日本のレギュラーはイレギュラー ~オクタン価の話~

日本のガソリン

『オクタン価(RON)』

言葉くらいは知ってる人が多いと思います。

・自己着火し難い”イソオクタン”

・自己着火しやすい”ノルマルヘプタン”

オクタン価というのはこの混合比(容積比)の事で、オクタン価が高いガソリンほど自己着火し難いガソリンとなる。

ガソリンの色

そしてハイオクはオクタン価100。

つまりほぼイソオクタン(99.5%以上)で、レギュラーのオクタン価90はヘルマルヘプタンが少し入っているという事。

厳密に言うと、現在では燃焼試験によって算出するためオクタン価というのは一種の目安でしかないそうですが。

そして一部の高性能車がハイオク仕様となるのは、エンジンの性能(圧縮比)を上げていく際に問題となるノッキング(自己着火)を回避するため。

ノッキングというのは燃焼行程で燃料がプラグからの火を待たずに勝手に燃え始める事。

ノッキング

エンジン開発はノッキングとの闘いとも言われるほど、ノッキングというのは非常に厄介な現象。

ノッキングを起こすとパワーダウンとなり、高負荷時に起こるとエンジンブローします。

つまりハイオク仕様というのは、自己着火し難いハイオク燃料を前提にする事でノッキングのボーダーラインを引き上げるため。

それ即ち性能(圧縮比)が上がるわけですからね。

まあそんな事よりもこのページで大事なのは

「ハイオク仕様≠オクタン価100仕様」

という事です。

これは日本と海外で流通しているガソリンはオクタン価が違う事が関係しています。耳にしたことがある人も多いかと。

【欧州のオクタン価:92/95/98】

EU

欧州ではオクタン価95のガソリンを販売する事が欧州燃料指令(DIRECTIVE 2009/30/EC)で義務付けられています。

「欧州のレギュラーは日本のハイオク」

と言われる理由はこれで、向こうの人はほぼこのオクタン価95を使っています。

ちなみにオクタン価92のローグレードは国によって有ったり無かったりするマイナーグレード。

【北米のオクタン価:※87/89/91】

USA

北米は地区によっては若干の誤差があるんですが、それより重要なのはオクタン価の計測方法が他の国がリサーチ法を用いるの対し

「リサーチ法(RON)×モーター法(MON)」

による算出のため他の国より低い数値になっている事。

アメリカのガソリン

ただこれをリサーチ法に換算するとおおよそ92/95/98で欧州と変わらない。

この算出法の違いから

「89指定ということはレギュラーでいいのか」

という誤解を招きやすいので注意を。

日欧米を纏めるとこうなります。

LOW MID HIGH
日本 90100
北米 929598
欧州 929598

つまり日本に持ってきた際にハイオク仕様となるのは

「欧米のレギュラー(オクタン価95)に合わせているから」

となるわけですね。

これを知っている人はハイオク仕様でもハイオク(オクタン価100)とレギュラー(オクタン価90)を半分ずつ入れて節約したり・・・あまりオススメしませんが。

あとオクタン価を上げる高濃度のアルコール系添加剤も金属やシール・ゴムを駄目にするので絶対に止めておきましょう。

話を戻すと、要するにハイオク仕様というのは極一部の例外を除き

「オクタン価95以上が条件であってハイオクが条件ではない」

という事です。

ハイオク仕様の逆輸入車にお乗りの人はタンクなどに貼ってあるコーションラベルを見てもらうと分かります。

ガソリンラベル

”RON95(オクタン価95)”もしくは”95Octane”

と書かれている文を発見できるかと。

ココまでが豆知識で、これ以降は備忘録と思って下さい。

上記の内容を見て同じように思った人も多いと思います。

ガソリンノズル

「なぜ日本のレギュラーはオクタン価90と低いのか」

という話。

これは日本のオクタン価はJIS規格K2202で

・プレミアムガソリン(1号:オクタン価96以上)

・レギュラーガソリン(2号:オクタン価89以上)

と定められているから。

だからレギュラーはオクタン価90となっている。

規格の89より1多いのは下回った場合、売れなくなってしまうので安全マージンというわけ。

しかしそうすると新たな疑問が湧いてくる。

「なら何故ハイオクは規格の96を大きく上回る100なのか」

という事。

いくら調べても答えが見つからなかったのでJXTGエネルギー株式会社に問い合わせてみたところ・・・

ENEOS

「石油各社が商品アピール競争した結果」

という想定外な答えが返ってきました。オクタン価を品質と思ってる消費者が多いということでしょうか。

※実際に売られているハイオクはオクタン価98程度という話もあります

まあハイオクは好き者や極一部の人しか使わないのでいいとして、問題は9割以上の人が使うレギュラーです。

最初にも言いましたが、エンジンの性能を向上させる上で問題となるのはノッキング。

マツダの某エンジニアの方も

「オクタン価90と95は全然違う・・・」

と嘆くほど、90というオクタン価はエンジニア泣かせな要素なんです。

燃焼

ちなみにいま存在するオクタン価90(レギュラー)前提のエンジンを、オクタン価95前提の設計にすると燃費や馬力が5%ほど上がると言われています。

だから実はJAMA(日本自動車工業会)も2007年に石油業界に95に上げるように要請した事があります。

JAMA

「欧州を中心に高圧縮&ダウンサイジングの流れが来ている。

しかしそれはオクタン価95の環境があるからで、オクタン価90である日本の環境ではハイオク仕様となり売れない事から、高圧縮技術の開発が進まず置いていかれる。

もしもオクタン価が95になれば燃費も伸びるからエコにも繋がる。」

凄く真っ当な言い分です・・・が、結果はお流れに。

そしてその言い分の通りメーカーが恐れていた欧州発端ダウンサイジングターボブームが巻き起こり

「日本はHV偏重だったから欧州の直噴ダウンサイジングターボで遅れを取った」

などと好き勝手に言われる事態に。

ちなみにレギュラーのオクタン価は最初から90だったわけではありません。

一号  二号  三号
1952  726560
1958 807560
1961 9080廃止
1965 9585 
19869689 

こうやって少しずつ上がってきたんですが、1986年を最後に30年以上もオクタン価は上がっていない。

なおのこと

「燃費も性能も向上するんだから上げろよ」

と思いますよね。

じゃあオクタン価を引き上げに反対する

『石油業界の言い分』

は何なのか。

コンビナート

どうして石油業界がレギュラーのオクタン価引き上げに難色を示しているのか色々と調べたところ

「バランスが崩れてしまうから」

というのが大きな理由のようです。

石油精製のフローチャート

石油から様々なものを造っているのは皆さんご存知と思います。

その中でガソリンとして主に精製されているのは

・重質ナフサを接触改質して精製する改質ガソリン

・原油から得られる直留ガソリン

・LPガスをベースに付加反応で精製するアルキレートガソリン

・重油を接触分解して精製する分解(またはFCC)ガソリン

これらを上手いことミックスして造っているのがガソリンで、一つだけでガソリンになるわけではないんですね。

ガソリン消費量の推移

そして大量に精製する必要があるレギュラーガソリンのオクタン価を95に上げるとなった場合、この基材(ベース)の割合を変える必要がありバランスが崩れてしまう。

「コスト増&設備負担増&他の石油製品への影響大」

という理由から石油業界は首を立てに振らないというわけ。

500km NO FUEL

これは安定供給第一という国からの命題を守るためでもあり、国(経産省)の方も

「オクタン価を95に上げると確かに自動車のCO2は減るが、設備負担とコストが増すので慎重を期する必要がある」

という結論を出しています。

また我々は値段とオクタン価しか見ませんが、ガソリンにもバイクの排ガス規制のように硫黄などの有害成分に規制値が設けられており、石油メーカーは年々強化される規制値をクリアするガソリンの開発という課題も抱えているんです。

ガソリンの規制値

ちなみにその規制のおかげで日本のガソリンは今や世界一クリーンなんだとか。

ただもう欧米だけでなく台湾やシンガポールなどでもオクタン価95がメジャーになっている時代。

gasoline

そんな中で日本だけオクタン価90というのは・・・いつか95、もしくは95グレードが設けられる日は来るんでしょうかね。

そのまま水素に移行する気がしないでもないですが。

【オマケの豆知識】

ガソリンって同じ銘柄でも地域や季節によって微妙に違うのをご存知でしょうか。

冬や北海道などでは始動性をあげる為に寒候用ガソリンに、夏や沖縄などでは加熱によるベーパーロック(気泡発生)を防ぐために夏季用ガソリンに、蒸気圧(37.8℃kPa/44以上78以下)などで変えてある。

だから同じ銘柄でも地域や季節によって五種類ほどあるんだそう。※種類や詳細については企業秘密

最後になりましたが、迅速かつ丁寧に色々とお答えいただいたJXTGエネルギー様、出光興産様ありがとうございました。

給油の際は是非ともエネオスか出光で。

自然吸気も過給している ~慣性吸気と吸気脈動~

自然吸気の過給

排気量が大きいほうがパワーがある事からも分かるようにパワーを出すのに最も大事となるのが吸気の量。

「どれだけ多くの空気(混合気)を吸えるか」

がパワーに直結します。

そのためターボやスーパーチャージャーなど予め圧縮した空気を吸わせる事でパワーを出すいわゆる『過給装置』が生まれました。

スーパーチャージャー

しかし実は過給というのは何もターボやスーパーチャージャーだけの専売特許ではなく自然吸気(Naturally Aspirated 通称NA)でも行われています。

その名も

『慣性過給』

というやつです。

ややこしくなるので以下すべて空気で通していきます。

そもそもエンジンがどうやって空気を吸うかというと、ピストンが下がる事によって生まれる負圧から。

負圧が音速で吸気管を遡りエアクリーナーという大気圧の部屋まで伝播することで空気が引っ張られる様に流れ込んでくる。

吸気の負圧波

しかしだからとってすぐに吸われて満たされるわけじゃない。何故なら空気は伸縮する上に重さがあるから。

一気に最大船速でシリンダーに流れ込むわけではなく引っ張られて伸びながら徐々にスピードを上げつつ流れ込んでくるわけです。

吸気フロー

そのためエンジンが

「180度(吸気終了)だから圧縮に入るよ」

といってキッチリ180度で吸気ポートをピシャリと閉めると間に合わず入り損なってしまう空気が出てくるわけです。

吸気フロー2

この状態では充填率は80%ほどで大気圧以下つまり負圧状態。

最初に言ったようにどれだけ多くの空気を吸えるかが大事なエンジンにとってこれは非常に勿体無いですよね。

じゃあその猛スピードで雪崩込もうとしている空気を最大限取り入れよう思ったらどうすればいいか・・・180度を超えても吸気バルブを開けておけばいい。

吸気フロー3

こうすれば猛スピードで来ている空気も最大限詰め込む事ができる。

「それだけで100%以上の空気を詰め込める過給(大気圧以上)になるとは思えない」

と考えるかも知れませんが、ごもっともな話でそこがこのページのミソ。この慣性力(勢い)で詰め込む事を慣性過給と言われていたりしますが違います。

一番最初に解説した様にピストンの負圧によって負圧波が発生するんですが、その負圧波が大気圧つまりエアクリーナーボックスまで達すると今度は正圧波と呼ばれる圧力波が発生します。

圧力波

この正圧波はいま負圧波が来た道を逆行するように吸気ポートに向かいます。

正負とあるように空気を引っ張ってくるのが負圧波なら反対である正圧波は・・・ピンと来た人も居るでしょう。

吸気フロー4

空気を押し込むんですね。正確に言うと吸気管内の圧力を高める。

こうして吸気管内の圧力が燃焼室よりも高くなることで空気が圧力の低い方(燃焼室)に雪崩れ込む形となり充填率が場合によっては120%を超える。

これが慣性吸気またの名を

『慣性過給』

といいます。

「じゃあなんでターボと馬力がぜんぜん違うの」

という痛い所を突かれると、これには問題があるから。

重ねて言いますがこの圧力波というのは音速です。

圧力波

つまり往復する速度は時速1225km/hと決まっている。

じゃあ吸気バルブの開閉周期はどれくらいか。

「そんなのエンジン回転数次第じゃん」

という話ですよね。

圧力波とバルブタイミング

これが問題。

つまりこの慣性過給を全域で起こす事は出来ない。

正圧波とバルブタイミング(バルブが閉まる寸前)をベストマッチさせて初めて起こせる過給だから『ここぞ』という狙った回転数でのみ有効なんです。

じゃあそのタイミング合わせは何処で取っているのかというとインテーク、最初に話してきた吸気管の長さです。

吸気管の長さと太さ

長ければそれだけ往復に時間が掛かるし、短いとすぐに返ってくる。

本当はバルブも大きく関係しているんだけどますます難しくなるので割愛します。

吸気管の長さ

ちなみにスクーターなど低中域が大事なバイクほど吸気管は長く、SSなど高回転型になるほど短くなっているのが一般的です。

これは前に話した社外マフラーの話と同じで、低中速では流速(流れる速さ)が、高速では流量(流れる量)が大事だから。

吸気管というのは空気にとって加速ゾーンみたいなもの。

だから長くすればゆっくり吸っても(低回転)でもビュンビュン来てくれる。でも思いっきり吸う高回転になると量が足りなさ過ぎてパワーが出ない。

反対に短いと高回転時はグングン吸えるけど、低回転域では弱いので空気が来てくれずパワーが出ない。

マニホールドの長さ

よく別のエンジンを積んだバイクで

「中低速寄りにしました」

とか言っているのはここを絞ったり長くしたりしている事が大半。一昔前にあった逆輸入車デチューンの国内仕様などもそうですね。

もっというとヤマハなどが採用している可変エアファンネルも

「凄く短く(高回転寄りに)したいけど低回転で吸えなくなる」

という問題から生まれた技術。

加速ゾーン

2ピースにして低速時は連結されて長い吸気管にしつつ、高回転になるとパカっと開いて短い吸気管にという話。

スズキやカワサキが採用している変な形をしたファンネル(インテーク)も同じ狙いです。

S-DSI

なんだか話が脱線し始めたのでまとめると・・・

過給器が付いていない自然吸気エンジンでも過給とは無縁ではなく慣性による過給が起こっている。そしてそれを活かすようにメーカーは設計を行っているという事。

是非ともトルクピークまで回して慣性過給を体感してみてください。

以上が自然吸気でも過給が行われているという話でした・・・って

『吸気脈動』

についての話をしていませんでしたね。

・圧力波が反転し正圧波となって吸気ポートに向かっていくことで過給が起こる

・バルブの開閉はエンジン回転数に依存するので常にタイミングを合わせる事は出来ない

という話でしたが

「じゃあタイミングが合ってなかったらどうなるの」

というと正圧波が向かって行った時に吸気ポートが閉まっていると行き場がないので反射して帰ります。

正圧波の反射

帰っていった先に何があるかといえば負から正へ反転するポイントである大気圧のエアクリーナーボックスですよね。

つまりこうなる。

負圧波への反転

再び負圧波に転身し吸気ポートに向かうんです。

そして吸気ポートが閉まっていたらまた跳ね返ってエアクリーナーまで戻り、再び正圧波として吸気ポートに向かう。これは何度も力を弱めつつも脈のように続きます。

そんな繰り返される二次三次の圧力波(またはそれを利用する事)を『吸気脈動』と言います・・・が、この吸気脈動は少し厄介な問題があります。

負圧波との合致

それは負圧波がドンピシャで吸気ポートと合ってしまった時。

こうなるとどうなるか・・・分かりますよね。

せっかく充填されつつあった空気を引っ張り出す様な働きをしてしまうんです。

トルクの谷の正体

従来の吸気の働きとは真逆の事をしてしまう。

こんな事をされると当然ながらパワーが出ない。

世間でよく言われている

『トルクの谷』

と呼ばれる一時的なトルクの落ち込みの主な原因はこの吸気脈動の負圧波が重なってしまう事から。

基本的にレゾネーター等でそうならないように消したりしているんですけどね。

吸気の仕組み

慣性過給かトルクの谷か、そのどちらかを起こす諸刃の剣のようなのが吸気脈動。

ちなみにこの吸気脈動というか圧力波は感じ取ることが出来ますし、なにより大好きな人も多いと思います。

あの”クォーン”と響く吸気音。それの正体(音源)はコイツなんです。

タンデムは武器である ~何故バイク乗りはモテないのか~

タンデム

今回は少し男性的な話。

先入観や偏見と言われるかも知れませんがバイクというコンテンツが男性に人気な事から見ても女性と縁がないバイク乗りは多いかと・・・系譜なんて訪問者の9割が男性です。

そのため

「バイクに乗ってもモテない」

とお思いの人も非常に多いかと思いますが・・・必ずしもそうとは限らない。

ヤマハが20~30代の女性を対象としたアンケート結果(ヤマハ発動機株式会社「TRICITY LMW部調べ」)によると意外な事が分かりました。

【調査概要】
調査名:女性のバイクに対する意識調査
調査実施期間:2015/6/25~2015/6/26
調査手法:インターネットパネルを利用したWEB定量調査
サンプル年齢:20~39歳
サンプル性別:女性のみ
サンプル数:618名

「バイクに乗ってみたい、または運転してみたいですか?」

というアンケートを取ったところ、こういう結果が出たんです。

バイクに乗ってみたい女性

なんと実に約半数以上の女性が

「バイクに乗ってみたい」

と考えているという驚きの結果に。

しかし一方で

「二輪免許を取得していますか」

という質問に対してはこういう結果。

現在二輪免許を取得していますか

僅か12%しか居なかった。

そして

「取得を考えたことがあるか」

という質問に対しては約40%ほど。

女性の二輪免許取得

この調査結果を受けてヤマハは

「女性の方に潜在需要がある」

という結論を出していました・・・が、既にバイクに乗っている男性にとって重要なのはここから。

合わせてこういう質問もされていました。

「バイクに憧れた事がありますか」

+

46.8%と非常に多くの女性がバイクに憧れを抱いた事があると回答。

しかも一番多かった理由は

「格好良いから」

というもの。

そしてもう一つ。

「タンデムするならどんな人としたいですか?」

という質問に対し

「異性・恋人」

と答えた女性が89.5%と圧倒的だった。

タンデムデート

つまり世の女性の約半数は

「免許を取ってまで乗ろうとは思わないけどバイクを格好良いと思っておりタンデムデートに憧れを持っている」

ということになる。

タンデムツーリング

ちなみに

「バイクで何処へ行きたいか?」

という問いに対しても

1位 海岸沿い
2位 定番のツーリングスポット
3位 自然あふれる所

とバイク乗りなら比較的誰もが知ってるであろうベタなもの。

女性はバイクなんて興味ないとか我々は思っていますが、実際は興味ある人が多いんですね・・・バイク乗りとしてこれを使わない手は無い。

ツーリングスポット

気になる人がいたら気軽にタンデムに誘ってみてはいかがでしょうか。

もしかしたらその人はバイクに乗るアナタを格好良いと思っており、タンデムに誘われるというのは白馬に乗った王子様(ソッチじゃないですよ)に誘われる様な事なのかもしれない・・・。

タンデムツーリング

と言ったところで恐らく大多数の野郎バイカーは

「絶対に嘘だ、バイクに乗ってもモテない」

って思うでしょう。

確かにバイクが縁で彼女が出来ましたなんて話はほとんど聞かないし

「バイク乗るなんて格好良いですね」

なんて言われた事がある人は例えお世辞であろうと1割も居ないかと。

このアンケート調査と体感のギャップは何なのか。

女「バイクのタンデムデートに憧れる」

男「バイクに乗ってもモテない」

何故こうなってしまっているのか。これがずっと気になっていたんですが、バイクに全く興味のない平成生まれの女性達に話を聞く機会があって思わずナルホドと唸った意見があったのでそれを元に書いていきます。

タンデムカップル

バイクについて聞いてみるとヤマハの調査結果通り

「バイクに乗る男性は格好良いと思う」

「タンデムしてみたい」

という答えが確かにあった・・・あったんですが、詳しく聞いてみると同時にこの格好良いを

「多くのバイク乗りが勘違いしている」 

という事も分かったんです。

オフロードレーサー

バイクに乗らない女性が思う格好良いバイク乗りというのはこういうバイク乗り・・・ではない。

クルーザーライダー

こういうバイク乗りでも

SSライダー

もちろんこういうバイク乗りでもない。

バイクに乗らない女性が格好良いと思うのはこういうバイク乗り。

街乗りライダー

要するにバイクをツールとして普段遣いしている人。

極論すると

『通勤や街乗りに使ってるバイク乗り』

だったんです。

レインスーツ

「レインスーツを着て走ってる人が格好良い」

という意見すらありました。

これに対してバイク乗りは基本的に愛車(バイク)を世界一好きで世界一格好良いと思ってるから

「格好良い愛車で格好良くキメることが最高に格好良いんだ」

というヒーローの様な図式を思い浮かべてしまう。

ロゴウェア

ギャップの原因はここにあると思われます。

バイクに乗らない女性にとってバイクというのはツールのような物だから

『平然と当たり前のようにバイクに乗る姿』

これこそが格好良いバイク乗りと考えている。ビューティフルライフのTW200や最近ではアンナチュラルのW400などドラマに起用され一般人にもウケが良かった使われ方が正にそれですよね。

しかし野郎バイカーは漫画やアニメやアクション映画の様にバイクを前面に押し出して凄みを出す姿こそが格好良いバイク乗りだと思ってる。

バイク乗りを前面に押し出す

だからバイクを村正やエクスカリバーのような『最強の武器』と思ってブンブンと見せつけるように振り回し勝利ポーズを決めようとする。

でもバイクを知らない女性にとってバイクはそういう物ではないのでヤバい人としか思われない。結果として期待に対する効果が得られずモテないと考えてしまうという話。

タンデムデート

もちろんそうやって酔いしれる事が出来るのがバイクの魅力の一つであるのは間違いないのですが、気になる女性の前だけでは最強の剣ではなく腰から下げるマルチツール程度に思い、必殺技のように繰り出すのではなく何気なく使ってる姿を見せ”糸口”にするのが賢い選択かと。

エンジンが溶けない理由とノッキングで溶ける理由

燃焼温度

エンジンは触れない事からも分かる通りものすごく熱くなります。

燃焼温度は2000℃を超え鉄すらも溶かしてしまう程の高温です。

燃焼温度

それに対して圧縮する役目を持っており一番その熱を受けるであろうピストンは基本的にアルミで出来ており融点は鉄よりも低い660℃となっています。

つまり普通に考えると2000℃を超える燃焼に晒されたらピストンはデロデロに溶けるハズ・・・なのに溶けない。

これが何故かというと熱伝導で逃しているのも勿論あるんですが、断熱境界層という2mmほどの空気のベールに包まれるからなんです。

断熱層

ザックリいうと燃焼の火炎とピストンを始めとしたエンジンの間に空気の膜が形成される事でエンジンが直接晒されずに済み溶けないんです。

熱いお風呂でも浸かると慣れてしまうのと同じです。

これを踏まえて次。

「ノッキングでエンジンが壊れる」

と言われる理由もこれに関係しています。

境界層

早い話が設計上の点火と別の場所で異常燃焼が起こってしまうと、それによる圧力波で断熱境界層を破ってしまう。

この膜が破られる事でピストンを始めとしたエンジンの各部が燃焼の火炎に直接晒されてしまい溶けてしまうんです。

断熱層が破れる

絵が下手で申し訳ないですが、これもお風呂で例える事ができます。

さっき熱い風呂でも浸かれば慣れると言いましたが、そんな状況でも体を動かしたり風呂を掻き回されると途端に熱く感じますよね。

まさにそれもこの断熱境界層が破られるから。氷の中で缶を回すと冷えるのもそうです。

つまりノッキングはエンジンにとって厄介な湯掻きみたいなもの。

このノッキングによって温度境界層が破壊され溶けたり、掻き回した事で発生した圧力波が縦横無尽に反射してシリンダーを傷ついたりする・・・んですが、更に不味いのが『プレイグニッション』を誘発する事。

断熱層が破れる

どこかでも言いましたがノッキングによる断熱層破壊により熱せられた部分が点火装置となってしまう。

アチラコチラで点火はまだ先なのに勝手に点火と膨張を始めてしまい更にひどい状況になる。

『ノッキング』

『熱せられてプレイグニッション』

『プレイグニッションで更に熱せられる』

『暴走型プレイグニッション』

ピストン溶解、コンロッド変形、焼付き

などなど・・・となる。

だから

「ノッキングがエンジンを壊す」

と言われているんですね。

以上がエンジンが溶けない理由、そしてノッキングでエンジンが溶ける(壊れる)理由でした。

ちなみに良い様に思える断熱境界層ですが『断熱』なので、場合によっては厄介なものだったりもします。

オイルジェット

油冷や空冷がエンジンヘッドやピストンといった熱に厳しい部分にオイルを流すだけではなくジェットで勢いよく吹き付けるのは、単純に冷却するためだけではなく断熱境界層を破る(破って熱を奪いやすくする)狙いもあるんです。

つまり湯掻きならぬ油掻きというわけです。

『Ninja』と名乗るようになった理由

カワサキ ニンジャ

カワサキのフルカウル系のバイクはほぼNinjaです。

Ninjaっていうのは当たり前ですが忍者のNinja。

忍者

キッカケとなったのはもちろん一番最初にNinjaと名付けられたGPZ900R。

どうしてNinjaなんて名を付けたのかというと、北米カワサキがGPZ900Rを見て

「Ninja(忍者)にしよう」

と言い出したから。

初代ニンジャ

「いやいやGPZ900Rは全然忍んでないから・・・」

と、日本のカワサキは大反対しました。当たり前ですね。

しかし向こうの人にとって忍者というのは我々が思う忍者ではなく、空を飛ぶことも、水の上を走ることも、分身する事も出来るジャパニーズスーパーマンみたいな存在。

日本のカワサキも最後まで反対していたんですが北米カワサキが全く折れなかったため

「じゃあ北米だけ特別にNinjaに」

という事に・・・これがNinjaの始まりです。

日欧GPZ

こっちは既定路線だった欧州仕様のGPZ900R/1型(1984年製)。Ninjaとは入っていないのが分かるかと思います。

対して北米仕様のGPZ900Rはというと・・・

北米GPZ

GPZ900Rと入るはずのサイドカバー部にNinjaと入っている。

カタログでも”GPZ900R”ではなく”NINJA”または”NINJA900”という名前に。

NINJA900

そのためカワサキもGPZ900Rを紹介する際は

『Ninja GPZ900R』

ではなく

『Ninja/GPZ900R』

と分けて紹介しています。

ニンジャ25周年

もっと細かく言うと最初は水冷でもGPz900Rと小文字でした。

ところでNinjaのロゴってよく見ると荒い画像みたいにギザギザですよね。

ニンジャのロゴ

これ何故こうなったのかというと

「Ninjaじゃなきゃ嫌だ」

とゴネた北米に折れてNinjaロゴを製作し送った際、まだFAXの時代だったのでジャギーが出た荒い状態で向こうに届いた。

そしたら向こうの人が

「コッチのほうが最高にCOOLだ」

と痛く気に入り、このジャギーだらけの形になったんです。

2016年のNinjaロゴ

そしてGPZが大成功し、Ninjaブランドが確立した事から日本や欧州もこのジャギーの出た『Ninja』というペットネームを使うようになり、それが今も続いているというわけです。

文献:モトレジェンド vol.3 (SAN-EI MOOK)

【オマケ】

実は最近になって少し違うNinjaロゴが出来たのをお気づきでしょうか・・・それがコレ。

ZX-10R SEのNinjaロゴ

ジャギー感が全く無く、ツルツル滑らかな形をしてる。

H2のNinjaロゴ

この滑らかな立体ロゴを採用しているのは今のところNinjaの中でもH2シリーズとZX-14R、そしてZX-10R SEだけ。

さしずめプレミアムNinjaバッチと言ったところでしょうか。

カワサキが最初に作ったバイクはスクーター ~バイク事業の歴史~

カワサキの歴史

別の豆知識で各メーカーが最初に作ったバイクを紹介しており、カワサキは1961年のB7という話をしたのですがこれが間違いでした。

カワサキが本当に初めて作ったバイクは川崎航空機工業が1953年末に出したこれ。

川崎号

『川崎号』

何処からどう見てもスクーターという衝撃の事実なんですが、これだけで終わってしまうのも面白くないのでカワサキがバイク事業を始めるまでの歴史を駆け足ながら紹介。

カワサキは貿易商や海運業を執り行っていた”川崎正蔵”という人が海難事故に強い船を造ろうと1878年に

『川崎築地造船所』

を設立したのが全ての始まり。

川崎正蔵

しかし不幸なことに息子全員を早くに亡くしてしまい継がせる家族が居なかった。

そのため同郷であり恩人でもあった松方正義(第4代・第6代総理大臣)の三男である松方幸次郎に会社を託すことになります。

そうして跡を継いだ松方幸次郎は1896年に会社を株式会社へと変え

『株式会社 川崎造船所』

にします。これが川崎重工の前身です。

松方幸次郎

川崎という名を残した事に義を感じますが、株式化と同時に戦争特需に湧いていた造船だけに留めず

・鉄道車両

・タービン

・自動車

・飛行機

などなど事業の多角化も開始。これは松方が川崎を陸海空全てを担う会社にしたいという思いがあったから。

総理の三男という事からただのボンボンかと思いきや事業を順調に成長させ鉄道車両を『川崎車輛』として、川崎造船所飛行機を『川崎航空機工業』として独り立ちさせるまでに成長させ、残された川崎造船所も1939年に我々が知っている

『川崎重工業』

に改められました。

大まかに分けてこういう形です。

1939年のカワサキ

夢だった陸海空すべてに携わる重工を本当にやってのけたわけですね。

その中で川崎航空機工業が担っていたのは主に飛燕や屠龍などの戦闘機だったのですが、そのために敗戦と同時にGHQから工場を差し押さえれ操業停止。

民需産業への転換を条件に再開の許しが出たので歯車部門を皮切りに自動車やバスなど部品、そしてエンジン開発など航空で学んだノウハウを元に事業を展開するように・・・ちなみにホンダの下請けもやっていたとの事。

※補足:この時に社名を『川崎産業』へ一時的に変更しますが再び川崎航空機工業へと改名

そんな中で川崎航空機工業のバイク用に造っていたのは

KBエンジン:2st/50~60cc
KEエンジン:4st/150cc
KHエンジン:4st/250cc

で主に大日本機械工業という所へエンジン供給していました。

大日本機械工業

川崎航空機工業の名前が見当たらないのは大日本機械工業が川崎エンジンなのに自社開発と謳っていたから。

なんてやつだと思うわけですが、そんな大日本機械工業も100社以上が犇めき合っていた時代の競争に破れ1953年にバイク事業から撤退します。

大口を無くしてしまった川崎航空機工業だったのですが、大日本機械工業でバイク事業をやっていた人が新たに

『川崎明発工業(通称メイハツ)』

という大日本機械工業に変わるバイク(組み立て)メーカーを設立し川崎航空機工業はそこに供給するようになります。

1954年のカワサキとメイハツ

川崎と名が付くものの(カワサキエンジンを自社ボディに取り付ける)製造は東京で、川崎航空機工業が出資したと言われていますが完全子会社ではなかった模様。

こうして川崎航空機工業はメイハツにエンジンを供給し

メイハツ125

『メイハツボディ×川崎航空機エンジン』

のバイクとして東京を中心に販売し好評を得るようになるわけですが、市場の拡大と好評からだんだん川崎明発工業のキャパをオーバーするようになってきた。

そこで川崎航空機工業は1959年に単車部を社内に設け、自社による一貫生産及び販売を計画。1960年に目黒製作所と提携し1961年に始動する事となります。

1961年カワサキ誕生

その時に誕生したのが『カワサキ自動車販売』という今で言う所のモーターサイクル&エンジンカンパニー。

自動車という名前になっているのは軽自動車も売るつもりだったから。

KZ360

結局マツダなどに先を越されたため計画は廃止となりました。残念。

それはさておきカワサキ自動車販売として始動し、初めて販売したのが自社(明石)工場で全て造ったメイハツ設計のB7。

B7とカワサキPET

ちなみに横に映っているのは1961年に発売されたカワサキPETと呼ばれるモペットで現在のカワサキが最初に一から開発したモデルはこれ。

「カワサキって川崎重工じゃなかったのか」

と思われるかも知れませんが、このあとすぐそうなります。

1969年に国際競争力を付けるために川崎重工、川崎車輌、そして川崎航空機は合併するんです。

1961年カワサキ誕生

こうして今のカワサキに至るという話。

もともと川崎航空機工業の大株主も川崎重工だったんですけどね。

最後にもう一度本題に戻しますが

川崎号のプロトタイプ

「B7が最初ではなく川崎号が最初だった」

という話なんですが、いま説明してきた経緯を見れば何故これが出たのかも分かりますよね。

川崎号が出た1953年に何があったか。

『大日本機械工業の撤退』

ですね。

当時バイクメーカーは100社以上もあり戦国時代で大日本機械工業もすでに思わしくなかった。

巨大な工場を維持するために規模の経済を活かし高額な物を大量に造って売るしかない川崎航空機工業にとってもこれは軽視できる問題ではなかった。

1966年頃の明石工場

そんな中で当時はスクーターという乗り物がバイクモーター(自転車にエンジンを取り付けるタイプ)よりも高性能な高級バイクとして富裕層に人気があり、三菱重工のシルバーピジョンが飛ぶように売れていた。

戦闘機のノウハウを元にエンジンはもちろんバスやトラックなどでモノコック技術にも秀でいた川崎航空機工業が造らない手は無いですよね。そうして誕生したのがこの川崎号というわけ。

カワサキのスクーター

正真正銘の明石製で性能も

・2st/58.9cc

・2ps

・足踏切替式2速ミッション

・テレスコフォーク

・最高時速45km

と当時としては優れたものを持っていました。

川崎号のエンジン

・・・が、売れなかった。

見落としていた言い訳でもあるんですが、この川崎号は国内総生産台数が16万台ほど時代に

「たった200台ほど」

しか生産されず終わってしまったんです。

理由は軍事産業により培ってきたネームバリューはあったものの、コンシューマ(一般消費者)の販路を持っていなかったから。

1954年の生産台数

何処で買えるのかも、何処で修理してもらえるのかも、そもそも川崎航空機工業がそんな物を造っている事すら一般消費者には知るすべが無かったから兵庫近辺でしか売れなかった。

これがカワサキのバイクメーカーとしての第一歩。

最初から自社で売るのではなくメイハツと二人三脚の道を選び、またバイクメーカーとして本格始動する前年に全国に販売網を持つメグロと提携したのも川崎号の教訓があったからなんでしょうね。

※カワサキのバイク事業が出来るまでのザックリな時系列

【1953年】
バイク用エンジンを開発/販売
大口だった大日本機械工業がバイク事業から撤退
『川崎号』を開発/販売するも販売網が無く不振に終わる

【1954年】
大日本機械工業の後釜として明発工業を設立(出資/提携)

【1959年】
川崎航空機工業内に単車部が出来る

【1960年】
目黒製作所と提携し販売網を確保

【1961年】
明発工業経由をやめ自社による一貫開発/販売を始める
カワサキPET及びB7を発売

【1963年】
カワサキ初の完全新設計オートバイB8を発売
レースで活躍したことでカワサキの認知度が向上

【1964年】
目黒製作所の業績不振によりカワサキが吸収

【1969年】
川崎重工、川崎車輌、川崎航空機工業が合併し川崎重工に

【1972年】
川崎重工が900Super4(Z1)を発売

参考資料
カタログで振り返る日本のスクーター
国産オートバイの光芒
世界モーターサイクル図鑑KAWASAKI-I

我々が知らないカワサキの別の顔

カワサキZX14R

カワサキといえばなんといってもバイク。他にやってる事業と言えば新幹線、航空機関係や船舶関係といったボヤッとしたイメージでしょう。

そこで普通に生活してたら知る由もないカワサキの意外な一面を紹介。

例えばトヨタ初のカーボンモノコックボティで作られたスーパーカーのLFA。

LFA

エンジン開発にヤマハが携わった事は有名だと思います。世界の工場というドキュメンタリーのLFAで知ったんですが、設計はヤマハ、部品の生産などはトヨタ(空いていたF1の設備を使用)、そして組み立てはまたヤマハと結構行ったり来たりしてる。

音叉システム

しかも面白いことにヤマハ内でエンジンを組む人たちの作業着を見ると「YAMAHA」とは書かれておらず「ONSA」と書かれてる。音叉がエリートの証なのかな・・ってこのページの主役はカワサキだった。

何で急にLFAを挙げたかというと、LFA生産にはカワサキも一枚噛んでいるから。もう生産終了してるから噛んでいたが正解か。

それがどの部分かというとボディ溶接。LFAのボディ溶接の一部にはカワサキの自動車産業用ロボットが使われています。

更に言うなればカワサキは専用工場and専用ロボットのレクサスLFAに限らず、トヨタ系工場のボディ溶接の大部分担っています。トヨタ工場におけるスポット溶接ロボットのシェアはカワサキがトップ。

トヨタ工場

写真左はアメリカ工場でカムリを作ってるライン、そして右は日本でプリウスを作ってるライン。見え辛いですがどちらもカワサキの証であるフライングKがバッチリ入ってる。

つまりトヨタ車はカワサキ車と言えなくも・・・言えないか。でもトヨタ工場で大活躍してるのは事実です。

ただ本題はここから。カワサキのロボット事業というのは何も溶接ロボットや塗装ロボットといった自動車関係だけではありません。

カワサキ産業ロボット

産業用ということで業界人しか知らず我々が知る由もないので知らないで当たり前ですが、カワサキは国内で一番最初に産業用ロボットの市販化に成功した企業。

現在では多方面に渡り自動化分野における特許は100を超え、10万台以上のロボットを国内のみならず世界に納入という実績があります。

そしてそんなカワサキが強みとしているロボットはなんと半導体産業用ロボット。

半導体カワサキ

正確かつクリーンさが求められる産業ロボットでカワサキは更なる自動化を進め好評を得ています。あのカワサキが半導体用ロボットですよ。

MC004N

なんだかロゴの場違い感が凄いですね。

更には医療部門でもロボット事業を展開。

IPSロボット

これは話題のiPS細胞を自動培養してくれるロボット。しかもただ作っただけじゃありません。

独立法人の成育医療と産総研により”熟練者でなければ培養が難しいiPS細胞の自動培養”に世界で初めて成功。そしてその際に使われた自動ロボットはこのカワサキ製ロボットでした。

カワサキのロボットが世界を救う日が訪れるかも知れませんね。

重工という事からアナログなイメージが湧きがちなカワサキの別の顔でした。

道理と無理が入り交じるディスクブレーキ事情

ディスクブレーキ

これは元々、初心者向けのページである

「知ってるようで知らないディスクブレーキの仕組みと大事なこと」

で書こうかと思ったのですが、ちょっと小難しく長い話になってしまったのでコチラに。

ちなみにこの話はブレーキに携わる方から見たり聞いたり、某メーカーの人がポロッと漏らしていた話を元に掘り下げて書いている内容なので、豆知識というより持論みたいなものと思っていただけると助かります。

さて本題・・・今やディスクブレーキといえばスポーツバイクの必需品ですね。

そして喜ばしい事に昨今ではもう

「ブレーキが効かないバイク」

というのはほぼ存在しなくなりました。

これはマスターからキャリパー、受け止めるサスやフレームやタイヤ、そして何よりブレーキパッドの性能が向上したから。

ブレーキパッド

昔のブレーキパッドは金属繊維を樹脂で焼き固めた

”オーガニック(レジン系)”

というのが基本で、柔らかく効き(摩擦係数)があまり良くなかった。

それが今では金属を高温高圧で成形した

”シンタード(メタル系)”

という摩擦係数がとても高いパッドや、レジン系ながら金属の割合が高いセミメタルが登場した事で大きく改善したから。

恐らく一番知名度があり人気であろうデイトナさんで見てみましょう。

デイトナブレーキパッド表

黒パッドがレジン、赤パッドがセミメタル、金パッドがシンタードです。分かりやすいですね。

ちなみにAMECAというグローバル品質認証を取り仕切っているアメリカの団体があります。

アメカ

そしてこの団体の品質認証を受けたブレーキパッドは裏面に性能(摩擦係数)が載っています。

D(0.25以下)~H(0.55以上)とランクがあり、低温時と高温時の二文字が刻印されている。

ブレーキパッドコード

上のものは住友の純正品(セミメタル)なんですが、FFとかなり優秀。ちなみにゴールデンパッドは公式では0.7と言ってるので相当高い。

この様な事から

”効くor効かない”

という次元の問題はほぼ無くなり、今は車種に合ったフィーリングや軽量化などの改良が開発のメインになっている。

ところがそんな流れにおいて矛盾とも取れる部分があります。

ディスクローター

それはディスクローターです。

今やディスクローターはタイヤバルブにアクセスするのも困難なほど大きな物が車種問わず当たり前になりました。

ディスクローター大径化の主なメリットは、強力なブレーキングになる事と熱キャパが上がって熱ダレ(フェード)し難くなること。

「良いことじゃないか」

と思うかもしれません・・・が、一概にはそうとも言えないんです。

CB1300とXJR1300のブレーキ

ディスクローターを大きくした場合まず問題となるのは重量増です。

”バネ下重量”

って聞いたことがある人も多いでしょう。

サスペンションのバネ(スプリング)より下にある物の重量の事。

フロントを例に上げると

・ホイール

・キャリパー

・ディスクローター

・フェンダー

・アクスルシャフト

・タイヤ

などがあります。

バネ下

「バネ下の軽量化は効果的」

と言われるのはバネ下、つまり上下に往復運動する部分が軽ければ軽いほど慣性モーメントが減るから減衰を小さく出来る。

要するに収束させようとするサスペンションの負担が減るので乗り心地を良く出来るというわけ。

反対にローター大径化などでバネ下を重くするとサスペンションに大きな負担を強いるので、乗り心地の悪化やサスの熱ダレを招きます。

でも問題はそれだけじゃない。

バイクが真っ直ぐ走る事が出来るのは、回転軸を維持しようするジャイロ効果が主にホイールで起こるから。

ホイールジャイロ

ジャイロ効果は回転が速ければ速いほど、そして重ければ重いほど強力に働く。

つまりホイールと一緒に回るディスクローターが大きい(重い)とジャイロ効果を増す事となり、寝にくさ(起きやすさ)が強くなってしまうんです。

まだまだ問題はある。

ローターが大きくなると必然的にキャリパーも外側(リム側)へ追いやられるわけですが、そこで問題となるのが左右に切る構造となっているステアリング。

レコード

キャリパーという重量物が左右に動く操舵軸から離れてしまうため、操舵慣性モーメントが増える。

要するにハンドリングが鈍重になってしまい、コントロール性が損なわれてしまうというわけ。

「バネ下を軽くするとハンドリングが軽快になる」

と言われている理由もこれです。

なんとまだまだ問題はあります。

SV650とZ650のブレーキ

最初にローターを大径化するとブレーキが強烈になると言いましたが、これは言い換えると

『強烈になりすぎる』

とも言えるわけです。

ディスクジョッキー

いきなりですがちょっとDJ気分になって目の前にレコードが回っていると思って下さい。

「このレコードの回転速度を指でコントロールしろ」

と言われた時に、A点とB点どっちを抑えたほうが精密にコントロール出来るでしょう。

レコード

もしB点を抑えて調整しようとしたら軽い力なのに必要以上に速度を抑えてしまう難しさが生まれる。

対してA点なら微妙なコントロールが出来るので限りなく狙った速度へ調整できる。これがバイクのディスクブレーキにも言えるんです。要するにローターが大きくなるほどブレーキコントロールが難しくなるということ。

もう効く効かないの時代ではなくコントローラブルの時代なのに、それらを無視どころか不意にする様なディスクローター大径化の流れ。これが何故かと言うと『見た目』や『経年劣化を考慮したマージン』でもあるんですが一番大きな理由は

「我々がブレーキを停止装置と思ってるから」

です。

停車

性能が向上したブレーキパッドと大径ローターが当たり前となった現代では、多くの一般的なライダーはアンコントローラブルなブレーキを起こし易い状況にある。

ところがアンコントローラブルなブレーキを起こしても誰一人としてブレーキに文句や不満を言わない。なぜなら想像以上に効かせてしまうアンコントローラブルなブレーキを起こしても

グロムのジャックナイフ

「しっかり効く良いブレーキだな」

としか思わないから。

本来ブレーキというのは必要な時に必要なだけ減速させる

『最適な減速をするための装置』

しかし多くの人はそうではなく

『最短で停止するための装置』

と考えてるから想像以上に効いてしまう事をプラスと捉えてしまう。だからもし反対にローターを小径にしてコントロール性を取ったら

「効きが甘い」

という不平や不満が間違いなく出てくる。

the wait is over

で、話を少し巻き戻しますが最初に

「ブレーキが効くようになったのはパッドの性能が上がったおかげ」

と言いましたが、これも厳密に言うとちょっと違うんです。

結局のところブレーキ(減速)が何処で行われてるのはディスクとパッドではなく、それによって起こる路面とタイヤの摩擦。どれだけ高性能なブレーキを持っていようがタイヤや地面がツルツルだったら止まれないのは分かりますよね。

ニンジャ1000のブレーキ

つまり効く効かないのレベルではなくなったのは厳密に言うと制動力が上がったからじゃないんです。

「あまり握らなくてもブレーキが効くようになった」

というのが正しいんです。

ちなみにこれを理解している人と理解していない人ではカスタムにも顕著な違いが現れます。

カスタマイズ

ブレーキを減速装置だと分かっている人はメンテナンスやサスセッティングも同時に考え、タッチやフィーリングを良くする為の

『探るようなカスタム』

をする。

対してブレーキを停止装置だと考えている人は、サーキットを走るわけでもないのに

『強くするカスタム』

をする・・・そしてどんどんアンコントローラブルにしてドツボにはまる。まあ趣味なんだからそれも一興ですけどね。

もちろんいま売っているバイクは大径ローターだからアンコントローラブルになっていると言いたいわけではないです。

日進ブレーキ

最初に言ったようにメーカーはコントロール性向上の開発に注力し、車種ごとに何回も何回も開発実験を繰り返した上で採用してある非常にコントローラブルなもの。

ただしアンコントローラブルを招きやすい大径化という無理は許容できても、コントローラブルな小径化という道理を許容することは難しいのが実情という話。

ところが・・・この道理と無理の問題が当てはまらないバイクがあります。

それはシングルディスクのバイク。

400スポーツ

「シングルディスクは安いっぽい」

という声はよく聞きます。

確かにシングルディスクの狙いはコストカットが大きいし、Wディスクほどの制動力(摩擦力)を発揮できないもないから見た目のインパクトも弱い。

でもそのかわりシングルディスク車はいま紹介してきた

・バネ下の軽量化

・操舵慣性モーメントの軽減

・最適なストッピングパワー

というWディスクブレーキ車が半分諦めている恩恵を大きく享受しているんです。

ジムカーナやミニサーキットでわざわざWディスクの片方を外している人を見たことが無いでしょうか。アレをしている人はこの恩恵の大きさを分かっているからやっているんです。

250スポーツ

要するに効く効かないという次元ではなくなった現代ブレーキにおいて、シングルディスクブレーキというのは

『道理的なディスクブレーキ』

という事なんです・・・結局これが言いたかっただけ。

川崎重工業の二輪部門はオマケ程度って本当?

川崎重工明石工場

よくカワサキのバイクは新幹線や飛行機や船舶といった部門の売上に頼り、バイクはそのお情けで作っていると言われる事があります。

結論からいうとこれは「嘘」です。

確かに新幹線も飛行機も船舶も作れる会社は数える程度しか無く、その中に川崎重工が食い込んでいる事は事実です。

しかしだからと言ってバイク部門「川崎重工業モーターサイクル&エンジンカンパニー」がおまけ程度の売上かと言われればそうではありません。

川崎重工売上割合

バイク部門は新幹線を作る車両製造事業、飛行機や宇宙用機器を作る航空宇宙事業よりも高い売上割合を占めています。
決して重工業の片手間遊び半分でバイクを手がけてるワケではないです。

恐らく90年前後のバイクシェア低迷や、嗜好品ゆえに景気の影響での赤字ニュースなどが大きく報道されたりしたことがデマを生んだんでしょうね。

あと他メーカーと違いコミューターに力を入れていなかった事もかな。

バイクの排気音がうるさいと言われる原因

バイクの排気音

車もそうですがアクセルを開けるとブンブンと排気音がしますね。そしてその音がたまらないと思う人が居る一方で、うるさいと思う人も居る。

意外と知らない人が多いんですがバイクの騒音規制というのはつい最近までクルマより厳しいものでした。にも関わらずウルサイとよく言われるのは基本的にバイク。

「何故バイクばかりが言われるのか」

と疑問に思う方も多いと思います。そこで今回はその答えについて書いていきます。

【1.連想するかしないか】

『オートバイの排気音に対するライダーと非ライダーの意識の違い』

という研究論文でバイクに乗る人と乗らない人を集めバイクの排気音を聞かせてどんな音だったか例えてもらったところ

「バイク乗りと非バイク乗りの間で大きな差は無い」

という事が分かった。どう聞こえているかは同じだったわけです。

当たり前な話でもあるんですが、しかし一方でバイク乗りが良いと感じる音を非バイク乗りはうるさい音だと感じるパターンが多かった。

この原因は

「音だけで判断するか否か」

という違いがあったから。

バイク乗りがなぜ排気音を良い音だと捉えるのかというとバイクの楽しさを連想するから。

音から連想する

図太い低音を聞くとバイクのパワーを、甲高い高音を聞くと駆け抜ける爽快感を連想し高揚する。だから良い音だと感じる。

しかしバイクに乗らない人はそれらを連想する思い出や経験が無いから音だけで判断する。

音から連想する

だからウルサイとしか思わない。両者を分ける大きな要素はここにある。

「知らない曲は雑音でしかない」

という例えがあったりすると思うんですが、それはバイクの排気音でも同じという事。

連想させる

ましてバイクに乗る人間はクルマに比べて少数だからそれだけバイクが言われるというのが一つ。

【2.社外マフラーと逆輸入車や外車の存在】

バイクは嗜好性の高い乗り物でマフラーもスリップオンならボルトを数本外すだけという手軽さからオシャレを兼ねて交換をする人が非常に多い。

社外マフラーにすると当然ながらうるさくなるわけです・・・が、そう言われてこう思ってる人も居るかと思います。

「俺はJMCAの合法マフラーだから大丈夫」

と・・・でも実は胸を張ってそう言えるのは2010年(平成22年)4月移行のモデルに乗ってるバイク乗りだけなんです。

というのもそれまでJMCAの基準が

『近接排気騒音規制』

だけだったから。

近接排気騒音

近接排気騒音というのはニュートラルの状態でマフラーの0.5m後方45°の所にマイクを置き

・最高出力時の75%の回転数

・最高出力時の回転数が5,000回転を超える場合は、最高出力時の回転数の50%

で騒音を基準値内に収めないと売れませんよという話。

これを守っているのが合法マフラーことJMCAマフラーなんですが、一方でメーカーが国内販売するために取る型式認証の場合に課せられている騒音規制である

加速走行騒音

『加速走行騒音規制(50kmで一定区間を走った際の騒音)』

はずっと適応されていなかった。

これ何が問題なのかというと近接排気騒音よりも加速走行騒音の方が圧倒的に規制値が厳しいという事。

2002年からの騒音規制値
近接排気騒音:94db
加速走行騒音:73db
(251cc~)

明らかに加速走行騒音のほうが厳しいのが分かると思います。だからメーカーは加速走行騒音を規制値内に収める事に重点をおいていた。加速走行騒音をクリア出来れば近接排気騒音は問題にならないからです。

結果何が起こったか・・・分かりますよね。社外マフラーは94dbの近接排気騒音だけクリアすればいい状態だったから、実際(加速走行騒音)はかなりオーバーしていたんです。そしてその状態で走る人が多かったから気持ちの問題ではなく本当にうるさかったという話。

ちなみに

逆輸入車

「俺は純正マフラーだから大丈夫だ」

と思ってる人、それ逆輸入車や外車ではないでしょうか。

というのも逆輸入車や外車も測定されるのは(車検と同じ様に)近接排気騒音だけ・・・つまり社外マフラーと同じような扱いだったんです。

ただし過去形な事からも分かる通り現在(平成22年4月移行)では社外マフラーにも逆輸入車にも外車にも加速騒音が適用されるようになっています。

最近のJMCAマフラーを付けた事がある人ならおわかりと思いますが純正と大差ない静かさだったりします。

【3.構造上の問題】

バイクはクルマと違って各部が剥き出しになっているため囲う事ができず

「音を周囲に放射してしまう」

という構造上の問題があります。早い話が音を全方位に撒き散らしてしまうという事ですね。

そしてもう一つが

「エンジンの回転数が比較的高い」

という問題。

どういう事か音響学を学んでる人に怒られそうなくらいザックリ説明します。

排気サウンド

我々が思う排気音というのはエンジンの排気(振動)が音源で、排気の間隔つまり時間あたりの回転数や気筒数が少ないほど周波数(音の高さ)が低くなり、反対に多くなるほど高くなる。

これの求め方は

『回転数*気筒数/2/60』

という感じで4st単気筒の6000rpmなら

『6000*1/2/60=50』

一秒間に50回振動する50Hzの音が出ていると分かる。これが四気筒になると2回転で4回の燃焼をするので*4で200ヘルツになるから同じ回転数でも音が高く感じるという話。

高回転エンジン

例に上げた6000rpmですが、これはクルマでいえばレッドゾーン近辺にあるモデルが大半かと思います。そしてそこまでガンガン回しながら走ってる人はそうそう居ない。

しかし一方でバイクにおける6000rpmというのは決して高い回転数じゃないどころか常用域なモデルが大半。

しかし多くの人はそんな甲高い高周波の排気音を聞き慣れていないし、バイクに思い入れなんて無いから(特に4kHz~16kHz付近を)不快この上なく感じるからうるさいと言われるという話。

この3点がバイクがうるさいと世間様から言われる代表的な要因です・・・なんだか夢も希望も無い豆知識になってしまったので次は夢のある排気の話を書こうと思います。