新調したこのモデルが問題ないことが確認されると同時にボディの新調に取り掛かったので、このC65/CM91は僅か1年足らずの販売期間。C65はすぐにボディも第二世代となり、CM91に至っては広告すらほぼ打たれずすぐにフェードアウト。

先行開発されたプロトタイプモデルみたいな存在だから凄くレアという話。生産台数は区分けが曖昧なモデルなため不明。

次に紹介するのは分かっている範囲で生産台数が最も少ないだろうレアカブ。

「CR110スーパーカブレーシング」

CR110

世界レースに50ccクラスが追加された事と国内でクラブマンレース(アマチュアによる市販車レース)人気がに向けて1962年に発売されたスーパーカブ。

現代でいうスーパースポーツ50で当時の原付として最高となる7馬力を叩き出すDOHCエンジンを搭載したもはやカブなのは名前だけなカブ。

CR110レース仕様

こちらはレース仕様(後期モデル)で8速ミッション仕様。

大卒の初任給が17,000円の時代に170,000円(C100は53,000円)と高価だった事、さらにホンダ系ショップにレースを勝たせるために造られた事などから販売台数は僅か246台。

ちなみに1996年に発売されたドリーム50の元ネタでもあります。

しかし更にこの上をいくレアカブが存在します。恐らくカブシリーズで最も希少、まず絶対にお目にかかることは無いであろうレアカブ。

「C105T シルバーメッキ仕様」

C105Tメッキ仕様

ハンターカブのルーツであるCA100T(アメリカ向けトレールカブ)の発展型として1962年に発売されたC105T(和名C105H)の銀メッキ仕様。

見るからにレアそうな雰囲気プンプンですが何故このモデルがレアなのか説明すると、このモデルは1962年に優秀な販売成績をあげたアメリカのホンダ販売店に贈呈された非売品だから。

ホンダですら持っていないというか何台造られて何台残っているのかも不明。現在確認できるのは浜松にある本田宗一郎ものづくり伝承館に展示されている車両(上の写真)だけなんですが、それも再現版でオリジナルではないというレアっぷりだったりします。

非常に多いヤマハ車に対する誤記や誤読

マンホール

非常に誤記や誤読される事が多いヤマハのバイク。

ヤマハが捻った名前を付けるのもあるのでしょうが、酷い時にはヤマハ関係者まで間違えてたり。

オーナーに対し失礼にあたるので今回はそんなの言い間違い、読み間違いを正すためにもよく間違われる車種を少し紹介したいと思います。

誤記レベル1(稀に見る)

YZF・・・・R-1 R-6 R-25など

ヤマハのフラグシップYZFシリーズにおけるハイフンの位置を間違えてるパターン。

正しくはYZF-R○です。

ちなみにMotoGPの車両だけはYZFではなくYZR-M1なので注意しましょう。MはMissionのMです。

誤記レベル2(ちょくちょく見る)

V-MAX

ブイマ

正しく言うとVMAXです。ハイフンは要りません。

ただこれはV-MAXと書いても致し方ない部分が有ります。それはヤマハ自身も最初はV-MAXと書いていたから。

Vマックス1200

思いっきりハイフンが入ってますね。恐らくこれの名残りなんでしょう。カワサキのZZ-Rなんかもそうでした。

しかし今はVMAXです。細かいことを言うと旧ブイマックスはVmaxまたはVMX1200で、現行はVMAXと全て大文字表記となっています。

誤記レベル3(非常に見る)

T-MAX

TMAX530

VMAXと同じでハイフンは要りません。

TMAXが正しい表記で細かいことを言うと現行はTMAX530と言います。海外ではXP530 Tmaxとか言われてたりもします・・・が何故か海外でもT-MAXと言われてたり。

これは恐らくVMAXからのMAX繋がりでしょうね。いやしかしVMAXの誤記がTMAXにも派生なんてTMAXからしたらいい迷惑ですね。

っていうかネット中古車サイトすらT-MAXになってるし。

Nマックス

ちなみにブルーコアエンジンを積まれた新世代スクーターであるNMAX(日本未発売)もハイフンは付きませんのでご注意を。

あと欧州ではミドルクラスのスポーツスクーターとしてXMAXというスポーツコミューターを売っているんですが・・・

XMAXシリーズ

うん!?

Xシリーズにはハイフンが付いてますね!?

車体のロゴにはハイフンなんて付いてませんし国内向け資料ではXMAXと書かれてるのに。

スポーツコミューター

いやでもプレスリリースでもX-MAXと書かれてたりXMAXと書かれてたり・・・。

欧州ヤマハが間違ってるのか?どっちでもいいのか?

まあXMAXの真意は分からないにで置いとくとして、TMAXは”間違いなく”ハイフンが入りませんので気をつけましょう。

誤記レベル4(これしか見ない)

フェザー(FAZER)

これは恐らく殆どの人がそう思ってるであろう誤読。

正確に言うとフェーザー、またはフェイザーです。

関係者の方ですら間違えてたりしますがヤマハ自身はフェーザーで統一しているようです。

小型ヘリコプターFAZER

ちなみに産業用小型ヘリコプターにもFAZERという製品があります。

更に言うならば

小型ヘリコプターFAZER

FAZERは元々はボートに使われていた名前でした。

話が反れました。

何でフェザーと誤読されるのかといえば1985年に登場した16000rpmまで回る直四250の火付け役であるFZ250PHAZERがフェザーだったから・・・とか思ってませんか?

それも違いますよ。

FZ250PHAZER

これも読み方はフェーザー・・・つまりFAZERもPHAZERも読み方はフェーザー。

フェザーなんてヤマハのバイクは存在してないんです。発音の違いと言われるとそれまでかも知れませんが。

日本語で書く時はフェーザーと書くようにしましょう。

空冷エンジンが規制に対応できない理由 ~水冷と空冷の違い~

空冷エンジン

騒音規制や排ガス規制の強化によってもはや絶滅危惧種となった空冷エンジンのモデル。

「空冷は水冷と違って規制を通すのが難しいんだよ」

って聞いたこともあると思いますが、じゃあなんで空冷は難しいのかという話と長々と。

まず空冷と水冷の違いについて簡単に説明。

空冷エンジンというのは走行風でエンジンを冷やす昔ながらの方式。エンジンが風を浴びることで冷やしているわけですね。

空冷の仕組み

至ってシンプル。

一方で水冷エンジンは水(冷却水)をエンジンの周囲に巡らせる事でエンジンを冷やし、熱くなった冷却水をラジエーターに通し走行風で冷やす方式。

水冷の仕組み

そう結局のところ水冷も最終的には風で冷やす。

「だったら最初から余計な物がいらない空冷でいいじゃん」

と言って空冷水冷問題を巻き起こした宗一郎の意見もごもっともな気がしますよね。でもそうじゃないから空冷が数を減らし水冷が当たり前になった。

どうして水冷が主流になったのかというと

「水のほうが冷えるから」

でも間違いではないんですがエンジン的に言うと

「温度管理能力が優れているから」

です。

ラジエーター

水というのは空気よりも熱伝導率が24倍も高く、また比熱といって1度上げるために必要な熱量も4倍と非常に温まりにくい。

つまり誤解を恐れずに例えるなら水冷というのは空冷には不可能なほど超巨大なヒートシンクを付けている様なものなんです。

ただしそれだけじゃない。もう一つ重要なのが水冷は熱くなった水を冷やすためのラジエータや水を送るウォーターポンプなどと一緒にこれが付いている事。

サーモスタット

『サーモスタット』

これは温度によって開閉する調整弁・・・これの存在が大きいんです。

水冷エンジンの仕組み

何故ならこれがある事でただ単に熱くなるのを防ぐだけではなく、冷やしすぎるのも防ぎ温度を一定に保てるから。

高温時と低温時

水冷エンジンのバイクに乗っている人ならどんな状態でも水温は80~105度前後で安定するのを知っているかと。

それはこのサーモスタットのおかげで、この2つによって水冷は

「エンジン温を一定にする事が出来る」

というわけ。

水冷と空冷の温度領域

しかし熱を肩代わりしてくれる存在を持たない空冷はエンジンの温度が目まぐるしく変化する。

例えるなら水冷は自分で汗をかいて温度を調節できる恒温動物で、空冷は環境温度に依存する変温動物のようなもの。

うさぎとかめ

どうしてエンジンの温度を一定に保つ事がそれほど大事なのかというと、これが排ガス規制に直結してくる。

空冷問題その1
『燃焼が安定しない』

不安定な燃焼

エンジンの温度が目まぐるしく変化すると当然ながら燃焼時の温度も変わってくるので綺麗な燃焼が出来なくなる。

もしも温度が低かった場合ガソリンが上手く気化されずそのまま排出されるので排ガス規制の対象であるHC(炭化水素)を大量に排出してしまう。

じゃあ温度が高かった場合どうなるのかというと、今度は同じく排ガス規制の対象であるNOx(窒素酸化物)を大量に排出してしまうんです。

空冷問題その2
『オイルを燃やしてしまう』

オイル燃焼

潤滑のために入っているエンジンオイルをガソリンと一緒に燃やしてしまう原因は主に

・バルブなどヘッドから垂れてくるオイル下がり
・クランクから吸い上げてしまうオイル上がり
・ブローバイガス(未燃焼ガス)と一緒に吸気へ循環

があるんですが、その中で大半を占めるのがオイル上がり。そして空冷エンジンはこの量が非常に多い。

何故なら何度も言いますが空冷は水冷よりも温度の幅が大きいから・・・それすなわち熱膨張の範囲も大きくなるのでクリアランスを詰めることが出来ないから。

具体的に言うとオイルを食ってしまう主な原因はシリンダー壁面の温度上昇。

オイル上がり

これによりピストン(ピストンリング)とのクリアランスが歪んでしまうので、吸気時に吸気バルブからだけではなくクランク下で煮詰められて蒸発気味なシャバシャバのオイルも吸い上げて一緒に燃やしてしまうというわけ。(厳密に言うとピストンが首を振って隙間を作ってしまう)

ちなみに具体的なシリンダー温度を言うと水冷が140度前後で収まるのに対し、空冷は170度前後まで熱くなる。

オイルを大量に燃やしてしまう時点でアウトな話なんですが、問題はそれだけではなく排ガス浄化装置である触媒に悪影響を与えてしまうこと。

エンジンオイルの中には硫黄やリンという成分が入っているんですが、これが触媒の活動を失活または低下させる劣化被毒というものを招きNOxなどを浄化できなくなってしまうんです。だから硫黄やリンにも厳しい規制があったりします。

空冷四気筒

不安定な燃焼で有害物質は出すわ、オイル燃やして触媒痛めるわ、ついでに熱劣化で強度面でも厳しいわ・・・温度を一定に保てないだけでこれだけの問題が起こる。

最新設計空冷のエンジンヘッド回りが強制油冷だったり水冷とのハイブリッドだったりするのも、一番の熱源であるヘッド周りや風が当たりにくい部分の熱ムラを冷やす事で何とかエンジンの温度をコントロールしようとした結果。

強制油冷ヘッド

ちなみにこれはノッキングを抑える狙いもあるんですが、性能の話まで始めるともっと膨大で難しい話になるので割愛。

ただし規制はもう一つありますよね・・・そう、騒音規制。空冷エンジンで問題となるのは実は排ガス規制よりこっちだったりします。

空冷問題その3
『音を増幅してしまう』

空冷エンジンといえば走行風を効率良く浴びるために備え付けられている美しい冷却フィンがトレードマークというかアイデンティティですが実はこれが騒音を生んだり増幅したりしてしまう。

空冷のノイズ

・燃焼によって生じる燃焼音
・シリンダーヘッドからの放射音
・フィン自体が振動して起こす共鳴音

冷却フィンを付けるだけでこれらを増幅発生してしまうんです。空冷はエンジン音がよく聞こえる、人によってはうるさいと感じる理由はこれ。

防音材や防音壁でエンジンを囲えれば良いんだけど、それをやってしまうと走行風を遮る事と同義なのでただでさえ苦手な排熱が更に酷くなる。

空冷フィン用アブソーバー

だからせいぜいこうやって冷却フィンの間にアブソーバーを挟み込んで共鳴を抑えるくらいしか出来ない。

じゃあ一方で水冷はどうなのかというとフィンが無い事から共鳴しないのはもちろん

『エンジンを防音壁で囲うという空冷には絶対に出来ない事』

をやってのけてる。だから水冷が主流となったと言っても過言じゃない。

皆さん水冷エンジンは周囲を防音壁で囲ってるって知ってましたか・・・グラスウールとかじゃないですよ。

水という防音壁

水という名の防音壁です。

冷却のために張り巡らされているウォータージャケットは、同時に防音効果があるウォーターパネルにもなってる。だから圧倒的に静かなんです。

もうハッキリ言って空冷に勝ち目ないですよね。

もちろん空冷にも

・メンテナンスがしやすい
・水が要らないので軽い
・暖気が得意

などのメリットはあります。

水冷は常に水が張り巡らされているのでエンジンの温まりが悪く、吹いたガソリンをクランクに漏らしてオイルを希釈しがちというデメリットがあったりします。

空冷Vツイン

短距離走行が良くない理由の一つはこれなんですが、ただまあ空冷の方がオイルを熱してしまうので結局オイルに厳しいのは空冷だし規制と関係ない話。

最後にオマケというか結論というか一番の理由。

空冷問題その4
『出せないのではなく出さない』

暖気が得意

メーカーの人のこぼれ話みたいなものですが、現在の厳しい規制に適応した空冷エンジンも造ろうと思えば造れる。世界を牛耳るほどの技術力を持ってるんだから当たり前。

じゃあどうして造らないのか、せいぜい既存エンジンの延命だけで減る一方なのかというと

「商品にならないから」

です。

空冷エンジンは一昔前までは水回りが不要な事から低コストで比較的容易に造れるエンジンと言われていたんですが、規制が厳しくなったことで立場が大きく変わってしまった。

空冷エンジンの温度分布

話してきたように規制に対応するためには温度を安定させるしかない。そのためには空気という目には見えない不確実な要素を読みながら精密かつ細かい設計や制御をする必要がある。

結果として

『水冷よりも膨大な工数(負担)』

が避けられない冷却方式になってしまったんです。まして今はサイドカムチェーンを始めとした水冷前提のエンジンが基本だから部品の共有化も難しい。

そしてこれらは全てコストひいては車体価格に転嫁するしかない。

しかも仮にコスト面をクリアした上で規制に適応した圧倒的にクリーンな空冷エンジンを造れたとしても間違いなく酷評されると断言できます。

何故なら

「空冷で規制を通すという行為は空冷が持つ魅力である味(曖昧さやノイズ)を削ぐ行為に直結しているから」

です。

だから新しく造ったとしても

『水冷より低スペックで、水冷より冷徹無比で、水冷より割高な空冷』

が出来上がってしまう。

そんなバイクを誰が欲しがるのよって話。空冷エンジンが消えていく背景にはこういう理由があるんです。

デルタボックスのデルタ△な部分~フレーム史~

デルタボックスとは

よくよく考えると説明していなかったのですがデルタボックスフレームのデルタとは何かご存知でしょうか。

YZF-R1やYZF-R6、最近取り上げたFZR250などヤマハのレーサーレプリカやスーパースポーツに使われているフレームですが

「ヤマハのツインスパー(ツインチューブ)フレーム」

と簡単に片付けていた事をFZR250の系譜を書いていて悔いたので少し話させてもらいます。

※そもそもフレームの種類がよく分からないという人は「バイクのはてな:フレームの種類と見分け方」をどうぞ。

デルタボックスフレームの”デルタ”というのは側面からフレームを見た時に三角形に見えることから付いたわけですが、じゃあ今のデルタボックスフレームを見て何処がデルタなのか答えられる人ってどれほどいるでしょう。

秀作と名高い初代YZF-R1のアルミデルタボックスフレームでデルタな部分を探してみましょう。

バッテリー系トラブル

三角形の場所を見つけられたでしょうか・・・恐らく定義を知らないと分からないと思います。

そもそもデルタボックスが最初に生まれたとされるのは1983年のレース車両YZR500(OW70)です。ヤマハの公式にも書かれていますがデルタボックスフレームというのは元々V4エンジンを積むために生み出されたフレーム。

初代デルタボックス

これが一番最初のデルタボックスフレーム。デルタな部分も分かりやすいですね。

まだ分からないという人のためにデルタボックスになる前と並べてみましょう。

ow63とow70

写真左がデルタボックスになる前の前のモデル(OW60)、右がデルタボックスになったモデル(OW70)です。

わかりましたか・・・いい加減しつこいと言われそうなので答えを言うと

デルタライン

この部分がデルタと命名される事となった三角形の部分。

ヤマハ公式を略して書くと

“ヘッドパイプからリアピボット(スイングアームの付け根)を結ぶ線を極力直線に近づけ、ヘッドパイプの上下幅を広くとったことで側面からみるとデルタ(三角)形状を成している”

との事です。

つまりYZF-R1でいうDELTAラインは

4XVデルタボックスライン

こうです。デルタボックスのデルタというのはこれから来ているわけ。

太いヘッドパイプ周りからピボットに向かって細くなっているのがデルタボックスフレーム。

「全然デルタじゃない。」

とヤマハにクレームが行くと困るので長くなりますがお付き合いください。

【フレームの歴史】

フレームの歴史というのはレースの歴史ともいえるわけなんですが、バイクは自転車にエンジンを載せたのがスタートなのでレーサーも最初は平面の鉄パイプのシングルクレードルフレームが一般的でした。もっと前になると木材ですが。

シングルクレードルフレーム

エンジンや足回りの性能がまだそれほど高くなかったので当時はこれで間に合っていた。

しかし時代とともにエンジンの性能が上がっていくと、シングルクレードルフレームでは剛性が足りず真っ直ぐ走らない、ハンドリングが安定しないといったいわゆるフレームが負ける問題が出てきた。

そこでアンダーチューブを二本にしたセミダブルクレードルフレームといった補強されたクレームフレームが生まれてきました。しかしこれでは重量も上げてしまう事になってしまう。

ダイヤモンドフレーム

ならばと自転車を参考にエンジンを剛性メンバー(フレーム)の一部としアンダーチューブを排除したダイヤモンドフレームも生まれました。

しかしこうすると軽くなるけど今度は剛性が足りない。ここから重量と剛性(剛性比)の戦いが始まります。

そんなあの手この手の末にたどり着いたクレードルフレームの(重量当りの剛性値を高く出来た)集大成が今もネイキッドなど多くのバイクに使われているダブルクレードルフレームです。

ダブルクレードルフレーム

この形を生み出したのは1950年のNortonのマンクス(フェザーベッドフレーム)と言われていて、パイプの継ぎ接ぎで剛性を出す方法ではなくステアリングヘッドパイプを起点に二本のパイプでグルッとエンジンを囲うようになっているのが特徴。

ノートン マンクス

レースでも驚異的な速さを誇りました。かの有名なCB750FOURやZ1が参考にしたフレームとしても有名です。

しかし1980年頃になると日進月歩で上がるエンジンやタイヤの性能そして路面(舗装路)に対し、50年代に生み出されたダブルクレードルフレームの延長線上でしかなかったフレーム技術(剛性)が再び追いつかなくなる。

そんな中でスペインのコバスというエンジニアがある結論を導き出します。それは

「ステアリングヘッドからピボットまでを直線で結ぶのが最も剛性値を稼げる」

というもの。

MR1

その考えを元に生まれたのが1982年のMR1。ダブルクレードルフレームの比じゃない剛性と軽さを持ったツインスパーフレームの誕生です。

ヤマハも年を追う毎にデルタボックスフレームに近づいていったんですが惜しくもMR1の1年遅れでした。

MR1とOW70

ただ両車両を並べてみると分かるのですがMR1が一定の太さを保っているのに対しYZR500はステア周りが異常に太く、ピボットに向かうにつれどんどん細くなっています。だからデルタなんですが。

ちなみに奇しくもツインスパーが誕生する1年前の1981年に誕生したのがトラスフレームです。

トラスフレームの始まり

ドゥカティのパンタレーシング600TT2が始まりと言われています。トラスフレームからくるコンパクトさを武器にこれまたレースで活躍しました。

ここで少し剛性について付け焼き刃な知識で話をさせてもらうと

フレームというのは人間でいう骨格で主要部品を載せる強固な土台なんですが、同時にタイヤやサスが吸収出来ない外乱(応力)を撓って吸収するクッションでもあります。

相反するような要素ですが、骨としてしっかりしていて且つクッション性がないと速く走れない。

MR1

つまり剛性というのは高すぎても低すぎても駄目なんですが、難しいのはフレームに掛かるストレスというのは速度に比例するので

「30km/h~300km/hまで適度に撓るフレーム剛性」

なんてものは不可能ということ。

フレーム剛性の勝った時や負けた時の話をすると

負けると真っ直ぐ走らなくなる。コーナーリングではハンドルのヨレや前輪と後輪のズレを感じる。これはバイクがもう無理だよと言ってる危険信号です。

逆に剛性が勝ち過ぎている場合ハンドリングが過敏に反応するナーバスな特性になり、フレームが簡単には撓らないので曲がり難くなる。

FZRデルタボックスフレーム

「そんなことないよSSは低速域でも凄く曲がるよ」

って思う人もいるかもしれないけどそれはタイヤなどフレーム以外の依存してる部分が大きいです。

分かりやすいのが雨などウェット走行。

スーパースポーツ乗りがウェットを怖がったり苦手意識を持っていたりするのは、濡れた路面でタイヤに頼った走りが出来ず、フレームが高剛性で撓れない事からマシンから何の応答も感じ取れないが原因。

YZF-R6デルタボックスフレーム

なんかデルタボックスフレームというよりフレームの話になってますね・・・すいません。

話をデルタボックスフレームに戻すと

「YZF-R1のフレームが全然デルタじゃない問題」

ですが、初のデルタボックスフレームであるYZR500(OW70)や市販車初であるTZR250のデルタボックスフレームフレームに比べ、近年のデルタボックスフレームが三角形じゃないのは・・・正確には分かりませんでした本当にスイマセン。

ここからは推測になりますが恐らく製法が変わった事が大きいかと思います。

TZR250デルタボックス

始めの頃はアルミ板などで作っていたものの、時代の進化と共に大量生産に向いている鋳造そしてダイキャストへと変わった事で既に高かった剛性が更に向上しました。

つまり現代の製法でアルミフレームを一直線に繋いでしまうとあまりにも剛性が高くなりすぎるから直線(三角形)では無くなったのではないかなと。

4XVデルタボックスフレーム

300km/hが当たり前なMotoGP車両などでも90年代に入ると、ツインスパーフレームが生まれるまで続いた剛性を上げる改良とは違い、剛性の良い落とし所の模索が基本になっている。

まして市販車となるとそれ以上に剛性は要らない。だからこそ直線(三角形)でなくなったのではないかと。

まあフレーム剛性というのは”ねじれ・縦・横”と三次元な上にメインフレームやヤング率(縦弾性係数)などの数値だけで決まるものではなく、今でも模索が続いてる辺りそんな単純ではないんでしょうけどね。

ヤマハがあれだけ連呼するデルタボックスフレームをほとんど掘り下げて説明しないのも結局、難解すぎて素人は理解できないと考えているからだと思います。

YZF-R125デルタボックス

ただし、だからといって

「今となってはデルタボックスフレームなんて名前だけ」

が答えでは無いと考えています。

最初に言いましたがデルタボックスフレームというのはマッチョ過ぎるステア周りとヒョロヒョロなピボット周りのアンバランスさが特徴。

負荷がかかるエリア

これは資料などから推測するに

「下半身はしなやかに撓らせ、ライダーの膝や手に近いステア周りでガッチリ受け止めることで情報を余すことなく伝える」

2016R1デルタボックスフレーム

という狙いが生んだ形ではないかと思います。

つまりヤマハのデルタボックスフレームというのは

ハンドリングのヤマハの証

“ハンドリングのヤマハ”という抽象的な部分が、唯一目に見えるほど具体的に現れている部分ではないでしょうか。

クロスプレーン(不等間隔燃焼)だと何が良いのか

クロスプレーンクランクシャフト

市販直四で初めて不等間隔燃焼のバイクとして登場したYZF-R1によって一気に知名度が上がったクロスプレーンと不等間隔燃焼。

サイトで「クロスプレーン凄い」「不等間隔燃焼は有利」とか言ってましたが、何が良いのか説明をサボっていたので、いい加減ヘンな例えを交えつつザックリ説明しようと思います。

ちなみに大前提としてクランクを知っておかないといけません。

ヤマハPAS

クランクというのはこれ。上下運動を回転運動に変える棒です。

そしてそれが分かったら次はクランク角。

まあ要するにクランク角というのは次のピストンの点火タイミングが何度ズレてるかってことです。

頂点を0°として

吸気(180°)

圧縮(360°)

燃焼(540°)

排気(720°)

というクランク2回転で1サイクル(下上下上の二往復)となっています。

横から見るとこういう構造になってます。

ピストン

クランク角というのはこのクルクル回るピストンが一番上(点火)にあるとき、次のピストンが何度にあるかを表す数字です。

並列二気筒が分かりやすいので見てみましょう。

どんなクランク角になってるのかといえばNinja250やYZF-R25等の180°クランクが一般的ですね。

YZF-R25

180度の角度差が付いているということは左右それぞれのピストンの往復運動が綺麗に反対になるということです。

割ってみるとこういう感じ。

180度

こうすると何が良いのかというと、上下運動によって生まれる大きな振動を相手方が逆の動きをする事で打ち消す事が出来る。

つまり高回転まで回せるエンジンというわけで、実はコレも不等間隔燃焼。

だって0°と180°でどっちも点火しちゃって残りの540°は燃焼しないわけですから。

なんだか点火タイミングのバランスが悪い感じがしますか。

では二気筒を均等に燃焼させようとしたら・・・720÷2だから360°ですね。ところが360°にすると

 【一番|二番】

吸気(180度)|燃焼(540度)
※両方のピストンが下

       ↓

圧縮(360度)|排気(720度)
※両方のピストンが上

       ↓

燃焼(540度)|吸気(180度)
※両方のピストンが下

       ↓

排気(720度)|圧縮(360度)
※両方のピストンが上

こうなってしまいます。見難かったらゴメンナサイ。

これでは左右のピストンが同じ上下運動をしてしまうため、上下運動によって生まれる振動が相殺どころか二倍になってしまい高回転まで回す事が出来ない。

クランクアングル

そのため今では180°がメジャーになり、等間隔燃焼をする360°はクラシックなモデルのみになりました。

W800

二気筒については「二気筒エンジンが七変化した理由-クランク角について」をどうぞ。

では直四ではどうかというと、一般的に全て180°(フラットプレーン)の等間隔燃焼です。

180度クランク

先ほど紹介した180°クランク二気筒を二つ並べた形でピストンの動きも左右対称。

180°クランク二気筒×2なので180°毎という綺麗で整った点火タイミングになります。

180度直四点火タイミング

1-2-4-3-1(若しくは1-3-4-2-1)…..の180°毎の点火で、吹け上がりがモーターの様に澄んでいるはコレが理由。

「コレ理想じゃん・・・」

って思いますよね。

じゃあYZF-R1で初めて採用された直四の不等間隔燃焼はどうなっているのかというと0-270-450-540となっています。

クロスプレーン4

注目して欲しいのは1番が燃焼した後、次が180°を通り越して270°まで点火タイミングがズレていること。

これが不等間隔燃焼のメリット。ちなみにVFRなどの180°クランクV4もこれと同じ。

「何故それがメリットになるのか?」

って話ですが、例えばバイクまたは車でもいいのですがコーナーを気持よく曲がっていたとします。

しかし突然リアタイヤがグリップを少し失いチョットだけお尻が滑り出しました・・・そうしたら恐らく誰もがアクセルを戻してタイヤを落ち着かせようとするはずです。そうすればグリップが回復しますもんね。

リアスライド

構わずアクセル開けてたらこんなことになってしまう。雨の日や雪道などのスリップも同じ。

アクセルを戻して同じようにタイヤを落ち着かせグリップを回復させてから再度アクセルで加速すると思います。

不等間隔燃焼のメリットはこれと同じなんです。

タイヤというのは常にグリップしていると思われるかもしれませんがそんなことはなく、乗り手でも感じ取れないレベルでスリップしています。そこに効いてくるのが上で紹介した270°という少し間の空いた点火タイミング。

トラクションに理あり

要するに乗り手にも分からないレベルのスリップを、乗り手にも分からないレベルの速さで落ち着けているというわけ。

トラクションが優れると言われている所以はここにある・・・と言われていますが

「これは不等間隔燃焼のメリットでありクロスプレーンのメリットではありません」

クロスプレーンのメリットは別にあります。

初めてクロスプレーンを採用したYAMAHAのMotoGPマシンを担当された北川さんも

「クロスプレーンの狙いは不等間隔燃焼じゃない」

と断言しています。

不等間隔燃焼によるトラクション向上はあくまでも副産物とも。

インタビュー記事:RACERS14 YZRーM1|Amazon

じゃあクロスプレーンのメリットは何かというと

トルク発生要素

「慣性トルクを減らすことによるトルクコントロールの向上」

・・・と言われても分からないと思うのでもっと簡単に説明します。

そもそもグルグル回っているエンジンのクランクというのは常に一定の速度で一回転しているわけではなく、一回転する間にも速度が微妙に変わっています。

トルク変動

これを回転変動と言います。要するに回転ムラですね。

なぜ回転にムラが出てしまうのか一言で説明すると

「クランクは回転運動なのにピストンは上下運動だから」

で、そのためにクランクは一回転する間にもピストンの影響で『速い』『遅い』を二回繰り返しています。

クランク速度

要するに早いゾーンと遅いゾーンがあるわけです。

ここで180°クランクを思い出してください。180°クランクというのは横から見るとピストンはこんな感じ。

180四気筒

分かりやすくするために少しズラしていますが、クランクに対してピストンが上に2本、下に2本と180°毎に付いているわけです。

つまりクランクの早い遅いゾーンに当てはめるとこうなる。

回転変動

両方とも同じゾーンに入ってしまうわけです。

四気筒(ピストンが四つ)なのでクランクの回転変動の大きさも四倍にまで膨れ上がる。

「じゃあこの回転ムラがどう作用するのか」

というと実はこれも”トルク”なんです。

ガソリンを燃やしてクランクを回す力、マシンを前に進めようとする力と同じトルクで”慣性トルク”と言います。

クロスプレーン四気筒

それに対してクロスプレーンはどうなっているかと言うと上下左右に一つずつ、ピストンが90°毎に付いている。

クランク比較

クランクだけを横から見るとこんな感じです。

だからクロスというんですが、クロスで回るとクランクから見てこうなる。

クロスプレーン回転変動

遅いゾーンに2本が入ったらもう2本は加速ゾーンに入る。反対もまた然り。

つまり回転変動が相殺されて起きないわけであり、慣性トルクが発生しないというわけです。

「慣性でもトルクはトルクなんだからあったほうが良いのでは」

とも思うわけですが、この慣性トルクというのはガソリンを燃やして生み出す燃焼トルクとは違い、アクセルを開けようが閉めようがエンジン(クランク)が回っている限り発生するコントロールできないトルクなんです。

シングルプレーントルク

だからこのように入力以上のトルクが出たり、入力したよりトルクが出なかったりする波がどうしても生まれてしまう。

それに対してクロスプレーンの場合はこう。

クロスプレーントルク

常に一定で入力したら入力した分だけ、開けたら開けた分だけ正確にトルクが出て大きく振れる事がない。

そして入力に対するトルクの出方に波が小さいということは限界が分かりやすく、また限界までアクセルを詰める事が出来るというわけ。

限界ライン

バレンティーノ・ロッシ選手が2004年にクロスプレーン型YZR-M1に乗った際に

「Sweet」

と言った言葉の意味は、この回転変動から来るトルク差(トルクの波)の小ささを表現したわけです。

スウィートロッシ

ちなみにロッシに限らずレーサーに言わせるとクロスプレーンは”とても乗り易い”そうです。

まとめると直四のクロスプレーンというのは

「MotoGPから生まれた正確無比なトルクを生み出すエンジン」

といった所かと。

【クロスプレーン(不等間隔燃焼)のデメリット】

このままではただのYZF-R1/MT-10の販促記事で終わってしまうのでデメリットも紹介したいと思います。

まず間違いなくデメリットだと言えるのは振動。

クロスプレーンの振動

フラットプレーンのピストンが左右対称に動くのに対し、クロスプレーンは左右非対称に動くのでエンジンを揺すり動かす偶力振動(左右に揺れる振動)が発生します。

CP4バランサー

そのため振動を消すためのバランサーが必須で、スペースの問題と出力が犠牲になりパワーを稼ぎにくい点があります。

次に点火タイミングが

【0-270-450-540-720】

と2番のあとすぐ4番と大きく偏っている事から、吸気干渉(吸気の取り合い)と排気脈動(掃気・吹き返し)という問題があります。

09R1クロスプレーン

これもパワーを稼ぎにくい要因の一つなんですが、ユーザーとして分かりやすく現れるのは低域において掃気がダブついて熱が籠もりやすい事と、燃料を多く吹いて冷まそうとする事による燃費の悪化かと。

そして最後はタイヤが暖まりにくいという事。

「トラクションが優れる不等間隔燃焼なのに何故」

と思うところですが、回転変動によるトルクの波は行き過ぎるとスリップの原因になるものの、そうでない場合はタイヤを温める良い摩擦なんです。

タイヤの摩耗

つまりクロスプレーンはこの摩擦が無いからタイヤを温めるのが苦手というわけ。

まあこれはタイヤへの負担が減ってライフが伸びるわけでもあるので捉え方によってはメリットですけどね。

冬のバイクが寒い理由

宗谷岬

冬にバイクに乗るととても寒いですよね。おそらくバイクほど気軽に極寒を味わえる乗り物はなかなか無いかと。

何故寒くなるのかと言えば風を受けるからです・・・当たり前か。

これはいわゆる「体感温度」ってやつなのですが、要するに気温をベースに湿度や風速を考慮した人間が感じる温度ですね。

そして体感温度というのは数字で表す事が出来る。

「風速が1m増す毎に-1度」

となります。

例えば気温5℃の日があったとします。

このくらいになると歩行者ですら寒さに打ちひしがれる温度ですが、歩く速さというのはせいぜい5km/h前後なので風の影響もほとんどなく5℃のままです。

六本木

ではバイク乗りの場合はどうでしょう?

5km/hで走るバイクなんていないですよね。大体50km/hくらいでしょうか。

体感温度を求める為には時速を風速に置き換える必要があります。風速は秒速表示なので50km/hを秒速に換算しないといけないわけですが、どうすればいいかといえば時速を3.6で割るだけ。

50km/hで走ってるなら

50/3.6=13.8888888889

分かりやすく50km/h=14m/sとします。

ということは

5(気温) - 14(風速) = マイナス9(体感温度)

気温が5℃の時、バイク乗りは-9℃というとてつもない寒さなわけです。

アラスカ

もし100km/hで走ったら倍の風速28m/sなので体感温度は-23℃。これはもうアラスカレベル。

つまり日本のバイク乗りにとって冬というのはオーロラの出ないアラスカに居るようなものです。

まあしかしこれは逆に夏に涼しい理由でもあるわけですし、だから皆さん着込んだりカバー付けたりして少しでも防いでいるわけですが。

もし寒い冬に震えながらバイクに乗ってて今の気温が目に付いたら

気温-時速÷3.6=体感温度

という計算をして体感温度を割り出せば少しは寒さが紛れ・・・ないか。

一味違うスズキのキャッチコピー&ネーミングセンスの歴史

WAY OF LIFE

普通バイクの車名といえば【アルファベット+排気量】または【英単語】などが基本ですが、スズキは記号でも英単語でもなくちょっと変わった名前を付けることが多いです。

それらを年号にそって少しご紹介したいと思います。

「ただアルファベットや数字を付けるだけじゃツマラナイ」
パワーフリー号 -Since1952-

パワーフリー号

当時まだせいぜい2~3文字程度か、社名を加えるのが主流だった時代に

「ただの原付じゃない。パワーが凄いんだ!」

という事を訴える為に第一号ながら社名そっちのけでこの名前に。全てはここから始まりました。

「どこでも好評!」
コレダシリーズ -Since1965-

コレダシリーズ

車名の由来は読んで字のごとく

「コレだ!!」

という意気込みから。

「どこでも好評!」ってどういう意味だろう。

「地球に乗るならバンバン」
VanVanシリーズ -Since1972-

バンバン

車名の由来はこれまた読んで字のごとく

「バンバン走って欲しいから」→「ヴァンヴァン」→「VANVAN」

マシン解説もまた非常に面白いので是非ご一読を。

「Space Invader(宇宙からの侵略者)」
KATANAシリーズ -Since1980-

KATANA

カタナを知る人でもこのキャッチコピーを覚えている人は少ないでしょう。
検索しても大流行したゲームのスペースインベーダー(Space Invaders)しかヒットしません。何でこんなキャッチにしたのか・・・

更にロゴが「KATANA(刀)」なのに「刃」とか書いてたもんだから「刃(カタナ)」と間違って覚えてしまった子供が続出しました。

「蘭、咲きました」「薔薇、恋いし…」
蘭・薔薇 -Since1983-

蘭・薔薇

当時スクーターのメインターゲットであった女性に売るにはどうすればいいか考えた結果、花の名前になった。

ストレート過ぎる。

「SUPER CHAMPION」
RGガンマシリーズ -Since1983-

RG250Γ

RGの略はRacer of GRAND PRIX。
そしてγはギリシャ語でRG→RGA→RGBの次に”RGC”でなくギリシア文字の3番目でありギリシア語で「栄光」を意味する「ゲライロ」の頭文字のΓから。

凝り過ぎてて説明されても分かりません。

「通勤快速」
Addressシリーズ -Since1987-

アドレスV125

Addressとはadd(加える)dress(ドレス)「メットインスペースに衣類を積めますよ」という意味とAddress(住所)を掛けて。(デビュー当時メットインは珍しかった)

スズキにしては珍しく上手い造語で、その甲斐あってか看板車種になるまでに成長した。

「通勤快速」というキャッチコピーも近年になり「通勤特急」へと昇格。

「通称:ドジェベル」
DJEBELシリーズ  -Since1992-

ドジャベル

山脈や丘といった意味を持つ造語。語源はアラビア語のJABAL:ジャバルから。

※正しい(スズキ公式の)読み方は「ジェベル」です

「The Ultimate Predator(究極の捕食者)」
GSX1300R HAYABUSA  -Since1999-

隼

デビュー当時は

「エッ?漢字?ダサっ!!」とか「何この気持ち悪いバイク!」とかいう声が圧倒的でした。

今では信じられない話です。

「走れ、国産。¥59,800。」
choinori  -Since2003-

チョイノリ

コストパフォマンスに優れるスズキがコスパを突き詰めて出来上がった最安の国産原付き。
車名もコンセプトである「ちょい乗り」そのまま。キャッチのフォントが何とも哀愁漂う。

「A CONCEPT BECOMES REALITY」
B-KING  -Since2007-

ビーキング

「(反響の大きかった)コンセプトモデルのままだ!ドヤ!!」

結果は皆さんご存知の通りです。

見えないバルブの見えない配慮

エンジンバルブ

エンジンバルブという部品というか部分があります。

簡単にいうと燃焼室の出入り口、扉みたいなもの。

エンジンバルブ

エンジンの性能を決めると言っても過言ではないほど重要な部品で、エンジンの回転数に限度があるのもバルブが回転についていけなくなるから。

ちなみに今回の話は多くのバイクに採用されているポペット式というバネの力で戻るやつです。

バルブスプリング

ドゥカティのデスモドロミック等は少し話が変わってくるのでご了承下さい。

「バイク豆知識:高性能車はバルブが違う」でも書いたので基本的な事は飛ばしますが、バルブはカムの速度について行けなくなるとバルブサージングを起こします。

バルブサージングのイメージ

バルブサージングというのは要するにバルブに付いているスプリングが、振動(共振)を起こしてしまい正しく機能しなくなる事。

バルブサージング

ここまでは説明したと思いますが、せっかくなのでもうちょっと紹介します。

一つはバルブジャンプというやつ。

バルブジャンプ

これはカムに押されて沿うように開くはずが、カムが早すぎるために勢い余ってカム山から離れてしまう現象のこと。

バルブジャンプのイラスト

もう一つはそのジャンプによって誘発されるバルブバウンスという現象。

バルブバウンス

これはジャンプによって長く開いたままの状態から勢い良く閉じてしまった為に、反動でもう一回ピョンっと少し開いてしまう現象。

バルブジャンプとバウンス

これらの異常を起こす事は非常に問題です。

というのも、必要以上に空いてしまう、または閉じないといけないのに空いてしまうという想定外の動きをすると、ピストンとぶつかって折れるから。バルブクラッシュと言います。

エンジンブロー

これを起こしてバルブが折れてしまうと、破片などが燃焼室に混入しエンジンが駄目になる。

この現象はバルブの質量(重さ)が大きいほど、またバルブスプリングの硬さが柔らかいほど起こるわけですが、エンジンバルブというのは基本的に2バルブでも4バルブでも吸気が大きいのが常識。コレは排気より吸気が大事だからです。

バルブサイズ

つまり吸気バルブの方が重い・・・にも関わらずメーカーは基本的に吸気バルブと排気バルブのバルブスプリングは全く同じか、ほぼ同等の硬さの物を使うようにしています。

ということは、説明してきたバルブの異常現象は必ず吸気バルブの方から起こるようになっている。

エンジンバルブ

これこそがメーカーが施している配慮。わざとそうしているんです。

※吸気バルブが小さい5バルブや3バルブや軽いチタンバルブでも同じように調整されています

どうして吸気バルブから起こすようにしているかというと、吸気バルブと排気バルブそれぞれが開く時のピストンの動きを見れば分かります。

4ストローク

排気バルブが開く(動く)時はピストンが上がってくる時。反対に吸気バルブが開く(動く)時はピストンが下がっていく時。

どちらが異常を起こした時にピストンと衝突しやすいか一目瞭然だと思います。圧倒的に排気バルブですよね。

吸気バルブが異常を起こしてもピストンとぶつかる可能性はかなり低い。

SRXエンジン

そしてバルブが異常を起こすと明らかに失速するのでライダーは本能的にアクセルを戻す。

それはつまり速すぎて悲鳴を上げたバルブを落ち着かせる事と同義なのでバルブクラッシュを起こさずに事なきを得る、または吸気バルブの交換だけで済む可能性が高くなるというわけ。

GSXエンジン

そもそもバルブ異常が起こらない様にメーカーは余裕を持たせたレッドゾーンを設けているので、よほどのことが無い限り先ず起こりません。

ただ万が一、それが起こっても被害を最小限に抑えるための備えとしてメーカーはこういう見えない配慮をしているというわけです。